第1426話 噂の出所
とりあえず晩飯の時間という事で、一旦ログアウトしてきた。いったんの胴体部分には特に変化もなかったし、スクショは後回しにしてきたけど……。
「……噂の出所、直樹に聞いとくか」
eスポーツ勢の流入の元になっている噂の情報収集は、モンエボ内ではオリガミさんと接触するまで進展はないだろう。でも、別方向からのアプローチは可能!
という事で、直樹に『モンエボがeスポーツの特訓になるって噂、どこで聞いたんだ?』と直球にメッセージを送って……って、もう返事が来た!? おいおい、いくらなんでも早過ぎない!?
「……ん? URL?」
どこかのサイトに載ってたって感じか? てか、文章なしで、URLだけ送ってくるなよ!? あ、追加のメッセージが来た。えーと……。
「あ、URLだけは誤送信だったのか。へぇ、個人サイトで特訓方法の手順を公開……ねぇ?」
そのサイトのURLがこれらしいけど……正直、胡散臭い。まさか、噂どころか、具体的な手順をまとめたサイトがあるとは思わなかったぞ!
「兄貴、ちょっといい?」
「ん? どうした、晴香?」
「聞きたい事があるんだけど……」
「……何を妙に言い淀んでるんだ?」
普段はこれでもかってくらいに遠慮なく色々言ってくるのに……そんなに聞きにくい内容なのか? 晩飯よりも優先してくるような内容でもある……?
「……兄貴って、なんでそんなに今回のeスポーツ勢の事を気にしてるの?」
「……はい? なんでって、そりゃ……」
ん? あれ、なんでだ? 直樹の件があったにしても、それはもうなるようにしかならないと納得したはず。それ以上の追求は……必要あるか?
「……なんでだろうな?」
「兄貴自身、分かってないの!?」
「今、晴香に言われて思ったとこだしな……」
「そうなの!?」
うーん、改めて気にする理由を考えてみても……なんかしっくりくる理由が思いつかないな? ただ単純に気になっただけでもいいんだろうけど、こうして聞かれてみると自分でも、自分の動機が妙に気になってくる。
「少し考えてみるから、後でもいいか?」
「うん、それでいいよー! 多分、アルさんを説得するのに理由はいると思うのです!」
「あー、それはそうか」
オリガミさんが変な人とは思えないけど、謎な部分も多い状態で、向こうの用件が分からないまま出向かないといけないんだ。場合によっては、アルに反対される可能性は考えられるよな。
俺が明確に気にしてる理由を説明すれば、まぁ駄目だとは言わないだろうけど……そこが不明瞭では、そもそも行く理由自体がどこかに消えそうだしね。
「そういや、それを聞くのを躊躇ってたのはなんでだ?」
「なんか兄貴が、不機嫌な感じがしたのです……」
「……不機嫌ねぇ?」
そんなつもりは欠片もなかったんだけど、晴香からはそう見えてたのか。うーん、不機嫌になる要因って……あー、割とあるな。そもそもその噂が発端になって、今日の放課後のあれこれが発生してた訳で……。
「……そんな風に見えてた?」
「見えてたのさー! あと、そもそも探り当ててどうするのかなーって? 潰しに動くんですか?」
「あー、それも全然考えてなかったかも……」
うーん、我ながら今回の目的とする着地点が見えないな? 色々と探りを入れて、具体的にどうしたいんだ? 次に対人戦がある期間がいつかも分からないのに――
「圭ちゃん、晴ちゃん、晩御飯よー!」
「はーい! 兄貴、話は後なのさー! 今は晩御飯なのです!」
「……へいへいっと」
晩飯より先に話をしに来たのは晴香の方だけど……まぁそこはいいか。とりあえず、ちょっと大真面目に何が引っ掛かってるのかを考えてみますかね。
◇ ◇ ◇
晩飯のエビフライを食べ終えて、食器洗い中。晴香は今日は待っているという事で、リビングのソファで待機中。というか、父さんと一緒に旅行の日程と、途中で買えそうなお土産を物色してるな。
うーん、晩飯を食べながら色々と気にしてる理由を考えているけど……どうにもしっくりくる理由が思い当たらない。直樹が敵対してくる原因……ではないよな。噂がきっかけでオンライン版のモンエボに興味を持ったのは間違いないんだろうけど、そこから先の理由はおそらく全く関係ない。
eスポーツ部の面々と戦わされてのは……どっちかというと相沢さんのせいだしなー。この理由で気にするのはお門違いにも程がある。
「圭ちゃん、どうしたの? 何か悩んでる風だけど」
「……んー、なんて説明したらいいんだろ? ちょっと気になってる事があるんだけど、その理由がいまいち分からなくてさ……」
「……それは具体的に、どういう悩みなの?」
ん? なんか母さんの声が急に真剣な様子になったんだけど、なんで!? 悩みといっても、そんな大層なもんじゃないぞ!?
