第1436話 躊躇する理由
思った以上に、灰の群集との接点が薄かったのが判明……。今の時点で報告してよかったのか、分からなくなってきたけど……いや、でも俺らを通じて他の群集まで含めて手を貸してほしいって内容だったんだし、知られるのは承知の内だよな!?
流石に今のが駄目だとなれば、群集へ丸ごと移籍とかは関係なく、本当に必要な時に人手を求める事は出来ないし!
「ケイ? 独り言で言い訳をするよりは、普通に聞いてみた方が早くないかな?」
「……ですよねー」
またしても声に出てたようだけど、変に考えてたところで結論が出ないのも事実。サクッと聞いて、確認した方が早い――
「コイコクさん、コイコクさん!」
「ん? ハーレさんか」
ちょ!? 躊躇なく、ハーレさんが聞きにいったー!? ……こういう時の度胸、何気に凄いよな。さて、どんな反応になるやら……?
「悪いが、結論ならまだ出てな――」
「急かしに来た訳じゃないのさー! でも、確認です! 色々聞いた事を灰の群集に報告したのです!」
「……へ? あー、まぁそりゃそうなるか!」
「それで、何か問題はありますか!?」
「別に、特に何も問題はねぇぞ? あー、強いて言うなら、ライブラリさんからインクアイリーの結成理由は伏せておけとは言われてたけど……この状態で律儀に守る筋合いもないだろ」
「それは確かにそうなのさー!」
ふむふむ、この反応は……特に問題はなさそうだな。ふー、これならさっきのは杞憂で済みそう――
「それと、万が一、ここの人達が加入になっても受け入れてくれるそうです! というか、盛大に問題でも起こしてる人でない限り、拒むような事はそもそもないのさー!」
「だそうだぞ!」
「……あれ? 嫌がられてはないのか?」
「だから、灰の群集は大丈夫だって言っただろ! あそこの基本方針、押し付けは無しだぞ?」
「いやいや、そうは言っても、1つの群集のみに所属すればどこかにペースを合わせる必要は出てくるだろ!」
「でも、このままじゃ、そのペースを盛大に乱される可能性が高いよな?」
「青の群集辺りなら割り振りとかされるだろうけど、灰の群集はそういう心配はいらねぇって!」
「……何かのイベント事に合わせて、大量の生産要求とか来ない?」
「……赤の群集だと、リバイバルを中心に連盟を組まされそうだよな」
あー、色んな人の声が聞こえてきたけど……群集に入る事そのものより、どこかの群集に全員が入る事で大規模な共同体の一部として扱われる事を危惧してるのか。
うーん、この人達は結構知られてる様子だったし、この機会に取り込もうとする人達が出てくる可能性は否定出来ないよな。まぁでも、その辺はどうとでも――
「……なぁ、ケイ? 群集ってのは、そういう強制力があるのか?」
「いや、ないぞ」
「それなら、なんでこういう危惧が出てるんだ?」
「あー、それぞれの群集にまとめ役になる人や、そこに関係する集団がいるからだなー。イベントでの取りまとめや指揮とかをするから、影響力自体はどうしても出てくるもんでさ」
「……なるほどな。まぁ人が集まれば、自然とそういう役割も出来てくるか」
「そうそう、そういう事。どうも、そういうのに取り込まれたくはないっぽいな?」
「そうみたいだが……」
ん? ギンがコイコクさん達の方へ歩いていって……って、作業台になってる岩を殴りつけた!? おいおい、置いてた野菜まで殴らなくても――
「ちょ!? いきなりなんだ!?」
「あー!? 食材がー!?」
「おまけで来たヤツが、何の真似だ!?」
「てめぇ、舐めた事をしてんじゃねぇぞ!」
いやいや、なんでギンはそんな怒らせるような真似をしてるんだよ!? 今のは怒って当然――
「はぁ? 舐めた事をしてんのはどっちだよ? テメェら、ケイ達に守ってもらおうとして、その上で他所の群集からも助けてもらおうとしてたんだよな? それがなんだ? 群集へ加入って提案をされた途端、自分達が好き勝手に動けなくなるのを危惧だと? 一方的に利用しようって、そういう了見か!? あぁ!? ふざけた事を言ってんのは――」
「待て待て待て、ギン!」
「止めんじゃねぇよ、ケイ! こいつら、自分らの不都合だけしか考慮に入れてないくせに、人には負担を要求してんだよ! 喧嘩売ってんじゃなきゃ、なんだってんだ!?」
「だからって、暴れてどうするんだよ!」
ギンの言う事も分かるし、俺らへの扱いでキレたってのも分かるけど! それでも、変にトラブルを起こしたい訳じゃないんだから! それに、この程度ならまだ十分過ぎる程の交渉の余地はある!
