第1437話 出した結論


 灰の群集に移籍するって提案は俺からしたものだけど……元々、灰の群集の人達以外からすると躊躇する内容か。まぁ移籍になるんだから、躊躇する理由は分かる。

 特に失礼な言い方だった人は無所属だったし……この辺の人は、多分だけど荒れてた頃の赤の群集だった人とかなんだろうね。風音さんみたいに群集から離れて、それっきりなのかも? そうでなくても、馴染みの環境が崩れるというのは……拒否反応が起きても仕方ないよな。


 まぁ今はコイコクさん達がどういう結論を出すか、待つしか出来ないな。料理系の情報は得たいとこだし、灰の群集入りを受け入れてもらえるとありがたいんだけど……。


「……なぁ、ケイ? 群集ってのは、そんなに流動性がないのか? そもそもの話、eスポーツ勢の流入先が無所属ってのもちょっと気になっちゃいるんだが……」

「んー、まぁ移籍を禁止してる群集はないけど……それぞれに独自の情報を持ってるから、移りにくいにもあるだろうしなー。それ以上に、赤の群集も青の群集も盛大にトラブルがあったしさ。移籍の機能は後から解放されたから、それらを理由に群集を離れた人は嫌がる事はあるかも?」

「そんな規模のトラブル、あんのかよ!?」

「それがあるから、コイコクさん達への反応への文句は言ってねぇの。だから、落ち着けって言っただろ?」

「……悪い。何も知らずに、好き勝手な事を言っちまったみたいだな……」

「まぁ新規に全部知っておけって方が無茶ではあるけどなー。ちなみに、赤の群集の騒動の黒幕が……『カガミモチ』だからな?」

「おいおいおい!? その名前、セキュリティロックを引き起こしたって騒動の時に出てたよな!? ……思った以上に、ヤバい状況があったのか?」

「まぁ群集で分かれてなければ……そのままサービス終了に向けて、過疎化が進んだ可能性があるくらいには?」

「……ヤベェな、それ」


 黒幕の邪悪なスライムの存在は後になって分かった事だけど、赤の群集が一度破綻してしまっているのは間違いない。それで群集に対して不信感を持ってる人は少なからずいるんだし……。

 いや、冗談抜きで影響範囲が赤の群集で止まっててよかったよ! ……青の群集の騒動にも一枚噛んでた可能性もあったような気がするけど、あっちははっきりしないままだっけ? まぁ今更分かったところで意味はないけどさ。


「赤の群集だけ攻略が遅過ぎて、公式から強制での情報開示がされるとこだったのです!」

「……赤のサファリ同盟が出てこなければ、一体どうなってたのかな?」

「どうなんだろ? インクアイリーの中の誰かが、表に出てきた可能性もあるのかも? それこそ、今回のライブラリさんとか?」

「……それはそれで、とんでもない事になってたんじゃねぇか?」

「俺もそんな気がする……」


 ライブラリがあの時に出てきてたとして……初めこそまとめはするけど、ある程度まとまった後で……インクアイリーのまとめ役を放棄したみたいに、投げ出している予感がする! ……そう考えると、出てきたのが赤のサファリ同盟で良かったのかも?


「……だから、そこの連中の中には赤の群集の所属が少ないのか」

「ん? あー、言われてみれば確かに……」


 バラバラで作業してたからそこまで気にしてなかったけども、コイコクさん達が話し合う為に集まっている今の状況なら所属が分かりやすいな。

 1番多いのが無所属で、灰の群集、青の群集、赤の群集の順になってる人数だな。無所属は10人以上いるけど、赤の群集は3人くらいしかいないじゃん。


「あー、こりゃ本格的にやるにしても、色々経緯を把握してないとトラブルを起こしそうだな……。ケイ、初心者向けに丁度いい場所ってないか?」

「あるにはあるけど……ハーレさん、灰のサファリ同盟の初心者講座って、今も開催中?」

「それは定期的に実施中なのさー!」

「なら、灰のサファリ同盟で……」


 ……って、そういやラックさんはハーレさんと同級生だからギンの後輩になるのか。んー、そこの情報は伏せておいた方がいい?


