第1414話 別のゲームの作戦会議
とりあえずチームごとに打ち合わせという事で、フルダイブを行って、ゲーム内に用意されたチームの待機用のVR空間へ移動したけども……ちょっとこれは想定外だった。
「対戦用のゲーム、これかよ!」
「わっはっは! そもそもフルダイブ式のeスポーツ部門自体が割と新設だし、まだまだオンライン対応の大型タイトルって多くはねぇからな! 去年まではゲーセンで運用されてたやつで、今年から一般向けの移植版に移行したとこだぜ!」
「……マジかー」
ふむふむ。そもそもフルダイブでのオンライン対応自体から、それほど年数が経ってる訳じゃないもんな。オフラインの1人用のFPSゲームなら数はあるけど、対戦可能となると数は限られてくるのか。
そう考えると、ゲーセンの環境下に限定されてたとはいえ、フルダイブでの対戦を可能にしてたタイトルが採用されているのは必然でもあるんだな。まぁそれでも、直樹と中学生の頃にゲーセンでやってた魔法の撃ち合いゲームそのものが出てくるとは思わなかったわ!
「あと、これは流血表現がないから、学生向けの大会ではよく採用されんだよ。ガチの戦争ゲーは年齢規制が入って、そもそも高校生にはやらせられんってな」
「あー、そういう基準……」
FPSって銃撃戦がメインだし、高校生が対象だとそういう選定基準が入ってくるのも納得ではあるかも。そもそも、これなら年齢規制に弾かれずに中学生だけでもプレイ出来てたってのも大きいしなー
まぁジャンル的にはFPSだから銃自体はあるけど、実在の銃じゃなくて、魔法の弾を撃ち出す銃だしね。性質自体は普通の銃とそう変わらない弾と、魔法ならではの特殊な弾が使える2パターンの運用が出来るやつ。舞台自体も、そもそも仮想空間での代理戦争だっけな。
「おぉ! 『Magic Gunfight』って、タイトルだけは聞いた事があるのさー! 兄貴、これをやってたの!?」
「まぁなー。直樹、基本ルールは変わらず?」
「昔はなかった3人1組、20チームが入り乱れてのバトルロイヤルモードってのは増えてるが……ま、それは今回は対象外だから気にしなくていいぜ。今回の件やるのは、3対3のアリーナモードだ」
「……なるほど」
まぁ既にやった事があるゲームが対象なら、直樹が俺を指名してきた理由はなんとなく分かった。これなら単純な銃撃戦のFPSよりも俺の得意なタイプだし、そもそも2人でやりまくってたゲームだもんな。3人組だから、もう1人は毎回ランダムマッチングでやってたけど。
タイトルに『Magic』と入っているだけあって、普通ではあり得ない銃撃戦を楽しめるというのがこのゲームのコンセプト。一般向けのVR機器に移植されたのは一応知ってはいたけど、他にやりたいゲームの発売と被っててスルーしてたっけ。
「さて、指揮官、どういう作戦でいく?」
「……そういう呼び方、やめてくれね?」
「わっはっは! 悪い、悪い! まぁ前みたいに俺が特攻して、圭吾が援護射撃ってとこだろうが……晴香ちゃんも圭吾と一緒にモンエボのオンライン版をやってるんだってな? そっちでのプレイスタイルは遠距離物理だって聞いたが、役割的にはスナイパーが適任か?」
「言ったのかよ、晴香!?」
「自分の話なら、別にいい範囲なのさー! 兄貴と一緒にやってるのは、避けられない話題なのです!」
「そりゃそうだけど……まぁ直樹になら別にいいか」
見ず知らずの誰かって訳でもないし、今の状況なら説明も手っ取り早くて済む。済むとはいえ、晴香がスナイパーか。まぁ役割としてはそれが適任だろうけど……武器周りは癖が結構あるからなー。
「晴香の役割はそれでいいとは思うけど……ぶっちゃけ、初心者には無茶な立ち回りじゃね? そもそも、このゲームって初期武器はナイフだけじゃん」
「だからこそ、役割分担を先に決めておくんだろ。別にオールラウンダーは求めちゃいねぇよ」
「はい! 話が見えません!」
まぁそりゃ晴香はこのゲームをした事がないなら、分かる訳もないか。本当に、ぶっつけ本番でやらせる事じゃないよなー!
