第1417話 別のゲームでの対戦 下


 ははっ、やろうと思えば出来るもんだな! 崩落していく破片を飛び移って、上に逃げるって芸当! ゲームとかの中だけの話……って、そういやこれもゲームか。なら、出来ても不思議じゃないよなー!


「はっ! なんとか生き残ってたか! おら、こっちは終わりだ!」

「これで、トドメなのさー!」


 おー、相沢さんともう1人を同時に撃破か。直樹が攻撃してない方を狙って撃つとは、晴香もやるな。まぁ結構反撃を受けて、HPが相当減ってるけどさ。


「……で、平然と崩れたビルの上から圭吾が出てくるのか。どうやったんだ、それ?」

「吹き抜け状態だったから、完全に崩れる前にジャンプして上へ逃げた感じ?」

「……やっぱりアバター操作の精度が、おかしな事になってねぇか?」

「まぁゲームだし、これくらいは出来るだろ!」

「サラッと言うが、実行は難しいやつだがな……」


 普段から、大質量の水とか扱ってるしなー。このくらいのビルの崩落より、スリムさんの使う土の操作Lv10の方が意思がある状態で動く分だけ厄介な気がする。ぶっちゃけ、物理演算通りに素直に落ちてくるだけさしなー。


「圭吾、今のうちにさっさとナイフを拾ってきとけよ」

「ほいよっと」


 ナイフは本人以外には持ち上げられない仕様で誰かに拾ってきてもらう事は出来ないから、自力で回収してくるしかないからねー。

 まぁそういう仕様だからこそ、俺が必ずここに戻ってくると考えて、下手に動けなかったんだけどな。……よし、ナイフの回収は完了!


「流石にナイフを囮は、もうなしだな。手札を変えられないのはちょっと面倒だ」

「あったらあったで、ハンドガンをエレメントに分解して、手榴弾にして爆殺を狙ってたろ?」

「そうそう。それは考えたんだけど、ナイフがなくて出来なくて困ったんだよなー」


 そこは失敗。まさか相沢さんもあのビルを崩すつもりだとは思ってなかったけど……連鎖的に破壊出来たのになー。


「……平然と肯定してくるんだな。まぁとりあえず移動するぞ。さっき突っ込んでくる時に風のエレメントが近くにあるのを見つけたし、そこに行くぞ」

「おっ、ナイス、直樹! よし、まずは武器確保だな!」

「はーい!」


 最低限でも、俺の武器は必要だしなー。ナイフを使ったさっきの戦い方は、やっぱりあんまり良くはない。緊急回避の足場にするとしても、持ってる銃を使った方がまだマシ。他のエレメントから武器化すればいいんだし、手持ちが無くなっても問題はないしなー。


「ところで、FPSなのに兄貴がほぼ銃を使ってないよ?」

「直樹も割とそうだぞ? ほら、さっきもナイフで――」

「そりゃ圭吾の作戦だったからだろうが! あー、とりあえず武器の調達に行くぞ。いくらなんでも、状況的に貧弱過ぎる装備だしな」

「晴香にスナイパーライフルは欲しいとこだよな」

「はい! この減ってるHPはどうやれば回復しますか!?」

「あぁ、それは回復しねぇよ?」

「死ぬまでそのままだから、気にするだけ無駄だぞ。部位欠損とかは、時間経過でなんとか動ける程度には自然治癒するけど、HPは回復しないしなー。場合によっては、自爆した方が早い」

「え、そうなの!?」


 死ぬ以外では一切の回復手段が存在しないってのが、結構独特な要素。まぁだからこそ活きる戦法もある訳だけど……それは今はいいや。


「次は……というか、全般的に晴香ちゃんが狙われてるから、いざって時はそのまま自爆しちまってもいいからな? 一方的にキルを取られるよりは、巻き添えで差し引き0ってのもありだしよ」

