第1424話 誰かの思惑
ハーレさんとラックさん、それ以外にも何人かいる様子が見える穴が開けられた、実況席になりそうな空間。ハーレさんが思いっきり手を振ってるし、見渡すには丁度よさそうな場所だよな。
「ケイさん、行ってこいよ。俺と話す内容は、大体終わったろ?」
「……まぁ確かに。あ、さっきの話の結論がどうあれ、対戦はするつもりでいいのか?」
「おう、それとこれとは話が別だしな。ただまぁ、状況次第ではこっちの予定が埋まる可能性もあるが……」
「あー、それもそうか」
トントン拍子に話が纏まれば、それこそすぐに移籍しようって流れになってもおかしくはないもんな。もしそうなった場合、俺と模擬戦をやってる場合でもなくなるか。
「夜に一度フレンドコールをするから、その時にどうするかを考えるのでいい?」
「おう、それで問題ねぇぜ!」
「それじゃ、そういう流れで! また夜に!」
「了解だ!」
羅刹と縁がある無所属勢がどういう流れになるか次第だけど……まぁそれはなるようにしかならないな。上手くいけば、癖は強くても強力なメンバーの追加になりそうだしさ。
これ以上は成り行きに任せるとして……とりあえず俺は、ハーレさんのいる場所へと飛んでいく! 外から見た感じでは横長な穴が空いてるけど、中はどういう風になってるんだろうね?
「ケイさん! なんかチラホラと、羅刹さんへかなり凄い事を言ってなかったですか!?」
「え、ハーレ? なんだかソワソワしてたけど、羅刹さんとケイさんで何かあったの?」
「断片的にしか聞こえてないけど、羅刹さんに『群集に戻ってこないか』って誘ってたのさー!?」
「あ、悩んでたのは知ってたけど、ケイさん、直球で言っちゃったんだ?」
「……まぁそうなるなー」
ふむふむ、羅刹は既にラックさん……というか、灰のサファリ同盟には現状を伝えてはいたのか。ただ、それは決定打にはなっていなかったぽい?
「……あれ? ラックは知ってたの?」
「あ、うん。無所属って今、色々と変化してるみたいだからさ。ほら、ハーレが伝えてくれたeスポーツ勢の流入も、正体こそ分かってなかったけど、少し前から変に影響は出てたんだよね」
「それ、レナさんも言ってたヤツなのさー!」
「うん、それそれ。レナさんもちょっと前までいて、みんなで色々と話してたとこなんだよね」
「あ、レナさんから聞いてたか」
「大体の状況は、もう既に伝わってたのです!」
「……なるほど」
レナさんが正体不明な無所属の集団が増加してたのは聞いたけど、その情報を灰のサファリ同盟と共有しに来てたのは不思議でもなんでもないですよねー。ハーレさんの声だけが聞こえる状態だと分かりにくいからスルーしてたけど、説明不要な状況だったか。
「……まさか、同じ高校の先輩が絡んでくるとは思わなかったし、ハーレが勧誘されたのもビックリだけどね。まぁその辺の話を詳しくこっちでするのもあれだから、リアルの方で改めてって事にはするけど……それでいい?」
「それでいいのです!」
まぁリアルでの話は、出来るだけリアルで関係ある人だけの場所でする方がいいよな。少なくとも灰のサファリ同盟の人が大勢いる前では、可能な限り避けておいた方がいい内容だろう。でも、同じ高校とまでは言っちゃったっぽいね。
「それはそうとして……流入自体は気にしないってレナさんの方針には賛成なんだけどね? 私としては、その噂の出所がどこからなのかが気になっててさ。特訓方法なら他所には伏せておきたいだろうし、意図的に噂を広めてる人がいそうじゃない?」
「あー、それは確かに……」
「ケイさん、その方向から狙いって何か分からない?」
「……狙いねぇ? ちょっと考えさせてくれ」
「うん、お願い! 場合によっては、噂の出所を探った方がいいかもしれないし!」
「ほいよっと」
誰かの何かしらの意図があるなら、それは無視しない方がいいか。改めて考えてみれば……eスポーツへ有効な特訓方法なら自分達のみで秘匿しておく方が遥かに有用なはず。なのに、それが噂という形で広まっているのは不自然ではあるもんな。
何らかの目的がなければ、そんな噂を広めるメリットなんてないはず? 無所属へと誘導するような何かがなければ、無所属に揃って流れるような事ってあるか?
仮に無所属から出た噂だとして……いや、無所属で妙な混乱が発生しているくらいだし、デメリットになってるよな。
レナさんの見立てではインクアイリーが関与してる可能性もあるって話だったけど、あそこも一枚岩でないのは分かってるし……いや、だからこそか?
