第1434話 提案への返答
さて、なんだか想定外の話が続いているけど……本当にどうしたもんだ? 俺らにとってのメリットもだけど、万が一の時に他の人への協力要請も含むなら、そっちへのメリットは必要だぞ。かなりの規模になるし、それに見合うだけのものがあればいいんだけど……。
「俺らと連携する最大のメリットは、間違いなく料理関係だな! 今は各自で作ったやつを好きに流してるけど、それをケイさん達の望む形に変更出来るぜ! 流石に全時間を割くわけにはいかないが、これを集中して納品してくれって料理があれば、量産も可能だぜ!」
「あ、そりゃいいね」
俺らというよりは群集のみんなへのメリットだけど、特定の料理の量産化っていうのはかなりの好材料だな。昨日、マツタケさんのとこで見たのはあくまでも一部なんだろうし、在庫数は安定しない感じだったしね。
「アル、どう思う?」
「……いい条件な気はするが、他の群集との兼ね合いが気になるな。コイコクさん、他の群集へは流すなって要望も可能か?」
「……必要だと言うならば、それも考えるぞ!」
「いけるんかい! あー、でも、それが出来るのは大きいな」
「言っといてなんだが、知られたら反発は大きいだろうがな」
「それはそうなのです! 私が弾き出された側なら、乗り込んで考えが変わるまで暴れるのさー!」
「無茶を言うな、無茶を!」
ハーレさんの意見は過激ではあるけども……もしそれを実行したら、された側としてはとんでもない不利益なのは間違いない。コイコクさんに一瞬迷った様子があったけど、それでも尚、その条件でも受け入れようって状態か。
「ちょっと確認。コイコクさん、何か警戒するような心当たりがある? どうも流通経路を狙われてる以外にも理由がありそうな気がするんだけど……」
「心当たりも何も、あの『ライブラリ』さんが動いたんだぞ!? インクアイリー内じゃ、それだけで大騒ぎだからな!?」
「あー、いまいちその辺がピンと来ないんだけど……今回以外にも何か盛大にやってんの、あの人?」
そうじゃなきゃ、今みたいな言葉は出てこないよな。一体、何をそれだけ警戒しなきゃいけないのか――
「……へ? あ、そうか! 中に関わってないと、これは知らないのか! インクアイリーの創設者なんだよ、あの人!」
「……はい? え、創設者!?」
「そうそう! 作るだけ作って、後は自由にやれって放り出した人!」
「……マジで?」
「マジだって!」
ちょ、待って!? とんでもない情報が出てきたんだけど!? あの『ライブラリ』がインクアイリーの創設者!? 全貌不明な群集の枠をも超えた大規模集団を作り出した張本人!?
インクアイリーって、最近までまともに群集から認知されてなかった集団なんだけど……そりゃまぁ誰かが中心となって作ったのは間違いないよな。
「もしかして、インクアイリーの全体像が曖昧なのって……そこで管理を放り投げたからなのかな?」
「サヤさん、それが正解だ! ライブラリさん、初めは群集を超えた枠組みをまとめるって形で動いてたんだよ! でも、規模が大きくなった途端に『下拵えは済んだ』って、その役から退いてな! その結果、人脈は繋がってるけど、集団としては一枚岩ではないよく分からん集団が完成したんだよ!」
「……ケイ、今回の件、思った以上に厄介そうかな」
「……そうっぽいな」
eスポーツ勢の流入もライブラリが引き起こした事で……そのライブラリがインクアイリーの設立者でもあったとか、無茶な情報過ぎねぇ!? てか、それが事実なのだとすると……。
「……インクアイリーを作ったのは、群集に縛られない集団を作ったらどういう動きになるか観測する為か? コイコクさん、どういう流れで結成に至ったかは分かる?」
「又聞きにはなるんだが、それは分かるぜ! 元々は、共闘イベントみたいな一緒に戦う時にスムーズに連携が取れるようにって互助組織を作ろうって話だったんだよ! 競争クエストにはあんまり参加する気がない連中をメインでさ!」
「そういう流れなんだ!?」
「……確かに、そういう人達が一定数いれば連携しやすいのは確実かも? だよね、ケイさん」
「まぁ、群集の方で全てをフォローし切れる訳じゃないしな……」
まだ2回目の開催の共闘イベントはないけど、1回目の赤の群集の状況を考えたらなー。前々から備えておこうという発想自体は分からなくもないし、有用な行為なのは間違いない。
いざ、新しい共闘イベントが始まったら、その時に連携は取れるように群集でも調整はするだろうけど……それを安定化させてくれているなら、相当楽にはなったはず。
「そういう流れで表に出てない集団がいくつか集まって、赤の群集の共同体『インクアイリー』が結成になって、そこを中心に動くってなったんだけどよ? そこでライブラリさんがまとめ役を降りてよ? ……そっから、活動方針が分かれてな」
「……おいおい、聞いてりゃ随分と無責任じゃねぇか、そのライブラリって奴は!」
「俺もそうだと思うけど……何を言って、その役目から降りたんだ?」
「『まとめ役がいなければ、何も出来ない有象無象の集まりなんですか?』だよ! そんな事を言われて、まとめ役に戻ってくれとも言えないだろ! そもそもまとめ役を降りるだけで、インクアイリーから抜けた訳でもなかったし、必要な時は力を貸すって話だったんだよ!」
「……うわっ、的確に嫌な言い方をしてくるな」
予定していた規模まで大きくなったから、計画通りにまとめ役をやめたって感じだな。うーん、これは乗せられた方は面倒な状況になっただろうね。
「……その後、どういう風にインクアイリーが推移していくかを観察するのが目的かな?」
「オリガミさんから聞いたeスポーツ勢の流入の件を考えると、そういう事になりそうだな……。でも、コイコクさん……なんでその流れで、他のインクアイリーの人達からの護衛が必要になる?」
ライブラリがまとめ役をやめた事で一枚岩ではなくなったのは分かるけど、それでも今も集団としての形は残ってるんだよな? それがどうして、群集に助けを求めるって事になってくる?