てか、ギンが殴り込んでも進化階位の差で返り討ちになるだけだから! えぇい、カンガルーの脚をロブスターのハサミで挟んで動きを止めてやる!
「離せ、ケイ!」
「この状況で離せるか!」
今にも飛びかかりそうなギンは、強引に引き離す! 同じPTだからダメージは入らないし、進化階位の差があるから振り切られる事はないだろ。ともかく、一旦ギンの頭を冷やさせないと!
「あーあ、やっぱり怒らせちゃった」
「……他の群集はともかく、灰の群集は大丈夫だって言ったのによ。今の、グリーズ・リベルテを都合良く利用しようとしてるって取られても仕方ないぜ?」
「「「「「「…………」」」」」」
「……どうするよ、コイコク」
「どうするって言われても……ケイさん、どうすりゃいい?」
「……そこで俺に聞かれてもな」
いや、本当にこの空気をどうしろと!? 確かに俺らは怒ってもいい部分ではあったとは思うけど……だからといって、こんな形で変な空気にする気もなかったんだけど――
「どうすりゃいいか? はっ! 来る者は拒まず、去る者は追わずって言ってたのを情報共有板で見たが、それはあくまで自分の意思で来る奴への話だよなぁ!? こいつらがどれだけの料理を作るか知らねぇが、味方に対して敬意が払えないやつを勧誘する必要はねぇ!」
……うん、ギンはそういやこういう奴だった。中学の頃から、地味に喧嘩っ早いし、他人を下に見たような様子って大嫌いだったもんな。
うーん、こういう事態になるのなら、無理にここにギンを連れてこない方が良かったか? いや、でもまさか今の状況は想像もしてなかったしなぁ……。本当に、この状況はどうすりゃいいの!? 話をするにしても、まずはギンを落ち着かせるか、遠ざけないと――
「……ったく、仕方ないか。ギンさん、悪いが少し下がってろ」
「アルマースさん、下がってろってどういう意味だ?」
「そのままの意味だ。こういう時に、感情任せだけで動くのは愚策だぞ? 言うだけ言って、それからどうする気だ? 仲介をしてくれてる人もいるし、関係悪化で『はい、終わり』って訳にもいかないんだよ。言ってる意味、分かるよな?」
「ぐっ!? ……それは、そうだけどよ!」
「だから、ギンは落ち着けっての! アル、任せた!」
「おう、任せとけ」
俺じゃ変にギンを刺激するだけだし、アルに何か考えがあるみたいだから、全面的に任せるのみ! 俺らより年上だから、こういうトラブルへの対処はアルの方が経験は多いはず!
「さて……まぁ俺らの方で少し暴走もあったが、その主張自体は取り下げる必要はないと考えている。コイコクさん、それは明言しておくぞ」
「……分かってる。今のは、どう考えても俺らが悪いしな……」
「その上での話だな。まず言っておくが……灰の群集で何かを強要しようってヤツは、まぁ完全にいない訳じゃないとは言っておこう」
「おいこら!? アル、どういうつもりだ!? そういう事は特にない――」
「いや、昨日ケイも経験したばっかだろ。サヤとの対戦の件でな?」
「……あっ! そういや、そうなるのか!?」
言われて気付いたけど、確かに昨日のサヤと俺の対戦の件は……確かに強要しようとした流れである事は否定出来ないよな。
いやいや、でもそれをここで言ったら、もう移籍話とか無理……でもないか。話の持っていき方次第だし、そもそもそれは抑えられる件だしさ。
「勘違いはしないでほしいんだが、ちょっとしたすれ違いで強要みたいな事は発生し得るのは間違いない。そこを危惧する事自体は、別に否定はしないからな。ここまではいいか、コイコクさん」
「……あぁ。俺達の心情も汲んでくれてるんだな?」
「まぁそういう事になる」
ふぅ……お互いに思うところがあるのなら、その妥協点を見つける必要があるもんな。その擦り合わせをする前にギンがキレてしまったけど、話し合う余地はあるはず。
「さて、それで本題に入るぞ。強要される可能性は否定しないが、その抑止力は存在する。個人で言うなら、ベスタさんやレナさん、変わり種では風雷コンビ辺りもだ。集団で言うなら、灰のサファリ同盟やオオカミ組、他にも有名どころの共同体なら抑えに回る事は可能だ。俺らも一応、その1つにはなるか」
「……まぁどこも有名所だしな」
「灰の群集に関してのみなら、そういう集団で強要は抑えられるし、抑える側が何かを強要する事はない。それをすれば説得力が無くなるからな。それでも不足だと思うなら……灰の群集には来ない方がいい」
「……そりゃ、当たり前な話だよな」