「おぉ、そうなんだ!」


 そういうのがあるから、出来れば変にHPを減らすよりはヘッドショットで即死を狙いたいんだよなー。もしくは爆殺。


「てか、もう残り時間ってそんなにないじゃん? これ、そのまま逃げ切ってもよくね?」

「逃してくれるなら、別にそれでもいいけどよ。……相手、今2人がスナイパー持ちだぞ?」

「あー、どうにか射線を通して、狙撃を狙ってくるか」


 どこで復活してるかにもよるけど……俺でもこの局面で下手に近付くのは避ける。今の時点で、俺らが5キルで相手は0キル。残り3分くらいだし、ここから覆すなら一方的に仕留めていくしかない。

 だから、やるとしたら徹底的に隠れて、確実に仕留めてくるはず。射線が通らない場所には、爆弾を設置して回ってるとも考えた方がいいな。


「晴香、索敵を頼んでいいか? 建物の中はかえって危険だろうから、射線が通る位置を進むぞ」

「はーい!」


 向こうがこっちを見つけられる位置にいるって事は、必然的にこちらからも見える状態だ。スナイパーライフルでの望遠レンズの有無は大きいだろうけど、それでも晴香の観察力なら違和感くらいは見つけられる可能性はある。


「……おい、圭吾? そりゃちょっと無茶振りじゃねぇか?」

「いやいや、そうでもないんだよ。言ったろ? 晴香は実力派寄りのサファリ系プレイヤーだってさ。ちょっと前にスクショのコンテストがあったんだけど、そこで入賞してるぞ?」

「なっ、マジか!? ……へぇ、こりゃ俺もまだ甘く見過ぎてたかもな」

「あぅ!? えへへ?」


 あれ? そこは『えっへん!』とか言いながら自慢げにしそうな気がしてたんだけど、普通に照れて戸惑ってない?


「はっ! 右斜め前のビルの真ん中辺り!」

「っ! 圭吾、晴香ちゃん、壁に隠れろ!」

「分かってるっての!」


 おわっ! すぐに飛び退いて近くの壁に隠れたけど、少し腕に掠ったか。この弾速の速さは、多分風のスナイパーライフルで、風の弾も使ってるな。

 ちっ、この付近は低い建物が多いし、壁も薄いし、天井は大体崩れ去ってるから狙いやすい位置ではあるか。まぁ晴香が相手の位置を確かめるには、いい場所でもあったけどな。


「圭吾! この壁くらいなら、風ダブルだと貫通してくるぞ!」

「分かってるって! 直樹、シールドにして晴香の防御を頼む! 俺は銃を確保してくるからな!」

「……ったく、今度は1キルも渡す気はねぇってか! 防御は任せとけ!」

「今度は左側面、ビルの屋上なのさー!」

「よく見つけんな、おい!? ちっ、マジでいやがる!」


 晴香が見つけたのに合わせて、即座にシールドで防ぐ直樹も直樹だけどなー。てか、2方面からスナイパーで狙ってくるのは……まぁ想定内。あと1人がどこで何をしてるかが問題だけど、俺なら下手に合流するよりも2人がバラけた位置から撃って、1人は罠設置って感じで割り振るね。


 俺らがいた位置はバレてるんだし……エレメントがこの近くにあったなら、狙う場所としてはそこか。ハンドガンはあるけど、エレメントが少ないし、いっそシールド用にエレメントへ変えた方がいい――


「っ!?」


 とか考えてたら、目の前に手榴弾かよ! これ、避け切れ……ちっ、ハンドガンにナイフを突き立ててエレメントに還元して、シールド展開! そうじゃないと、これは耐え切れない!

 あー、シールド展開中は物理的に大半の銃が持てないってのは、結構厳しい仕様だよな! まぁその分だけ耐久性はあるし、ナイフなら使えるから……距離を詰めての追撃に警戒!


