第1409話 支流の上流


 色々と雑談をしながら、まったりと支流の川を遡り中。段々と川幅が狭まってきて、そこそこ上流まできている気がする。


「おぉ!? ちょっと流れが早くなってきてるのさー!」

「アルさん、まだ泳いで進めそう?」

「この程度の流れなら、まだまだ逆らえる範囲だ。問題ねぇよ」


 ふぅ、まだアルが進める範囲みたいだし、見えてる以上に深めなのかもね。それにしても、左右の森は鬱蒼としてるなー。


「サヤ、なんか変わったもんとか見える?」

「んー、これといって目立つものはないかな? 水中は分からないけど……」

「あー、確かにこの手の場所なら水中か。よし、ちょっと見てこよ」

「流されんなよ、ケイ」

「もしそうなったら、アルを俺のとこまで流すからなー!」

「おいこら!? 本当に出来そうな事を――」


 さて、冗談はこれくらいにしておいて、ちょっと川へとダイブ! 流れがあるとはいえ、自分で移動手段を持ってるし、最悪でも川の流れを止めてしまえば……。


「って、ハーレさん? なんでしがみついてんの?」


 いつの間に乗ってきた!? リスの親指を立てて、『任せた!』みたいな反応をされてもなー。って、そんな事を考えてたら冗談抜きで流されてんじゃん!?


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 127/127 → 121/121(上限値使用:6)


 危ない、危ない! 即座に飛行鎧を展開して、流れに逆らってアルの下まで移動! 一緒にハーレさんも固定してっと……。

 ふむふむ、浅くなってきたと思ってたけど、アルのクジラの下にそこそこな範囲はあるんだね。とはいえ、本流よりは随分浅いか。


「ハーレさん、一緒にいるならクラゲの触手をアルの根に巻き付けとけ! それなら流される心配もないから!」


 また任せとけって感じで親指を立ててくるんかい! いやまぁ、言った通りにしてくれてるけどさ!


「ケイ、水中はどうかな?」

「あー、ちょい待った。今、ハーレさんがアルの木の根にクラゲの触手を巻きつけて固定中」

「ハーレ、止める間も無く一緒にダイブしちゃったもんね」

「……ケイ、本当に流されてなかったか?」

「……いやー、まさかハーレさんが飛び乗ってくるとは思わなくて……ちょっと油断した。さっき言ったのは冗談だから、そこは気にするなー!」

「別に流されてもいいが……流されても、自力で戻ってくるようにはしてくれよ?」

「ほいよっと。そうなった場合は、自力で戻っとく」


 さっきのは流されるつもりは皆無で言った冗談だけど、本当に軽くだけど流されてたら……まぁ訂正は必要ですよねー! まぁ今ので十分だとして……川の様子を確認といきますか!


「あー、結構水は澄んでるな? 川の底は……ここ、流れが強い場所以外は水草が多い感じか!」


 上流になればなるほど増えてる様子だし……こりゃ、この先の『湖中の蛍林』とやらの由来が何となく見えてきた気がする。オフライン版でも存在はしてたけど……水場だからこその敵が、結構いるのかも? 多分、一般生物の蛍が由来ではないだろうね。


「ハーレさん、傾向は分かったからもう上がる……あー、うん、分かった、分かった。まだ上がるなってか……」


 力一杯、リスの首を横に振ってるし……まだスクショを撮りたいってとこなんだろうね。まぁ川に飛び込んだのは俺が先だったし、このくらいの我が儘は聞いてやりますか。

 なんだかんだで、水面から差し込んでくる日の光で照らされ、水の流れで揺れる水草ってのも良い景色だしなー。淡水への適応はないハーレさんだから、流れがある場所だと俺にこうして掴まって安定した状態でスクショが撮れる機会も少ないだろうしね。


「ハーレさん、窒息は下手すれば死ぬんだから程々にしとけよー」


 うん、敬礼をしているって事は、了解したって事でいいんだろう。まぁハーレさんのクラゲの触手でアルに繋がっているから、飛行鎧の動きも引っ張られるのに合わせればいいだけだしねー。まったりと水中を進むのもありだな。


「ケイ? 纏樹を使って、そっちの光景を映せないかな?」

「……あれって、移動種と不動種の間じゃなきゃ無理じゃなかったっけ?」

「残念だが……仕様上、移動種同士の中継は無理だな」

「あっ! そういえばそうだったかな……」


 うーん、サヤが提案してくれたのは面白い使い方ではあるんだけど、条件的に使えないのが残念……。そういう事が出来るなら、俺の死蔵状態になってる纏樹の出番も増えそうではあるんだけどなー。

 おっと、ハーレさんがロブスターの頭を叩いてきてるし……おわっ!? 窒息になって、HPが半分を切ってるじゃん!? 急いで水中から出ないと!?