「わっはっは! このゲームはな、初期装備のナイフ以外は全部現地調達でな! 対戦マップ内に点在する『エレメント』ってのに触れて、銃が形成されるんだよ」
「……それがランダムって仕様なもんで、スナイパーライフルをピンポイントで手に入れられるとは限らないんだよ。ぶっちゃけ、何の武器でも使えるオールラウンダーが1番強いし、直樹はそのタイプ」
「おぉ! そういう感じなんだ!?」
予め想定した武器が用意出来ないから、その場で手に入った武器を上手く使っていく必要があるんだけど……まぁ3人でのチーム戦なら、多少はリスクを減らせられるか。
とはいえ、これって数年前の話だからなー。今の直樹が何を得意としてるかは分からないし、その水準すら俺とはかけ離れたところにいる可能性が高いんだけど……マジで、俺が相方で動いていいもんか? ……まぁそう言っても、直樹は『気にすんな』としか言わなさそうだし、ここは腹を括っていきますか。
「序盤は、直樹はひたすら『エレメント』を集めて、晴香にスナイパーライフルを届ける感じで動くか。晴香は序盤は、どっか高いところで隠れてろ」
「っ!? 届けられるの!?」
「武器がランダムって特性上、狙った武器が手に入らねぇって事もあるもんでな! 1ラウンドに1回限りだが、味方1人に武器を送れるシステムはあんだよ! 圭吾はいらねぇか?」
「俺より、晴香の方が武器に制約が……そういや、晴香は銃を撃つタイプのゲームは少しでもやった事ってある?」
「ホラーで、ゾンビを撃つヤツならいくつかやった事があるのさー! なので、一応は使い方は分かるのです!」
「……なるほどね」
ふむふむ、あの手のジャンルは年齢制限が厳しいはずだけど……まぁ俺も父さんに頼んで認証してもらってやった事はあるし、晴香も同じ事をしてても不思議じゃないか。
一応、銃の使い方自体は把握してるなら……やっぱりモンエボでのリスの立ち回りを見る限り、遠距離からの狙撃が適任だよなー。攻撃手法もだけど、どちらかというと索敵の方で。多分、その部分が晴香の最大のアドバンテージだろ。
「へぇ? ゾンビゲーで銃を使った事があるなら、ある程度はどれでもいけるんじゃ――」
「いや、やっぱり晴香はスナイパーだな。何気にサファリ系プレイヤーなんだよ。結構、実力派寄りのなー」
「……ほう? そりゃまた、スナイパー向きの適性じゃねぇか」
「そうなの!?」
「いかに敵を見つけるかってのも重要だからなー。晴香、さっき言った『エレメント』ってあったろ?」
「あ、うん! それが何かあるの!?」
1番いいのは実際にやらせてみる事なんだけど、その前に最低限で必要な情報を教えておかないとなー。というか、本当にやった事があるゲームで良かったわ!
