第1430話 騒動の実態


 色々と情報を共有しつつ、危険な可能性があるという事はなんとか伝わった。『カガミモチ』の再来なんてのは杞憂であってほしいけど……悪意のみで動く奴が実在してたんだから、その警戒を怠る訳にはいかない。


「ケイ、待ち合わせの正確な場所はどこだ? 『湖中の蛍林』としか聞いてねぇぞ?」

「あ、悪い! それ、微妙に正確な情報じゃない!」

「……は? いやいや、待て!? それならどこに向かえばいい!?」

「昨日見た、『湖中の蛍林』の少し手前にあったあの滝のとこ! 指定された場所があそこなんだよ!」

「……何? あの隠された洞窟、オリガミさんが関与してるのか?」

「詳しい話までは分からん! 向こうも何か俺らに用があるっぽいんだけど、その理由まではさっぱり不明!」

「……向こうも俺らに用事か。今のタイミングで、それは……少し怖いな」

「……そうなんだよな」


 オリガミさんは、インクアイリーの一部の大暴れを止めようと動いた側の人だ。そんな人が今の状況で俺らに接触をしようという状況自体が、不穏な内容ではあるんだよね。


「ん? ケイ、これから行く場所ってのは……用件も分からず、呼び出されて行ってんのか? そのインクアイリーの中でも、反発して動いたオリガミって人から?」

「話を出来ないかって接触を頼んだのは俺の方からだけどなー。でも、断られる可能性も考えてたから……正直、予想外な状態ではある」

「……なるほどな。そりゃ、確かにキナ臭ぇか」


 ただ、まぁ全く関係ない別件って可能性もあるんだけどな。うん、例のコイの集団が隠れた先っぽいのがまた微妙な要素でもあるし……。


「……ケイさん、それって全くの別件って可能性は? 昨日のあの場所って、コイの集団が隠れた場所だよね? 目の前で派手にやっちゃったし、その関係の可能性もあるんじゃない?」

「そうなんだよなー。……ぶっちゃけ、ヨッシさんに用がある可能性もあるんだよ」

「……え? 私に?」

「あのコイ集団、料理関係を色々やってる集団らしいのさー!」

「あっ! もしかしていつかの、群集で情報が出るのを待ってから料理関係の情報提供をしてきた集団かな!?」

「そうそう、そこの可能性もあるんだよ。ラックさんに聞いた範囲だと、あそこもインクアイリーの一部の可能性があるんだと」

「……まぁ、そういう実態であっても不思議じゃないか。ますます、行ってみないと分からない状況かよ」

「そうなるんだよなー」


 せめて、オリガミさんが用件の内容だけでも伝えてくれてたら違ったんだけど……まぁそれは今言ってもどうしようもないしな。フレンド登録をしてれば、直接連絡を取るんだけど……。


「あー、料理関係の話ってのはよく分からんが……結局、会ってみるまで何も分からねぇって事でいいんだな?」

「そうなるな。場合によっては、ギンはどこかで離れて待機してもらう必要もあるかも……?」

「まぁそれくらいは構わねぇよ。元々、俺が付いてきてるのはイレギュラーだしな」

「そう言ってもらえると助かる!」

「それに……向こうの用件が何にしろ、俺らが知りたい情報を持ってる可能性はあるんだろ?」

「絶対にとは言えないし、教えてくれるとも限らないけど……まぁ可能性はあるな」

「なら、現状としてはそこに縋るしかねぇなだろ」

「ですよねー!」


 どういう用件だったとしても、俺らからすれば貴重で重要な情報源なのは間違いない。少なくとも、俺らがそういう情報を求めている事はマルイさんを通じて知っているだろうしさ。



 ◇ ◇ ◇



 そこから先はギンが俺のこれまでの行動をあれこれとみんなに聞いていて……俺としては非常に居心地が悪い状態だった。くっ、みんなして遠慮なく、今まであった事を言ってくれるもんだな!?


 移動は昨日みたいに川を遡るんじゃなく、森の上を通って進んだからもう少しで辿り着きそうだけどさ! 早く辿り着いて、この話題を中断にさせて――


「来ましたね、皆さん。……おや?」

「あ、オリガミさん!」


 よし、ナイスタイミングで森の中からオリガミさんの緑色の龍が姿を現したね。やっぱり、イブキの龍に似てるんだよなー。……って、今はそういう話題じゃないな。


「ケイさん、そちらのカンガルーの方は? グリーズ・リベルテの方だけだと思っていたのですが……」

「あー、一応、今回俺らが聞きたい件の関係者?」

「……なるほど、eスポーツの方ですか。ケイさん達と一緒で、大して育成が出来ていない様子を見ますと……リアルでのお知り合い……あぁ、ケイさんが異常に警戒していたという方ですか?」

「……その通りだけど、なんか情報が早くない?」

「インクアイリーの情報網、そう甘くはありませんよ?」

「ですよねー」


 うん、やっぱり油断出来ないな、インクアイリー! 完全に俺が何を探っていたのかとか、その理由とか、全部把握されてるっぽい!


