第1415話 別のゲームでの対戦 上


 自分の高校のeスポーツ部相手に対戦するのは変な気分だけど、成り行きでもこうなった以上、全力でやるまで! ちょっと不快な部分もあったし、その分くらいは……出来るかなぁ? まぁやるだけやってみるか。


<カウントダウン、開始>


 さて、対戦エリアへの転移が始まったか。久々にやるゲームだけど、どれだけ動けるものやら……。あんまり気分のいい方法ではないけど、第1ラウンドはあっさり取られても仕方ないつもりでやっていくか。


「兄貴、兄貴! 聞き忘れてたけど、中での会話はどうなるの!?」

「あ、そういやそれを言い忘れてた! 味方にだけ声が伝えるモードがあるから、それにすぐ切り替えてくれ! 基本はそっちでいく!」

「おぉ!? そうなんだ!?」


<対戦開始:ラウンド1>


 危ない、危ない! 普通に喋っても伝えられはするけど、作戦がダダ漏れになるのは避けないと! 危うく、そういう状況に陥るとこだった……っと、場所が切り替わったね。


「なるほど、荒廃した都市になったか」


 とりあえず手早く味方のみに声が伝わる設定に変えておこう。その上で、このマップの特徴を晴香に伝えて――


「晴香ちゃん、聞こえるか?」

「あ、うん! 聞こえる!」

「それじゃこの荒廃都市の特徴を説明するぜ! 廃墟系のエリアは基本的に『土のエレメント』と『風のエレメント』が多いのが特徴だ! あと、建物はどこも崩れやすい!」

「おぉ! そうなんだ!」


 直樹が説明してくれてるみたいだから、俺は久々の動きに慣らしてみるか。開幕直後はマップに表示される味方はともかく、敵の位置はさっぱり分からんしなー。

 これのアバターの姿は……ヘルメットをして、全身ライダースーツみたいな服装だったっけ。その辺も変わらずっぽいね。チームで色分けされてるけど、俺らは青色になったか。

 この辺、色やエリアによっては隠れやすかったりもするんだけど……そういうアドバンテージは得られずだな。


「現在地は、ほぼ中央か」


 晴香が南東の端の方、直樹は俺よりちょっと北辺り。ここはそれほど広いマップではないけど、かなりバラけた位置に出たのは痛いな。


「おっと、早速お出ましか! 圭吾、俺は戦闘に入るぞ!」

「ちょ!? 接敵、早いな!?」



 何か武器をもう手に入れたのか!? あ、所持状態は何もなしだから……直樹め、ナイフで戦う気か! いやまぁ、あいつなら出来なくはないよなー。


「晴香、とりあえずどっかのビルにでも入って隠れてろ。俺は武器の調達に行く」

「了解です!」


 荒廃都市なら、崩れた高層ビルなんかも多いから遮蔽物も多い。晴香が隠れておくにはいい場所だ。

 初期装備のナイフだけでは、早々に仕留める事も仕留められる事も難しいし、俺も手早く何か武器を手に入れて……。


「おっし! エレメント、見っけ!」


 完全に横倒しに崩れたビルの上に、『土のエレメント』があった。ただ、見通しが良い訳じゃないから……高所にある場合は注意が必要か。ビルが崩れてるなら、中の階段は使えない事も多いから……。


「届くか、これ?」


 フルダイブでのVRのゲーム、特にアクション性が強いものは明確に普通の身体よりも身体能力は高い。それでも何もなしで跳び上がれるかどうかは……やってみないとなんとも言えないか。

 ゲーセンでやってた時ではギリギリ届くかどうかって高さだけど、家庭版に移植された時に調整が入ってる可能性もあるしな。


 という事で、全力疾走してから盛大にジャンプを……って、はぁ!? ちょ、こんなに走る速度って出たっけか!?


