第1425話 読めない動き


 まさか、インクアイリーを討伐しようという動きが無所属内であったとは思わなかったけど……利用されかけたんだから、そういう反発が出ていても不思議ではないのか。

 とはいえ、詳細をもっと聞いてみないと分からないな。それがeスポーツ勢を流入させている人に繋がる理由も……。まぁ羅刹が何もかもを知ってる訳じゃなさそうだけど、それでも俺らよりは事情を知ってそうだしね。


「一口に無所属と言っても、色々といるのは分かってるよな?」

「まぁなー。羅刹やイブキみたいに目的があって自発的に離れた人とか、群集が合わなくて出ていった人とか……色んな騒動が原因で抜けていった人とか、まぁそんな感じか」

「大別するなら、まぁそんなもんだな」


 騒動の中でも、加害者側か被害者側で分かれはするだろうけど……まぁそこは今は考えるべき部分じゃない。

 おそらくこの件で該当するのは、群集が合わなくて出ていった人か。目的があって出ていった人とは、利害関係はそう重ならない気がするんだよな。


「その中で、群集が合わなかった奴らが中心での話だな。根本的に群れるのを嫌うプレイヤー層だから、俺らの溜まり場にもあまり顔を出さないんだが……」

「はい! そういう人達って、インクアイリーの動きは無視しそうな気もします!」

「……普通にしてりゃ、まぁそうだろうよ。ただ、ここに『乱入クエスト』って要素があったもんだから、話が違ってきてな?」

「……というと?」

「群集が好きじゃねぇって奴らだぜ? それで、群集に干渉されずに好き勝手に出来る場所が作れるってなれば……どうなると思う?」

「あー、奪い取りにくるか!」

「そういうこった。だが、実際には……インクアイリーがその主導権を握って、大暴れした訳だ。実態はもっと巨大で全容が掴めない規模だが、仮にも赤の群集にいた共同体の名前でだ。しかも、そいつらが無所属の傭兵や傭兵になってない奴も含めて、『乱入クエスト』の攻略を煽ってだぞ?」

「……気に入らないって思っても、当然ではあるのか」

「ま、俺の憶測もかなりあるがな。そんでもって、あいつらは個々人であって、集団じゃねぇ。一枚岩ではないとはいえ、仮にも集団であるインクアイリーには対抗し切れねぇ」

「……まぁそれも当然な事ではあるよな」


 突出した強さを持つ人の存在も大きいけども、それでも数の暴力というのは脅威になるのは間違いない。それはアイルさんが、霧の森での競争クエストで実際にやってのけたんだしさ。


「でも、その人達って集団行動は苦手なんじゃないですか!?」

「ハーレ、それは誤解だよ? 『好きじゃない』のと『出来ない』のは別物だからね」

「はっ!? それは確かにそうなのさー!?」


 ラックさんの言うように、出来ないのではなく、面倒だからやらないという人は存在してもおかしくない。

 というか、そのパターンに思い当たる人がいるんだけど……いやいや、あの人は流石に黒幕ではないだろ。確かに競争クエストで暴れたインクアイリーと敵対するのが目的で傭兵に来てたけど――

 

「インクアイリーの中にその手の人がいるとは聞いたな。霧の森での競争クエストで、ケイさん達と終盤で一緒にいた『オリガミ』さんだったか?」

「えっ!? もしかして、オリガミさんがインクアイリーを潰そうと――」

「いやいや、ハーレさん、それはない。オリガミさん自身が、インクアイリーのメンバーって言ってただろ?」

「……そういえば、そうなのです?」


 一応の否定はしたけど……インクアイリーが一枚岩ではないってのも、オリガミさんの存在で判明してる部分だしな。流石に度が過ぎた行為を止める為に、別の戦力を集めようとしているって可能性も――


「ケイさん、待て。別に、そのオリガミさんが黒幕って話じゃねぇよ。そういうタイプの人が裏にいるんじゃねぇかって可能性の話だ」

「それ、オリガミさんが動いている以上に厄介な気がします!?」

「……ま、それはそうだろうな」

「だよなぁ……」


 やる気になれば指揮は出来て、集団もまとめ上げられるけど、ただ面倒だから群集を離れて細々とやってるって人が、インクアイリーを潰す為に大々的に動き出したって事になるもんな。それだけの反感を買っているという事実があるなら……うん、どう考えてもやばい。

 そもそもの話、そういう人が動き出す事そのものが稀有な……って、オリガミさんも思いっきりインクアイリーを止めに傭兵に来てたんだった!? なるほど……前例があるから、否定し切れない可能性なのか。


「ただまぁ、これはオリガミさんの存在を知ったのと、eスポーツ勢を意図的に流入させてる可能性を含めた上での推測に過ぎんからな。インクアイリー討伐自体、単純に頓挫してる可能性も十分ある」

「まぁ確証も何もない話か……」

「推測だけなのです!?」


 色んな可能性を考慮する必要はあるけど、あんまりその可能性に振り回されるのもなー。もう少し情報を確定させないと、これ以上は混乱するだけかも?


