第1431話 オリガミの用件


 eスポーツ勢の動きの原因は……あのいまいち動きが読めなかった『ライブラリ』って人だとは分かった。分かったけど、全然安心出来る状況じゃないんだが!?

 いやまぁ、悪意に起因するののではないと分かっただけでも良しとしようか。……インクアイリーの中でも、色々と騒動が起きそうな予感もするしさ。


「それでは、私の用件に移っても?」

「問題ないのです! あ、ギンさんはいても大丈夫ですか!?」

「……それは、私では判断しかねますね。あくまで仲介役なので……まぁケイさんのリアルでお知り合いであれば、問題ないかと思いますが」

「……俺のリアル知り合いなら、問題ないねぇ?」


 ギン以外に思い浮かぶのが2名ほどいるけど……うん、どっちも問題しか思い付かない。フラムもアイルさんも、方向性が少し違うけどどっちもトラブルメーカーなような――


「おーい、ケイ? さっきからちょいちょい気になってるんだが、色々と声に出てんぞ?」

「ふっふっふ! よくある事なのです!」

「……そうなのか? あぁ、あれか。フルダイブでの思考が漏れやすくなるって不具合か?」

「ちょ、ギン!? そんな不具合あんの!?」


 毎度のこの声に出る癖、癖じゃなくて不具合だった!? いやいや、そんな不具合は初めて聞いたんだけど!?


「そりゃ意図しない内容が声に出てたら、不具合だろうよ。まぁ何かのリアルの癖を変な形で変換してるんじゃないかって予測だが……少数例でしかなくて修正が出来てないとも聞くな。ケイ、フィードバックを上げといた方がいいんじゃねぇか? その手の挙動は、手動での提供だったはずだぜ」

「……マジか。あー、後でやっとく」


 そういや、何でもかんでも動作中の挙動全てをモニタリングをするのも問題だから、そういう設定もありましたよねー! よし、少しでも直る可能性があるのなら、手動でフィードバックを送って……って、ちょい待った。

 やるの自体はいいけど、それがいつどのタイミングで起きたかなんて把握してないんだけど!? あー、最低限で分かるのは今のタイミングか。


 くっ、そういうのを全て記録出来るのが業務用のフルダイブ機器なんだけど……確か、eスポーツ部の部室に1台あったよなー。いやいや、どういう狙いでの使い方!?


「いえ、ある意味それが正式な使い方ですよ? 業務用のフルダイブ機器は、医療用のフルダイブ機器とほぼ同一のものですし、そういう異常を検知する機能もありますし……あれ、デバッグ用の機器でもありますからね」

「あー、そういやそうだっけ……」


 用途こそ違うけど、業務用も医療用も本質的には同じものだよな。今もまた声に出てたみたいだけど……いや、でもなー。うちのeスポーツ部の部室に借りに行くのは、すっげー嫌……。

 学校の備品なんだろうから気にする必要もないんだろうけど……って、話が脱線し過ぎだから!?


「……オリガミさん、話を続けてくれ。俺の癖の話で脱線になり過ぎ……」

「……それもそうですね。それでは話を戻しまして……ヨッシさんに用事があるという方々がいましてね?」

「あ、私への用事なんだ? それって、コイの集団の人達?」

「えぇ、そうなりますね。……驚いていない様子を見ると、大体の想像は出来ていますか?」

「うん、まぁそういう可能性は聞いてたからね。料理絡み話で合ってる?」

「えぇ、その通りです」

「おぉ! やっぱりなのさー!」


 ふむふむ、この可能性は考えていたけど、大当たりだったっぽいね。まぁ具体的にどんな話かは、さっぱりだけど!


「……ケイ、モンエボで料理をやってんのか? てか、出来るのか?」

「あー、その辺はオフライン版とかなり違うぞ。自由度、かなり広がってるからな。とはいっても、加工しまくると宣伝用の試食データに置き換わるって仕様だけど……。ほら、ここに来るまでのあったヒマワリ畑とか油の原料だし?」