「ん? なんでそこで言葉が途切れる? ケイ、その灰のサファリ同盟ってのは、なんか問題でもあんのか?」

「いやいや、問題があるって訳じゃないけど……」


 ハーレさんの方を見てみれば……あー、ラックさんの事に気付いて頭を抱えてるな。完全にリアル情報を含むから、どう対処したもんだ? 言っていいかどうか、ラックさんに聞いてみるしかないんだけど……。


「……まぁこの件が片付いたら、灰のサファリ同盟には案内するわ。灰の群集の最大規模の共同体だし、今も初心者講座をやってるっぽいから、触りだけでも頼るのはいいと思うぞ」

「……色々と気になる反応はあるが、まぁそういうのがあるなら頼らせてもらうか。流石にこれ以上、ケイの予定を引っ掻き回しまくる訳にもいかねぇしな」

「俺だけならそれでもいいけど……まぁみんなもいるからなー」


 今回は内容が内容だったから一緒に連れてきたものの、流石にサヤやヨッシさんやアルを、ギンの1からの育成に付き合わせる訳にもいかないしね。

 ギンもそこまではする気はないからこそ、初心者向けの場所を聞いてきたんだろうし、灰のサファリ同盟まで案内するまででいいだろ。


「はい! コイコクさん達の結論がすぐに出るとも限らないので、先にギンさんを送ってくるのはどうですか!?」

「……あー」


 今の状態でこの場を離れるのはちょっと躊躇はするけど、話し合いがすぐに終わるとも限らないもんな。このままここに待機、ギンを送り届けるので二手に分かれて――


「いや、その必要はないぜ! 今、結論が出たからな!」

「おぉ!? 結論が出たんだ!?」

「……思ったより早かったな。コイコクさん、どういう結論になった?」

「俺ら、灰の群集の共同体『まな板の上のコイの滝登り』に全員加入で、正式に灰の群集へと活動場所を移させてもらうぜ! ……色々と失礼な反応は、正直すまんかった!」

「「「「「「すみませんでした!」」」」」」


 ギンがキレた事が、地味に結構大きな影響になってたっぽいね。まさか揃ってここで謝られるとも思ってなかったけど、これで正式に灰の群集への移籍が確定になったんだな。


「まぁそこは大して気にしてないからいいとして……俺らの提案を呑むって事でいいんだな?」

「それは助かる! その認識でいいぜ、ケイさん!」


 色々と事情があるのは承知の上だし、ある意味では向こうの無茶振りに無茶振りで返しただけだしなー。それにメリットも色々とあるんだから、謝罪してくれるなら水に流すので問題ない。

 さて、思ったよりも早い決断になったけど……これなら、どうするのがいいんだろう? 時間的にはまだ21時半を過ぎたくらいだし……。


「おし! どっちにしてもギンを灰のサファリ同盟のとこまで送るんだし、コイコクさん達も連れていくか」

「ちょ!? ケイさん!? え、これからか!?」

「あ、流石に急過ぎた? とりあえず、灰のサファリ同盟にでも紹介しようかと思ったんだけど……」

「紹介してくれんの!? いやいや、でもこれからすぐにここを引き払って移動するってのは――」

「別にすぐに移動する必要もないけど? てか、このままここで作業してくれて問題ないしさ」

「……え、マジ?」

「別に全員が灰の群集になったからって、占有エリアでしか活動するなって訳でもないからな? そもそも、そんな制限をかける権限はないしさ」


 というか、コイコクさんを筆頭に何人かは灰の群集だよな? その辺の強制をしてないのは周知の事実だと思ってたんだけど……意外とそうでもないのか?

 うーん、まぁレナさんや灰のサファリ同盟でも接点がなかったって話だし、かなり閉鎖的な動きをしてたのかも? 流石に急な動きになり過ぎてるし、人見知りが多いなら多少の配慮はしておきますか。


「まぁ本格的に全員で動くのは今でなくていいとしても……コイコクさんだけでも来てくれない? 俺らはこの後から灰のサファリ同盟のとこまで行くし、一緒にさ。移籍した後に色々と動きやすいように話を通しておきたいし」

「……灰のサファリ同盟かー。あそこ、大規模過ぎて気後れするんだが……え、マジで俺が話に行くのか!? あそこへ!?」

「……はい?」


 ちょっと待って、なんか予想してた反応とまるで違うんだけど? なんか前々からの情報からの想像では、群集から情報が出るまで出し惜しんでた集団だったはずじゃないの?

 これってもしかして……ただ単に人見知りが多くて目立ちたくないから、情報を最初に出す人になりたくなかっただけ!? うーん、冗談抜きでその可能性が高い気がしてきた。


「コイコク、チャンスだぞ! 灰の群集に場所を移すなら、灰のサファリ同盟との接点は大きい!」

「……人数が多いからって、ビビってる場合じゃないぞ!」

「紹介してくれるって言ってるんだし、伝手を作ってこい!」

「灰のサファリ同盟なら、場合によっては連盟にしてもらうのもありかも?」

「……なるほど、そういう手もあるのか!」

「それなら、仕切り役に回される事もない……?」

「……イベント時の、整理役とか出来ねぇよ!?」

「そこは、ほら? 要相談で!」

「……配慮してくれるといいなー」


 あー、うん。灰のサファリ同盟との接点がなかった理由って、規模がデカ過ぎたからかよ! しかも、懸念してる内容ってそういう理由!? ……この人達、人見知り過ぎないですかねー?

