第1429話 情報の共有


 『日向の牧地』の上空を進みながら、みんなへこれまでの経緯を説明して……多分、大体は説明し終えた。あくまで何があったかの説明だけだから、情報の整理をするのはこれからだけどさ。


「つまり、eスポーツ勢の無所属への流入は誰かが意図的に起こしているが、それを起こしている奴がインクアイリーか、それ以外の誰かは不明で、その情報を得る為にオリガミさんに会いに行っているのが今の状況って事でいいんだな?」

「そうそう、そういう感じ!」

「それで、そういう流れになるのを期待してたのがギンさんって事か」

「……まぁそうなるなー」

「やっぱり、いいように使われてるじゃねぇか!」

「ですよねー!?」


 もう我ながら、説明しながらそうとしか思えないわ! 間違いなく、ギンの手の平の上で転がされているもんな。


「……正直、そこは悪いとは思ってる。すまんな、ケイ」

「あー、まぁ直球で言ってほしかった気がするけど……それはそれでややこしいもんな」


 シンプルに探ってくれと言われてたとして、今と同じ結果に辿り着いていたかは怪しい……。多分、ギンが敵対してくるという危機感が動く上での重要な要素になってたもんな。そうでなけりゃ、もうちょいのんびりしてた気がする。


「まぁ過ぎた事をどうこう言っても仕方ないが……ギンさん、具体的にどう動く気だ? 作りたてのキャラで出来る事は、相当限られるぞ?」

「そりゃ承知の上だ。だから、表面上はケイと敵対して育てながら探っていこうと思ってたんだが……まぁケイに本命の狙いを悟られたから、プランBに移行した感じだな。聞いてる感じじゃ、元々、好き勝手に動く集団がいるみたいじゃねぇか?」

「……二段構えの作戦だったのか」

「まぁな。臨機応変さも重要だが、それだけで乗り切るってのは本来は無茶だからな。いくつか、パターンの違う作戦くらいは用意するさ」

「……確かに、それはそうだな」

「なんでみんな、そこで俺の方を見てる!? 別に俺だって、完全に無計画で動く訳じゃないんだが!?」


 いつも、最初に作戦は立ててるじゃん! ……まぁそこから外れる事も、土壇場で新しい手段を使ってどうにかする事も結構あるけど、それはそうするしかないだけであって!


「……ケイって、元々こうなのか?」

「あー、具体的にモンエボでどう動いているかは分からんが……土壇場で突拍子もないの手段を使うのは前からだな。流石に、FPSでほぼ銃を使わないまで磨きがかかってるとは思わなかったが……」

「戦法としてはありなんだろうが、そこまで行くとゲーム性の否定が凄まじいな。モンエボでのスキルの自由さが、大きく影響したか?」

「おそらくな。味方であっても、時々ツッコミを入れたくなるし……アルマースさんの反応を見る限り、色々やってそうだが……対人戦なら派手な囮か指揮ってとこか?」

「どっちもだな。やっぱりケイはそういうのが向いてるのか」

「良くも悪くも、目立ちまくる手段を使うからな。俺もよく囮に使われてたもんだ!」

「それでいて、最後のトドメを意外な形で持っていくんだろ?」

「おう、そうなるな! なるほど、場所が変わってもやってる事は同じか!」

「なんか、2人で好き勝手に言い過ぎじゃね!?」


 なんかアルとギンが変な方向で意気投合してる気がする!? 言ってる事も特に間違ってないのも、地味に困るんだけど……。

 くっ、放課後の対戦の件も少なからず今の状況に繋がっているから話はしたけど、もっと情報は絞っておくべきだったか? いや、でもアルとギンが変に警戒し合ってるよりは、今の方がいいのか。……うーん、悩ましい。


「まぁ、ケイをそれだけ知っていて、ケイ自身も警戒する相手が敵に回らなくて済んだのはいいとして……話を戻すぞ」

「……具体的にどうするかだな? ぶっちゃけ、今すぐどうこうは出来ねぇし、俺としても情報が足りてねぇんだよ。分かってるのは、既にモンエボをプレイ済みの誰かが意図的に俺を含むeスポーツをやってる連中に何かをさせようとしてるって事くらいだ。……俺が動く理由は、それが気に入らねぇってのが一番だな」

「気に入らないって部分は俺も賛同だぞ。だから、こうして俺らの知らない方向の情報を持ってるギンを連れてきた訳だしさ」


 そうじゃなけりゃ、今日のこのタイミングで一緒に連れてきてはいない! 正直、オリガミさんと会う時に連れていって大丈夫なのかも怪しいし……。


「まぁ、インクアイリーにしろ、それ以外の誰かにしろ……やり方はあまり好ましくはないな」

「ギンさん、あからさまに利用されると分かった上で乗っかってる人もいるよね? 気付かない人達ばかりじゃない思うんだけど……」

「ヨッシさんの読みは当たりだぜ。うちの部でも、俺みたいの『気に入らない』って側と、逆に『指揮される訓練に役立つ』や『鍛える環境を整えてくれるなら利用しろ』って感じで受け取り方が分かれたからな」

「あ、そういう認識の仕方もありなんだ?」

「……色々と厄介そうな状態かな」


 部活内でも意見が分かれてんの!? あー、利用する意図が明白であっても、『モンエボ』そのものを楽しむ気が皆無なら……ただのトレーニングの一環としか捉えられていないのか。

 正直、そういう層が一番来てほしくないし、そういう集団のに荒らされる状態は相当腹が立つんだが!


