第1408話 川の支流へ
のんびりまったりな移動ではなくなったものの、サヤ達の競争も無事……なのかは微妙に疑問の余地はあるけど、ともかく競争自体は終わった。まぁそれで支流との合流地点まで辿り着けたんだし、よしとしよう!
「アル、深さは大丈夫そうか?」
「……進んでみないとなんとも言えないが、まぁ本流より狭くなってるとはいえ、そこそこの広さはあるからなんとかいけるだろ」
「まぁそれもそうか」
支流が狭いとは言ってもあくまで本流と比較しての話だし、初期エリアの森林に流れている川よりも川幅はあるくらいだしなー。
「ん? そういやこの川って……源流は森林深部?」
「おぉ!? 言われてみればそんな気がします!」
「言われてみれば、そうなるのか? 位置的に赤の群集の森林エリアの北側ではある……いや、待て。必ずしもそうとは限らないぞ?」
「え、違うの!?」
「森林深部からここまではかなり距離があるからな。川は必ずしも真っ直ぐ進んでいるとは限らないから、違う川の可能性はある」
「……川の全てをマップ上に表示させないと、はっきりとした事は分からないかな?」
「『黎明の地』のマップが全て埋まってる訳でもないもんね」
「あー、そりゃそうか……」
うーん、単純に森林深部の北側だから同じ川だと思ったけど……確かに川って結構蛇行してたりするもんな。こうして考えてみると、『黎明の地』もまだまだ知らない場所は多くあるって事か。
「はい! 今じゃなくていいから、そのうち、この川の源流がどこなのか、見に行きたいです!」
「あー、まぁそういうのもあり?」
「イベントの開催の状況次第にはなるだろうが……いいんじゃねぇか?」
「それも楽しそうかな!」
「今みたいな時を作るって事だよね? それなら、ここに転移の種の登録を……って、そこまで遠くもない?」
「あぅ!? 微妙に悩むところです!?」
ここまで進んでくるのに、それほど長時間かかった訳でもないけど……少なからず移動に時間がかかっているのは間違いないしなー。後々で来る事を考えるなら、今のうちに登録しておくのも悪くはないか。
「どうせなら、森林深部から河口まで下るのでいいんじゃねぇか? ここと繋がるかは分からんし、ハーレさんの希望とは少し違う気もするが――」
「アルさん、それなのさー! 森林深部から川下りがいいのです!」
「なるほど、そういう方向性か!」
「それもありかな?」
「アルさんの移動は、その方が楽そうだしね」
「なら、その方向性で考えるか。まぁいつやるかは分からんが……」
「そこはまぁ、状況を見つつだなー。ハーレさん、それでいいか?」
「うん! それでいいのさー!」
なんとも元気のいい返事なもので。多分、その手の情報はまとめを見るなり、群集拠点種へ提供済みのマップを貰うなりすれば分かる事だろうけど……自分達で進んでみたいってのはあるもんなー。
ただ、他にもやる事がある場合も多いだろうから、その辺との兼ね合いが問題だな。結構な距離の移動になるはずだし……って、そういやこの話はしてない気がする!?
「ちょっと話題は変わるんだけど……今週末にあるイベントってなんだと思う?」
「はっ!? 完全に忘れてたのさー!?」
「……あぁ、そういえばそんなお知らせも出ていたな」
「すっかり忘れてたかな!?」
「……あはは、ログインした後はひと騒動あったもんね」
俺も今の今までに忘れてたけど、みんなも忘れてたんだなー。まぁログイン早々に変な流れになってたし、状況的に仕方ないとは思うけど……。
「あー、とりあえず川を遡りながらでいいか? 別に止まって話す内容でもないしな」
「ですよねー! それじゃ改めて出発で!」
「遊覧船『アルマース号』、発進なのさー!」
「今回は遊覧船かな?」
「まぁ今回は観光気分だしね」
いつもの如く、ハーレさんがアルを船に見立てての出発ですなー。わざわざ言う必要もない気はするけど、それを無理に止める理由もないから、自由にしてもらって問題ないだろ。別にアルが嫌がってる様子もないしね。
「それで、今週の金曜の夜からのイベントの件だったな。だが、予想しようにも何も情報はないだろ?」
「いやいや、今までのイベントの中から推測くらいは出来るって! 俺の予想としては、次の大型イベントは共闘イベントだろうし、その前兆と見た!」
「……ないとは言えないけど、前兆って告知があるのかな? 期間が区切られてるみたいだし、何か違うような気もするけど……」
「私もサヤの意見に賛成。共闘イベントならワールドクエストで全体での異変になりそうだし、それが予告されるのは何か違う気がするよ? それに、前はPVがあったんだし、出すならそっちじゃない?」
「あー、そう言われてみれば確かにそうか」
