第1419話 自宅へ帰ってから


 eスポーツ部との対戦なんて面倒ごとに巻き込まれた挙句、直樹が俺との敵対を狙ってモンエボを始めるなんて状況にもなったけど……まぁなんとか家まで辿り着いた。直樹については味方に引き入れる手段を考えるとして……。


「あ、そういやサヤとヨッシさんの用事、終わったかどうかを確認しようと思って忘れてた!?」

「それ、私もしようと思ってたのさー!? あ、今、メッセージが届いたのです!?」

「……俺の方にも今来たな。あー、用事が終わって、もうすぐ帰宅ってところか。てか、詳しく聞いてないんだけど……何の用事?」

「ヨッシをサヤの親戚の人に会わせに行くって言ってたよー! アルバイトの漁港! 海鮮バーベキューの時とかで面識自体はあったらしいけど、改めて挨拶だってー!」

「あー、なるほど」


 ふむふむ、知り合いって事でほぼ無条件採用っぽいからアルバイトの面接とまではいかない気もするけど、まぁそれに近い感じの用事だったのかもね。まぁなんだかんだで人と人との繋がりなんだから、そういうのも大事ではあるんだろうなー。


「あ、そういえばお母さんから、オリーブオイルはお中元として送るって言われたのさー!」

「……へぇ?」


 まぁ先に話されてたから、その内容は知ってるけどなー。……サヤがもしかするとこっちに遊びに来れるかもしれないって方は、どうなってるんだろ?


「……それにしても、今日はもう17時になるのさー。何をするにしても、中途半端になりそうなのです……」

「まぁ確かになー」


 サヤとヨッシさんもこれからログインだし、18時には晩飯でログアウトにもなる時間帯。まぁ今日に関しては全員が全員、ほぼ同じタイミングでログインする事になって、バラバラではなかったのはよかったとこか。

 というか、今のタイミングでサヤが来るかもしれないって話が出なかったのなら……晴香はまだ聞いてないのか。まぁ確定ではないって話だったしな。


「とりあえず、何をするかはログインしてから決めるか」

「はーい! 今日は兄貴とヨッシの対決でどうですか!?」

「今日も模擬戦!? いやまぁ、時間的にそれもありと言えばありだけどさ」

「ともかく、今は合流が先なのです! でも、その前に着替えなのさー!」

「だなー」


 暑い中を歩いて帰ってきたんだし、汗を拭ってから部屋着に着替えてしまおう。何をするにしても、まずはそこからだ。



 ◇ ◇ ◇



 ササっと着替え終わり、自室へと戻ってVR機器でのフルダイブを開始! 思いっきり脱線があったけど、なんとか続きをやっていけそうだな。


 という事で、いつものいったんのいるログイン場面までやってきた。えーと、今の胴体部分は……『定期メンテナンス、無事に終了しました!』と『今週末に、何かが起こる!』の2つが書かれているね。

 てか、そういや今日は定期メンテの日だったか。いつも昼間にやってるから、全然実感ないんだよな。まぁ特に大きな変更点はないっぽいし、特に気にしなくてもいいか。


「いったん、ログインボーナスをくれ」

「はいはい〜。こちらだね〜!」

「サンキュー!」

「どういたしまして〜! スクショの承諾は、時間はある〜?」

「あー、今は無理だな。後でやるから、コケでログインをよろしく!」

「はいはい〜! それじゃ今日も楽しんでいってね〜!」

「ほいよっと!」


 流石に今は時間がないから、スクショ絡みは後回し! ハーレさんが沢山撮ってたから、枚数は多い気もするしね。



 ◇ ◇ ◇



 最小限の内容でログインを済ませて、出てきた場所はエンのいる場所の外れの辺り。昨日は森林深部に戻ってからログアウトしたからなー。

 今日は夜の日だから、とりあえずこれは使っとこう。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 127/127 → 126/126(上限値使用:1)


 よし、これで視界は良くなった。とは言っても、そもそもエンの側は明るいから問題もないんだけど……。おっと、忘れないうちにこっちもしておこう。


<ケイが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>

<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>

<ケイ2ndが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>

<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>


 今日の分のログインボーナスも確保完了! さて、それじゃみんなを――


「ケイ、発見かな! ハーレも!」

「ハーレ、ケイさん、こんにちは!」

「おっす、サヤ! ヨッシさん!」


 サヤとヨッシさんが並んでこっちに向かってきてるのは見えるけど……ハーレさんは、どこだ? あ、多分後ろ……にいたけど、コソコソとなにやってんだ? 