「……突っ込んでこないか?」


 手榴弾が飛んできたのは前方からだけど……もしかして、今のは誘導か!? シールドを使わせて、武器を使わせないのが狙い? もしそうだとしたら、狙いはなんだ? 近くに潜んでの奇襲か……もしくは、直樹を晴香を狙ってるスナイパー2人が俺を狙って――


「っ! ケイさん、そっちに銃口が――」

「おわっ!?」


 晴香の声が聞こえたから咄嗟にシールドを消して伏せたけど、頭の上を通り抜けていった!? 危な!? 可能性を考えてたとこだったから、なんとか回避が間に合った!


「って、おい!? 晴香、呼び方!」

「はっ!? 兄貴、ごめんなさい!」

「あー、まぁ今のはしゃーないけどさ!」


 晴香としても咄嗟の判断だっただろうし、モンエボでの呼び方がつい出たのは仕方ないか。まぁ直樹しか聞いてないんだし、それほど問題にもならないだろ。

 とりあえず今は姿勢を低くして、シールドを再展開! スナイパーで狙ってくるのは分かったけど、まだ近くに誰かがいるんだから油断は出来ないぞ。……これ、シールド展開分のエレメントは保つのか?


「圭吾、大丈夫か!?」

「……あんまり油断出来る状態でもないなー。流石に2ラウンド目となれば、相手のキル数を0で終わらせるのは厳しいか?」

「少なくとも、1ラウンド目ほど一方的にとはならなかったな。とはいえ、このままなら粘り勝ちだぜ?」

「あー、もう少しで終わりか」


 残り30秒の終了のカウントが始まったし、ここから逆転の目はほぼないな。立て続けに復活した場所の近くに相手がいて、その上で仕留められまくらない限りだけど……。

 まぁそれはもの凄く俺らにとって運が悪ければの話。可能性としては存在するけど、限りなく可能性は低いから、俺らの勝ちでほぼ確定。


「……だからって、下手に殺される気もしないけどな」


 焦ったのか、背後から……多分崩れた壁の向こう側から石を蹴飛ばす音が僅かに聞こえて、そこから慌てて動く足音も聞こえた。位置的には……まぁこの辺か。

 とりあえずシールドを解除して、残ったエレメントを手榴弾にしてざっくり放り投げる。リアルで物を投げる感覚ではなく、ゲーム上でどういう風に投げられていくかをイメージ! 操作するアバターはリアルよりも力が強いから、落ちる場所をしっかりとイメージ出来た方が正確な位置に落ちるしね。


「おし、追加の1キルっと!」

「おぉ!? 兄貴、凄いのさー!」

「ははっ! ここで最後のダメ押し追加か!」


 さーて、復活には10秒かかるんだし、もうそれだけの時間はない。スナイパー2人もここから俺ら3人を仕留めたところで、完全に勝ちはない。


<対戦終了:ラウンド2、勝者『山田、吉崎(兄)、吉崎(妹)』>


 よし、ラウンド2も取ったからこれで勝ち確定! はぁー、思ったよりもeスポーツをやってる人相手でも戦えるもんだな。1ラウンド目よりは危ない部分も出てきてたし、予選は突破出来るだけの実力は……まぁ直樹が言うんだからあるんだろうね。


 おし、対戦エリアから、待機エリアへと戻って、各ラウンドのリザルト結果が出てきて……俺らの勝利の演出っすなー。あとはここから『対戦の継続』か『ゲームの終了』を選べばいい。

 そういや何戦するかとか聞いてないけど……1戦すれば、もう帰ってもいいのかね? もう変な雰囲気で苛立った分の報復自体は済ませたし、もういる理由もないんだけど……。


「ふっふっふ! 大勝利なのです!」

「直樹、もう帰っていい?」

「ちょ!? 勝利の余韻も何もねぇな!?」

「だって、別に来たくて来たわけでもないし……」

「いやまぁ、そりゃそうなんだがな? ……これで納得して、帰してくれるのか?」

「ぶっちゃけ、帰ったら駄目と言われても知らん!」

「そういうとこは頑固だよな、圭吾。ま、その辺は一旦フルダイブを終わらせて聞いてみようや」

「……聞く必要もないけどなー」


 直樹は『帰るな』とは言わなかっただし、うちの高校のeスポーツ部に義理立てする理由はない! 部活勧誘を断ってた件で変な雰囲気を作ってなけりゃ、もう少し付き合うくらいはしてもいいけど……まぁそれは既に遅いしね。


 という事で、『ゲームの終了』を選んでフルダイブも終了! 対戦してなかったメンバーは外で対戦の様子は見てただろうけど……慎也、余計な事を言ってないだろうな?