「……無所属に人を増やして、何かしようとしてる? あっ、次の為の人員集め!?」
「……え? ケイさん、それってどういう意味?」
「詳しい説明を求めます!」
おっと、ラックさんもハーレさんも慌ててるし、他の人達も騒めき始めたな。……うん、今のはいくらなんでも説明しなさ過ぎか。
「ほら、あれだ、あれ。次にいつあるか不明だけど、無所属には『乱入クエスト』があるじゃん? この前の競争クエストでは悪名持ちを利用してたけど、その辺は大型アップデートで新規サーバーに移る可能性が高いだろ? そうなったら集められる頭数は前より減るだろうから、その人員を――」
「え、待って! ケイさん、それって……まとめる事は出来るの?」
「まとめる必要はないんだよ、この場合。無所属の中で、競争させたらいいからさ」
群集の中であれば、バラバラに動き過ぎないように多少はまとめる必要がある。だけど、無所属であれば……その必要性はない。群集内では利害関係が発生して、リアルでの立ち位置も含めて考える必要があるけども……無所属ならそのリスクは回避出来る。
だからこそ、無所属であれば集めても問題はないどころか……下手すりゃ元々いる俺らが、流入してきたeスポーツ勢の練習相手にされるんじゃ……?
「あ、そっか! どこの集団が、最終的な目的を達成させられるか無所属内での勝負って話になるんだ!? そういう舞台さえ作り上げてしまえば、群集に対抗出来るだけの戦力にはなるかも!」
「はっ!? むしろ、群集相手には一時休戦で戦ってきそうなのです!?」
「そうそう、そういう感じ。……何気にヤバいぞ、その流れ」
もしそれが狙いなら、かなり頭が切れる人がいるのは間違いない。インクアイリーには確実にそういう指揮が出来る人がいたんだし……インクアイリー以外にもそういう人が隠れている可能性は十分ある。
これ、どこかの外部サイトからの手引きでもあるんじゃね!? 考えれば考えるほど、誰かしらの意図が働いてる気がしてきたんだけど……。
「てか、共闘する形で動きを潰そうとしたのを、思いっきり意趣返しされてるような気もしてきた……」
「その狙い、ありそうな気がするのさー!?」
「……否定は出来なさそうかも? そもそも『弥生さんやシュウさんに勝ち逃げは許さない』って感じの動機だったんだよね?」
「作戦指揮をしてたのは、そうなんだよなー」
全員が全員、そういう人ばかりではなかったっぽいけど……少なくとも『彼岸花』、『ラジアータ』、『リコリス』の3人は明確にそれが狙いだった。その中の『彼岸花』が作戦立案者って話だったよな?
それ以外に誰か……あぁ、流入してきた人でない無所属なら、もしかすると心当たりがあるかも? すぐそこにいるんだし、ちょっと聞いてみるか。
「羅刹! さっきの今で悪い! ちょっと無所属で話を聞きたい件があるんだけど、こっちに来れるか!?」
「ん? 別にいいが……すぐ行くから、ちょっと待ってろ!」
無所属の動きを全て把握してる訳じゃないだろうし、むしろ負担が増えて困惑している真っ最中だろうけど……だからこそ、羅刹からのこの件の視点が役に立つかもしれない。
「はっ!? 羅刹さんにインクアイリーの事を聞いてみるの!?」
「それもあるけど、それ以外にもこういう事を仕掛けそうな人の心当たりでもないかと思ってなー。具体的なプレイヤー名までは分からなくてもいいから、何かしらの情報が欲しいんだよ」
「……今の段階じゃ、推測でしかないもんね」
「そうそう、だから出来るだけ情報が欲しい」
あくまでこれは俺が考えたeスポーツ勢を意図的に無所属へと引き入れる時のメリットの話。その実行役として思い浮かぶのが、まさに今いるこの場所で戦ったあのインクアイリーのメンバー達。
実際にどうなのかは……色々と確認してみないと分からないし、その辺を本格的に探っていった方がいいんだろうね。ふぅ……成り行き任せにするつもりだったけど、そう単純には済まないようになってきたな……。
「そういや、ここってどういう作りになってんの?」
「あ、ケイさん、通路を通ってきてないもんね。えっと、そっちの奥が入り口になってて、入り口から離れた場所ほど狭くなってる感じだよ」
「ほうほう? なんかスロープみたいになってるな?」
羅刹がここにくるまでの間、放ったらかしになってたこの場所の確認をしていこうっと。全方位がまだ剥き出しの土だけど、部屋としては一応出来上がっているっぽいね。
平坦ではなく、スロープ状にしてるのは……なるほど、種族ごとの大きさも考慮に入れてか。なんか上下に穴が広がってる部分もあるし、その辺りは樹木系の所属の人向けな場所の気がする。
「本格的に手を入れるのはこれからなんだけど、ここは実況席の予定! 周囲にグルっと観覧席も作る予定なんだけど、まぁどういう形にするかはこれから検討だねー。ただ、アルマースさんみたいに巨大な場合だと、どうしても対応し切れないんだよね?」