うーん、前回の共闘イベントではPVがあったんだから、告知するならそっちでというのは説得力がある。絶対に前と同じ流れと決まった訳じゃないけど……これまでの経験から推測しようとするなら、そうなるかー。
「経験則から考えるなら、緊急クエストで経験値の多い敵の大発生じゃねぇか? ……流石に再開催には早い気もするが」
「あー、あれもあったか! てか、あれっていつ終わったんだっけ?」
「正確な日時は知らんが、割と最近までやってたはずだ。成熟体への進化が済んだ人は競争クエストとも重なっていたからそっちに向かったし、途中からは最初の頃の混雑はなくなってたみたいだがな」
「そりゃ、そうなるよなー」
俺らだって、最初の頃にチョロっと参加してそれっきりだったしね。うーん、開催が近いのを無視すれば、経験値ボーナスの緊急クエストは本当に可能性がある気はする。
「はい! スクショのコンテストはどうですか!?」
「……それ、週末だけで済むのかな?」
「小規模での開催って可能性はあるんじゃない? 次の週末は3連休だし、夏の大型アップデートの宣伝用のスクショのコンテストとか?」
「あー、それはありそうかも?」
「……いや、宣伝用ならもう少し早くに始めるんじゃないか? まぁ宣伝とは関係ない、テーマでも用意した簡易的なコンテストならあり得そうな気もするが……」
「今なら、夏がテーマでいけそうなのさー!」
ふむふむ、夏をテーマにしたスクショのコンテストねぇ? 可能性としては否定出来ないけど……どうなんだろ? 前回のスクショのコンテストは大規模なものだったけど、小規模なものを何度も開催するって可能性はありそうかも。
「そういうテーマなら、川下りをする時に撮るのも良さそうかな?」
「はっ! 確かにそれはそうなのです!」
「夏のレジャーって感じにはなるよね」
「ふっふっふ! そうなれば、川下りをしつつ、イベントを堪能出来るのさー!」
「おーい、ただの予想だからなー? その気になり過ぎるなよ?」
「決めてかかって、そうはならずにガッカリってのも悲しいしな」
「あぅ!? それもそうでした……」
期待したい気持ちは分かるけども、あくまで今しているのは勝手な予想。実際に何があるのかは、公式に発表があるまで分からない。
「はっ!? 川といえば、宝探しもあったのです!」
「あー、そういやあったな! 経験値を増やすアイテムを探すやつ……って、まだ使い切ってなくて、死蔵になってるような?」
「……学生組の不在時にろくにLvが上がらない停滞期間があったり、緊急クエストでボーナスの敵が出るなら、正直あまり必要じゃねぇな。後から追いつくような状況じゃないと、意味ないぞ」
「……あはは、それは確かに言えるかな?」
「ですよねー!」
今、何が何個残ってたかとか、ろくに覚えてもないわ! インベントリを見ればすぐに分かるだろうけど、使い勝手は正直、微妙なのは間違いないよなー。
「でも、探すものが同じとも限らないんじゃない?」
「……へ? あ、それもそうか」
あの時よりも色々なアイテムは増えているんだし、全く別のアイテムを探すというのもあり得る?
「まぁどれだけ考えても、実際に始まるまで分からないかー」
「ま、それを言ったら今の会話自体が無意味になるがな」
「ですよねー!」
まったりするのが目的だから、別に無駄話はいくらでも問題はないけどさ。答え合わせが開催まで待つしかないのは、変わらないか。
「あ、そういや金曜の夜からって……具体的に何時?」
「……お知らせの更新の時間を考えれば、多分19時だろうな。全員は揃ってない時間ではあるか」
「私とヨッシとアルで先に情報収集をしておいて、ケイとハーレが合流し次第、イベントに参加かな?」
「内容にもよりそうだけど、その流れがいいかもね」
「おっし、ならその方向でよろしく!」
「みんなにお任せなのさー!」
何はともあれ、実際にイベントがあるのは明後日の金曜の夜からだ。内容次第で参加しないという事もあるだろうし、スタートダッシュも出来そうにないけど……それでも情報を集めておいてもらえるのは助かる。さーて、この話題はこのくらいでいいとして……。
「だんだん川幅が狭まってきてるけど、アル、深さは大丈夫か?」
「まだ大丈夫だが、少し流れが強くはなってきてるな。まぁ支障はない範囲だが……周囲に木々が増えてきてもいるか」
「森の中を通っている川なのさー!」
「ここ、川岸は通りにくそうかな?」
「川だからこそ通れてるって感じだよね」
本流と合流したばかりの場所では、川の周りは石がズラッと並んだ川原だったけど、そこそこ遡ってるきたら随分と雰囲気が変わってきている。