「直樹! これ、前とキャラの挙動が変わってないか!?」

「そんなもん、ほぼ変わってねぇよ! 変わってるとしたら、圭吾のキャラ操作の精度だっての! おら、1キル目だ!」

「……はい?」


 なんかシレッとナイフだけで1人目を仕留めつつ、答えが返ってきたけど……挙動は変わってない? それなのに、この明確に感じる変化? あ、モンエボが特訓になるってそういう意味!? あー、その確認は後にするとして……。


「この感じなら、この程度は余裕で届く!」


 へぇ、やっぱり想定していたよりも跳躍力が高いな。いや、イメージ通りに動きやすくなっているって言うべきか。まぁ深く考えるのは後にして……相沢さんがこっちに向かってきてるっぽいしね。しかも、緑色のハンドガンを手にしてるから、風のエレメントを取得済みか。


「さて、何が出る?」


 茶色く噴出している光に手を突っ込んで、引っ張り出すようにすれば武器が形になって現れる。ほほう、いきなり俺がこれを引き当てるか。


「これ、晴香にやらせるつもりだったんだけどな」


 手に入ったのは、茶色いスナイパーライフル。手に入れた武器には同属性の弾が少し入っているから、もう既に使える状態だ。すぐにその場へ伏せて……相沢さんは、こっちの存在に気付いているか?

 とりあえずスコープを覗き込んで……あ、思いっきりこっちを見てるし、建物の影に隠れたから気付いてはいるっぽいな。今の距離なら……風なら狙って狙えない事もないけど、土じゃ少し厳しい――


「っ!」


 嫌な気がしたと思ったら、伏せてたビルが爆音と共に倒壊した!? ちっ、近場に他にも人がいて、グレネードランチャーでも使ってきたか! 少ないだけで『火のエレメント』が存在しない訳じゃないしなー!


「おわっ! おっとっと!」

「大丈夫か、圭吾?」

「あー、大丈夫、大丈夫」


 焦りはしたけど……何気に倒壊していくビルの瓦礫を足場にして飛び移って無事だった。前はこんな芸当は出来なかったのに……やっぱり、変化は思いっきりある。

 ははっ、ここまで明確に影響が出るんなら、噂ってのも案外本当なのかもな!


「兄貴! 今、そっちに赤い何かを飛ばした人が見えてるのさー!」

「へぇ? なら、これは晴香にやるから、そこから狙え!」

「え、あ、うん!」


 即座に持ってるスナイパーライフルを晴香に送って、俺は手ぶらに舞い戻り。でも、戦略としてはこれでいい。


「えっと、えっと! これをこうして……えいや!」

「おっ、1発で仕留めたか」

「晴香ちゃん、ナイス狙撃だ!」

「えっへん! あ、撃った後はすぐに場所を変えた方がいいんだよね!?」

「おう、そうだぞ!」


 1発で仕留めたって事は、ヘッドショットを成功か。遠距離からの狙い方は正確だと思ってたけど、まさかいきなり1キルを取るとはね。狙撃は位置がバレると避けられやすくなるから、撃った後は移動も重要!


「直樹、俺の北側にある天井のない廃屋に相沢さんが隠れてる。俺が死んでないのと、今の狙撃に気を取られてるだろうから、後ろから強襲してしまえ」

「はっ! まだエレメントを何も取れてないんだがな!」

「それでも十分だろ?」

「違いねぇな!」


 直樹が既に仕留めた奴と、晴香がさっき仕留めた奴は、少しの猶予期間を空けてからリスポーンしてくる。位置はランダムだけど、今いるのは相沢さんのみ!

 さて、今の間に俺はまたエレメントを探して武器を手に入れてこようっと。流石に直樹みたいに、相手が銃をぶっ放してる中にナイフだけで突っ込むなんて真似は……いや、今なら意外と出来そうな気もするな?



 ◇ ◇ ◇



 それからの1ラウンド目は、何度か晴香が倒されはしたものの……俺と直樹は1度も仕留められる事なく、俺らの圧勝で終わった。まぁ1ラウンド10分間だから、全く死なない事も時にはある。そして、今は2ラウンド開始前の待機中だけど……。


「わっはっは、圭吾! 前より段違いで良い動きをしてんじゃねぇか!」

「いやー、自分でもビックリなんだけど……。てか、俺への殺意、高過ぎない?」


 さっきのラウンド、序盤は思いっきり狙われまくってた気がする。まぁ予想以上に回避が出来てたのも驚いたけどさー。……操作精度、変わりすぎじゃね?