「ぷはっ!」

「窒息になる前に、止めとけよ!? ここで死んだら、流石に情けないぞ!?」

「あぅ……つい、夢中になったのです……。ごめんなさい……」

「……まったく」


 ちょっと気が逸れてハーレさんの状態の確認が疎かになってたけど、その間に死にかけてるとは思わなかったよ。その辺、自分でしっかり管理してると思ったんだけどなー。


「ハーレ、窒息の確認を怠るくらいに夢中になったって……何かいたの?」

「色々なコイの人が、群れになって泳いでたのさー!」

「コイの人って事は、プレイヤー集団かな!?」

「そうなのです! 灰の群集の人達が結構な勢いで、上流に向かってたのさー!」

「あー、そんなプレイヤー集団もいるのか」

「へぇ? コイの集団なんてのは初めて聞くが……新たに結成した集団か?」

「案外、表に出てきてない人達だったりしてなー。この川に横穴があって、その奥が隠れ家になってたり……」


 あれ? ちょっと待って、冗談で言ってみたけど、マジでその可能性はあり得るのでは? 確かその手の人が少しだけ話題に出てきた時って、川魚の人やワニの人が話してた覚えがあるし……場所としては可能性は――


「はっ!? その可能性はあるのです! インクアイリーが霧の森の湖をあれだけ掘ってたんだし、出来なくはなさそうなのさー!」

「……ケイ、折角の道中だし、探してみるか?」

「あー、気にはなるけど……目的がある訳じゃないし、わざわざ探すのはやめとこう。向こうも遊び半分で探られて気分のいいものじゃないだろうしさ」

「ま、確かにな」

「あぅ……。確かにそれはそうなのです……」


 偶然入り込んで遭遇したとかならまだしも、隠れ家があると決め付けてそれを探すのはなー。悪趣味というか、変にトラブルを招くだけな気が――


「あっ! 滝が見えてきたかな!」

「えっ!? あ、本当なのさー!?」

「え、マジで!? あ、マジだ」


 ちょっとこの辺は川が蛇行してて先が見えにくいけど、木々に隠れた先に滝っぽいのが少し見えてきた。渓流になるかと思ってたけど、これはどうもちょっと違いそうな気がしてきたぞ?


「まだ遠いけど……川がそこで完全に途切れてるみたいだね?」

「はっきりとは見えない距離だが、そうみたいだな。ま、とりあえず行ってみるか」

「だなー! って事で、目指すは見え始めた滝で!」

「「「「おー!」」」


 ネス湖からの大規模な滝や、青の群集の森林深部に隣接している湿地への滝とも違った感じっぽいね。その2つの中間くらいの規模の滝のような気がする。ま、近くに行けば分かるだろ!



 ◇ ◇ ◇



 もう不要になった飛行鎧を解除して、少し進んで目の前を見上げてみれば……滝がある。今いる場所は滝壺だね。滝の高さは……アルのクジラと木を合わせた高さの倍くらいはあって、結構な水量が流れ落ちてきてますなー。うん、滝の向こう側が見えないくらい。


「こういう場所は、滝の裏に洞窟がありそうなのさー! もしくは滝壺の中なのです!」

「そう思う気持ちは分かるけど……」


 うん、ゲーム的にはそういう場所はよくある。レアアイテムがあったり、ボスがいたり……まぁ色々とありそうな場所なのは分かる。でも、さっきの事を考えると……それを確かめるのはどうなんだ?

 いや、でもなー。別に誰かに占有する権利はある訳じゃないし、元々そういう場所があったのなら遠慮する必要もないのか? そもそも、滝がこのサイズなら――

 

「ハーレ、そこに突っ込んでいくのはやめとかない?」

「え、なんでー!? 元々あった場所なら、とやかく言われる筋合いはないのです! それに、誰もここを見つけてないとは思えないのさー!」

「あ、そうじゃなくてね? 単純に、アルさんが通れるかって心配なんだけど……。ほら、もう川幅も余裕はなくなってきてるしさ?」

「はっ!? そういえば!?」

「気付いてなかったんかい!」

「あぅ!? ……ごめんなさい」


 いかにも何かありそうな場所と、それがある方向に向かったプレイヤー集団を見てた事でテンションが上がってたな、ハーレさん! まぁその気持ちは分からなくもないんだけど……。


「別に、俺を置いて見てきてくれても構わんぞ?」

「それは駄目なのさー! ……忘れておいて言うのもあれだけど、駄目なのです!」

「……まぁそれならそれでいいんだが、洞窟があるかどうかはだけでも見ておかないか? 単純に、存在するかが気になってな?」

「それくらいなら、やってもいいんじゃないかな?」

「ハーレ、どう?」

「……それなら見たいのです! ケイさん、水を押し除けられますか!?」

「潜って確認じゃないのかよ! まぁ出来るだろうけどさ……」

「それでお願いします!」


 ふぅ……この状態ではアルが確認出来ないから、潜るのではなく、剥き出しに出来るように俺の水で押し除けるって方向なんだろうな。

 少し前までならこの規模の滝を遮るなんて真似は昇華だけでは厳しかっただろうけど、今の俺ならそれも可能か。でも、人がいた場合は……。


「アル、いいか? 誰かいる可能性もあるけど……」

「巻き込んだら巻き込んだ時じゃねぇか? いかにも何かありそうって場所なら、何も対策をしてないとも思えんしな」

「あー、そりゃ確かに」


 もしここが隠れ家だとすれば……俺なら岩の操作で入り口を塞ぐくらいはしておくしね。そういうものがあるかどうかは、滝を退けてしまえば分かる事か!