「このゲームの対戦って、全滅での勝ち負けってないんだよ。1ラウンド10分、2ラウンド先取で勝ち。1ラウンドの勝利条件は、仕留めた数の多さ……キル数の多い事だ」
「そんでもって、『エレメント』ってのは有限でな? 武器にもなれば弾にもなるし……攻撃してしまえば、消しちまう事も出来る。相手に武器や弾を与えなきゃ、どうなる?」
「攻撃する手段が無くなるのさー!?」
「初期装備のナイフは消えないから、皆無になる訳じゃないんだけどな。そういう事だから、意外とスナイパーって重要なんだよ。まぁその分、狙われやすいんだけど……」
「わっはっは! それを囮にして、俺を特攻に向かわせてた圭吾が何言ってんだ!」
「私、囮なの!?」
「……まぁそういう感じだな」
どうしても3人組での対戦になるから、俺と直樹以外の誰かと一緒に組む事もあったけど……そういう時は、そうしてたしなー。スナイパーとしての腕が良い人と組めた時は、かなり一方的な展開もあったっけ。
「ただ、『エレメント』を破壊すると自分の弾の補充が出来ないから……そこは覚悟しといてくれ」
「はーい! ところで、魔法要素は他にはないのー? その『エレメント』ってのが銃や弾になるだけですか?」
「いやいや、その弾こそが重要でな! 『エレメント』は4属性、『火』『水』『風』『土』があるんだよ」
「『土』が、素直に普通の銃弾と同じ挙動だと思ってくれたらいいぞ。それで、『火』が地形破壊が可能な破壊力特化の弾だ」
「『風』が貫通力と弾速最速な弾で、『水』が弾速遅めの代わりに拡散する性質の弾だな! そんでもって、銃にも同じ4属性があって、銃も同様の効果があるぜ! その相乗効果で、戦法が変わってくる訳よ!」
「おぉ!? なんか複雑そうなのです!?」
実際、結構な組み合わせがあるから複雑なんだよなー。銃そのものの特性も影響してくるし……流石にここで説明し切れる内容でもないか。
「直樹、とりあえず晴香用にどの属性でも良いからスナイパーライフルと弾を確保して届ける感じで! 1ラウンド目は全く手の内は知られてないだろうから、晴香を中心に潰していく」
「よしきた! そうなると、圭吾も特攻か?」
「……これをやるのは久々だし、感覚の慣らしをしとく。晴香は、さっき言ったようにどこかに隠れとけ」
「はい! 隠れるのはいいけど、その間に自分で『エレメント』に接触するのはありですか!?」
「あー、直樹、その辺はどうする?」
「別にそれでいいだろ。合わない銃が出ても、繋ぎの護身用に使ってもいいし、後で弾に変換してもいいしな。あ、使わない銃にナイフを突き立てたら弾に変わるし、弾自体はどの銃でも共有だぜ! ま、そもそも弾数って管理じゃなく『保有エレメント数』って感じになるからな」
「おー! それは了解なのさー!」
弾が共有な分、持てる銃は2丁までって制限もあるけどなー。銃によって消費量は変わってくるし……。
「あっ! そういえば銃以外に武器はありますか!?」
「あるにはあるけど……手榴弾とかグレネードランチャーとかだな。ただ、『エレメント』の消耗が激しいのと、スナイパーとの相性は悪いから……あんまり気にしなくていいぞ」
「ガンガン使いまくる圭吾が、それを言うか!」
「情報を伝え過ぎても混乱するだろうから抑えてんだよ! その辺はほっとけ!」
「わっはっは! まぁ期待してるぜ、圭吾!」
「……へいへいっと。あ、これは言い忘れ。『エレメント』を消費してシールドも張れるから、万が一の時は出し惜しむなよ」
「はーい!」
やった事があるゲームだからこうして作戦は立てられているけど、本当に初めて触れるゲームだったら無茶振り過ぎるっての! まぁ対戦に使うゲームがこれだったからこそ、直樹が俺を名指しにしてきたって気もしてるけどさー。
とはいえ……相手は本気で競技としてゲームをやってる人達だ。部活としての結成からは日が浅くとも、大真面目にやってるのは間違いないだろう。……ふぅ、久々にやるのに、そういう人達相手に通用するもんかね?