強要するのを止める側が、何かを強要してたら……もう説得力が欠片もないもんなー。まぁ唯一、強要する事を止めるように強要するって事にはなるんだけど……それすら駄目だと言われれば、待っているのは無秩序か。
「……ケイ。ちゃんとした抑止力は、灰の群集にいるのか?」
「少し前に話した、リーダーのオオカミの人がその筆頭だよ。言っとくけど、全部の群集の中で灰の群集が1番安定してるからな?」
「……そりゃ、知らなかったな」
「始めたばっかなんだから、当たり前だっての。だから、落ち着けって言ったんだよ」
「あー、余計な事をやっちまったか?」
「……ぶっちゃけなー」
「……すまん」
ふぅ、とりあえずギンの方は落ち着いてくれたか。まぁ全然灰の群集の実態を知らないままなんだから、カッとなるのは分かるけどなー。怒った理由が俺らへの対応でもあるんだし……なんとも微妙に責め辛い……。
「ケイが言ってたのもあるが、灰の群集は安定しているからな。だが、ギンさんの言ってたように他の群集にまで協力を求めるとなれば……俺らでは安定はさせられん。そこのケイは、赤の群集の最大戦力の弥生さん、青の群集の作戦参謀のジェイさんに狙われてる身だしな」
「いやいや、アル!? 確かにそれは事実だけど、ちょっと意味合いが違わねぇ!?」
「いや、そうでもないぞ。ケイは情報共有板を離れて見てないかもしれんが……群集間でのインクアイリーからの引き抜き合戦が起こる可能性の話が出てたからな」
「今、そういう話題になってんの!?」
その可能性は共同体のチャットでは話したけど、情報共有板でも出てきたか! まぁ出てきて当然ですよねー。
「っ!? 待ってくれ、アルマースさん! なんだ、その引き抜き合戦ってのは!?」
「単純な話だ。コイコクさん達以外にも、伝手を頼って群集に移籍しようって集団がいくつか出てきている。……あぁ、正確にはコイコクさん達はまだ移籍という話にはなってないか」
「っ!? いや、考えてみれば状況的には当然の話か!」
今の状況がそうなってるなら、青の群集はジェイさんとの心理戦が始まってもおかしくはないか。赤の群集だと、ウィルさんが相手になるよなー。
「待て待て待て!? それって俺らはどうなるんだ!?」
「……赤の群集や青の群集から、加入話が来る可能性もある?」
「ちょ!? 全部突っぱねたら、そもそもどこからも助けてもらえないって可能性もあるんじゃ!?」
「…………甘えっぱなしは、許されないってか」
「マイペースで気楽にやりたいだけなのに、なんでこうなるんだよ!?」
「いや、だから灰の群集だったら、そのマイペースを維持させてくれるって話じゃねぇの?」
「あ、そうなるのか?」
「……今が、その最後のチャンスなのかもしれないな」
「ここで断ったら、心象悪いよね!? ただでさえ怒らせちゃってるのに!?」
「……自分達に都合がいい事だけ、求める方が無茶か」
あー、うん。まぁなんだか妥協してる感はあるけど、そもそもが特定の群集に固まっておきたくないって集まりなんだし、多少は仕方ないか。
「……アルマースさん、もう少しだけ時間をもらってもいいか? なんかすげぇ失礼な反応をしてる気もするが、ちゃんと結論は出すからよ」
「あぁ、それで構わない。あと、これも言っておくか。その反応はここだけに留めておくから、そこは心配するな。ただ、断ったなら……状況的に報告するしかないからな?」
「……助かる! おい、話し合いの再開だ! この話、受けるかどうかを決めるぞ!」
さーて、これでどういう結論になるもんかね? まぁ大体の予想は出来るけど……あー、ギンが不機嫌そうなのも予想通りだな。
「……アルマースさん、そこまで甘くしてやる理由があんのかよ?」
「いいんだよ、これで。人間関係の大半は、単なる利害関係で繋がってるもんだぜ。お互いに利益があるなら、飲み込むべき不満ってのもあるしな」
「……そういうもんか」
ギンも理屈としては分かっても、感情としては整理出来ないか。まぁその気持ちは分かる! 分かるけど、正直今回の内容程度ならかなりマシな方!
それこそ、今の状況を作り出した黒幕のライブラリとか、邪悪の塊みたいなスライムとかに比べたら、この程度は楽なもんだ。てか、ほぼ確実に灰の群集に入ったとしても、活動ペースはそう変わらないだろうしね……。まぁそれでも料理系の情報を握れるメリットは結構大きそうだけどさ。
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