 チームメンバーとの会話は聞こえなかったはずだから、変に俺らの会話が筒抜けにはなってないはず。ゲーセンでのやつはそういう設定だったし、移植版だって同じ仕様だよな!? 違えば、直樹が説明してるよな!?


 さーて、とりあえず意識が現実に戻ってきたけど……なんか思いっきり注目を集めてない? あー、まぁあれだけボロクソにして勝ったら、eスポーツ部の部員としては面白くない――


「吉崎くん! やっぱり部活に入らな――」

「それは断る!」

「拒否が早いよ!?」

「むしろ、なんでいけると思ったんだよ……」


 相沢さん、対戦前の雰囲気は見てたよな!? ラウンド1の時も、俺への敵意を隠す事がなかったのも分かってるよな!? それで、冗談抜きでなんでいけると思った!?


「……なぁ、圭吾? 相沢さん、お前にどういう勧誘してきたんだ?」

「今やってるゲーム内まで追いかけて――」

「待って!? 吉崎くん、待って!? それは誤解の結果だって、ちゃんと伝わったよね!? 確かに思いっきり警戒されたし、危うく廃部になりかけたけど、誤解は解けたよね!?」

「「「「廃部!?」」」」

「……あっ!?」

「部長、どういう事? なんか知ってる情報と違うんだけど?」

「おいおい、断られたとは聞いてたが……他のゲームまで追いかけてたとは聞いてねぇぞ?」

「えーと、みんな? それにはちょっとした誤解があってね? 私が警戒されたのは間違いないし……まぁ実際にそのゲームをやっちゃってもいるし、中でも遭遇しちゃってるんだけど……」

「何やってんだ、部長!?」

「……そりゃ、即答で断られても仕方ないな」

「わー!? みんなして冷たい目で見ないでー!?」


 おー、諸悪の根源に正しい認識が向かっていってるね。まぁ、ぶっちゃけその前にも普通に断ってはいるんだけど……それだけじゃ、あんなに警戒する事もなかったしな。

 つまり、相沢さんが悪い! 口が軽かった、コソコソと逃げようとしてる慎也もだ!


「佐山くん! この件は完全に無関係でもないんだから助けてー!」

「それは知らん! 圭吾、それじゃまたな!」

「あ、逃げた!?」


 おー、見事な逃げっぷり。まぁ今日ばかりは、慎也の気持ちに同意しよう。


「さて、帰るか、直樹、晴香!」

「はーい!」

「……あれ、放っといていいのか? てか、随分と迷惑をかけたって凹んでたのは、こういう事か?」

「そうそう、そういう事。誤解はあったとはいえ、根本的には相沢さんの自業自得。どうも、色んな経緯は説明してなかったみたいだし、俺への変な敵意は消してもらわないとなー」

「……なるほどな。まぁ確かにここに来た時の殺気は妙な感じだったし、説明不足が原因か」

「わー!? 待って、待って、待って!? この状況で置いていかないでー!?」

「「「「部長、説明は?」」」」

「ひっ!?」


 もう対戦どころじゃなさそうだし、部活の存亡の危機にあった事の説明は部長として、しっかり部員に説明しておくべき責任だよな。そのきっかけが自分自身なら尚更に。


「ちゃんと話すから! 経緯を説明するから! みんな、目が怖いんだけどー!?」


 そういう目で見られてた俺へのフォローは何もなかったんだから、助ける理由もない! ともかく、今日の寄り道はここで終わりだ!

 さっさと帰って、続きをやろうっと。あ、でもサヤとヨッシさんも遅くなるって言ってたっけ? とりあえず、どの程度遅くなるのか聞いとくかー。

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