「それはあれだ、あれ! はっきりとしたインクアイリーのまとめ役の後釜はいないんだけど、それを狙ってるのは何人かいるんだよ! そういう奴が味方として取り込もうとしてきそうでな!」
「……なるほど、取り込まれたくないんだな?」
「そういう事だ、アルマースさん! 今、積極的に動こうって奴は、競争クエストで乱入してた奴らだしよ!」
「あー、そうなるのか」
今の状況で戦力の拡大を狙うのは……まぁそういう人達だろうね。元々が共闘イベントをスムーズに進められるようにって目的で集まってたのが、真逆の群集を脅かす存在になってるってのは皮肉だな。そりゃ、そういう人達に取り込まれるのは嫌ですよねー!
「って、ちょい待った。そもそも共闘イベントに向けて集まってたって事は……そもそも群集と争う意思はなし?」
「まぁ、そういう事になるな! 今の実態は違ったものに変わっちまってるが……。あ、競争クエストの件は、極一部の連中が好き勝手やってただけだからな! あっちのが少数派だ! ……まぁ今色々と動いてんのも、その連中だけどよ」
「……なるほど」
うーん、思った以上にインクアイリーの内情はややこしい事になってるっぽい。でも、誰がどういう意図で結成したのかが分かったのは大きいかも?
そういう現状なら取れる手段もあるけど……これ、受け入れられるもんかな? いや、人脈自体は残るだろうし、元々群集の枠組みを超えて活動してたなら大丈夫な可能性もあるし……ここはみんなに共同体のチャットで相談してからにするか。
「コイコクさん、ちょっと相談する時間をくれ。ギン、その間の話相手をよろしく!」
「俺かよ!? あー、まぁ色々聞いてみたいし、それもありか」
「何か案が浮かんだんだな、ケイさん! 期待しとくぜ!」
「まぁそれはこれから次第だけど……みんな、とりあえず共同体のチャットで!」
「はーい!」
「なるほど、あっちで話すんだな」
「了解!」
「どういう案なのかな?」
俺だけじゃ決めかねる内容だから、みんなの意見を聞いてみたい。多分、効果的だとは思うんだけど……少なからずリスクも伴うからなー。ともかく、共同体のチャットへ移動で!
アルマース : それで、何を提案しようとしている?
ケイ : まぁそのまま全員、灰の群集への移籍はどうかなーと。他の群集や無所属の人を、共同体『まな板の上のコイの滝登り』に加入させる形でさ。
ハーレ : 思い切った手段なのさー!?
ヨッシ : あ、そっか。内部で割れておかしな状態になってるなら、群集の庇護下に移そうって案なんだね?
サヤ : 理屈は分かるけど……それ、色々と大丈夫かな? 人脈は残るんだし、情報がダダ漏れになる可能性もない? それに、受け入れるかどうかも分からないかな?
リスクはサヤの言う通りなんだよなー。実質的な体制が変わらないまま灰の群集に取り込んでしまう形になるだろうしね。ただまぁ、情報流出のリスクって大差ないんだよなー。
ケイ : ぶっちゃけ、既に灰の群集の共同体が一角を担ってるんだし、情報流出のリスク自体は対して変わらないと思うぞ。
サヤ : あ、そっか。流出するなら、もう既にしてておかしくないのかな!
ケイ : そうそう、そういう事。どちらかというと、他の群集の人が加入する際にそれを気にする事が問題かも?
アルマース : 問題があるとすれば……他の群集からの反発か。経緯はどうあれ、これは引き抜きだろう?
ハーレ : 確かにそうなるのさー! 無所属の羅刹さんへ戻ってくるように提案するのとは訳が違うのです!
