第38章 大きな動き
第1413話 急な誘い
さて、今日の授業は終わったし、特に何も用事はないからサクッと帰るかー。少し前にサヤから、ヨッシさんも含めてログインが遅くなるってメッセージがきてたし、ハーレさんと2人か、もしくはソロで――
「あ、吉崎くん、まだいてくれたー! 佐山くんも!」
うげっ!? 相沢さん、わざわざなんで声をかけてくる!? 何の為にグループを作ったと……って、そういや直樹に練習試合を申し込んでるのを見てから、通知は完全にスルーしてたっけ。
「おっす、相沢さん! 俺と圭吾になんか用?」
「うん! ちょーっとしたお願いがあってね? 吉崎くん、スルーするんだもん!」
「……はい? え、何の話?」
「グループメッセージの話。山田くんだけじゃなくて、吉崎くんも含めての話だったんだけど……」
「……は?」
「あ、やっぱり見てないんだ!?」
え、ちょっと待って。小声にして周囲に一応配慮はしてるっぽいけど……それ、必然的に近付いてきてるから、逆効果じゃね? あー、周囲からの視線が痛い……。
てか、直樹に練習試合を申し込んでたのは見たけど……なぜ、それに俺が関係ある!? ん? 今のタイミングで直樹からメッセージ……? 今のこの状況と無関係じゃなさそうだし、ちょっと確認してみるか。えーと、『グループメッセージを見ろ?』って、こっちもか!
まぁ見てみるけど……ちょ!? 直樹の奴、俺とコンビなら受けて立つとか書いてやがる!? あと1人、メンバーを用意しろとも!? しかも、今日、これから!?
「……これ、俺が受けるメリットって何かある?」
「んー、eスポーツ部の部員でこそないけど、関係者って事で、この視線は収まるかも?」
「それって、半ば脅迫じゃねぇ!?」
そもそも相沢さんが学校で不用意に声をかけてこなければ済む話なのに……くっ! 直樹め、何を考えてやがる!?
「おーい? 話が見えないんだが?」
「あ、佐山くんにも話さないとね! 明後日にeスポーツ部の大会で、FPS部門の3人組での予選があるんだけど、ちょーっと部員以外で対戦したくてさ? 吉崎くんと一緒に、佐山くんもやらない?」
「おっ、それ面白そうじゃん! 圭吾、やらね?」
「……慎也とは、余計にやりたくないんだけど。絶対に足引っ張るだろ、お前」
「わっはっは! だろうな!」
「自信満々に言う事じゃねぇよな!?」
あー、なんか頭が痛くなってきた。うん、サクッと断って家に帰ろう。この周囲の目線をどうにかする口実にはなりそうだけど、それ以外のデメリットが大き過ぎる気が――
「……今度は、晴香からのメッセージか?」
これ、なんか嫌な予感がするんだけど……見ずに済ませたいなー。でも、そういう訳にもいかない気がする。はぁ……意を決して、晴香からのメッセージを開いてみて……やっぱりか。
「おっ! 晴香ちゃんが参戦してくれるんだ!」
「……みたいだなー」
うん、グループメッセージを見て、晴香から立候補したっぽい。いやまぁ、慎也よりは遥かにいいとしても……何でこれを引き受けちゃてるかなー!?
既にサヤとヨッシさんにも報告済みらしいし……って、サヤもヨッシさんも今日は用事があって遅れるんだった!? 一緒に出来ないのが分かってるから、遊び半分で言い出したな!?
「そういや3人組って、誰になんの? 圭吾と、俺と、圭吾の妹の3人?」
「ううん、他の高校のeスポーツ部の人! ちょっとした伝手が出来たから、予選前の腕試しに話をしてみたら快諾してくれてね? まぁ吉崎くんが参戦してくれるのが条件なんだけど……」
「おっと、それじゃ俺は邪魔っぽいな! あ、見学するのはあり?」
「もちろんありだよ! あとは吉崎くん次第なんだけどなー?」
いや、そんな風に期待する目を向けられても困るんだけど!? 意図せず時間は空いてるし、なんか外堀を埋められまくってるし……だー! この教室の空気感が夏休みが始まるまで続くのは勘弁だ! ただ、その代わりにここで多少の嘘をつくくらいは大目に見てもらうぞ!
「分かった! もう根負けだ! 分かったから、前から部活の対戦相手をするってのはやるよ! だから、しつこい勧誘はもうやめてくれ!」
「……え?」
クラスの連中にしっかりと聞こえるように、諦めを込めた大声で宣言する! 元々は部活への勧誘が発端で話すようにもなってるんだし、少なからず事実も含んでるから問題ないだろ! てか、そこでキョトンとするなよ、相沢さん!?
とりあえず周囲が騒めき出したけど……最近の件は全部、部活絡みでの話って事で、これまでの妙な流れは勘違いみたいな話が流れ始めたか。
てか、付き合ってる疑惑はまだあったのかよ! いや、それでも地味に嫉妬してる声も聞こえるけど……相沢さん目的で部活の入部を断られた奴の1人だろ!? それは知った事か!