「圭ちゃん、無意識のうちにトラウマになってる事もあるのよ? もし、中学の頃の件で――」
「待った、待った!? 母さん、それ、何の話!? 今の、ゲームの中での話だから!」
「あら、そうなの? でも、それでも同じよ? 自分で気付いてない時は、無意識に抑え込んじゃってる事があるからね」
「いやいや、そんな大袈裟なもんじゃないって……」
そもそも中学の頃の件って……あー、あのトラウマの大量生産の件か? 1年下の晴香も話自体は知ってたし、時々母親ネットワークの恐ろしさを実感するくらいだから、あれも知られててもおかしくはないよな。
「……直接自分がされなかったからって、傷付かない訳じゃないからね?」
「へいへいっと。……その件はもう済んだ事だし、特に悩んでるって訳じゃないしさ」
あの件は俺としても嫌な記憶としては認識してるけど……母さんも大袈裟だな。というか、今悩んでた事とは全然関係……ん? 自分がされた訳じゃないけど、嫌な事には違いない? あっ、そういう事か!
「……そうか、そういう理由で苛立ってるのかも?」
「圭ちゃん?」
「あー、なんか違う話だけど、理由は分かったかも。サンキュー、母さん! 晴香、行くぞ!」
「はーい!」
丁度、食器も洗い終わったし、自分の中でモヤモヤしていた感情の正体も掴んだ。まぁぶっちゃけ、相手次第なのは変わらないけど……動く理由としては十分だ!
「……自覚してないのは、厄介ね」
なんか母さんの心配そうな小さな声が聞こえたけど……自覚してないって何が? そりゃ中学の件ではトラウマが大量生産されてたのは見たけど、俺は標的にされてないし……それをトラウマと言うのは違うだろ。俺がその程度でトラウマなんて言ったら、標的にされて遊び道具にされた連中はどうなるんだ……。
えぇい、この話はもういい! まぁある意味では、その件を今回の騒動を重ねて見てしまってるのが原因っぽいしな。……どこか、悪意を感じるんだよ、この件は!
◇ ◇ ◇
台所から離れて、俺の部屋へと移動完了。いつもは先にログインしている晴香も一緒に着いてきているし、先に理由をはっきりさせとこうか。
「兄貴、何か分かった?」
「まぁなー。あれだ。俺は、見えないとこからモンエボをやってる人達を遊び道具にしようとしてるのが気に入らないっぽい。あと、『カガミモチ』の再来を警戒してる感じだな」
「えっ!? あの邪悪なスライム!? どういう事ですか!?」
「……まぁいくらなんでも、あの張本人ではないだろうけど、同種の愉快犯への警戒だな。ほれ、直樹から噂の出所を聞いたから、これを見れば何か分かるだろ」
「『eスポーツの効率的な鍛え方』? え、これが噂の出所なの!?」
「まだ中は見てないけどなー」
「噂というか、もう直球な気がします……」
さっきのサイトのURLをサラッと晴香に渡したけど……変なウィルスとかあったりしない? いや、昔のパソコンじゃないんだし、今のホームサーバーやVR機器のセキュリティを破ってこれるのは早々ないか。
俺もまだ内容は見てないから軽く眺めて……うっわ、ザッと流し見ただけでも、群集での所属のデメリットや、『仲間の呼び声』での味方との合流の仕方、無所属への移り方なんかの手順が記されてるっぽい。これ、噂なんて範囲じゃないじゃん!?
「ん? 追加で直樹からメッセージが届いた?」
「どういう内容ですか!?」
「今読むから、ちょい待った。あー、直樹も飯を食ってて、中途半端な情報までしか送れてなくて、追加情報を送ってきたのか。えーと……前々から噂だけはあったけど、このサイトが急激に広がったのは……昨日? あちこちの掲示板で拡散された?」
「なんか一気に胡散臭さが増したのさー!?」
「……だな。あー、それで実態を確認したくて、今日の俺を巻き込む状態になったのか」
それならそうと、最初から理由を言ってくれれば……って、変に先入観を持たせない為に伏せたな!? これ、直樹自身が胡散臭さを感じてるからこそ、俺の所属も聞いてきてた?
えぇい、もう面倒くさい! こうなりゃ本人に通話だ、通話! 晴香も参加出来るように、スピーカーモードでだ!
