第1433話 滝の裏の洞窟
色々と情報過多なコイの人達……その代表っぽいコイコクさんの後ろを追いかけて、滝の裏へと進んでいく。どの人がしてるのかは分からないけど、滝を真っ二つに分けるように岩を生成してくれてるな。
……昨日は岩で塞がっていたけど、今は真っ暗な洞窟が待ち受けている。てか、思いっきり暗いな!? 先が全然見通せ……いや、なんでこんなに暗い!? 隠れ家の中だよな、これ!? 入り口だとしても、明かりくらい用意しててもいいような……?
「はい! コイコクさん、なんで暗いんですか!?」
「ん? まぁそれは単に明かりが必要ないだけだが……あぁ、さっき落ちるとか言ってたし、洞窟が広がってるって思ってたのか!」
「えっ!? 違うの!?」
「おう、違うぜ。コイン、開けてくれ」
「へいへいっと。『樹洞展開』!」
「……はい?」
え、ちょっと待て!? 今、『樹洞展開』って言ったよな!? それと同時に目の前に空間が現れたし……いや、なんかおかしいぞ?
「あれ? 樹洞の壁っぽいのが床になるの?」
「樹洞が……横になってるのかな?」
これって、もしかして!? あー、とりあえず状況の確認だ! 他のみんなも見やすいように、これでいこう!
<行動値上限を4使用して『発光Lv4』を発動します> 行動値 124/124 → 120/120(上限値使用:7)
よし、今使える最大のLv5だと眩し過ぎるから、これくらいでいいだろ。えーと、これで……。
「うおっ!? ……ケイのコケ、光るのかよ!」
「まぁなー。暗いところでは重宝するし……なるほど、やっぱりこういう状態か」
「……考えたな。これは横に掘り進んで、不動種を横にして植らせているのか」
「正解だ、アルマースさん! ちょいちょい隠れ家の位置を変える時があるんだが、その途中で思いついたアイデアでな! これ、かなり楽なんだぜ!」
「なるほどな」
いやいや、不動種を地面の中で横に植らせるって発想がとんでもないな!? 洞窟内に木が植ってるのは常闇の洞窟内の転移地点では普通にある光景ではあるけどさ。
てか、このコインって不動種の人……何気にバナナの木か!? あー、バナナを採集してるゴリラの人とかいるね。うん、別にコイだけしかいない訳じゃないっぽい。
「あ、まだ奥があるみたいかな!」
「おー! なんか少し明かりが見えたのさー!」
「あ、本当だね。コイコクさん、奥はどうなってるの?」
「奥は炊事場と外への通路を兼ねた洞窟だな! うちの不動種のコインが、メンバーの溜まり場って感じだぞ」
「おぉ! そうなんだ!」
ふむふむ、場所によって用途を変えてる訳か。不動種の樹洞の中なら大型種族でも自動でサイズ調整されるし、大人数が集まるのにも適しているよな。直接広い場所を掘るより、こっちの方が遥かに効率的ではあるけど……。
「……なんで横倒し? 周囲にそれなりに空間があるとはいえ、この体勢で植わるのは大変なんじゃ?」
「いや、そうでもねぇぜ? 『小型化』と『纏樹』をしちまえば、どうとでも融通は利くからな。あと、この方がバナナが採りやすいからよ!」
「あー、そういう……」
「おぉ!? バナナなのさー!」
というか、バナナの木が出てきたのって割と最近な気がするけど……あー、コインさんは3rdって表記が出てるな。なるほど、ずっと育ててきた不動種という訳でもなさそう――
「……なぁ、ケイ?」
「ギン、どした?」
「……オフライン版から色々変わり過ぎじゃねぇか? てか、不動種ってなんだ?」
「あー、不動種はあれだ。世界樹ルートで育てる時の動かない木が、商人プレイヤーの御用達の定位置に陣取る種族になったって感じ」
「……世界樹ルートのあれも、オンライン用に調整して実装されてんのかよ! あー、そりゃMMOなら商人プレイヤーはいるわな」
「そうそう、そんなとこ。オフライン版の名残がある部分もあるけど、基本的には別物だと思っといた方がいいぞ?」
「……どうも、そうみたいだな」
俺も色々とこれまで進めていく中でオフライン版との違いには驚いたけど、ギンみたいに一気に色んな変更要素を見たらこういう反応になりますよねー!
そもそも、不動種をこんな使い方にしているのは俺らでも初めて見る訳だしさ。そりゃ驚くよな。
「まぁ入り口で立ち話もなんだし、サッと入ってくれや」
「はーい! お邪魔しまーす!」
「あ、ハーレ、待ってかな! お邪魔します!」
「あはは、ハーレのテンション上がってるね。お邪魔します」
相変わらず、ハーレさんはこういう時は元気よく1番に進んでいくもんだなー。社交性があると褒めればいいのか、図々しいと諌めた方がいいのか……長所とも短所とも言えるから、なんとも判断が難しい!