「では、単刀直入にケイさん達が知りたがっている事をお教えしましょうか」

「おぉ!? 教えてくれるんだ!?」

「……随分と、すんなり教えてくれるんだな?」

「警戒しなくても大丈夫ですよ、アルマースさん。私としても、放置するとマルイさん達に迷惑がかかりそうな内容ですから、スルー出来ないだけですし」

「……なるほどな」


 俺達へというよりは、マルイさん達へ迷惑がかからないようにしたいのか。まぁその辺は競争クエストの時にも言ってた事だし、結果的に俺らにとっても利益になるなら問題ないだろ。


「eスポーツ勢の流入を引き起こしているのは、まぁ率直に言ってしまえば、『ライブラリ』の独断ですね」

「『ライブラリ』? 図書館……ではないよな?」

「ギン、それはプレイヤー名!」

「あ、プレイヤーか!」


 知らなきゃそう思うのは仕方ないけど、俺らにとったら全然意味合いが変わってくる内容だな。くっ、ここでその名前が出てくるか!


「オリガミさん、『ライブラリ』ってあのインクアイリーの味方なのかどうかすらよく分からないクラゲの人の事だよな?」

「えぇ、その『ライブラリ』です。あの人は、悪意はないんですが……興味を持った事を観察するのが趣味ですからね。今は行方をくらましていますので、具体的に何を狙っているのかは分かりかねますが……インクアイリーとしての狙いではないですよ」

「……マジか」


 思いの外、あっさりと黒幕の正体が分かったけど……あのよく分からないクラゲの人が娯楽として仕組んでるのかよ! しかも、行方が分からないって……。これ、楽観視していいのか!?


「……オリガミさん、あの人は危険じゃないのかな?」 

「危険の内容によりますね。群集の脅威になるかと言われれば、まぁこれからの動き次第でしょうか? ……ですが、求めている答えはこれではなさそうですね? サヤさん、具体的にどのような心配をなさっているのですか?」

「……オリガミさんは、『カガミモチ』を知ってるかな?」

「えぇ、知っていますよ。なるほど、警戒しているのは……人間関係の破壊ですね?」

「そうなるかな」


 サヤが警戒心を欠片も隠さずに聞いてるし、下手に口を挟むのはやめておこう。……俺まで警戒心丸出しで問い詰めそうだしね。


「……ライブラリなら、『どういう結果になるか』も含めての観察をするでしょうね。対立になるなら喜んで観察するでしょうし……そうならないような動きがあれば、それを嬉々として観察するでしょう。一種の愉快犯ですよ、あの方は……」

「っ!? それじゃ、おかしな事になる可能性もあるのかな!?」

「……否定は出来ません」


 うげっ!? 悪意からの対立煽りじゃなくて、好奇心からの経過観察が狙い!? 悪意で滅茶苦茶にするのが狙いじゃなくても、結果的にそうなる可能性も秘めてるじゃん!? 


「オリガミさん! それを止める方法は!?」

「申し訳ですが、ライブラリを止める方法はすぐには思いつきませんね。ただ、観察が目的なので、基本的には初動を作り終えた後の流れに関与はしないでしょうから……付け入る隙はそこかと思いますよ」

「それはそれで難しくね!?」


 だー! 観察が目的だから、状況の実権を握り続ける訳じゃないっぽいけど……それってコントロール不可な状態で放り出してるだけじゃん!?


「……無所属に流入させたのは、群集が制御下に置きにくくする為?」

「おそらく、ヨッシさんのその読みで当たっていますね。その上で、次にあるはずの『乱入クエスト』が成功するかどうかを試しているくらいでしょうか? まぁ狙いが読みにくい人なので、絶対にそうだとは言えませんけど……」

「あー、オリガミさん、確認だ。今、主導権は誰も握っていない状況でいいんだな?」

「その認識で間違いないですよ、アルマースさん」

「……その認識は、インクアイリーの中では筒抜けか?」

「公に残る場には記載はありませんが、まぁ情報を探ろうと思えば容易に知れる程度ではあります。おそらく、そう遠くない内に別経路から各群集にも伝わるかと思いますよ」

「……なるほどな」


 ふむふむ、インクアイリーの情報網ではすぐに分かる情報になってる訳か。普通に各群集に所属している人もいるんだし、俺らやオリガミさん以外にも、情報を探っている人はいるはずだよな。

 だったら、これらの情報は容易にどの群集にも広がって……いや、そうじゃない!? アルが気にしてるのは、別の事か!?


