第1423話 魔改造中の本拠地


 ハーレさんと水のカーペットに乗って、一度入ったトンネルの中から脱出。とりあえず、闘技場にするという元湖の方へ移動開始! ……それにしても、ここは思った以上に色々と変わってたな。


「さっき入ったところ、随分としっかりしてたけど……どうなってんの?」

「土の操作をLv10にした人が何人かいるんだってー! それで固めてるんだと思います!」

「……なるほど。あー、その後にレンガで補強?」

「細かい予定までは聞いてないけど、その可能性もありそうなのさー!」

「まぁまだ試作段階って感じの事を言ってたしなー」


 パッと見ではもう結構な進行具合に見えたけど、実情としてはまだ大雑把に穴を掘っただけなのかもね。まだそれほど日数は経ってないんだし、色々と整えていくのはこれからか。


「……ここ、もしどこかのタイミングで再戦エリア化したら、絶対に負けられないな」

「他の群集に持っていかれる訳にはいかないのさー! でも、奪われるのを気にしてたら、何も出来ないのです!」

「まぁそりゃそうだ」


 いつか負けるかもしれないって理由で、地形を弄るのを躊躇うのは何か違うしね。むしろ、絶対に負けられない理由になって、気合いは入りそうだ。

 とはいえ、そもそも競争クエストが終わってそう経ってないんだから、先の事を気にし過ぎではあるか。


「てか、灰のサファリ同盟でこれなら、赤の群集や青の群集でも、新エリアを使って何かしらやってそうだよな」

「……他の群集の情報は、手に入りにくいのです!」

「まぁ占有エリアだと尚更にそうだよなー」


 多分、他の群集の人達は灰のサファリ同盟の本部が移設した事までは知っていても、実物を見る事はないだろうしね。あー、でも立ち入りを許可しないと困るパターンもあるから……なるほど、だから地下にしてるって側面もあるのかも?


「……ルストさんが知ったら、強引にでも乗り込んできそうだな」

「その可能性はありそうなのさー!? 絶対に教えちゃダメなのです!」

「だよなー」


 占有エリアでやってる作業は、トップシークレットだね。……群雄の密林ではなく、五里霧林を選んでいるのもその辺が理由か? 割と色んな要素を加味して、ここに本拠地を移してる気がしてきた。


「……もしかして、灰のサファリ同盟って前々からこういう場所を計画してた?」

「そこまでは知らないから、ラックに直接聞いてみてー!」

「あ、知らないのか。まぁ直接会うんだし、そこで聞いてみるわ」

「うん!」


 さて、そうしてる間にそろそろ元湖の……って、ちょい待った!? え、ここって掘られてたよな!? なんで大半が土砂で埋まってんの!?


「……え!? あれ!? ここって闘技場にするって話じゃ!?」


 ハーレさんも困惑中だし、一体何がどうなってる? むしろ、これじゃ闘技場にするどころか、埋め立てようとしてるようにしか――


「ん? よう、ケイさんとハーレさんか」

「その声、羅刹か!?」


 湖……というか、埋め立てられかけている大穴の底に羅刹のティラノの姿があった。なんでここに……って、傭兵で参加してたから、占有エリアが可能なのかも? 群集拠点種への接触が可能になるって言ってたし、ここへの転移が有効でも不思議じゃないよな。

 でも、なんでここにいるんだ? 来れる事と、この場に来ている事の意味合いは違ってくるはずだけど……。


「羅刹さん、何してるのー!?」

「何って聞かれりゃ、まぁざっくり言えば灰のサファリ同盟の手伝いだな」

「なんでまた、そんな事になってんの?」


 何がどうして、羅刹が灰のサファリ同盟の手伝いをするって事になるんだ? うーん、謎過ぎる!?

 近くに灰のサファリ同盟の人が土を運んで……あ、持ってきてるんじゃなくて、運び出してる? いや、それも気になるけど、それ以上になんで羅刹がここにいるかの方が問題だよ!?


「言っちまえば、特訓だ、特訓! ほれ、土の操作を鍛えてんだよ」

「あー、なるほど? え、でも、なんでここで?」

「……今、無所属は少し荒れてんだよ。傭兵での勝ち負けが出てるのと、乱入クエストでの負けの件でな」

「……はい?」

「あー、良くも悪くも無所属はクセがある奴が多いからな。勝った負けたで、喧嘩っ早いのがあちこちで戦闘してんだよ。ついでに言えば、乱入勢はこっちの新エリアにまともに移動が出来てねぇからな」

「内輪揉めだー!?」

「集団じゃねぇから、内輪揉めってのは正しい表現じゃねぇが……実態としては似たようなもんだな。あと、妙に接点を持とうとしない集団も増えてきてて……少し状況が落ち着くまで避難を兼ねての手伝いと特訓だな」

「なるほど、そういう状態か!」


 羅刹の手に余るような状況になってるのか、今の無所属!? どうもeスポーツ勢の流入も絡んでそうだし、無所属は無所属で大変なんだな。でも、無所属を部外者厳禁な場所に入れるのって……危険じゃない?