「……おーい、なんでロブスターに乗ろうとしてる?」

「あぅ!? 気付かれたのさー!?」

「……まったく」


 なんかハーレさん、最近は妙にテンションが高い事が多い気がするぞ? ロブスターに乗るのくらい、別に言ってからすればいいだけの話なんだけど……というか、そもそも今、なぜ乗ろうとした!?


「ケイ、とりあえず上空にでも行かないかな? 今日の事も聞きたいし?」

「……あー、eスポーツ部の件、ハーレさんが言ってた?」

「うん、軽くだけど対戦するってのは聞いてるかな!」

「やるって事だけしか聞いてないけど……そもそもケイさんの了承をもらう前って言ってたよね?」


 ほほう? ハーレさんは俺が了承するより先に、俺が対戦する事を2人に伝えてた訳か。

 なるほど、なるほど。色々とeスポーツ部とはゴタゴタがあったのは知ってたのに、直樹の味方に付いてたって事だよな?


「っ!」

「おいこら、ハーレさん、待て!?」


 ちっ、ロブスターの上に乗ろうとしたのは、この状況を予想してのものか! 接近しまくれば、逆に何もしにくくなるって判断なんだろうけど、逃すかよ! 


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 125/126(上限値使用:1): 魔力値 311/314

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 106/126(上限値使用:1)


「あぅ!? やっぱり逃げられなかったのさー!?」


 よし、岩の操作で固めて捕獲! てか、逃げるくらいなら、初めからやるな!


「……えっと、なんでハーレは逃げたのかな?」

「ケイさん、何か問題でもあったの?」

「……あー、その件はとりあえず空まで上がってからでいいか?」

「それはいいけど……本当に何があったのかな?」


 不思議そうに首を傾げてるサヤだけど、ハーレさんが断っててくれれば色々と厄介な状況も躱しやすかっただけどな!? 悪気があった訳じゃないんだろうし、責める気もなかったけど……逃げようとしたなら話は別だっての!



 ◇ ◇ ◇



 ハーレさんを固めた岩を追加生成して、サヤとヨッシさんを乗せて上空へと移動。逃げた割には大人しく捕まってるし、そもそもログインする前から分かってただろうに……何故逃げた?


「それで、本当に何があったのかな?」

「ケイさんがログインしたのはさっきみたいだし、対戦の相手はしてたんだよね?」

「半ば、強引にだけどなー。それに手を貸してたのがハーレさんなんだけど……別に責める気はないのに、なんで逃げた?」

「強敵を引き入れた可能性と、その相手に勧誘されている事が繋がったら、少しパニックになりました!?」

「あー、そういう……」


 その2つ、地味に繋がってなかったんかい! でも、俺もそういう風には考えてなかったし……大真面目に、ややこしい立場になったのは間違いないか。


「ハーレが勧誘って、どういう事? 対戦を一緒にやってたの、ケイさんの友達なんだよね? ハーレの先輩でもあるって言ってたけど……」

「ケイがeスポーツ部との対戦を引き受けたんじゃないのかな!? 確かにハーレも一緒にって言ってたけど、本当に何があったの?」

「……まぁハーレさんは、その時の観察力を見込まれて、そのまま部員として勧誘された流れだな」

「暇になりそうだったから、ケイさんを冷やかしに行くつもりだったのに、それで勧誘されるとは思ってなかったのです!?」

「おいこら、待てや。冷やかしのつもりで、参戦してたのかよ! あれで逃げ道、かなり塞がれてたんだけど!?」

「冷やかしなのは否定はしないのさー! というか、あの内容をアルバイト用のグループメッセージでやり取りする事自体、どうかと思うのさー!」

「……それは確かにな」


 初めは直樹がアルバイトの都合に関わる日程を載せてきてただけなのに、何がどうして今日みたいな事になった!? ……って、考えるまでもなく練習試合を申し込んだ相沢さんが原因しかねぇよ!


