第1427話 迎えに行って
なんだか思わぬ方向に話が進んでいってるけども……とりあえずこれだけは絶対に言っておかないといけないだろう。
「直樹! 俺はシスコンじゃないからな!?」
「……いやいや、そうは言っても説得力はねぇぜ。同じゲームで固定PTを組んで、バイト先も同じとかよ?」
「どれも事情があってだぞ!? そもそも、固定PTを組んだ時には妹だとは知らなかったしな! バイト先は、単純に近所で夏休みに丁度いいタイミングでの募集だったからだからな!」
「……ほう? そりゃまた、苦しい言い訳だな?」
くっ、これは今の固定PTを組むきっかけになった経緯を話すべきか!? 別に隠すような内容でもないし、シスコン疑惑を晴らす為にも――
「あー、言い訳じゃなくて――」
「たっだいまー! みんな、山田さんを連れてきてもいいってー!」
ちょ、タイミング悪いな!? シスコン疑惑を晴らす前に、もう戻ってくる!? てか、みんな、あっさりと許可し過ぎじゃね!?
「おっ、晴香ちゃん、戻るのが早いな! 許可が出たのは助かるぜ!」
「私達の所属は灰の群集なのさー! 兄貴にプレイヤー名を伝えてくれれば、開始エリアまで迎えに行くのです!」
「おう、了解だ。インストールは丁度終わったとこだし……『ケイ』、また後でな!」
「……へいへい」
もうなんかドッと疲れたけど、どっちにしてもサヤやヨッシさんと話す事になれば、必然的にPT結成事の話題にもなるだろ。俺が言うよりは、その方が言い訳と判断されにくくもなるはず!
直樹との通話は切れてたし、これ以上の話はみんなも含めてだなー。その後どうするかは、その時に考えよ。場合によってはオリガミさんの元は連れていくのも……んー、見知らぬ人を連れていって大丈夫かな? あー、でも向こうにも知らない人がいそうな気はするし、お互い様か?
「それじゃ兄貴、エンの前でみんな待ってるからねー!」
「……ほいよっと」
まったく、俺は変なシスコン疑惑を出されているってのに、晴香は気楽だな。……まぁどうしろって話ではあるけどさ。
「とりあえず、ログインしますかね」
ササっと出ていった晴香を待たせる訳にもいかないし、俺もさっさとログインしてしまおう。直樹からはキャラメイクが終われば連絡がくるだろ。……どんな種族を引き当ててくるのやら?
というか、今週末に予選じゃなかったっけ? そのタイミングで、油売ってていいのか……?
◇ ◇ ◇
普段よりもみんなを待たせてしまっている状態なので、いったんとのやり取りは最小限でログイン! ログインした場所は灰のサファリ同盟が魔改造中の、今は掘って出た土の集積場と化している元湖の畔だね。
みんなはエンの近くで待ってるって話だったし、サクッと移動するとして……。
<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します> 行動値 127/127 → 126/126(上限値使用:1)
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅱ』を発動します> 行動値 126/126 → 124/124(上限値使用:3)
とりあえず、視界確保と移動手段の展開完了! さーて、サッサとミズキの元まで飛んで、エンまで転移していきますか!
「ん? おっ、ケイさんか」
「……あ、羅刹? 丁度ログインしたとこか?」
「あぁ、まぁな。これから群集へ戻るかどうかの話をしに行くが……そっちもこれからか?」
「……多分?」
「なんで、そこで不思議そうなんだよ?」
「あー、ちょっと色々と予定外があって……」
うーん、直樹の件は一体どこまでなら話していいんだ? シンプルに、リアル友人が始めたから迎えに行くってだけでもないのがなぁ……。
「……また厄介事が追加にでもなってんのか?」
「あー、厄介事自体は1つ減ったけど、その埋め合わせが必要になったというか……うん、ぶっちゃけよう! そもそも、eスポーツの流入の噂を持ってきたのが俺のリアル知り合いでなー」
「あぁ、何かレナさんが『ケイさんが警戒するほどの相手が、赤の群集か青の群集に入るかも?』って話題にしてたな。厄介事が減ったって話題でそいつが出てくるなら……灰の群集に来る事にでもなったか?」
「……まぁそうなる。って事で、オリガミさんと会う前にそっちと合流ですなー」
「それなら俺と話してる場合じゃねぇだろ。早く行っとけ」
「ですよねー! そういう事だから、また今度って事で!」
「おう! ……ケイさんが警戒する、eスポーツ勢の新規プレイヤーか。面白い事になったじゃねぇか!」
なんか羅刹が直樹を標的にしたような気もするけど、まぁそこは通過儀礼だと思って諦めてくれ! 色々と俺に探らせてたんだし、直樹の対戦相手の確保にも困りはしないだろ!