「さて、俺らも行くか」
「だなー」
ただの地面をくり抜いた場所なら無理だけど、樹洞の中に入るのなら、そりゃアルのサイズでも問題ないよな。……意外と他にも大型な種族の人が結構いるのかも?
とりあえずバナナの不動種のコインさんの樹洞の中へ入れば……あー、かなり大勢の人がいるな。サイズがバラバラだから人数が数えにくいけど……ザッと30人くらいはいるか?
植物系の種族……それも野菜系の種族が多いのは、多分気のせいじゃないだろう。次いで多いのは小動物系で、手が使える種族だね。調理台みたいな岩もいくつかあるし、なんだか調理実習でも見てる気分。
てか、灰の群集だけでなく、赤の群集や青の群集、それに無所属……全部揃ってんじゃん! 所属関係なしの集まりなのは、流石はインクアイリーの一部ってか。
「おー!? なんか色んな料理を作ってるのさー!?」
「ザッと見た感じ、ここでは下拵えをしてる感じだね。焼くのは外でなのかも?」
「奥が炊事場って言ってたし、そうなりそうかな?」
あ、俺らの方へと注目が集まったけど……すぐ、自分達の作業に戻っていったな!? あれ? 呼ばれて来た割には、あんまり俺らに興味なしな感じ?
「ん? ケイ達へ用事があったんじゃねぇのか? なんか全体的に反応が薄いけどよ」
「それは俺も気になったけど……コイコクさん、そろそろ話の続きはしてもらえるか? 俺らと提携したいって、どういう事?」
「まぁまぁ、慌てなさんな! ほれ、こっちだ、こっち。とりあえず座ろうや」
「……まぁいいけどさ」
1ヶ所、誰も使っていない調理台っぽい岩があるけど……コイコクさんがその近くに泳いでいったから追いかけていこうっと。入り口で立ち止まるんじゃなくて、じっくり話せるようにって事なんだろうね。
「あー、俺は元のサイズに戻しても大丈夫か?」
「それは問題ないぜ、アルマースさん!」
「なら、戻させてもらうか。『小型化』解除!」
という事で、アルはいつものサイズに戻っていく。まぁ樹洞の中用に自動で小さくされた状態だけど、木をちゃんと背負えてるかどうかが大きく変わってくるからな。背負った状態には、こっちですよねー!
それにしても……横倒しになった不動種の樹洞の中って、中も横に変わるんだな。床部分が本来なら壁部分で湾曲してて平坦じゃないけど、そこに土を敷き詰めて平坦にしてるっぽいね。これなら、中でも簡易的になら火も扱いやすそうな気はする。……加減を間違えれば、不動種のコインさんまで焼きそうだけど!
「さて、それじゃ本題に入るぜ! 無関心な奴も多いが、そこは勘弁してくれや! マイペースなもんでな!」
「まぁそれはいいけど……料理に興味がある人は歓迎されるとかって聞いたけど?」
「おう、それは間違ってねぇぜ! ただまぁ、その条件に該当しそうなのがヨッシさんだけって認識も多くてな?」
「おぉ!? そうなんだ!?」
「……もしかして、私だけだったら反応も違うの?」
「まぁな! どいつもこいつも、同好の士以外には人見知りでよ!」
「余計な事を言ってんじゃねぇよ!」
「自分だって、似たようなもんだろうが!」
「オリガミさん経由でようやく声をかけられただけじゃねぇか!」
「単なる内弁慶なのに、どの口が!?」
「コイで何人かで群れてないと、ヘタれてる癖に!」
「たまたま偶然が重なったお陰なのに調子に乗るなよ、コイコク!」
「…………す、すみませんでした!」
なんか、思いっきりコイコクさんへの批判が飛んできまくったんだけど……えぇ? コイコクさんって、こういう感じなのか? というか、この集団自体がそういう人達の集まり!?
「……なぁ、ケイ? この集団って同好の士の集まりというか、同好の士じゃないと上手く話しかけられないだけの集団じゃねぇのか?」
「……アルもそう思う?」
「今の反応から考えたらな」
「ですよねー」
裏に隠れて料理に専念してる集団かと思ってたけど、目立つのが苦手な人達の集まりって印象になってきた。なるほど、そうなると……。
「あのコイの群れは、料理好きな人へのアピール? 自分達からじゃよく声をかけられないから、逆に声をかけてもらうのが狙い?」
「……恥ずかしながら、そうなる! オリガミさんが、そういう風に提案してくれてな!」
「発案、オリガミさんなのか!?」
となると……インクアイリーの情報網から、コイの群れが料理を作る人達への合図って事を広めてた感じなのかもね。いつからやってるかは分からないけど、割と最近な気もするな?