「……いや、今はそうでもないが、その時はろくに見えてないんだが。まぁ随分とオンライン版で変わったもんだな」

「まぁなー」


 そうか、ギンはまだ夜目を……いや、あの言い方なら今はもう使えるようになって使用済みだな? 1時間以上は経ってるんだし、当然といえば当然――


「……なるほど。ギンノケンさんはオフライン版の経験者ですか?」

「まぁそうなるが……何か問題でもあったか? 一応、難易度ヘルでも攻略は出来てたぜ?」

「いえ、全くの初心者の方よりは同席しても問題が薄そうだと思っただけですよ。……それも最高難易度でクリア出来るだけの実力者なのであれば、余計にですね」

「ははっ! そういう事なら、都合は良さそうだな!」


 ふむふむ、ギンは完全な部外者だけど……実力があるなら無碍に扱う事もないって話か。プレイ中の視点を共有機能で見た事はあるけど、近接が強いしな、ギン。

 まぁ遠距離も強いし、今の操作系スキルの元になってるなんちゃって魔法も強かったけど……特に印象に残ってるのはスキルを使わずのプレイヤースキルのみでの戦闘か。


「……ケイ、ちょっと思考がダダ漏れ過ぎやしねぇか? 他のフルダイブのゲームじゃ、そこまで出た事はなかっただろ」

「俺も、そこはどうにかしたいとは思ってるんだけどなー」


 てか、思ってる事が声に出てるのってモンエボ固有の問題なのかよ! あー、人型じゃないからこそ、人の姿での癖が変な形に反映されてる? くっ、操作感が特有だからこその問題か!


「って、また話題が逸れてる!?」

「はい! それで、結局どういう内容の用事ですか!?」

「簡単に言えば、ヨッシさん……いえ、共同体『グリーズ・リベルテ』との提携のご相談ですね。卸し先の1つであるマツタケさんとの接点も出来たという話ですし」

「えっ!? 提携!?」

「そういう話なのかな!?」

「……なに? マツタケさん、その集団との接点があったのか?」

「えぇ、自分達で作っても消費がし切れずに困っていますからね。一応、インクアイリーの一部という形にはなりますが、料理に特化した灰の群集の共同体『まな板の上のコイの滝登り』が中心になっていますよ」

「共同体名がなんかおかしいのさー!?」

「……あはは、『まな板の上のコイ』と『コイの滝登り』を繋げてるんだ?」

「……繋げる意味、あるのかな?」

「絶対に意味はないな!」

「えぇ、ありませんね。ただの悪ノリで決めたそうですから」


 やっぱりそうだった! なんでコイの集まりなのかも気になるけど……それもなんだかノリで決まってそうだな? まぁそれはいいとして……。


「なんで、俺らと提携しようって話が出てくる? インクアイリー一部なら、連携して動ける集団とかいくらでもいるんじゃ?」

「その辺の事情は私の方ではなんとも……。私は仲介役を頼まれただけですので、直接話をしてもらって構いませんか?」

「あー、そういう状況か。まぁそれなら、本人達に話を聞くしかないなー。……それ、本当にギンを連れていっても問題ないんだよな?」

「おそらく大丈夫だとは思いますが……一応、先に確認は取っておきますね」

「それで頼む。いざ行って、駄目でしたってのも困るしさ」

「確かにそうですね。それでは少し失礼します」


 さて、少しオリガミさんが離れて会話しに行ったし、ギンの同行がどうなるかはそれで確認出来るはず。


「……はぁ、オリガミさんの用件は完全な別件か。まさか仲介役だとはなー」

「ま、そりゃ仕方ないだろ。それでも、インクアイリーの『ライブラリ』が元凶だと分かったのは大きな進展だしな」

「そりゃそうだけど……あの人が黒幕ってのも厄介過ぎね?」

「……まぁ否定はせん。だが、インクアイリーの中で派閥が割れそうだし、今回の件もそれに関係あるんじゃねぇか?」

「あー、そういう理由……」


 ふむふむ、確かにインクアイリーの中で主導権を誰が握るかって話になれば……元々、一枚岩ではないのが分裂して動く事もあり得るか。


「はい! そうなるのも見越して、こういう動き方をしてる気がします!」

「インクアイリーの内部分裂自体が、観察の対象になってるのかな?」

「……あはは、嫌な感じのやり方だね」

「ですよねー!」


 悪意でなくとも、掻き乱すって意味では……あの『カガミモチ』とやってる事が変わらないわ! でも、流れをコントロール出来れば……あー、だから羅刹は下手に群集へ戻さない方が良いのか。


「……それでだが、ケイ? さっきはろくに聞けなかったが……羅刹さんが群集に戻ってくるってのはどういう話だ?」

「あー、今の状態で色々負荷がかかり過ぎてるし、元々羅刹って灰の群集の人相手に戦いたいって理由で無所属になってたじゃん? もうその目的は達成出来る環境が整ってきて、無所属でいるメリットが薄くなってきたからさ」

「……なるほど。それで灰の群集に戻ろうって考えてるところか。いや、でもそう都合よくいくか? 羅刹さんは無所属の一勢力のまとめ役だろ?」

「だから、そのままその一勢力の全員で移ってきて共同体を作ったらって提案しといた」

「なっ!? ……いや、確かにそりゃありだな。灰の群集としては戦力の増強になるし、羅刹さんにとっても所属が変わるだけで実情は、群集や共同体の機能が使える分だけむしろ楽になるか」