「……つまり、ケイとしては不本意な対戦だったのかな?」

「まぁなー! それでもって、俺の中学の頃の友達が……ここで敵対するから所属を教えろと……」

「え、そんな事になってるの!?」

「なんか、モンエボの操作性が他のゲームでの動作の特訓になるって噂が広がってるらしいのです! それをケイさんが実証しちゃったのさー!?」

「そんな噂があるのかな!?」

「……あはは、初めて聞いた……訳でもないね? ケイさんが敵視してたアイルさんの参戦理由が、まさしくそれじゃなかった?」

「あー、そういやそうか」


 色々と誤解を生み出した相沢さん……ゲーム内ではアイルさんだけど、誤解の元はそれだったっけ。もしかして、その時点で色々と噂が発生し始めてた? うーん、火のないところに煙は立たないって言うし、その可能性はあり得そう。


「話の流れ的に、対戦自体はケイが勝ったのかな?」

「まぁ勝つには勝ったけど……ぶっちゃけ、強引にでも振り切って帰ってくりゃよかったと思ってるとこだよ。……ハーレさんが、対戦中についうっかり、俺のプレイヤー名を言っちまってるしさ」

「……それは本当にごめんなさい!」

「「えっ!?」」

「って事で……eスポーツで全国まで行ける奴が、特訓の意味も込めて赤の群集か青の群集に入ってくる可能性が相当高くなった……。てか、ほぼ確実に練習試合を受けた理由は、そっちを探る為っぽい!」

「……そして、私はその人からeスポーツ部の勧誘を受けてるのです!?」

「それは……難儀な話だね」

「思った以上にややこしい事になってたかな!?」

「……そうなんだよなー」


 正直、うちの高校のeスポーツ部の方は、無視しとけばどうとでもなる。多少不快な視線を浴びる可能性も……いや、そっちに関しては相当マシにはなるか。

 問題は……もう止める手段も、止める権利もない、直樹の敵対化。味方に引き入れるが最善策とは考えたけど、それに見合うメリットの提示が出来ないと……あ、そうか!


「ハーレさん、その部活の勧誘は受けちまえ!」

「えっ!? ええっ!?」

「ケイさん!?」

「え、ケイ、どういう狙いなのかな!? 敵対するんだよね!?」

「あー、ちょっと言葉足らずだったか。ハーレさんを生け贄にして、あいつを灰の群集に引っ張り込んで――」

「生け贄って言った!?」


 あ、しまった。今のは言葉選びを間違えた。まぁでも、決して悪い手ではないはず! 直樹はハーレさんという新戦力を獲得出来るし、その立場を考慮した上で敵対という選択はしてこないだろう!


「頑張ってくれ、eスポーツ部!」

「やるとは言ってないのさー! そんな事をしたらヨッシやサヤと遊ぶ時間が無くなるし、それは嫌なのです!」

「「……ハーレ」」

「……そこは、まぁ問題か」


 多少の我が儘は押し潰して、そのまま直樹へ受け渡すのもありなんだろうけど……流石にその点だけは譲歩させられない。ある意味、ハーレさんの1番のプレイ理由を潰すのは……いくらなんでも厳しいか。


「えっと、シンプルに疑問なんだけど……敵に強い人が来るの、何か問題があるのかな? ただ単にリアルで知り合いってだけで、多分そういう人は普通に来るよね?」

「あ、確かにそうだね。eスポーツ関連で噂になってるなら、この夏休みの大型アップデートくらいからそういう人は増えそうな気もするし……」

「……あ、言われてみればそうか」

「そういやそうなのさー!?」


 直樹やその周りの部員だけで考えてしまってたけど、よく考えたら噂になってるなら他にも同じ理由で入ってくる人はいるはず。……というか、俺らが知らないだけで、もう既に入ってきてる可能性もあるんじゃ?


「今、レナさんはログインしてるか? ちょっとその辺、何か知ってないか聞いてみたいんだけど……」

「レナさんなら、知ってる可能性はありそうなのです!」

「うん、まずは確かめてみるべきかな!」

「場合によっては、それがケイさんの友達を味方に引き入れる理由にもなるかもね?」

「……だなー。まずは情報収集をしてみるか」


 もし、直樹が全国大会とかで戦った相手の存在でも判明すれば、それを理由に灰の群集に引き入れる交渉材料になる可能性はある! とはいえ、そこまでリアルの情報がこっちまで流れているかは……調べてみないと分からないか。


 えーと、レナさんは……よし、ログインしているし、いる場所は森林深部だな。手が空いていたらいいんだけど……とりあえずフレンドコールをしてみよう。あ、すぐ出てくれたね。


「およ? ケイさん、いきなりどうしたの?」

「少しレナさんに聞きたい事があってさ。今、大丈夫?」

「ちょっと雑談してた程度だから大丈夫だよー! でも、ケイさんがフレンドコールしてきてまですぐに知りたい内容って、どんな内容?」

「あー、もし知ってたらでいいんだけど――」


 出来るだけリアルでの個人情報については避けつつ、事情を説明していこう。eスポーツに関係するかどうかは分からなくても、実力派揃いの新規勢が増えているとか、そういうのが分かればいいんだけどな……。

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