 レナさんとの接点がない理由は、レナさんが有名過ぎるっていうのもありそうだな。むしろ、この状態でよく俺らに接触してきたね!? ……オリガミさんがいたからこそ、それが実現したのかも?


「……おし! 灰の群集へ本格的に活動拠点を移すなら、いつまでもビビってられねぇよな! ケイさん、一緒に連れていってくれや!」

「ほいよっ。えーと、来るのはコイコクさんと……」


 他にも誰か来るかって聞こうと思って見渡したら、思いっきり視線を逸らされてるー!? ……やっぱりかなりの人見知り集団か、ここは! はぁ、まぁいいや。


「とりあえずコイコクさんを灰のサファリ同盟の本拠地まで連れていくから、今後どういう風に動くかはそこで相談って事でいい?」

「……お、おう! そ、それで、頼むぜ!」


 急に声が強張ってるし、コイコクさんは思いっきり緊張してるな!? ……別の意味で、これは大丈夫なのか? まぁ大丈夫じゃないとしても、一度は来てもらうけどさ。


「コイコクさん! 取って食われる事はないから、リラックスなのです!」

「……そうだよな!? サファリ系プレイヤーの集団だからって長い独り言を言いながら執拗に追いかけてきて、スクショを撮りまくる木の人ばっかじゃないよな!?」


 ……ん? ちょっと待って。その行動をしそうな人に思いっきり心当たりがあるんだけど……いや、必ずしもルストさんとは限らないか。

 いや、でもあのルストさんのマイペースさや、知り合ったばっかの時の俺を捕まえる動きを考えたら……いかん、否定要素が見つからない!


「そういう人も中にはいるけど、そんな人ばっかじゃないのです! 少なくとも、私は――」

「……ハーレさんも、割と勝手に突っ込む事はあるよな? 昨日とか、何も言わずに俺にしがみついてきてたし」

「あぅ!? ケイさん、なんでそれをそこで言っちゃうの!?」

「大丈夫なんだよな? 本当に、大丈夫だよな!?」


 あ、しまった。事実と言ったら、コイコクさんを無意味に心配させてしまったようだね……。でも、不安がってる人に対して、事実を隠すのは違うだろ。


「まぁ変な人はサファリ系プレイヤーでなくても一定数は存在するけど、何かトラブルがあっても対処に動く人はいるってアルが説明しただろ? だから、大丈夫だ!」

「……そ、そうだよな! そこで尻込みしてたんじゃ、何も進まないしな!」


 そうそう。何かのトラブルが起こるのは避けられないとしても、それらを解決しようって人はいるんだ! そこら辺は信用してもらわないと――


「ケイみたいなタイプの変人なら、それほど害もないしな」

「おいこら、アル!? 誰が変人だ、誰が!?」

「『ビックリ情報箱』や『灰の暴走種』なんて呼ばれてるのが、普通の人だとでも?」

「うぐっ!?」

「他にも呼び名があんのかよ、ケイ。やっぱり、思った以上に色々やらかしてんな?」


 くっ! そう呼ばれてるのは事実だから、全く否定が出来ない!? てか、なんでわざわざ今それを言う!?


「ケイさんと普通に話せてるんだし、灰のサファリ同盟の人達ともちゃんと話せるのです! そこは保証するのさー!」

「ま、そういう事だ」

「俺を基準にするの、止めてくれね!?」

「……ははっ! そりゃ、そうかもな!」


 くっそ、アルもハーレさんも、コイコクさんの緊張をほぐす為に、わざと俺をからかってきたな!? ……まぁコイコクさんの緊張した様子が少し和らいだし、効果はあったみたいだけどさ。


「えっと、コイコクさんはなんで私達は平気なの?」

「……ははっ、まぁそれは単純な話でな。昨日の、滝を退けて作られた空中に出来た水路に、みんなで揃って見惚れちまったってのもあるんだよ! あれ、ケイさんのやった事だよな?」

「理由、そこ!?」


 予想外の方向から俺らと話せている理由が出てきたけど……昨日のあの光景に反応したなら、コイコクさん達って何気にサファリ系プレイヤーの素質もあるんじゃね?


「……まぁいいや。これから灰のサファリ同盟のとこまで移動するのでいいよな?」

「おう! よろしく頼むぜ!」


 さーて、それじゃギンとコイコクさんを連れていきますか! あ、でも灰のサファリ同盟のどこへ連れていくのがいいんだ?

 うーん、とりあえず灰のサファリ同盟の人達に都合を聞いてみるか。さっき、ラックさんが情報共有板に顔を出してたんだし、すぐに連絡は取れるだろ。

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