「……いっそ、オリガミさんに聞いてみるか?」

「賛成なのさー! もうその方が早い気がします!」

「そりゃいいが……連絡する手段はあるのか? 俺はフレンド登録はしてねぇぞ?」

「……俺もしてないなー。ラックさん、灰のサファリ同盟から連絡は取れたりしない?」

「うーん、どうだろ? 元々、レナさんですら存在を把握してなかった人だし……伝手となれば、マルイさん達くらいかな? 一応、マルイさんに声はかけてみるけど……相手にされない可能性はあるよ?」

「あー、まぁダメ元でいいから、やるだけ頼む!」

「まぁそれでいいなら、ダメ元で伝言は頼んでみるよ。ケイさん達がオリガミさんと話がしたいって言ってるって内容でいい?」

「それで頼んだ!」

「うん、それじゃちょっと連絡してくるね。あ、マルイさん、今ちょっといい?」


 オリガミさんと数少ない接点を持っていたのは、灰の群集の傭兵に承認したマルイさん達だよな。レナさんも知り合いだったみたいだから、連絡する伝手はありそうだけど……まぁ相手にしてくれるかどうかは別問題か。


「……てか、あちこちで色んな人が隠れ過ぎじゃね?」

「ケイさん……今更、何言ってんだ? 実力はあっても面倒事を避けようって連中は、いくらでもいるぜ? 赤のサファリ同盟なんざ、最初に引っ張り出されちゃいるが、その最たる例じゃねぇか」

「……ですよねー」


 色々と隠れ切れなくなってきたり、隠れるのを止める理由が出来たり……そういう人達が見えるようになってきただけの話か。eスポーツ勢の流入が、それを表面化させる一因になったんだろうなー。


「なんというか、調べれば調べるほど、全体像が分からなくなってる気がするのさー!?」

「……俺もちょっと混乱してきた」


 ちょっと整理して考えよう、まず無所属に他と交流をしない集団が増えてきてるって話から、そうなるように噂を流している誰かの存在を推察した。


 その狙いが『乱入クエスト』の人員強化を狙っている誰かで、その疑惑の対象として『インクアイリー』を挙げた。まぁそれだけだけ憶測に過ぎないから他の心当たりを羅刹に聞いてみたら、本当にそれっぽい候補が出てきたんだよな。


 それでいて、全てが推測でしかないから、結局は実態が掴めないまま。……うん、推測に推測を重ねまくってて、何にも確定情報は得られてないじゃん! 最初の無所属の集団自体、eスポーツ勢の流入で確定でいいのかさえ怪しいわ!


「案外、1つの集団の仕業じゃなかったりするんじゃねぇか?」

「……そこで、更にややこしい情報を追加してくる?」

「可能性の話なら、ぶっちゃけなんでもありだろ」

「まぁそりゃそうだけどさー。複数の集団が絡んでる可能性ねぇ?」


 状況的に考えるなら、オリガミさん相当の人が、複数人で動いている……? いや、もっとシンプルに考えるなら、インクアイリーと、インクアイリーを潰したい人が対立していて、そのどちらもが駒として人を引き入れているとか?

 他に可能性としては……あー、リアルで知り合いで、ゲーム内で競おうとしてるって可能性もあるのか! それこそ、直樹が俺に対して敵対宣言をしてきた事や、彼岸花系の三人衆みたいにシュウさん達の勝ち逃げを許さずに追いかけてきたみたいな関係性?


「だー! 外からじゃ決定的な事は何も分からん!」

「ま、少なくとも何か変化が起きてるのだけは間違いないんだろうがな」

「だよなー」


 だからこそ、羅刹に妙な負担が増えて、群集に戻ってこようかという迷いが生じてるんだろうしさ。……本当、どこにどんな人が隠れているか分かったもんじゃないわ!


「うん、分かった。それじゃそう伝えておくね。うん、マルイさん、ありがと。はーい、それじゃまた!」


 おっと、ラックさんのフレンドコールが終わったみたいだな。さて、マルイさんへオリガミさんへの伝言自体は頼めたかな?