という事で、羅刹と分かれてミズキの元へと大急ぎで移動開始! この新しい灰のサファリ同盟の本拠地、地下に大々的に広がってるから、上から見ると本拠地感はないんだよなー。
まぁ少なからず森を切り拓いている部分もあるみたいだけど……どちらかというと、レンガとか焼き物を作る為の燃料の確保な気がする。薪の確保の依頼とか、地味に増えてそうな予感がするなー。
「……おっと、きたか」
直樹からのメッセージの通知が届いたから、キャラメイクは終わったっぽいね。えーと、確認だけならログイン中でも出来るから……ふむふむ、プレイヤー名は『ギンノケン』で、場所は草原エリアか。
なんで銀の剣って言いたくなるけど……昔っから『銀の』ってのを名前の頭に付けた上でカタカナにするんだよなー。剣部分はゲームによって違うけど……剣を連想するような種族になったか?
「草原となると、なんだ?」
剣を連想しそうな種族……海ならタチウオだけど、草原だとなんだろ? 細長い種族ってイメージだけど……まさか、ヘビとか言わないよな? 種族を書いてないあたり、直接会うまで教える気もなさそうだけど……俺がヘビが苦手なのは知ってるはず。
フラムと違ってそういう部分で変な事をしないけど……あー、だからこそ種族を書いてないのかも。いや、オフライン版をやった事はあるんだし、進化先をある程度見据えてって可能性もあるのか。
「……急ぐか!」
まぁ根本的に名前が種族の特徴を反映してるとは限らないけど……名前の法則性は以前と変わらずで分かりやすい。俺の『ケイ』を安易だと言ったけど、大概そっちも安易じゃん! また呼び方は『ギン』だろ、これ!
とりあえず、ミズキの元まで辿り着いたし、転移開始! 今が20時を少し過ぎた頃だから、割と21時までの余裕がないんだよな……。
<『五里霧林』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>
おし、森林深部に戻ってきた! みんなはどこだ? アルの姿は目立つし――
「あ、ケイくん、見つけた! ちょっと、今日の放置は酷くない!? 誤解を解くの、すごく大変だったんだけど!」
「……なんでアイルさんと、ここで遭遇する?」
しかもいきなり文句を言われてるし……。どう考えても、あれは相沢……アイルさんの自業自得でしかないと思うし、むしろ俺が文句を言いたいくらいなんだけど!
あ、アルを発見! 上空で……俺の方を見て、サヤが手招きしてますなー。うん、アイルさんの相手は面倒だし、ここはサッと離れよう! 今は特に面倒そうな状態だしね!
「……悪いけど、用事があるからまた今度で!」
「えぇ!? ハーレさんを見つけたから、ここで待ち構えてたのに!?」
「それは知らん!」
てか、待ち構えてたって何やってんの!? 今度こそ、本当にeスポーツ部の顧問の先生に報告して……って、強引に乗ってきた!? ちょ、そこまでするか!?
ちっ、群体塊にして、風の操作辺りで吹き飛んできたっぽいな。でも、この程度ならすぐに叩き落として――
「待って、待って! さっきのは、ちょっと愚痴っただけだから! 本当にちょっと用事があって待ってたんだよ!」
「……その用件は? 本気で用事があるから、無駄な時間だと思ったら即座に叩き落とすけど?」
「モンエボがeスポーツの特訓にいいって噂の件! ケイくんが探ってるって聞いたから、その関係の話!」
「……へぇ?」
どこからどういう風に伝わったのか分からないけど……あれに関する話ねぇ? 無視しようにも、流石に無視出来ない話になってきたような気もするけど……さて、どうしたもんか。
「いるのは気付いてたけど、なんでアイルさんが一緒なのかな? 強引に乗ってきてたし、通報した方が――」
「わー!? 待って、待って!? サヤさん、なんだか声が怖いんだけど、大真面目な話があるだけだから! 決して変な意図はないから!」
人の多いエンの前で、なんでこんな事になってんの!? というか、アイルさんが関わってくると、なんか毎回妙な空気になるよな!?
サヤ、敵意がダダ漏れだから抑えてくれませんかねー!? アイルさんの強引さに腹が立つ気持ちは分かるけども!