「わっはっは! ありゃいくらなんでも圭吾を舐めすぎだっての! まぁそれ以上に晴香ちゃんの想定が甘くて、痛い目を見たってのはあるだろうな!」

「え、そうなの!?」

「序盤は特にな! 気に入らない圭吾をぶっ殺そうって感じで、晴香ちゃんなんか眼中にもなかったぜ、あいつら。そのくせ、俺にはしっかりと警戒してるもんだから――」

「晴香の狙撃が活きまくりって状態だったなー。脅威だと判断してからは、晴香狙いも多くなったけどさ」

「そこから圭吾が奇襲を仕掛けまくりってな!」

「そりゃまぁなー」


 明確に隙が出来てるのに、そこを突かないのは手抜きし過ぎだしね。それにしても、実際にやってみてこれは思った!

 

「うちのeスポーツ部、弱くね?」

「いや、そうでもないぞ? 序盤は圭吾狙いで酷かったが……中盤くらいからはしっかり立て直してたからな。ぶっちゃけ、あれが初めから出来るなら、予選を突破出来るくらいの力量はあるぜ?」

「え、マジで?」

「おう、マジでだ。ぶっちゃけ、今回は俺らっていう相手が悪いだけだな。指揮官は相沢さんみたいだが、連携自体は思ってたほど悪くはねぇ」

「……ほほう?」


 俺も直樹も1度も仕留められてはいないけど、後半からは晴香をしっかりと仕留めてキル数は稼いでたもんな。まぁそういう狙いが見えたから、囮として存分に活用させてもらったけど。


「というか、圭吾? 晴香ちゃんが狙われる度に俺を突っ込ませてたけどよ? いくらなんでも、武器なしで突っ込ませる事が多過ぎじゃねぇか? わざわざ武器をシールドが長時間でも展開出来るようエレメントに変換して、ナイフだけで特攻って……うちの部長でもまず出さない指示だぜ?」

「……別にFPSだからって、武器は銃だけじゃないしなー」


 直樹が面白いくらいにナイフで仕留めるもんだから、ついそういう指示を出し過ぎたってのも確かにあるけどさ。相手の声が聞こえない状態だけど、混乱して対処し切れずに悪態を吐いてるっぽい様子は見えてたし……。


「いやいや、確かにそういうプレイスタイルもあるし、緊急時にそういう戦い方もするけどよ? あくまで、これはFPSだぜ? シールドバッシュからの近接攻撃は、基本は想定しねぇって!」

「ん? そこは相手の撤退判断が遅いだけじゃね?」


 別に真っ向から受け止める必要もないんだし、下がるというのも戦略の一部。まぁそう簡単にさせるつもりはなかったけどさ。


「晴香ちゃんの狙撃で睨みを利かさせて、設置型の爆弾で建物を崩して退路も断ってたくせに、よく言うもんだな!? 戦略のぶっ飛び方が、動き以上に磨きがかかってんじゃねぇか! 銃を使え、銃を! なんで前より銃を使わなくなってんだよ!」

「……そう言われてもなー」


 その場の状況で有効な手段を選んで使ってただけだし、FPSだからって銃以外で攻撃したら駄目なんてルールもないしさ。手榴弾やらグレネードランチャー辺りは向こうも使ってた訳だし。


「あ、そうだ。動きと言えば……これ、イメージでの操作がスムーズになってないか? 挙動は変わってないって言ってたけど……これ、モンエボをやってるのが関係ある?」

「見た感じ、影響ありまくりだな! あのゲームは人外ばっかだから、キャラ操作のイメージ部分が操作精度の強化になるってのは噂の内容だぜ?」

「あー、なるほど」

「はい! どういう事ですか!?」


 不思議そうな顔をしてる晴香だけど……まぁそう思うのは無理もないか。俺もさっきの1戦をやるまで、そんな実感はまるでなかったしなー。


「えー、簡単に説明するとだ……フルダイブのゲームだと生身とアバターの動きの差異を感じる事があんだろ? 実際の身体より、アバターの方が遥かに身体能力が高いしよ」

「はっ!? それは確かにあるのです!」

「その感覚差を埋めれば、それだけアバターの動きが良くなるってんだが……まぁこれが感覚的なもんだから、難しいって話でな。知ってるか、圭吾。eスポーツ部だと、練習の1つとして障害物満載のVR空間内で何の補佐もなくパルクールとかするんだぜ?」

「……マジで?」


 パルクールってあれだよな。確か、色んな障害物を走った状態で飛び越えたり、飛び移ったりって、そういうやつだよな?