「だろ? でも、まさかそれを止めてくれって話があるとも思ってなかったもんで……」

「……そりゃまぁ、そうなるか」


 オリガミさんが言ってたのは、羅刹を通じて俺らがこの状況をコントロール出来る立ち位置を構築する事。でも、もう今頃、羅刹は灰の群集へ戻る話をしているだろうし……言い辛いなぁ。


「はい! ケイさん、早めに羅刹さんへ伝言した方がいいと思います!」

「……ですよねー。仕方ない、今のうちにフレンドコールをしてくるか」

「なんだかケイも色々と大変そうだな?」

「まぁどうしても他の人との繋がりもあるもんでなー。それじゃ、ちょっと話してくるわ!」

「はーい!」

「ケイ、いってらっしゃいかな!」


 さーて、水のカーペットは出しっぱなしでその辺に浮かせたままだったし、そっちに飛び乗って少し移動!

 アルのクジラの上で話してもいいんだけど、まぁ状況を正確に把握出来ないギンもいるし、今はこの方がいいだろう。羅刹へフレンドコールをして……出てくれればいいんだけど、どうだろな?


「……フレンドコールがきそうな気はしてたぜ、ケイさん」

「繋がって早々、そういう言葉が出てくるって事は……そっちでもeスポーツ勢関係の今の状況の情報は得た?」

「あぁ、まぁな。情報を得たというか……ライブラリってインクアイリーのクラゲ野郎が、主導権を手放すから好きに奪い合えって公式掲示板で宣言したそうでな」

「はい!? え、マジで!?」


 待て待て待て! 何がどうしてそうなった!? ライブラリが公式掲示板で、大々的に宣言してきた!?

 くっ、オリガミさんから見ても何を考えてるか分からない愉快犯だと言ってたけど、そういう動き方をしてくるのかよ!


「ん? ケイさんは別経路からの情報か?」

「そうなる。そっちからライブラリが黒幕だとは分かったし、主導権争いを引き起こすのが目的だとも聞いたけど……そこまで直接的に動き出してるとは想わなかったわ!」

「いや、それは多分順番が逆だな。ケイさん達に情報が伝わるのを察知して、潰される前に動いたんじゃねぇか?」

「……あー、それはあるかも?」


 初動を作っただけってオリガミさんは言ってたけど……ここまでが作り上げる予定の初動なのかも? 対立煽りをして、無所属が主導権を握るか、それともどこかの群集が裏から手を回してコントロール下に置くか……意図的に対人戦を組み上げてない!?


「ケイさん、無所属の俺と馴染みのある連中と話してたんだがよ? やっぱり灰の群集に戻るのは無しだ」

「ちょ!? 主導権争いに付き合って、あちこちと対立するような――」

「いやいや、勘違いすんなよ? 無所属に残りはするが、立ち位置は変えさせてもらうぜ」

「……はい? え、それってどういう――」

「なに、単純な話だ。俺らは今から、灰の群集の無所属支部って事だよ」

「そうくるか!?」


 ちょ、えぇ!? そういう手段ってあり!? いや、でもオリガミさんが狙ってたのって、実際こういう事だよな?


「……羅刹、無理はしてない?」

「わっはっは! 無茶はしてねぇし、する気もねぇよ。ただ、俺らの中には……灰の群集の傭兵にもならず、むしろ敵対してたのに、無条件で受け入れてもらうのに抵抗があるって奴もいてな? それを吹っ切る為の、まぁ一時的なもんだと思ってくれ」

「あー、なるほど……」


 俺はそういうのは気にしないし、他のみんなも気にしないだろうけど……実際に加入してくる事になる当人達が気にするのか。まぁ灰の群集の無所属支部とやらで納得がいくのなら、それでもいいけど……。


「……今回の件、終わりがどこかは分からないぞ?」

「それはそうなんだが……まぁ納得いくまで、こういう形で動かさせてくれや?」

「……そういう事なら了解。その件、灰の群集に伝えておいた方がいい?」

「いや、それはこれから直接ベスタさんへ話に行くから大丈夫だぜ。ケイさんの用事が終わってるなら、対戦がてら頼むのでもいいけどよ?」

「あー、まだこっちの用件は終わってないから……対戦は無理だな。ベスタに頼んでもらった方がいいかも?」

「おし、ならそれで決定だ! それじゃ、そろそろフレンドコールは切るぜ。まずはベスタさんを捕まえないと話にならねぇしな」

「ほいよっと!」

「それじゃまたな!」


 そこまで言って、羅刹とのフレンドコールは切れた。……なんだか思わぬ方向に事態が動いてきてるけど、これってどうなるんだ?

 てか、冗談抜きで本当にどうなったら決着した事になるんだよ!? 明確にシステムで決められた内容じゃないから、主導権を得た状況の判定が難しいんだけど!? あー、こうなると他の群集がどう動いてくるかも考えないといけないのか……。くっ、ややこしい状況を作ってくれたもんだな!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る