「あー、安心しろよ。ここで見た事は他言無用なのは分かってるし……灰の群集には、傭兵の立場で得た俺の権利を剥奪する権限が与えられてるからな。ここの情報を他所に漏らして得がある訳じゃねぇのに、折角手に入れた転移の権利を手放す気はねぇよ」

「……それなら一安心か」


 てか、傭兵から権利を剥奪する権限ってあるんだね。信用が出来ないと判断したなら、追い出す事は可能なのか。

 まぁもし正当な理由もなくその機能を使えば、逆にそれをした人の方が追い出される事になりそう?


「てか、ケイさんが来たなら丁度いい。競争クエストが終わったら1戦やろうって言ってたろ? 今日辺り、どうだ?」

「あ、そういや模擬戦が出来るようになってたんだっけか。おし、やってやろうじゃん!」


 でも、時間はどうしよう? 今からでもやろうと思えば出来るけど――


「ケイさん、ケイさん! やるなら夜からなのさー! 流石にみんながいない今は駄目なのです!」

「……だよなー。羅刹、その対戦は夜でもいい?」

「別に今日はいつでも空いてるから構わねぇよ。そっちの都合もあるだろうし、今すぐになんて強引なのはイブキじゃあるまいし……」

「ですよねー。ところで、イブキは? 荒れてるって言ってたけど、その中の1人?」

「……あいつは、コイ集団を探すとか言ってどっかに行ったな」

「あー、そうなのか……」


 コイ集団って、昨日ハーレさんが目撃したっていうあれだよな。掲示板でもイブキと並んで話題になってたし、そもそもイブキ自身が掲示板に書き込んでたし、その繋がりでなのかも?


「はい! コイ集団って昨日見かけたけど、どういう集団ですか!?」

「あれ、料理を作ってる集団なんだとさ。掲示板で見た」

「おぉ!? 今日は掲示板は見てなかったけど、そんなのがいる……って、前々から話題に出てた料理集団がそれですか!?」

「多分なー。料理好きなら、その意思を示せば迎え入れてくれるらしいぞ?」

「おぉ! ちょっと興味あるのです!」


 そういや料理に興味があるかどうかの基準しか書いてなかったけど、食べる専門だとどうなんだ? 食材持ち込みで歓迎とかはあったりするのか? んー、そもそも掲示板での情報だから正確なところが分からんなー。


「話にしか聞いてなかったが……実在するのかよ、あのコイ集団」

「ふっふっふ! 隠れ家みたいな場所は、昨日見つけたのです!」

「……へぇ? そりゃ興味深いな」

「あの隠れ家も、ここみたいに加工した地形なのかもなー。てか、ハーレさん、ラックさんはいいのか?」

「はっ!? そういえばそうでした!? えっと、えっと!?」


 あー、羅刹と、この奥へと繋がっている場所を交互に見てるから、行っていいものか悩んでるっぽいね。まぁまさかここで手伝い中の羅刹がいるとは思ってなかったしなー。


「俺はここで羅刹と話してるから、行ってきていいぞ?」

「はっ! そうさせてもらうのさー! 羅刹さん、またねー!」

「おう、またな!」


 サッと水のカーペットから飛び降りて、悠々と底に着地したハーレさんがトンネルの奥へと駆けていく。このトンネル自体が広いから、やっぱりリスだと小さく見えるもんだな。


「さて……ケイさん、まだ何か話があるな?」

「話というか、シンプルに疑問だな。ここって埋め立ててるのかと思ったけど、そうでもなさそうだし……具体的に何やってんの?」


 話しながら近くにいる灰のサファリ同盟の人の様子を見てたら、余計分からなくなってるんだよね。土を持ってくる人と、持って出る人の両方がいて、羅刹はどうも土の中の大きめな石とかを除去してるっぽい? 見てて、割と謎な光景なんだけど……。


「あぁ、これか? 拡張する為に掘り出した土の一時置き場と、その中で使えそうな土の選別作業だな。粘土質の土はレンガや焼き物の材料にするって話だが……何を作ってるのか、知らねぇのか?」

「……その辺、ついさっき知ったばかりなもんでなー。灰の群集だからって、なんでもやってる事を知ってる訳じゃないから!」

「ははっ! まぁ、そりゃそうか。そもそも作り始めて間もないって話だし、昨日のジャングルでの騒動を考えりゃ、ケイさん達が離れてて情報を仕入れてなくても仕方ねぇな」

「昨日の件、知ってんの!?」

「俺は灰の群集の占有エリアへの行き来は許可されている、傭兵だからな。つっても、灰の群集にいた頃から馴染みのある不動種の奴が並木に移動したって聞いたから、今後のアイテムの取引の話し合いに来てただけなんだがよ。そしたら、まぁ昨日のあれだろ? 嫌でも目に付くっての」