「おう、どうしたよ、圭吾? 所属、教えてくれる気になったか?」
「それどころじゃねぇよ! 色々と噂の出所を探ってみてたら、これ、胡散臭いにも程があるわ!」
「おぉ!? いきなり通話!?」
「わっはっは、そりゃそうだろうな! 晴香ちゃんもいるのか。おし、その感じじゃ圭吾を巻き込んだ甲斐はあったっぽいか」
「……怒っていい?」
「悪い、悪い! で、圭吾は絶対に無視出来ねぇと踏んでたんだが……実際、どうよ?」
「この見え隠れしてる悪意を探らせるのを狙ってたな!? まぁ何か事情を知ってる可能性がある人とは会う約束は出来たけど……てか、なんで無視出来ないって思った?」
「そりゃ単純な話だぜ? 圭吾が自分の居場所へ無遠慮に踏み込まれるのも、身近な相手が遊び道具にされるのも大嫌いだからだ。……違うか?」
「…………」
否定してしまいたいけど、それは否定出来ない事も自分で分かってる。……そもそも、そういう部分があるからインクアイリーの存在が発覚する前に見え隠れしていた動きを潰そうとしてたんだしさ……。
今回はそれがリアルでの動きとも連動しているのが分かって、無意識のうちにあの『カガミモチ』すら連想して……過剰な警戒状態になってたっぽいんだよな。
理由にすれば凄く単純。この『悪意らしきものが見え隠れするやり方をする奴が気に入らない』って、ただそれだけ。
まだ悪意と決まった訳じゃないけど、何かしら明確な目的があるのは確実だ。それも、俺らにとっては明確な敵になる可能性の方が高い内容で。
「……直樹の狙いはなんだ? 俺と敵対するってのは、探らせる為の方便だろ?」
「まぁ実際に敵対するのもありなんだが……騙したような形にはなったし、ここは直球でいくか。……俺としてもちょっとこの件のやり口が気に入らなくてな。これ、eスポーツをやってる俺みたいなのを、何かの手駒として集めようとしてんだろ?」
なるほど、その部分の見解は一致してるのか。オンライン版でモンエボをやってない直樹には『乱入クエスト』の事までは分からないだろうけど、推測出来るだけの材料は揃っていますよねー!
「……多分だけどな。利用されるのが嫌って割には、俺を利用してない?」
「わっはっは! そこを言われると痛いが、まぁ否定は出来ねぇな!」
「なんか笑い話にはならない状況になってる気がするのさー!?」
「……でだ、まぁ都合よく利用されるのは気に入らねぇって事で、その策をぶっ潰す側に回ろうかと思ってよ。モンエボでの特訓の有用性そのものはこの目で確認したし、特訓相手には事欠かなさそうだろ」
「……なるほど。あっ……俺の敵だと思わせて、実は味方の群集でこっそり育てる気だったな!? 目的が策を潰す事なら、俺と敵対するメリットがないし!」
「おう、それで正解だ! ……もう少し隠しとくつもりだったが、相変わらず情報が揃えば察しが早いな」
「……はぁ、なんつー無駄な警戒を……」
「兄貴、ドンマイなのです!」
くっそ、直樹の手の上で思いっきり踊らされてんじゃん! まぁ知ってる相手だし、仲が良かったから別に嫌とも思わないけど……赤の他人にこういう事をされると腹が立つよなー。
とはいえ、少なくともややこしい状態になりつつある状況で、直樹が敵に回るのは警戒しなくてよくなったか。でも、流石にこのまま終わりってのも癪だから……。
「……アルバイトが始まったら、何か奢れ! それで水に流してやる!」
「それぐらいならお安いもんだな! それで……ぶっ潰すのは手伝ってもらえるのか?」
「多分、何がどう動いても、この元凶とはほぼ間違いなく敵対するだろうし……まぁ結果的にはそうなるだろうなー。どっちかというと、直樹が戦力になるだけ育成が進むかどうかが問題なんだけど?」
「……そりゃまぁ違いねぇな。今から育成してトップ層に追いつけるもんか?」
「あー、大型アップデートが来週にあるから、それに関連して始まるイベント次第? でもなぁ……」
そこで2回目の共闘イベントでもきたら、おそらく大量の進化ポイントは手に入るはず。完全に追い付かれたら俺らとしては微妙な心境にもなるし、そう容易ではないだろうけど……。
「完全に追いつくのは無理でも、渡り合うくらいにはなれそうってか?」
「……そういう見込みがなきゃ、そもそも今回の件で大勢を外から引き入れようとはしないだろ」
「わっはっは! そりゃ違いねぇ! ばら撒いたエサ、存分に利用して、目論見を潰してやる。……本気でやってんのを、ただの駒としては扱わせねぇよ」
あ、直樹も結構キレてるな。そっか、真面目に競技としてやってる身としては、こういう利用のされ方って腹も立つのか。……利用されてるのを承知で鍛える事を重視してる人もいそうだけど、その辺は人それぞれなのかもね。
「はい! 山田さんは、今日、この後は空いてますか!?」
「ん? 空いちゃいるが……ほう? 早速、これから動くのか?」
「……いや、それは気が早くね? てか、みんなに聞かないと決められないだろ!?」
「それなら、ちょっと聞いてくるのさー!」
「ちょ!? あー、行っちまった」
「みんな……ねぇ? 圭吾、固定PTでも組んでんのか? 今の感じだと、晴香ちゃんもその一員だよな?」
「まぁそうなる。だから、変に即答は出来な――」
「……なるほど、圭吾はシスコンか。そうか。あの件で、そっち方面に――」
「おいこら、待て!? どういう納得の仕方をしやがった!?」
あの件って……どう考えても中学の時のあの件だよな!? 母さんといい、直樹といい、変に今の状況に対して引き合いに出し過ぎじゃね!?
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