ケイ : そうそう、一部が他の群集の所属だから、その辺はどうしてもなー。
所属の変更は本人の意思が重要だけど、集団でゴッソリ移籍されるのは……赤の群集も青の群集もいい気はしないだろう。とはいえ、常に俺らがフォロー出来る訳じゃないんだし、インクアイリーの一部の過激派から守るなら、この手段が確実なはず。
ヨッシ : ……それ、他の集団に対して、他の群集が同じように動く可能性もあるんじゃない? 多分、コイコクさん達だけじゃないよね、今みたいな状態に陥ってるの。
ケイ : あー、まぁその可能性は十分あるな。
ジェイさんやウィルさんなら、そういう集団を取り込むって同じ手段は思いつくだろうしね。それは容易に想像出来るんだけど、だからこその問題というか……。
アルマース : 下手すりゃインクアイリーの一部の引き抜き合戦が始まるか。そうなると、色々と面倒だな。
ケイ : やっぱり、そうなる可能性もあるよな……。その上でもやるべきだと思う? まぁコイコクさん達次第ではあるけどさ。
ハーレ : 後手に回る可能性もあるので、ここは思い切ってやった方がいいと思います!
ヨッシ : ……それもそうだね。他の群集が動く可能性があるなら、先手を取っておいた方がいいかも?
サヤ : あ、そういえばケイ! 移籍といえば、羅刹さんの件はどうなったのかな? あの件で、もう既に遅いかも?
あ、そういやその件はまだ伝えられてないままだった!? よし、丁度いいタイミングだし、今のうちに伝えてしまおうか。
ケイ : 羅刹の移籍は、一旦見送りになった。eスポーツ勢の乱入騒動が落ち着いてからって形にするってよ。
サヤ : え、そういう形になったのかな?
ハーレ : なんでそうなったのー!? 移籍してきそうな感じだったよね!?
ケイ : なんか公式掲示板で、ライブラリが無所属に対してeスポーツ勢の主導権の奪い合いを唆したらしくてなー。それを受けて、羅刹とその馴染みの人達で『灰の群集の無所属支部』として動くんだと。
ハーレ : まさかの状態なのさー!?
ヨッシ : ……あはは、そんな事になってたんだ?
サヤ : 灰の群集の無所属支部って、なんか無茶苦茶かな!?
ケイ : まぁそれは俺もそう思う。
無所属なのに、灰の群集の支部ってなんだよって話だもんなー。これ、ある意味ではコイコクさん達の求めている立ち位置に近くなるのか?
アルマース : その状況だと、もうインクアイリー絡みの引き抜き合戦は始まってねぇか? 無所属だとはいえ、影響は大きいだろ。
ケイ : あー、言われてみればそうなるのか。
ライブラリが起こしたeスポーツ勢の流入の影響なのは間違いないんだし、羅刹は無所属での一団のまとめ役でもある。まだ移籍にはならないとはいえ、実質的には灰の群集の全面的な味方だもんな。
アルマース : もうそこまでの事態になってるなら、コイコクさん達を誘うだけ誘っちまっていいんじゃねぇか? 他の群集を気にかけてたら、身動きが取れなくなるぞ?
ケイ : ……それもそだなー。断られた時は、どうしよう?
ハーレ : それは、その時に考えるのです!
サヤ : 私達だけじゃ後ろ盾になり切れない事は、伝えておいた方がいいとは思うかな!
ヨッシ : いつでもログインしてる訳じゃないし、他の群集へのメリットの提示は無理そうだもんね。むしろ、敵に回す動きになりそうだし……。
ケイ : ですよねー!
おし、断られる可能性もあるけど……やっぱり守るという意味では、この手段が確実なのは間違いない。他の群集との引き抜き合戦は……もう覚悟しておこう!
「へぇ! サヤさんのを見た時から思っちゃいたが、東洋系のドラゴンはやっぱり追加されてんだな!」
「いつものように悪ふざけで滝を登ってみたら、実際に進化してビックリしたもんよ! 成熟体になるまで、そんな兆候はなかったんだけどな?」
「ほほう? 進化階位で微妙に変化が出たりもすんのか!」
なんだかギンとコイコクさんが興味深い話をしてるっぽいけど……とりあえず本題に入りますか。
「コイコクさん、相談は済んだから……提案をしていいか?」
「おっ、話が終わったんだな! それで、どういう提案だ?」
「ここにいる人達で、赤の群集や灰の群集や無所属の人の全て、灰の群集に移籍する気はない?」
「……は? え、移籍!? ちょ、どうしてそういう流れになった!?」
「ぶっちゃけ、俺らだけじゃ人数的にも時間的にも後ろ盾になるのは無理! もっと大人数じゃないと、好戦的なインクアイリーの連中から守るのは無茶過ぎる!」
「……マジか。あー、ちょっと相談させてもらっても?」
「まぁ大きな決断になるから、そこはしっかりと相談してくれ!」
「……おう、分かった」
ちょっとガッカリされたような反応だけど、無理なもんは無理だから! ただ、これを受け入れてもらえるなら、灰の群集のみんなの協力は得られるはず!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます