第1422話 ハーレと二人で
サヤとヨッシさんは晩飯の為にログアウト。今日は色々とみんなに用事があって、夕方はろくに何も出来なかったけど……まぁそういう日もあるか。
「さて……これからどうする?」
「……悩ましいとこなのです」
今は俺とハーレさんの2人きり。ミズキの森林にいるんだから、どこかで特訓をするのでもいいけど……何を鍛えるかにもよるんだよな。1時間くらいなら誰かと模擬戦をやるのもありだし、何かしらの情報収集をしておくのもありか。
「はい! そもそも今日の夜は何をしますか!?」
「……根本的に、そこから決まってないもんなー。明日の夜なら何かあるんだろうけど……今日は本当にどうしたもんだ? 俺らだけで決めるのもあれだし……」
「あぅ……確かにそれはそうなのです……」
何をするにしても、みんなの意見を聞かずに決めておくというのは無し。夜からならアルも合流するんだから尚更に。
「……それはそうとして、さっきのバイクレースの話なんだけど――」
「それはひとまず置いておくのです!」
「……何か誤魔化そうとしてないか?」
「……聞いても笑わない?」
「それは内容によるけど……やっぱりなんかあるんじゃねぇか」
「単純に、リアルでバイクに乗ってみたいのさー! でもまだ自分じゃ免許が取れないのです……」
「あー、そういう……って、それはゲームじゃダメなのか?」
「あの辺のゲーム、大体が架空の世界か、外国が舞台だもん! 日本国内を自由に走れるのはないのさー!」
「……なるほど」
晴香がバイクに興味があったのはちょっと意外……でもないか。元々絶叫系は好きなんだし、レースゲーム自体も好きなんだから、実際に乗ってみたいという気持ちが出ても不思議ではないよな。
それにモンエボでサファリ系プレイヤーをやってるくらいだし、色んな景色を眺めるのも好きそうだから……その移動手段としても興味を持っているのかも?
「……それで、レースゲームで興味を持たせて、俺に免許を取らせて、乗せてもらおうって魂胆?」
「ううん、それは無理なのさー! でも、実物は見たかったのはあるのです!」
「……ん? なんで無理?」
「免許を取ってから、1年経たないと2人乗りは禁止なのです! その頃には自分で取れるようになってるのさー!」
「そんなルール、あったんかい!」
バイクには特に興味がなかったから、普通に知らなかったわ! あー、でも俺に免許を取らせたいって意図自体はあったんだな。
「まぁその辺はオマケなので、単純にみんなで遊びたいのが一番なのです!」
「それなら、普通にここでいいんじゃね? わざわざ別のゲームにしなくても――」
「レースが実装されたらそれでいいけど、そこが怪しいのさー!」
「……なるほど」
前々からハーレさんはレースの実装を要望してたけど、未だにそれは叶いそうにないもんな。大型アップデートで実装される『再現クエスト』とやらがそういう要素を含んでそうではあるけども、まだ実態は不明だしさ。それでレース欲が爆発してるのか。
「まぁそういう事なら、やるのもありか。あ、でも、金が思いっきりかかるのはパスだからな?」
「うん! ソフト自体は私が既に持ってるヤツで、みんなを招待すれば出来るはずなのです! ……ただ、オンライン対応は有料DLCだから、アルバイトを始めてからの話なのさー!」
「……それ、結構先の話じゃね?」
「そうなります!」
小遣いは貰ってるし、ハーレさんの手持ちが一切ないとは思えないけど……少なくとも、旅行から帰ってくるまでは絶対に手を付けないだろ。しばらく先の話を今する理由って……あー、特に理由と言える理由もないのかも。
そもそも一緒に遊びたいって事に、細かい理由なんかいらないしさ。レース好きなのは前から分かってたんだし、別に変な事でもないよな。
「大型アップデートで、そういう要素が増えるといいな」
「……うん! でも、種族によってばらつきがあるから、調整は難しそうなのです……」
「あー、まぁそりゃそうか」
そもそもレース用にシステムが構築されてないんだから……いや、でもアンケートの項目の中に選択肢として存在してたんだし、なんらかの形で方向性自体はあるんじゃないか? そうじゃないと、そもそも選択肢に入れてこない気が……。
「……実際に大型アップデートにならないと分からないとこか。来週、楽しみだな」
「うん! それは普通に楽しみなのさー!」
来週の木曜の定期メンテナンスで夏の大型アップデートが実装されるし、その翌日は午前中の終業式だけで終わりだ。だから、実質的にはほぼ夏休みに突入と同時みたいなもの。
「新規さん、増えるかなー?」
「夏休みだし、それなりには増えるだろ。……まぁなんか別方向から、新規勢が増えてるっぽい状態ではあるけどさ」
「eスポーツ勢の乱入なのさー!? ……いっそ、どこかが共同体を立ち上げて、管理するのもありじゃないですか!?」
「……あー、そういう手もありか」
無秩序にバラバラな場所で散らばって、動きが読めない状況になるよりは、どこかの管理下に置いてしまおうってのはありかもしれない。群集としては戦力が増えるんだし、モンエボでキャラ動作を鍛えようって人達も最初の慣らしには悪くはないはず?
「……問題は、それを誰が管理するかだよなー。半端な人だと、絶対に舐められるぞ? 相当な実力者じゃないと……」
「あぅ!? そういう問題があったのです……」
明確な目的を持って始めてくるんだし、その役に立つ人だと思われなければ意味はない。もしそのeスポーツ勢を上手く群集に取り込む事が実現出来ればかなりの戦力にはなるだろうけど、それを抑え込めるだけの人となると……かなり限定される。
あ、いっそ、それを直樹にやらせ……いや、この提案をしたら、赤の群集か青の群集で実行してくるな!? 指揮の練習だとか理由を付ければ、どうとでも……って、また色々と考え過ぎてるね。
「……まぁそれは置いておくとして、本気で晩飯までどうする? 別にこのまま雑談でもいいけどさ」
「はっ! 特に何もする事がないなら、ちょっと五里霧林に行きたいのさー!」
「あそこなら……目的は灰のサファリ同盟の本拠地か?」
「うん! まだ元湖を利用した闘技場は見ていないのです!」
「あー、インクアイリーが掘ったあそこか!」
そういやフィールドボスを誕生させる場所として有効活用するって話だっけな。暇を持て余してる今、少し見に行くのもありかもしれないね。
「おし、それじゃちょっと見物に行ってみますか」
「出発なのさー!」
という事で、俺とハーレさんの2人だけではあるけども、五里霧林へと移動開始! ミズキの森林から五里霧林へと場所を移したミズキを中心に湖が広がってたのは見たけど、それ以外はまだ詳しくは見れてないもんなー。
◇ ◇ ◇
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『五里霧林』に移動しました>
一度森林深部に戻ってから、改めて転移して移動完了! ミズキの森林の群集支援種がミズキから他の木に変わってたのは……まぁ少し寂しいけどね。
とはいえ、こっちに進化したミズキがいるんだし、消滅した訳じゃない!
「ケイさん、ケイさん! こっちまで来たなら、後でナギサの所に寄りませんか!?」
「あー、あのフクロウの群集支援種か。それはいいけど、先に灰のサファリ同盟じゃね?」
「それはそうなのです! ラックがいるはずだから、そっちに行くのさー!」
「ほいよっと」
今日は夜の日だから、ミズキの植わっている湖に星空が反射しててすごいもんだ。なんか前には無かった水草が植ってるし……というか、これは癒水草を栽培してるっぽいね。
「そういや、灰のサファリ同盟の本拠地ってどの範囲?」
「ここからインクアイリーが掘った元湖まで!」
「範囲、広いな!?」
サラッと言うけど、結構な距離はあるんだけど!? 灰のサファリ同盟が大所帯とはいえ、そんなに広さが必要か? パッと見た感じでは、そういう本拠地的な様子も見えないんだけど……。
「ふっふっふ! 灰のサファリ同盟の本拠地は、陸の上じゃないのです! インクアイリーの作ったトンネルを拡張してる最中なのさー!」
「……へ? あれ、拡張してんの!?」
五里霧林へ本部が移転になったとは聞いてたけど、そんなに大がかりな事をしてたとは思わなかったわ! ……でも、なんでまた地下に? あ、天候が変わるからか!?
「それ、濡れたら困る加工アイテムの保管場所も兼ねてる?」
「ううん、違うのさー! ここ、粘土質の土が取れるのと、火が消されない事が重要なんだってー!」
「……粘土質の土と、消えない火? あ、もしかして土器とかの焼き物を作ってる!?」
「ふっふっふ、そうなのです! まぁまだ実験段階って聞いたけど!」
「なるほどなー」
器は運営が報酬の一部として用意してた物か竹を加工して使ってたけど、本格的に焼き物を作り始めてるとはね。
何かで見た事あるけど、そういうのを焼く釜って結構な時間がかかってた覚えがある。本格的にやろうと思えば、天候が変わっても火が消えない場所が必須だった訳か。
「インクアイリーが掘ってたトンネルを中心にして、左右に何本も掘っていってるんだってー! あ、あそこで煙が上がってるのは見えますか!?」
「あー、確かに煙が出てるな。……あれ、釜で焼いてる状態?」
「多分、そうだと思うのです! 煙が出る場所の近くに入り口があるって聞いたけど……あ、あったのさー! ケイさん、降りてー! あっち、あっち!」
「へいへいっと」
とりあえずハーレさんが指差している先に降りていって……おぉ、マジで入り口があった。サッと降りていきますか。
<『移動操作制御Ⅱ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 124/124 → 124/126(上限値使用:1)
とりあえず水のカーペットを解除して着地。ほほう、洞窟の入り口って感じではなく、ただ無造作に空いた穴って訳でもなく……綺麗に均された地下駐車場への入り口っぽい場所だね。かなり人工的な感じがするんだけど……やるな、灰のサファリ同盟!
「お邪魔しまーす!」
「……これ、勝手に入っていいのか?」
「ここ、灰の群集の占有エリアだもん! 出入りは禁止されてないよ?」
「あー、そりゃそうか。邪魔さえしなけりゃ問題ないんだな」
大型種族でも軽く通れるような広さにはなってるし、俺らのサイズじゃ意図的に邪魔しない限り、邪魔になりようもないか。
ふむふむ、内部には火が灯されているけど……壁に灯り用の専用の穴が用意されている場所と、そうでない仮置きみたいな場所もあるから、まだまだ整備中って感じだな。
「てか、ここまで本格的に変わってるなら、みんなで来てもよかったんじゃ?」
「まだ未完成って言ってたからそのつもりだったんだけど、やる事が特に思いつかなかったのです!」
「そういう理由!?」
「それと、ラックにeスポーツ部についての相談なのさー!」
「あ、そっちがメインの理由か」
「そうなのです!」
ラックさんはハーレさんと同じ高校なんだから、直樹はラックさんから見ても先輩という事になるもんな。……なるほど、そっちから味方へ引き入れるという方向性もありか?
あ、少し前の曲がり口からハリネズミの人が出てきたね。どうも煙が出てた方向から来たし、その曲がった先が釜になっているのかも?
「おっ、ハーレさん、来てたのか。ほほう、ケイさんも一緒なのか」
「ダインさん、こんにちはー!」
「どうも」
ダインさん、ダインさん……。ハリネズミのプレイヤーだし、聞き覚えのある名前だから、どこかで会った事がある気がする? えーと、どこでだっけ?
……あ、思い出した! お茶系のアイテムを試す時に、即席の竈を作ってくれた人だ! 所属も『灰のサファリ同盟・土木班』ってなってるし、ここの場所を整備中なのかも!
「ダインさん、ラックはどこにいますか!? ちょっと用事があるのさー!」
「ん? ラックさんなら……こっちから進むなら中央トンネルを進んで、闘技場の手前の右手にある横穴の奥だな。そこから闘技場を見渡せる部屋を作ってる最中だから、そこにいるはずだぜ。ただ、あちこち作業中だから、下手に中から行くよりも外から回った方が早いかもな」
「おぉ、そうなんだ! それなら、外から回ってみるねー!」
「おう! 完成したら改めて来てくれや! 丁度、そこの釜でレンガを焼いてみてるとこだしな!」
「レンガを焼いてんの!?」
「まぁな! 上手くいくか、試作段階だがよ」
「……なるほど」
てっきり焼き物って器だけかと思ってたけど……確かにレンガも焼いて作るんだよな。なんか、やってる事が相当大規模になってません?
「ケイさん! 外から回るのさー!」
「おし、そうするか」
ちょっと中を本格的に探索してみたくなったけど、色々と作業中なら邪魔になってもいけないしね。ここは大人しく、言われた通りに外へ出てから移動した方がいいだろ。
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅱ』を発動します> 行動値 126/126 → 124/124(上限値使用:3)
こんなにすぐに再展開する事になるなら、解除しなくてもよかったかもな。まぁ今更言っても仕方ないけどさ。
「それじゃ、闘技場の方へ行きますか」
「出発なのさー!」
少し前では大きな戦場だったけど、今の光景はどうなってるんだろうね? このトンネルの様子だと、相当な魔改造がされてそうな気がするよなー。
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