「サヤ、やめとけ。変に悪目立ちするぞ?」
「……分かったかな」
「ケイ、とりあえずアイルさんも連れて降りてこい。高度を上げるぞ」
「……ほいよっと」
「助け船をありがとう、アルマースさん!」
アル、ナイス! とりあえずサヤの敵意は引っ込んだし、更に上空へと高度を上げて目立たないようにもしてくれた! ……アイルさんにとって助け船かは知らんけど。
「アイルさん……俺らはこの後、予定があるんだが後回しには出来ない内容か?」
「あ、うん! なんだかeスポーツ関連のサイトや掲示板に、とあるサイトが広められてるんだって!」
「……それ、『eスポーツの効率的な鍛え方』ってやつ?」
「そう、それ! ……って、あれ? もう既に知ってた?」
「別口からなー。よし、用件がそれだけなら、もう終わったな。はい、降りた、降りた」
「わー!? 夕方の件、流石に色々と悪かったかなーって思ったから、お詫びのつもりで情報を持ってきたのにー!? わわっ!? え、本当に突き落とすの!?」
「本当に用事があるし、そっちに着いてこられても困るんでなー」
「ぎゃー!? 本当に落としたー!?」
ポンと押せばアイルさんが落ちていったけど、まぁ死にはしないから大丈夫だろ。それに、俺の水のカーペットに乗ってきたんだから、飛行手段も持ってるだろうしね。
「アル、今のうちに草原へ! 事情は聞いてるよな!?」
「……まったく、合流早々に慌ただしいが、了解だ!」
「草原へ迎えに行くのさー!」
「あ、初期エリア、草原なんだね?」
「……どんな人なのかな?」
直樹……いや、『ギン』を迎えに草原エリアへ出発! 開始地点の座標はしっかりと送られてきてるし、プレイヤー名も分かってるから、そこまで手間取る事もないだろ。
流石に直樹を迎えに行くのに、アイルさんを連れていくのは色々と面倒ではあるし……突き落とすのは乱暴過ぎた気もするけど、強引だったのはお互い様って事で!
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『始まりの草原・灰の群集・エリア3』に移動しました>
さて、草原エリアへと転移してきたね。メッセージで送られてきた座標は……あぁ、割とこの近くだな。
「ケイ、どの方向だ?」
「座標的には、ここから少し南だけど……」
って、あれ? なんか人だかりが出来てるんだけど、一体何事?
「……これがこうして、こうか! ふむふむ、操作精度はオフライン版より向上してんな。いや、俺の感覚が前と違うからか? 確かに、こりゃ悪くねぇな」
……あー、なるほど。『ギンノケン』って、『銀の剣』じゃなくて『銀の拳』か。シャドーボクシングをしてるカンガルーの名前が、『ギンノケン』になってますなー。
「へぇ? いい動きをしてる新規さんだな?」
「……夕方くらいから話題になってる、eスポーツ勢じゃねぇの?」
「ん? それ、何の話?」
「どっかの誰かが、モンエボが特訓場所にいいって大々的に喧伝してんだってよ」
「あ、それ聞いた! インクアイリーが裏で糸を引いてるんじゃないかって話だよね!」
「無所属に人を集める手段としてって話だったよな」
「……って事は、実力がありそうでもすぐに群集を離脱か? ……遊んでる中を引っ掻き回されるのは、正直気分よくねぇな」
「だよなー。金払って遊んでるのに、一緒にやる気なしってのは流石に……」
「待て! 筋が良い新規さんが全てそうだとは限らないであろう! なぁ、疾風の!」
「そうだぜ! もし普通に楽しみに来てる新規さんなら、失礼な言い草だぞ! なぁ、迅雷の!」
「……それもそうか」
「風雷コンビに言われると釈然としない部分はあるけど……確かにそうだよな」
「すまん、今のは悪かった!」
「いやいや、気にすんなって! 向き合い方が違うってのを利用されて、引っ掻き回されるってのが不快なのは分かるしよ!」
なんか既に人を集めてる状態になってるし、風雷コンビまで混ざってるじゃん!? いやまぁ草原エリアは、風雷コンビのホームだけどさー。
「おっ、来たな、『ケイ』! へぇ、オンライン版だとクジラが空を飛ぶのか! それに……単独じゃねぇってのも、色々面白そうじゃねぇか」
「新要素、色々多いからなー。ところで、今更なんだけど……『ギン』はこんなとこで油を売ってていいのか?」
「気分的にモヤモヤを抱えてる方が、パフォーマンスに悪影響が出るんでな? とりあえず気が晴れる程度には、調べさせてくれや」
「……へいへいっと。えーと、PTメンバーの紹介は後でするとして……とりあえず離れるか。アル、乗せてやってくれ!」
「おうよ。『根の操作』!」
「……へぇ? 背負った木でそういう芸当も出来るのか」
さーて、直……ギンの回収は済ませたし、とりあえず移動だな!
「アル、とりあえず昨日行った『湖中の蛍林』に向かってくれ! 色んな詳細は、移動しながら話す!」
「……山ほど聞く事はあるし、順番に聞かせてもらうぞ」
「もちろん、そのつもり!」
という事で、まずはここの西の『日向の牧地』へ向かわないとなー。ギンが通れないだろうから、移動妨害のボスの討伐も必須か。
「グリーズ・リベルテの知り合いのようだな? なぁ、疾風の?」
「特にケイさんと縁があるっぽい感じだな? なぁ、迅雷の?」
「コケの人の知り合い!?」
「……え、ガチで戦力で期待出来る人か!?」
「コケの人が警戒してるって……他の群集に入るって話じゃなかった?」
「そう聞いたけど……あれ?」
「なんか、聞き間違えたかな?」
レナさん、どこまで話を広げてるんですかねー!? いやまぁ俺が他の群集に入りそうで警戒してる相手がいるって情報、気になる理由は分かるけども! ……実情、全くの別な状態になっちゃったもんなー。
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