「はい! どのくらいの割合で、意見が分かれてますか!?」

「どっちかと言うと、俺が少数派だな。……全員が全員って訳じゃないが、競技化しちまってる事で娯楽って本質を見失ってるヤツもいてな」

「そうなの!?」

「ケイが嫌ってるの、その層だろ?」

「……まぁ否定はしない」


 去年の夏頃にやってたフルダイブでのオンライン初対応のゲームで、eスポーツをやってるっていう強いプレイヤーが『娯楽でやってる奴なんざ、ギルドには必要ない』とか言って、その時に入ってたギルドから追い出された事があるんだよな。元のギルドマスターが交代した途端に、そういう風になった覚えがある。

 あれ、eスポーツの競技指定にされる予定が発表されてすぐの事だっけ? ……追い出されて嫌になって、そのゲームはやめたけど。


「……ケイ、そんな事があったのかな?」

「あったんだよ、それが! というか、今でも一番ヒットしてるオンラインゲームじゃね?」

「……ありゃ、一部の民度が酷いって話だったか」

「そうそう、そういう連中が少なからずいてな? 『競技でやってる自分達が、遊びでやってる奴よりも偉い』って勘違いしてる奴もいるんだよ。ケイのとこの高校のeスポーツ部の部員も、何人かはその手の奴じゃねぇか?」

「あー、だからあの敵意か……」


 相沢さんにはそういう意識がないのは間違いないけど、他の部員からの異常な敵意の要因がそこか! 尚更、うちの高校のeスポーツ部とは仲良く出来そうにないな。

 てか、また普通に声に出ちゃってる!? ……うん、まぁ今更な気もするし、話はちゃんと繋がってるから気にしない方向で!


「だからまぁ、俺としちゃeスポーツ勢が滅茶苦茶にしたなんて事例を作らせたくないってのもあってな? 全面的にフルダイブ方式に移行して、プロ層も入れ替わりが激しくて、色々荒れてんだよ」

「……なるほどな。だから、その状況を利用して動いてる奴の目論見を潰したい訳か」

「そういう事だ、アルマースさん! つっても、今すぐどうこう出来る状態じゃないのは向こうも同じだろうからよ。こっちはこっちで、今の段階から下準備と根回しをしておきたいって感じなんだが……ケイは立場的に意外と適任か?」

「良くも悪くも、それぞれの群集に敵も味方もいるからな。まぁ敵も味方も同じではあるが」

「……悪い、アルマースさん。そりゃ、どういう意味だ?」

「クエストの内容によって、敵にも味方にもなり得るもんでな? ずっと敵対って構図にはならないんだよ」

「……なるほど」


 あ、そうか。三つの派閥に分かれて、状況に応じて敵対や共闘するって要素を取り入れてるゲームはあんまりないもんな。

 常に敵対したままか、派閥があったとしてもそもそも派閥に入るかどうかは任意だったりするしね。


「大型対人戦の競争クエストは、少し前に終わったばかりなのさー! その時に、どこの所属でもない状態で暴れたのがインクアイリーなのです!」

「……へぇ? なるほど、だからどこの所属でもない『無所属』へ誘導してんのか。そのインクアイリーってのが、黒幕な可能性が高そうだな?」

「それがそうとも言い切れないのがややこしいとこで……」

「ケイ、そりゃどういう事だ? さっき名前が出た時もそんな事を言ってたが……」

「インクアイリー自体、そもそもの全体像が不明なんだよ。赤の群集、青の群集、灰の群集、無所属の全てを引っくるめて、垣根なく行動してる集団というか……その人達の繋がりの名称みたいな感じでさ? 当然一枚岩じゃないし、競争クエストで暴れたのはそのごく一部の人なもんで……」

「おいおいおい!? そりゃ、もう組織でもなんでもねぇじゃねぇか!? ……あー、説明しにくい理由が分かったぜ。要は、俺らがeスポーツ勢の一言で括られるのと同じようなもんか」

「あ、その例えはしっくりくるな! そんな感じだ!」


 本当はeスポーツ勢なんて括り方をすべきじゃないんだろうけど、他に適した呼び名が見当たらないからそう呼ぶ感じ! まさしく、インクアイリーの呼び方と同じだ!