 オフラインのゲームでそういうのを体感する事はあるけど、そういうのはシステム的なサポートありでの話だし……サポート無しで出来るように特訓するのか!?


「現実には出来ない動作を、出来ると思うように認識を変える特訓でな? ゲーム用のアバターは通常の人体よりも強靭な身体能力が設定されてるのが当然なんだが、それを可能な限り引き出そうって内容だ。ま、結果的にだが、ある程度はリアルでもパルクールが出来るようにはなるけどよ」

「……まぁ、結局は身体の動かし方の話だしなー」


 中学の頃よりも動きの無駄がなくなってるように思ってたけど、そういう鍛え方をしてたからか。なるほど、流石はeスポーツで全国まで行っただけの事はあるんだな。

 フルダイブでの操作は身体の動かし方は重要だし、ゲーム以外でも鍛える事もあるんだね。ちょっとそのパルクール用の障害物満載のVR空間ってのを見てみたい……って、ちょっと待て!? 障害物の多い場所!?


「はっ!? モンエボの中だと、普通にそんな動きをしてる人が多い気がします!?」

「そう、そこが肝なんだよ! ありゃ完全にシステムの動作サポートでの挙動の産物だし、手段としてはパルクールの特訓とは真逆になるんだが、生身ではあり得ない動作が当たり前になってるから、そういう部分がイメージの強化に繋がるって話だぜ。俺自身、半信半疑なとこだったが……圭吾の動きを見てれば、あながち眉唾ものでもねぇな」

「おぉ! そうなんだ!?」


 ふむふむ、確かにモンエボでのキャラ操作は『どの方向に動かしたいか』ってイメージを元に操作してるもんな。その認識が、他のゲームでの生身との動きの差異を打ち消して、アバターの操作性を向上させている? イメージするべきは、リアルの身体よりも優れた動作だもんな。


 モンエボ内での挙動を良くするには、各部位を手動で細かく動かすって方向性だけど……よく考えたら、他のゲームとは完全に方向性が真逆か。

 モンエボでの『早く動く』イメージが、こっちのアバターでの『早く動く』のイメージを補強してるのかも? まぁ体感的に、明確に前よりも動きは良くなってるしなー。


「……なるほど、モンエボのキャラ操作が直樹がやってるパルクールに相当するくらいの特訓になるって事か」

「ま、そういう事だな! 圭吾、その辺はなんか心当たりがねぇか?」

「……そこそこ?」

「おっ、こりゃ色々とありそうな時の答え方だな!」

「ふっふっふ、確かにそうなのさー!」

「……まぁ否定はしない」


 飛行鎧で飛行中とか、まさしくその辺に該当しそうな内容だしねー! 普通に身体を動かす感覚と、あの操作での感覚が混ざってこその動きか。

 オンライン版になって、オフライン版の時よりも対人戦の際に高速で動く事が多くなった影響もありそうな気がする。だからこそ、咄嗟の動作に染みついたイメージが反映されるのかも?


「噂についてはそんなもんだな。まぁ俺としちゃ、晴香ちゃんの働きっぷりが正直かなり意外だったんだが……うちの高校でeスポーツ部に入る気はねぇか?」

「え!? えぇ!?」

「……勧誘するなとは言わないけど、せめて終わってからにしてくれね?」

「おー、悪い、悪い! それにしても……圭吾も勿体ねぇな? その動き、普通にうちでレギュラー取れるぞ?」

「いやいや、そんなお世辞はいらないから」

「……圭吾、俺がそんな気が利くタイプだとでも思ってたか?」

「……思ってないなー」

「わっはっは! だよな!」

「ですよねー!」


 軽く返したけど……直樹から見て、そういう判断になるのか。相沢さん達が予選を突破出来るくらいの強さだとして……俺らはそれを上回ってる?

 ははっ、そんな自覚は全くなかったけど……実際、こうして結果が出てるんだしなー。思ってる以上に、俺って強いのかも? 


「さて、そろそろ2ラウンド目が始まるぞ。圭吾、晴香ちゃん、油断すんなよ?」

「はーい!」

「ほいよっと!」


 よし、今度のラウンドは俺も思いっきり攻撃的に動いてみるか! ただまぁ、向こうも1ラウンド目よりは油断が消えてるだろうから、そこは要注意で!

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