「あ、うん! そうそう! それで大丈夫! 部員以外の対戦相手ってのも大事だからね!」
ふぅ……俺の意図したところを、ようやく理解してくれたようで助かった。ここで余計な事を言うなよ、慎也!
てか、対戦相手ならネット上で探せばいい気もするけど……今回、俺が巻き込まれたのは直樹のせいでもあるのか!?
「それじゃ対戦、成立って事で! お姉……喜多山先生に、確定したって伝えてくるねー! 佐山くん、吉崎くんを部室まで案内よろしく!」
「え、俺が案内すんの!? まぁいいけどさ」
「……はぁ」
もうやらなきゃいけない状態になったのは諦めるけど、何がどうしてこうなった!? てか、FPSかー。銃を使うタイプのゲームは最近やってないけど……まぁ本気でやらなくても別にいいか。俺から希望してやる対戦じゃないんだし……。
「おし! 行こうぜ、圭吾!」
「へいへいっと……」
特に無理矢理に巻き込まれた訳でもない、見学だけの慎也は気楽でいいっすなー! ……まぁ変な空気の払拭の為なら、今日だけは我慢しておこう。
◇ ◇ ◇
なぜかeスポーツ部の部員ではない慎也の案内で、eスポーツ部の部室へとやってきた。まぁ教室としては、コンピュータ室ですなー。授業でたまーに使う教室だけど、基本的にフルダイブでの体験学習的なやつだよな。
他の部員の人もいるけど……見知らぬ顔ばかり。『誰っ!?』って顔をされても、むしろ俺が困る。ここにいる人数としては4人だけど……部活に必要な最低人数って何人だっけ? 相沢さんを入れて、合計5人?
「圭吾、あれだよ、あれ! 業務用のやつ!」
「……授業で見たことあるから、知ってるっての」
家庭用の頭に被るVR機器とは違う、寝っ転がって使うタイプの高性能な業務用のVR機器が1台か。まぁ見た事があるだけで、授業で使った事はほぼないけども。
確か、身体障害があるとはどういう事かって体験で使ったくらいか? 家庭用のではセーフティの関係で、再現不可能なものだったっけ。フルダイブ用のソフトとかの開発には必須なものでもあるって話だよなー。
「吉崎くん、佐山くん、お待たせ! えーと、自己紹介は済ませた?」
「いや、まだだけど……」
「部長、その人は誰ですか? 佐山さんは、この前会ったから知ってるけど……」
「あー、うん! えーと、吉崎くんはあの時に話題に出てた人! ほら、勧誘したけど断られたって人!」
「ちょ、言い方!?」
「へぇ? その人が……今日の対戦相手ねぇ?」
思いっきり睨まれてるんだけど、相沢さん、何考えてんの!? そもそも同じ校内の部外者で対戦相手って状態も割と居心地悪いのに、そこで勧誘を断ったって情報を付け加える意味ってある!?
「……全力で、叩き潰す!」
「どれほどの実力か、見せてもらおうじゃねぇか」
思いっきり敵意を感じるんだけど、もう帰っていいですかねー? 教室での目的はもう果たしたし、実際に対戦する理由はもうないよな? うん、帰ろう!
「おいおい、何で逃げようとしてんだ? ほれ、VR機器だ。これを使え」
「……はい」
なんかかなり体格の良い人から、学校の備品のVR機器を手渡されたよ。くっ! この完全アウェイな状況、嫌過ぎる!?
「……手を抜いたら、分かってんな?」
あー、なんで俺はこんな状態に陥ってるんだろうか? あ、そうだ! そういえば、そもそも相沢さんが無茶な勧誘をしてきたのが始まりなんだし、そこから一連の流れを含めて、今の状態を顧問の先生に――
「よう、圭吾。なんか、妙に殺気立ってんな?」
「兄貴、来たよー!」
えーと、なんで直樹と晴香がここにいるんですかねー? いや、確かに対戦は一緒にする訳だけど、ネット越しでもチームは組めるよな? 何でまた、うちの高校までやってきてんの!?
「……兄貴って……妹? くっ、兄さんと呼ばないといけないのか!?」
「いや、お前はいきなり何言ってんだ?」
「バカやってんじゃねぇよ! なんで去年の優勝者の山田が来てんの!?」
「山田に吉崎……? あれ、何か引っ掛かる?」
なんか妙な反応が約1名ほどあった気がするけど……そこはスルーでいいか。今の状況で深掘りはしたくないし……それよりも先にだ!