「……それ、インクアイリーの中でも暴れてる連中が気に入らねぇって奴がいるんじゃねぇか?」

「いるというか……今、会いに行ってる人がまさしくそういう人だな」

「そういう人のとこに向かってんのか、これ!? チラホラ出てた『オリガミ』って人がそういうタイプだな?」

「そうそう、それで大正解!」


 オリガミさんの説明がまだろくに出来てなかったけど、ようやくそこまで辿り付いた! いやー、もう少しで『日向の牧地』を抜ける場所までに説明出来てよかったね。


<『日向の牧地』から『モロ平野』に移動しました>


 あ、そう考えてたら、エリアの切り替えに――


「おい、待てよ!? どういうエリア名だ、これ!?」

「ふっふっふ! ネタ的なエリア名は時々あるのさー!」

「まぁ名前だけの問題だから、特に実用上は問題ないかな?」

「……そうなのかよ。あー、ケイ? エリア名は最初から決まってんのか?」

「いや、命名クエストってのがあって、運営が用意した4択の中からの選択式だな。参加条件を満たした人での多数決で決まる感じ」

「多数決で決まるのかよ!? ……悪ノリ好きが多いみたいだな」

「まぁ、それは否定しない。そもそも運営が悪ノリして用意してる選択肢だしなー」

「……モンエボの開発なら、そういう仕様もあり得るか」

「そうそう、そういう事!」


 ただでさえ、オフライン版の頃から元々のゲームコンセプトが変わり種なんだしなー。そのパワーアップ版のオンライン版に変な要素があるのは、今更ではある!


「……そういや、『コケの人』とか呼ばれていたな? ありゃ、どういう意味だ?」

「どういう意味も何も、俺のメインがコケだからだけど?」

「……は? ちょっと待て、コケが生えたザリガニかと思ってたが、そっちのコケがメインなのか!?」

「あれ? そこ、気付いてなかった?」

「まさか、コケがプレイアブルな種族だとは思わんわ! ……まったく、変なところで変な風に驚かせてくれるもんだな」

「……そこ、俺の責任なのか?」


 コケのプレイヤーとか、特に珍しい訳でもないんだけど……。それこそ、アイルさんとかも引き当ててきたくらいだしなー。


「あー、いや。今のは悪い。そもそも初期枠はランダムだったしな。ケイの意思で選んだ訳じゃないんだよな?」

「まぁなー。最初は色々と苦労したんだぞ!」

「そうだな。森の中で岩を転がして、大騒ぎになったりもしたからな」

「……何をやってんだ、ケイ?」

「あれがあったからこそ、今があるんだから問題なしって事で!」


 だから、そんな呆れた風な声で言わないでもらいたい! 巻き込んでも大丈夫という雰囲気があそこで出来たのが大きいんだし!


「この様子だと、やらかした事は色々と多そうだな? 『ビックリ情報箱』とか呼ばれたとも言ってたか」

「実際、良くも悪くも色々と目立った行為は多いからな」

「その辺、ちょっと詳しく聞いて――」

「脱線し過ぎだから、それは却下で! 今回の件、あの『カガミモチ』の再来の可能性もあるんだぞ!」

「……おい、待て。ケイ、それは本気で言ってるのか?」

「嘘でこれを言う訳ないだろ、アル!」

「……それもそうだな。ちっ、乱入クエストの件だけかと思ったが、愉快犯が滅茶苦茶にするのを目的にって可能性もあるのか。……相談もなしに、半ば強引に話を進めた理由はそこか?」

「そうなる! だからこそ、オリガミさんに情報を聞きたいんだよ!」

「……確かに、それはした方がいいな」


 黒幕がインクアイリーの誰か、もしくはそこから観測出来る範囲の人ならば、次にあるかもしれない乱入クエストの戦力集めだろう。そうだとしてもやり方は気に入らないけど、まぁこっちもそれ相応の準備を進めればいいだけだ。

 だけど、『カガミモチ』の再来の方なのであれば……早く手を打つ必要がある。可能な限り、早く! 場合によっては運営への報告も含めて!


「あー、その『カガミモチ』ってのは、なんだ?」

「少し前に、セキュリティロックがかかった事件は知ってるかな?」

「サヤさん、いくらなんでもそれを知らない訳がねぇだろ。全国ニュースでやってた、VR関係での大事件だぜ? あぁ、そういえばモンエボもその対象の1つ……って、おい!? まさか――」

「それを引き起こしたのは、モンエボにいた『カガミモチ』ってプレイヤーの可能性が非常に高いかな」

「……おいおい、マジかよ。それの再来って、ヤバくねぇか?」

「……流石にセキュリティロックまではないとは思うけど、人間関係を滅茶苦茶にしようって目的で動いてた奴なんだよ。それが狙いでも、おかしくない状況だろ?」

「……『eスポーツ勢』と『娯楽勢』の対立煽りが狙いの工作か。確かに手段的に無いとは言えねぇな」


 まだ推測に過ぎないけど……その状況に陥るのだけは絶対に避けたい! もう誰かの遊び道具にされてたまるかっての!


「ケイ、それは一番先に言っとけ! ここからは少し飛ばすぞ! 『自己強化』『高速遊泳』!」

「色々と説明しなきゃ、そこまで辿り着けなかったんだって! あー、水流は使う?」

「いや、時間には間に合うだろうから、そこまではいらん」

「ほいよっと」


 ふぅ、なんとか俺の感じている危機感まで伝えられたか。オリガミさんから、この可能性が杞憂に過ぎないと判断出来るだけの情報が得られたらいいんだけどな……。

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