「……まぁ流石にクジラはなー。そこはもう、外でいいんじゃね? 最上段も別に悪い場所でもないだろ」
「あはは、やっぱりそういう意見になっちゃう?」
「そりゃまぁなー」
不動種の樹洞の中とかなら自動でサイズ変更がされるけど、そういうシステム補助なしでやるのは流石に厳しいだろ。かといって、それをプレイヤーが加工した場所に反映させるなんて真似も難しいだろうしさ。
「んー、まぁその辺は色々と調整してみるけど……ケイさん的にはここはどう?」
「闘技場にするんだっけか? ……正直な感想、いい?」
「どうぞ、どうぞ! 率直な感想、大歓迎!」
「……何と戦うかにもよるけど、俺的には狭くてやりにくい」
「んー、具体的には? 今は一時的に置いてる土が邪魔だけど、それを除ければそこまで狭くもないはずだけど……」
「俺の場合は、Lv10での水の生成だなー。多分、あれだけでここを満たせられるぞ?」
「あ、そっか。んー、確かにあの規模はここじゃ対処し切れないよね。……それだと、模擬戦の機能の相当な下位互換にしかならないかなー? やっぱり対人戦は考慮せず、ボス戦だけに用途は限定すべきかも? レンコン相手なら有用性はもう分かってるし……」
なるほど、いざ闘技場にしようと魔改造を始めたものの、その利用方法に悩み気味って感じなのか。まぁ模擬戦機能が優秀だし、対人戦で使うには微妙かもなー。
「うん! ケイさん、率直な意見をありがとね! まぁまだまだ整備には時間がかかるし、ここの運用方法はもっと色々と考えてみるよ。当分はトンネルの内部を優先するから、ここはただの土置き場になりそうだしさ」
「レンガや焼き物作りを優先か?」
「そうそう、そっちが優先! レンガがちゃんと焼けるかを、今試してるとこだからさー。レンガが完成すれば、あちこちでしっかりとした竈も作れるんだけど……こう、火加減が難しくてね!」
「だろうなー。まぁ俺からは頑張ってくれとしか言えないわ」
「それで十分! ケイさん達は全力で表で暴れてくれればいいし、裏方は私達に任せておいて!」
「ほいよっと! 頼りにしてるからな、灰のサファリ同盟!」
「うん、頼りにしてね!」
俺達にレンガを焼けと言われても出来る気はしないし、こういう部分は役割分担だよなー。まだ試行錯誤の段階みたいだけど、そのうちレンガ造りのものが見れる日がくるのかも――
「やっと辿り着いたか。ラックさん、ここまでちょっと進みにくいぞ?」
「え、何か問題あった!?」
「……そのままだと、あちこちぶつけまくりだ。高さは割と問題ないが、前後に長い場合は動きにくい通路だな」
「あらら、そっちに問題があったんだね。んー、これ、調整が難しいなぁ……」
ふむふむ、なんだかんだで羅刹のティラノって大きい……というか、尻尾が長いもんな。今は小型化してきたみたいだけど、そうしないと通れない状況か。うーん、確かにそれは難儀かもしれないね。
「それで……ケイさんが聞きたい情報ってのはなんだ? 悪いが、eスポーツの集団が流入してきてるってのは少し前に聞いたばかりだから……ぶっちゃけ、詳しくは知らんぞ?」
あ、その辺は既に話は聞いてる……って、少し前までレナさんがここにいたなら、そりゃ話してて当然か! でも、俺が聞こうとしてるのは……その件とか無関係ではないけど、そっちの心当たりではないからね。
「色々と話してて、そのeスポーツ勢の流入の元になった噂が、誰かの意図的な狙いがあるんじゃないかって話が出てきてさ」
「……何? それは、どういう事だ?」
「俺の読みとしては次に発生する『乱入クエスト』の人員補充かと? 実行者として怪しいのはインクアイリーなんだけど……無所属で他にそういう事をしそうな人に心当たりってあったりしない?」
「……ここで『乱入クエスト』と『インクアイリー』が出てくんのかよ。あー、そうか。群集とは無縁で競わせて、成果を掻っ攫おうって狙いか。ちっ、嫌らしい事を考える奴がいるもんだな」
おー、あっさりと俺の読みを理解してくれるとは、流石は羅刹だな! やっぱり、傭兵ではなく純粋な味方としていて欲しいとこだけど……今はそこが主題じゃないから、置いておこう。
「なるほど、インクアイリーと決めつけて動くと危険だから、俺に心当たりを聞いてきた訳か」
「そうそう、そういう感じ」
「……心当たりがあるかどうかで言うならば、あるにはある」
「マジか!?」
「ただ、俺自身も直接接触した事がある訳じゃないからな? それを念頭において聞いてくれ。……インクアイリーを打倒するって呼びかけが、競争クエストでの乱入勢に対してあったとは聞いている」
「……ほほう?」
こりゃまた、思ってた方向とは全然違ったのが出てきたね。まさか無所属の中で『インクアイリー』を標的にしようって動きがあったとは思わなかったけど、興味深い内容だね。とにかく、もう少し具体的な内容を聞いてみますか!
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