「おし、それじゃちょっとやってみるか」

「ワクワク!」


 やると決まれば、ハーレさんのテンションがまた上がってるなー。さて、鬼が出るか、蛇が出るか……。うん、ヘビは出てこないでね? 苦手生物フィルタでどうにかなっているとはいえ、強さとか関係なく、普通に遭遇したくないから!


<行動値10と魔力値20消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 117/127 : 魔力値 294/314


 さて、この大量の滝をどうにかするには、相応の量が必要になるからこっちでだな! 


<行動値を2消費して『水の操作Lv10』を発動します>  行動値 115/127


 下手に滝の上の水を遮ったらどういう流れになるかが読めないから、元々あった川を延長するような形で、反発力にある水のレールを作っていく。うん、緩やかな傾斜をつけて元の川へと合流させれば、滝の排除は完了!


「……何もないみたいだね?」

「ううん、そうでもないかな! ハーレ、気付いた?」

「もちろんなのさー! この滝の裏にある岩壁、多分、生成されてる岩なのです!」

「え、そうなの!?」

「……アル、見て分かる?」

「いや、正直さっぱりだ」

「だよなー」


 パッと見た限りでは、滝の水が途絶えてただの崖にしか思えないんだけど……サヤとハーレさんには、どうやら違いが分かるらしい。


「ちなみに、それってどう見分けてるんだ?」

「割と簡単かな! 操作系スキルで操作してるみたいだし、完全には静止してないよ!」

「さっき、少しだけど動いたのです!」

「あ、そういう見分け方か!」


 操作系スキルで完全に静止させるのは難易度が高い事だし、動く様子が少しでも見えれば違和感を覚えて当然ではあるか。でも、それって……。


「今この先に誰かがいるのは確定だよな。それも、俺らからは隠れたい人達」

「ま、そりゃそうだろうな。移動操作制御だろうが、直接発動していようが……隠すって事は、人がいるって事だ。多分、俺らがこっちに向かってるのに気付いたからこそってのもあるだろうが……どうする、ケイ?」

「……無理に暴く気もしないから、今回はパスで。こういう場所があったって情報だけで十分だろ」

「とか言いつつ、今日はもう殆ど動く気がねぇだけだな?」

「……否定はしない」


 まったりと過ごそうと進んできたんだし、わざわざ隠れている人達を探し出すような真似をしなくてもいいだろ。向こうも多分、俺らがこうやって近くまで来ているのには気付いてるだろうしさ。それで何も接触がないなら、無理に交流する気はないって事だろうしね。


「さてと、それじゃ滝を元に戻すぞー」


 急に水の操作を解除したら凄い量の水が上から落ちてくるから、ゆっくりと流れを戻しながら――


「ケイさん、ケイさん! 一気に解除じゃ駄目ですか!?」

「へ? いやまぁ出来るけど……何かを巻き込んでも知らんぞ? てか、何が狙いだ?」

「巻き込むのは今更なのさー! この天気なら、虹が撮れる気がするのです!」

「あ、虹はいいかな!」

「……なるほど、虹か」


 確かにこれだけの水量を一気に空中にばら撒けば、快晴だし虹が掛かる可能性はある。夕暮れになるまではまだ時間もあるし……巻き込む可能性さえ考慮から外せば問題はないか。


「誰かを巻き込んだら、ハーレさんが謝りに回ってくれるなら別にいいぞ?」

「それくらいはお安いご用なのさー! それでお願いします!」

「躊躇なしか!? まぁいいけどさ」


 とはいえ、出来るだけ巻き込みたくはないから……一気にじゃなくて、少しずつ傾けて溢れさせつつ、水の操作の上から川の水を落としていく感じにするか。


「はっ!? なんか予想と違う光景になったけど、これはこれでありなのさー!」

「なんだか幅が広い滝が出来たかな!」

「うん、これはこれでいいんじゃない? 巻き込む心配はなさそうだしね」

「ほう? ケイの事だから、盛大に巻き込むと思ってたんだがな?」

「俺だって狙って巻き込んでる訳じゃないからな!? 避けられる時は避けられるようにするっての!」


 結果的に変わった光景を作り出す事になった気もするけど、まぁそれはいいだろ。虹も掛かり始めたし、悪い状態ではないよなー!

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