「それじゃこっちも単刀直入で聞くぞ。その主導権、今狙っているのは誰だ? オリガミさんは、俺らに誰を止めてほしいんだ?」

「狙っているのは……まぁあくまで一例ですが、彼岸花さん達3人組でしたり、氷花さん達でしたり……ですか。具体的に誰かを止めてほしいという訳ではないですが、あえて言うなら羅刹さんをこのタイミングで群集に戻すのは控えてもらいたいですね」

「……何?」

「え、羅刹を戻すのってマズいのか?」


 というか、オリガミさんの狙いってそこ!? いやいや、どういう情報網を持ってんの!? 俺が羅刹へ灰の群集に戻ってこいって言ったのは、オリガミさんに接触を頼む少し前なんだけど!?

 あー、でもそれより前から悩んでたみたいだし、羅刹を傭兵として引き入れたのは俺らだから、接点も持ってるからって話な――


「おいこら、ケイ! 羅刹さんを群集に戻すって部分、何か知ってるな!?」

「あ、アル、悪い。流石に全く関係ないと思って、羅刹が灰の群集に戻る事を検討してる件は省いてた」

「……マジかよ!? あー、オリガミさんはそれをするなって要望か?」

「主導権を握れる有力候補の離脱は痛いですからね。彼岸花さん達や、氷花さん達では……まぁ『乱入クエスト』が発生すれば、大荒れになると思いますよ」

「……どうする、ケイ?」

「どうするって言われても、どうしろと!? 羅刹は、味方とも戦える環境が整ってきたし、eスポーツ勢の流入で面倒な事になってきてるから群集に戻ろうかと考えてるって話なんだけど!? 面倒事を引き受ける為に、無所属に残れなんて言えないぞ!?」

「そういう理由かよ。あー、確かにそりゃ言い難いか……」


 オリガミさんの要望は分かったけど、それでもすんなり受け入れる訳にはいかない内容だ。そもそも、俺らに決定権がある話じゃない!


「いえ、私としても別に無理強いするつもりはありませんので。まぁ伝言だけでもしていただけると――」

「……オリガミさんとやら、少し待てや」

「なんでしょうか? ギンノケンさん?」

「聞いてりゃ、随分と人任せじゃねぇか? その羅刹って人がどういう人かは知らんが、無所属の有力な人ってのは分かるぜ。だが、それはアンタもだろう? なんで、自分でやらねぇ? これまでのやり取りを聞く限り、その器じゃねぇって事はねぇよな?」

「……ケイさんが警戒するだけの方ではあるようですね」

「今、俺の事はどうでもいいんだよ。俺は、あんたに、自分でやらない理由を聞いてんだ!」


 あー、まぁオリガミさんもそれが出来る人なのは間違いないか。ただ、色々と面倒だから指揮役はしないって話だったし……って、それは羅刹も同じ状態になってるか!?


「……自分でやらない理由は、ただ単に面倒だからですね。そんなのはやりたい方がやればいいだけですし、羅刹さんに押し付ける気もありませんよ」

「だったら、なんで今、ここにケイ達を呼び出した!?」

「私の用は、完全に別件なんですよね。ですけど、ケイさん達がそれを知りたがっているようでしたので、その情報提供をしたまでですよ? そちらの件では完全に無関係な人にも情報提供をしたのですが、それでも何かご不満が? これは、私なりの善意のつもりなのですけども……」

「っ!? あー、そうかい!」


 うーん、ギンの行き場のない苛立ちも分かるけど、オリガミさんの意見にも文句を言いようがないな。ここまでの話が俺らへの用件だったならギンの文句も通るけど、本来の用件は別件となれば話は全然違ってくる。


 オリガミさんにとっては、さっきの情報を伝える事はあくまでおまけ。いや、おまけどころか俺らの疑問への最大限の回答をしてくれたんだよな。それに文句を言うのはお門違いか。


「オリガミさん、一応、羅刹には伝言はしとく。でも、俺らが出来るのは伝言までだぞ」

「えぇ、別にそれで構いません。あぁ、それと私自身は面倒なので直接はまとめに動きませんけど、それぞれの動向を伝えるくらいは構いませんよ」

「その辺が譲歩出来るラインってとこ?」

「えぇ、そういう事になりますね。それくらいしないと、群集の方が不利でしょうし」

「……ですよねー」


 こうしてオリガミさんと話してみて改めて思うけど、インクアイリーってのは本当に色んな意味で厄介だな!? 一枚岩じゃない部分も、情報網が凄まじいのも、群集の枠を無視するのも、マイペースな動きっぷりも、どれもとんでもないわ!


「えっと、それで……オリガミさんの本題は、何になるのかな?」

「そうですね。eスポーツ勢の流入に関する一通りの情報は伝え終わりましたし、そちらの話へ移りましょうか」


 うーん、悪意によるものではなく、黒幕が『ライブラリ』ってクラゲの人だと判明しただけでも良しとするべきか? 具体的な対抗策は全然思い付かないけど……すぐにどうこう出来る話でもないしね。

 対策は後で考えるとして、今はオリガミさんからの用件を聞いていきますか。流石にここまで情報を教えてもらって、それでさようならって訳にもいかないしね。

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