「ラック、どうだったー!?」

「えっと……単刀直入に言っちゃうね? オリガミさんがすぐ近くにいて、今日の二十一時くらいなら時間を作ってくれるって。会う気があるなら、指定場所まで来てくれってさ」

「おぉ!? それはいい結果なのさー!」

「……相手にされない可能性も考えてたんだけど、それはちょっと意外な結果だな?」

「あはは、多分普段ならそうだったんだろうね。でも、オリガミさんの方からもケイさん達に少し用事があったみたいだよ?」

「……はい? え、俺らにどういう用事?」

「内容までは聞いてないから、私には分からないよ。でも、色々と探ってるのは無関係とも思えないかも?」

「……そりゃそうか」


 インクアイリーの情報網は、どこでどういう風に繋がってるかは不明だもんなー。俺らがこうしてeスポーツ勢の流入の件を調べているのを察知された可能性は……否定出来ないね。


「ケイさん、ケイさん! オリガミさんの用事はなんだと思いますか!?」

「……情報の提供はありそうだけど、それだけとも思えないな。何かの手伝いか、もしくは俺らと引き合わせたい誰かがいる……とか?」

「そんな人がいるの!?」

「……いや、適当にありそうな事を言ってみただけだけどな?」

「そうなの!?」

「ぶっちゃけ、オリガミさんの用は全く分からん!」

「言い切ったのさー!?」


 いや、本当に俺らへの用事って何さ? 灰の群集へ何か伝えたいのであれば、別に俺らである必要は皆無だよな。それこそ、マルイさん達を通じて、灰のサファリ同盟やレナさんに情報を伝えてもらえばいいはず。

 そうしないのは、俺ら自身にピンポイントで何かしらの用事があるって事なんだろうけど……下手に探りを入れるなって警告か? いや、そういう事をするタイプだとも思えないしなー。


「……まぁオリガミさんと直接会ってみれば、理由は分かるか。ラックさん、俺らはどこに行けばいいんだ?」

「えっと、湖中の蛍林の手前にある滝って分かる? ……というか、今日、ハーレが行ったって言ってた場所だね?」

「あそこなの!? 滝の裏に、何か隠してる場所があったのは見つけたよ!?」

「……あそこの滝の裏に、そんな場所があったか?」

「こう、岩の操作で隠したような洞窟らしきものがあったのさー!」

「……ほう? どこかの誰かが隠れ家を作ってるのか」

「まさかの、あそこかー」


 昨日行ったばかりの場所が待ち合わせ場所として指定されるとは思わなかった。……いや、待てよ。これってただの偶然と考えるよりは、昨日あの場所を見つけたからこその話か?


 インクアイリー自体がどこまでの範囲を示すのか、メンバーのオリガミさんですら分からないって言ってたもんな。もし、あのハーレさんが目撃したコイの群れが繋がっているとすれば……オリガミさんからの用件はそこか? 具体的な内容は分からないけど、可能性はあるし……一応、これは聞いておくか。


「ラックさん、その場所で活動してる人達の心当たりってある?」

「んー、ハーレから聞いた限りだと、料理を色々やってる集団の隠れ家っぽい感じはするけど……ごめん、正確な情報は何も知らないや。もしかすると、あの料理集団自体がインクアイリーの一部で、その隠れ家なのかも?」

「やっぱりそんな感じか……」

「あとは行ってみてから考えるのさー! 多分、みんな駄目とは言わないのです!」

「だろうなー。まさか2日連続で、同じ場所に向かう事になるとも思ってなかったけどさ……」


 こういう流れになるなら、あの近くに転移の種の登録をしとくんだったよ。……いくらなんでも流石に予期出来ない状況だし、言っても仕方ないけどさ。


「ケイさん、気を付けろよ? イブキじゃねぇが、いきなり襲い掛かってくる無所属の奴もいるからな。そういう狙われ方、されてもおかしくねぇぜ?」

「……気を付けとく」


 オリガミさんがそういう意図で呼び出してくるとも思えないけど……オリガミさんとの戦闘を普段から狙ってる人もいるとか言ってたもんなー。どさくさ紛れにそういう人から襲われかねないのは、否定出来ない!


「あっ、羅刹! 悪い、これじゃ今日中に対戦が出来るかどうかが怪しく――」

「別に俺は急がねぇから、構わねぇよ。俺は俺で、夜にやる事も増えてるしな」

「ですよねー」


 羅刹は羅刹で、群集に戻る話が進む可能性もあるんだからな。対戦は無理に今日しなくてもいいか。

 てか、そうしている間にもう少しで19時になりそうだね。明確な事は何も分からなかったけど、オリガミさんと会う約束が出来たのは進展か。多分、俺らよりも今の状況は知ってるはずだろうし……。


「……とりあえず時間も時間だし、晩飯を食ってくるか」

「お腹空いたのさー!」

「あ、もうこんな時間なんだ!? 私も晩御飯だよ!?」

「俺もそろそろ晩飯にするか」


 とりあえず時間も時間だから、一旦ログアウトだな。夜からの事がみんなが揃ってから話し合って、実際に行くかどうかを決めますかねー。

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