「おし、そろそろ作戦会議の時間切れだな。名前の登録は……別に本名でいいか」
「あー、お互いに名前は知ってるんだし……そういや、これってローカル対戦? オンライン対戦なら本名はマズいと思うけど……」
「あぁ、設定はローカル対戦になってるぜ。ゲストアカウントかつ、ローカル対戦なら問題ねぇだろ!」
「そうなのです!」
ここで仮の名前を付けるのも面倒だし、問題ないなら本名でいきますか! 下手に考えるのも面倒だから、『山田』と『吉崎(兄)』と『吉崎(妹)』でいいだろ。晴香が俺の妹だってのは、もうさっきの時点で全員にバレてるしなー。
「あ、そういや対戦相手って誰になるんだ? てか、結局誰が誰なのか、ろくに挨拶も出来てないんだけど!?」
「へ? 別に圭吾は人見知りって訳でもねぇのに、俺らが到着するまでに、それくらいの時間はあったよな?」
「……いやまぁそれはそうなんだけど、どうも部活勧誘を蹴ったのが、お気に召さないようで?」
「はっ! んなもん、圭吾の自由じゃねぇか! おし、ちょっと相手として微妙だった場合は全力を出すのは遠慮しとこうと思ったが、そりゃ止めだ。……全身全霊、完膚なきまで叩き潰してやらぁ!」
「ちょ、そんなつもりでいたのかよ!?」
待て、待て、待て!? なんか凄い余計な情報を伝えてしまった気がするんだけど……あー、まぁいいか。お互いに色々と思惑があったっぽいこの対戦だけど……嫌な雰囲気で巻き込まれてるのは事実だしなー。
今の俺でどこまで直樹の動きに付いていけるか分からないけど……俺の一切の手抜きなしで、全力でやってやろうじゃん! そもそも、部活に入るかどうかは個人の自由意思なんだから、断った事で嫌な雰囲気を作られても知るか!
「……なんだか、場違いな所に来てしまった気がするのです!?」
「晴香……今更、逃がさないからな?」
「はい!」
晴香が安請け合いしたのも俺が断れなくなってた一因なんだから、ここで抜け出させはしない。最短で終わらせるとしても、2ラウンドの先取まではやってもらおうか! ……合間の休憩を挟んでも、25分くらいはかかるのなー。
さて、とりあえず俺らの準備は完了状態にしておいて……アバターは性別だけリアルと一緒な自動生成だったな。このゲーム、マッチング用のランク以外には育成要素がないから、明確に対戦相手を指定する場合には、装備を整える必要がなくて気楽に出来るのがいいとこか。
「はっ! そういえば、どういう場所から開始ですか!?」
「初期配置はランダム、マップも今回はランダムだな。荒廃した都市だったり、繁華街だったり、大自然の中だったり……まぁその時々で色々あるぜ」
「モンエボの模擬戦みたいに水中にいきなり出るって事はないから、そこは安心しとけ。あと、基本ルールは説明した通り、どこでも一緒だ」
「……むしろ、あれに水中戦があるのかよ。なぁ、圭吾? 今度、そっちに殴り込みにいっていいか?」
「はい!? え、それ、本気で言ってる!?」
「まぁな。まだ噂レベルだが、オンライン版のモンエボはキャラの動作練度を上げるのにいいって話もあって、気にはなっててな?」
「……へぇ?」
まさか、そんな噂が出ているとは思わなかったけど……まぁキャラの操作はどう考えても独特だもんなー。そういや、オンライン版を始めてから人型のアバターを使うゲームって初めてやる気がするけど、何か違ったりするもんか?
「おっし、向こうも準備が終わったな。相手は『相沢』『沢村』『村田』……おい、しりとりになってんぞ?」
「どういう偶然だよ、それ!」
「そんな事ってあるんだ!?」
いやまぁ名前を気にしてても意味ないんだけどな! とりあえず部長の相沢さんが参戦してくる……って言っても、全然戦い方を知らないか、何の参考にもならんわ! まぁ競争クエストの時の件で指揮が出来るのは分かってるから、そこは要注意ではあるのかも?
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