まぁ上から見た時でも分かってた範囲だけど……こりゃ、陸側の森はまともに通れるようになってないな? 左右が鬱蒼と茂った森で、獣道すらまともにありそうな気配がないしね。
「この先、もしかして渓流か?」
「はっ!? 確かにそれはあり得るのです!」
「エリアとしての渓流かな? 森林深部にあった川みたいなのじゃなくて?」
「そうそう、エリアとしての渓流! 結構、流れが急なやつ!」
「何気にオンライン版ではそういうエリアはまだ見てないね?」
「……確かに、まだ見た覚えがねぇな? でも、オフライン版だと渓流の手前には大体、湿地か湿原じゃなかったか?」
「ふっふっふ! アルさん、オンライン版はオフライン版と同じとは限らないのです! 多分、こっちの方が川の本数自体が多いのさー!」
「あー、まぁそれはそうか」
1人プレイ用のオフライン版と、大人数でのプレイ用のオフライン版での大きな違いはそこだろうなー。どう考えても、こっちの方が全体のマップは広い! 新エリアも増えているし……まだまだこれから先も増えていく可能性は高いしね。
「そういえば川って、名前はあるのかな?」
「……名前は、どうなんだろう?」
「何気に考えた事はなかったな……」
川の名前かー。うーん、『黎明の地』には何本か川が流れてるけど、どれにも名前が付いているという話を聞いた事はない。オフライン版でもエリア名は気にした事はあるけど、川の名前は気にした事はないな?
「……そもそもの話、どうやって川の名前を決めるんだ?」
「それは……あれかな! 専用の命名クエストが……って、発生条件がまるで不明かな?」
「根本的に、どこで受けるかって問題もあるしなー。専用のクエストでもなければ、エリアで切り分けられてる訳じゃないし、無理な気がするぞ」
「……あはは、それは確かにそうかな」
「はっ! それが次のイベントって可能性はないですか!? 『黎明の地』の川の命名イベント!」
「それ、ハーレの願望が入ってない? 川下りと一緒に出来ると思ってるよね?」
「否定はしません!」
「否定しないんかい!」
あー、でも川の命名イベントか。こっちの地域に対してワールドクエストで命名する機会もあったんだし、可能性としてはなくはない? ハーレさんの願望が思いっきり入りまくってるけど……それはそれで面白い光景が見れそうな――
「……今思ったが、いくつかのイベントが混ざっているって可能性もあるんじゃねぇか?」
「というと?」
「例えば……宝探しの範囲を川に絞って、その期間中で命名クエストをするってのはどうだ? 命名クエストへの参加権は、宝探しのアイテムの中に含まれてるとかよ?」
「あー! それ、面白そうなのです!」
「なるほど、そういう流れか!」
ふむふむ、単独では物足りなくなるような内容でも、いくつかの要素が組み合わされた短期的なイベントという可能性は十分あるかも。まぁいくらか俺らの願望が混ざってるのもある気はするけど……。
「あっ、マップ埋めを推進して、情報ポイントを稼がせるってのもありそうかな!? 最初に常闇の洞窟の踏破をした時みたいに、情報ポイントの取得にボーナスがかかるかも!」
「知ってる限りでは、そのボーナスが他に出てた覚えはないし……死に要素になってる部分を活用してくる事はあるかもね」
「おぉ! 色んな可能性が出てきてるのさー!」
ふむふむ、マップ情報の提供で得られる情報ポイントの増量って要素の確かにあったっけ。あの手のマップ情報、競争クエスト関係でない限りは貰いにいく事はないからなー。
普段から積極的にマップ情報の提供をしに行く訳でもないし……俺らが知らないだけで、ボーナス自体はどこかで発生しててもおかしくはないよなー。それをイベント化してくる可能性も、十分ある!
「ふっふっふ、金曜日の夜が楽しみになってきたのです!」
「まぁ、まだ明後日の話だけどなー」
「あぅ……そうでした……」
何かしらのイベントがあるのは確定だから、ハーレさんの気持ちはよく分かる。成熟体まで進化していないと楽しめないって内容だけなはずはないだろうから、こっちの『黎明の地』で開催はあり得るもんな。
「ま、それは明後日のお楽しみって事で、今は『湖中の蛍林』を目指すぞ!」
「「「「おー!」」」」
色々と予想はしたけど、答えが分かるのは明後日の話。予想した中で正解があれば面白いけど……今は目的の事をやっていこう。
流れに遡ってるから少しアルの移動速度が落ち気味だし、エリア切り替えまではもう少しかかるかな? どんどん川幅が狭くなって、左右の木々も鬱蒼としているけど……やっぱり渓流になるのかね? でも『湖中』なら、小規模でも湖は存在してそうだし……まぁ行けば分かるか!
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