昨日、俺らはたまたまそれに遭遇しただけ。掲示板で話題に出たのは……無所属向けの掲示板のスレで意図的に広めたってのはありそうだ。
「もしかして、私達との提携って……その辺が関係してるのかな?」
「全くの無関係とは言えないな! いや、まぁ本命の理由は別にあるんだがよ!」
「……本命?」
「それってどういう内容ですか!?」
ふむふむ、流石に俺達へ窓口になってくれって話ではないんだな。てか、そういう話であれば灰のサファリ同盟を筆頭に、他に適任な共同体はいくつか存在してるしね。
小規模な俺らへと話を持ってくるには、それ相応の何か理由があるんだろう。さっぱり理由は思い当たらないけども!
「……おし、単刀直入にいくぜ。インクアイリーの他の連中が、俺らへ襲いかかってきたら守ってほしい! その代わり、色んな料理や材料は提供するからよ!」
「……はい? え、提携って専属の護衛!?」
ちょ、全然予想してなかった方向から話がきたんだけど!? しかも、インクアイリーのメンバーから守ってくれって……えぇ? 何がどうしてそうなった!?
「いくらなんでも、俺らが専属の護衛なんてのは出来ない――」
「あー、いや、ちょっと言い方が悪かったか? 専属の護衛って訳じゃなく、何かあった時に助けてほしいって話なんだよ!」
「……もうちょい詳しく。いまいち状況が掴めない。何かあった時にって、具体的に何かありそうなのか?」
それらしき何かがなければ、こんな頼む方はしないよな? 専属の護衛ではないみたいだけど、どういう状況からどう守ってほしいのかがサッパリ分からん!
「ありそうだから頼んでる! そこのeスポーツ関係のギンノケンさんも一緒でいいってのは、その辺もあるんだよ!」
「……へぇ? 俺も関係あんのか」
「ギンも関係する……って、eスポーツの流入勢が関係してくるのか?」
「それだ、それ! 無所属での回復アイテムの安定した流通経路って、俺らが結構絡んでてな!? 俺らを取り込もうって連中が、チラホラ出てきてるんだよ!」
「マジか!?」
「マジだ、マジ!」
あー、そうか。インクアイリーは全部の勢力に存在してるんだし、料理の材料の調達経路にいる人達からの影響は結構出てくるのか。それも高品質な回復アイテムを用意する集団となれば、尚更に味方へ引き入れたがるはず。
いや、理屈は分かるけど……それでなんで俺らに提携を頼むって話になる? そういう話なら、それこそ大きな共同体が後ろ盾になって……あっ、構成するメンバーが1つの勢力だけじゃないからか!
「要は、各群集に伝手があって、それでいて小規模で身動きが取りやすい俺らに後ろ盾になってほしいってとこか? 万が一の時は、どこの群集へも応援を頼みたい?」
「そう! そういう希望だ!」
「……なるほど」
「昨日、俺らの前まで来てたのに、強引に踏み込んでこなかったのも大きいんだよ! 興味本位で大勢に突っ込んでこられて、何度か場所を移転してるしよ!」
「あー、そう繋がってくるのか」
なるほど、なるほど。確かに人見知りが多い人達なら、急に知らない人達が押しかけてくるのは嫌がりそうだしなー。昨日、無理に探ろうとしなかったのが、結果的に好印象へと繋がったっぽい? でもこれは……うーん、どうしたもんだ?
「……みんな、どうする?」
正直、かなり一方的な内容だし、俺らが受けなきゃいけない話ではない。みんなはどういう判断を下すか……。
「……なんとも言い難いな。俺らにとってのメリットが薄――」
「はい! 色んな料理が食べられるのはメリットなのです!」
「まぁハーレはそういう反応だよね。私としても、そういう面ではメリットはありそうだけど……」
「負担がどうなるか次第かな?」
ハーレさんが絡むと料理系はメリットになるのは想定出来る事だけど……だからといって、『はい、そうですか』と安請け合いも出来ないよなー。
状況次第では俺ら以外の人も巻き込む内容なんだから、良いように使われるのは避けないといけないし……。
「おし! 無茶を言ってるのは承知の上だし、ここはもっとメリットを提示しねぇとな!」
「そうしてくれると、ありがたいな。流石に今のままじゃ受けられないしさ」
ハーレさんだけなら無視してもいい部分だけど、ヨッシさんも興味を持ってるんだしね。その辺は無下に出来ないし……シンプルに頼られている状態を蔑ろにはしたくもない。
とはいえ、料理に関しては元々ヨッシさんなら普通にこの輪の中に入れそうだっていうのも考えると……何か別のメリットの提示は欲しいんだよなー。正直、要求の規模が大き過ぎる気もするし……。
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