「直樹、ちょっとこっち来い! 晴香もだ!」
「はーい!」
「おいおい、どうしたよ、圭吾」
「え、吉崎くん!? どうしたの?」
「いいから来い! 相沢さん、流石にちょっと話をさせてくれ! あと、その敵意もどうにかしといて!」
「……あ、うん」
とにかく、一度教室から連れ出して……そもそも、流石にここまで来るのが早過ぎないか? どっちも家は近所とはいえ、即座に帰ってなければ、この時間には来れてないはず。
「今日はどういうつもりだよ、直樹! なし崩し的に引き受ける事にはなったけど、なんで俺や晴香まで巻き込まれてんの!?」
「ん? 晴香ちゃんは自分から言ってきただけだから、巻き込んだ訳じゃねぇぞ? 圭吾はまぁ普通に巻き込んだがな」
「ふっふっふ、そうなのです! まぁたまたま、電車で一緒だったって理由もあるけども!」
「余計に悪いわ!」
あー、こりゃ学校が終わり次第、最短の電車に乗ってきたな!? ちゃっかりと部外者の立ち入り許可のIDを首からぶら下げてるし……。
「直樹、いつから計画してた?」
「相沢さんから話が来て、昼休みの内にうちの顧問に許可は取ってきたぜ? 新興チームの探りを入れてくるってな。ま、そこは部員としての対外的な対応としてであって、俺個人としちゃ久々に圭吾と1戦やろうと思ってよ?」
「……いや、対戦自体は別に嫌じゃないんだから、個人的な話の範囲にしてくれね? なんで一緒のチームで、自分の高校の対戦相手にならなきゃならん!」
「……途中から思ってたが、圭吾、完全にグループメッセージを見てねぇな? 相沢さん、随分と圭吾に迷惑をかけたって凹んでたぞ?」
「現在進行形で、思いっきり迷惑をかけられてるとこだけどな!」
って、ちょっと待った。俺へ迷惑をかけてたって……あー、クラスでの悪目立ちを払拭するのが、元々相沢さんの狙いだったのか。他の部員からの敵意は……全く別のところから来てるもの?
「そんでまぁ、圭吾の他のゲームでの動きを見てみたいって晴香ちゃんが言ってきてな?」
「それで、そのまま流れで参戦希望なのさー!」
「……なるほどなー。てか、晴香はFPSってやった事あんの?」
「ほぼ未経験なのさー!」
「……無茶な参加の仕方をするもんだな、おい」
仮にも相手は遊びではなく、ガチで勝敗を賭けて競技としてやってるんだぞ? 直樹はそっち側のプレイヤーだからいいとしても……流石に晴香はどうなんだ? 立ち回りさえ叩き込めば、スナイパーならやらせられるか?
てか、俺自身、銃をぶっ放しまくるFPSはそんなに得意じゃないんだけどなー。フルダイブでのFPS自体はやった事はあるけど、基本的にはオフライン版ばっかだぞ? 対戦でやってたといえば、家庭用のではなく――
「あー! 思い出した! 山田と吉崎って、中学の頃に少し先にあったゲーセンで、勝ちまくってた2人組!?」
「それ、聞いた事がある気がする! くっ、その片割れが、同じ学校にいたとは!」
「あれ? ゲーセンで対決してたって話は聞いたけど……山田くんも吉崎くんもそんなに有名だったの?」
「部長、知らずに連れてきてた!?」
「……諦めろ。この部長、割と天然だ」
「失礼だね!? 誰が天然なのさ!?」
なんかeスポーツ部の面々から、こっちへの視線の種類が変わってきた気がする。さっきは異物を見るような感じだったけど……もの凄く敵意を感じるんだけど?
「おっ、意外と覚えられてるもんだな、圭吾!」
「……みたいだなー。そもそも対人の銃撃戦のFPS、中学の時のあれ以外はろくにやったことないんだけど……マジで大丈夫か?」
「ん? 別に俺は相手の動きが分かりゃいいから、勝ち負けは気にしなくていいぜ? ま、圭吾がそう簡単に負けるとも思えんけどな」
「……簡単に言ってくれるな」
そりゃまぁモンエボのキャラ操作が特殊なだけで、人型のフルダイブゲームなら基本動作はそう変わりはしない。FPSだって、フルダイブではない旧来型のものと立ち回り自体は極端には変わらないはず。
直樹と一緒に勝ちまくってたゲームって、普通の銃じゃなくて魔法ぶっ放す銃で撃ち合うってやつだったよなー。あれならまだ自信はあるけど……正直、シンプルな銃撃戦は自信ない!
「さーて、指揮官は任せたぜ、圭吾」
「兄貴なら出来るのさー!」
「ちょ!? 無茶振りが過ぎない!?」
やり慣れてるゲームならまだしも、初めてやるゲームで司令塔って!? いやいや、無茶苦茶だな!? ……まぁ負けてもいいなら、気負わずにやりますか。
「さー、準備、準備! 山田くんと晴香ちゃんは、こっちの2つを使ってねー!」
「はーい!」
「おっ、流石は新興の部だな。新しいモデルが揃ってるじゃねぇか」
それでもまぁ対戦をするなら、負けるつもりでやるのは失礼ではあるよなー。さて、とりあえず対戦に使うのがどういうゲームで、何が出来るのかくらいは軽く触らせてもらってからだな。
いくらなんでも、ぶっつけ本番で対戦開始は勘弁してほしいし……そもそもこの場にいる人だけでの3対3なのか? この手のゲームなら、大量のチームが混ざって戦うのもあったと思うけど……まぁ少し触ってみれば分かるか。
――――
連載、再開!
電子書籍版、第14巻も発売開始!
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