「……ですよねー!」


 悪ふざけでも、冷やかしでもなんでもなく、大真面目な理由で羅刹は昨日のあの時に並木へ来てたんだな。そうか、そういや無所属は無所属でアイテムが必要になるんだし、そうやって取り引きをしに来る事もあるか。


「ま、この手伝いも取り引きの一環だな。この場所、闘技場にする予定だってのに、この有り様じゃ使えたもんじゃねぇだろ?」

「……整備を手伝うから、後々で使わせろって話?」

「そういうこったな。安定してフィールドボス戦が出来るとなれば、まぁ俺としちゃ悪い話ではないしよ?」

「まぁ確かにそうなんだろうけど……そこまでするなら、いっそ灰の群集に戻ってきたら?」

「あー、それか……」


 ん? 冗談で言ったつもりだったんだけど……一蹴されなかった? え、もしかして真面目にその方向性を考えてたりする!?


「……正直、それも悪くねぇかとは思ってるところだ。元々、灰の群集と戦いたくて飛び出てきたが、味方と戦う手段は色々と増えてきたからな」

「マジか!? 羅刹が味方になるなら、大歓迎だぞ!」

「あー、待て待て。まだ本決まりって訳でもねぇんだよ。無所属同士でも明確にシステム上で、群集と対立して戦う事もあるのは確定したのは大きな要因でもあるんだが……ただまぁ、無所属としての居場所を提供してもらっているのに、それを放ったらかしにして戻るってのもな?」

「あー、発火草の群生地か。あそこ、無所属の溜まり場に認定されてるもんな」

「そうそう、それだ。一応、俺があそこの代表者みたいな立ち位置になってるからな。最低でも後任を決めてからでなきゃ……無責任にも程があるって話だ」

「……なるほど」


 んー、羅刹が無所属での一定の立ち位置を持ってるからこそ、無責任に離れる事も出来ない状態か……。そこまでの立場になると、無所属って群集の便利機能が使えない分だけ、ただ不便になるだけな気がする?

 あ、だからこそ群集に戻るって選択肢も考えてるのか。


「無所属自体は増えちゃいるんだが、どうも最近は妙な動きが多いしな。インクアイリーとやらが盛大に引っ掻き回すし、他にも交流する気がない連中の流入が多い。イブキみたいに好き勝手に動く分には問題ないんだろうが、まとめるとなれば……流石に負担がな?」

「そりゃそうだよなー。……いっそ、近しい人達を集めて、灰の群集で共同体を設立ってのは? それなら、無責任って事にもならないだろ?」


 あくまであの発火草の群生地は、一部の無所属の人達の溜まり場になっているのであって、その維持を必ず羅刹がしないといけない訳じゃない。

 でも、あの場に集まってくる人達であれば、集団としてまとめる事も可能なはず。少なくとも、他人と交流する気がある人達だしね。


「おいおい、ケイさん? 無茶な事を言うけどよ、そもそも何かしらの理由があって群集を離れていった連中ばっかだぜ? 今更、群集に戻って大人しくしておけって選択は――」

「いや、もう群集所属でも好き勝手やりまくられてるけど? ほら、インクアイリーとか目に見えて動いた時は無所属だったけど、赤の群集の共同体だぞ? そもそも群集関係なく存在してる、境界すらあやふやなとこだぞ?」

「……言われてみりゃ、確かにそうだな」


 あそこまで好き勝手に動きまくる集団があるなら……群集のやり方が合わないって人でも戻ってきて大丈夫じゃね? 少なくとも羅刹と関わりがある人は団体行動が不可能とも思えないしさ。

 まぁイブキみたいなのもいるから、全員が全員、大丈夫って訳ではないんだろうけども……それでも、今が群集に戻るいいキッカケになるのかも?


「ははっ! まぁ即断即決とはいかねぇし、少し考えさせてくれや。場合によっちゃ、ケイさんのその提案も悪くねぇかもしれねぇしな」

「そうなったら、歓迎するって言っといてくれ!」

「良いお墨付きだな、おい! あー、だが、灰の群集の傭兵じゃなかった連中の方は多いんだが……その辺はどうなんだ?」

「……それは人によるとしか? 俺としては、それを理由に拒む気はないけど……」

「……あー、そりゃそうか。ま、その辺は持ち帰って話してみるとして……ケイさん、あっちが出来たみたいぜ?」

「出来たって……何が?」


 羅刹が指し示す方向を見てみれば……あ、ここのトンネルの真上の壁に穴が空いてる!? 見渡せる部屋を作ってる最中だって話だったけど……あっ!? もしかして、あそこは実況席か!?


「おぉ! ……土だらけだけど、全体が見渡せそうなのです! ケイさん、こっち、こっち!」


 元気よくリスの手を振ってるハーレさんの姿と、その横にいるラックさんのリスの姿が見えた。なるほど、出来たってのは見渡す為の穴が出来たって事か。


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