第1405話 これからやる事
サヤとの対決は終わったものの……なんだか予想もしてない展開になってきた。いやいや、俺らと戦う為のトーナメント戦とか、流石に勘弁だから! サヤも嫌がってるし、今回はパス! なんでも引き受ける訳じゃない!
「さて、ハーレさんが断りに行ってくれたが……そうなると、これからどうする?」
「……どうしたもんだ? 誰か、何かしたい事ってある?」
「なんだか色々と疲れたから、人が少ないところでのんびりしたいかな?」
「あはは、まぁ今日のサヤは気疲れしちゃっても仕方ないかもね?」
「はい! そういう事なら、『黎明の地』でまだ行った事がない場所に行きませんか!? のんびりまったりの散策がしたいのさー!」
「あ、それ、いいかな!」
「……なるほど」
このまま桜花さんの樹洞の中で居続けると流石に邪魔だろうし、かといって並木にいたままだと目立つのは避けられないもんな。時間的にも精々、2時間あるかどうかってとこだし……新エリアに行ってあまり余裕のない戦闘をしながらよりは、気分的にそっちの方が楽かも?
「俺はありだと思うけど、アルとヨッシさんはどう?」
「たまにはそういうのもいいと思うぞ。なんだかんだで『黎明の地』の全ての場所に行けてる訳じゃないしな」
「私もそれでいいけど……具体的にどこに行くの?」
「確か転移の種が『ネス湖』に登録になってたはずだから、そこからどこかに向かえませんか!?」
「あー、そういや最近『転移の種』は使ってなかったっけ」
えーと、今の登録場所は……うん、ハーレさんの言う通り『ネス湖』になってるね。でも、ネス湖自体は既に何度か行ってる場所だしなー。
「ネス湖からだと、完全に進んだ事がないのは東側か。南側は、青の群集の森林に繋がるしな」
「東は東で、赤の群集の草原エリアへ繋がるかな? 途中のエリアって、見応えはあるのかな?」
「はっ!? ネス湖が目立つエリアだけど、その周辺エリアはそうでもないのさー!?」
「……流石にそれだと、微妙じゃね?」
「あぅ……思いつきで言ったけど、流石にそうなのです……」
色々と見応えがあるのがネス湖だから、その移動経路になるエリアに見所が少なくなるのは仕方ない。まぁそれでものんびりするには悪い選択肢でもないんだろうけど……折角行くなら、何かしら見所がある場所がいいよなー。
「桜花さん、『黎明の地』で見応えがあるいい場所ってないですか!?」
「ん? まぁあちこちにあるのは知ってるが……ハーレさん達が行った場所ってのは、全部は把握してねぇぞ?」
「ダメ元でいいので、何か候補を下さい!」
「まぁそういう事なら、いいけどよ。有名どころだと中立地点の『ニーヴェア雪山』だが……当然ながらここは行ってるな。『封熱の霊峰』や『グラナータ灼熱洞』……も行ってたか。『ネス湖・流水洞』は……風音さんと遭遇した場所だったな」
うーん、色々と挙げてくれてはいるけども、印象的なエリアは既に行った事がある場所ばかりか。
「あー、『砂時計の洞』はどうだ? 望海砂漠の地下にある洞窟なんだが……」
「あぅ……そこは命名クエストに参加した場所なのです……」
「そこも既に行ってたか。他にとなると……少し遠いが、『湖中の蛍林』はどうだ?」
「『コチュウノケイリン』? 初めて聞くけど、どういう字になるのかな?」
「おっ、知らないならこりゃ当たりか? 湖の中で『湖中』で、蛍の林で『蛍林』って書くぜ」
ふむふむ、完全に初耳なエリアだね。湖の中の蛍の林ねぇ? なんとなくどういう光景がエリア名の由来になってるかは分かるけど、具体的にどうなのかはハッキリとはイメージしにくいな? 何かが光ってるのは間違いないんだろうけど……それが何かは謎かも?
「名前的に、どこかの湖なのかな?」
「おう、そうなるな。ネス湖ほどデカくはないが、灰の群集の草原エリアと青の群集の草原エリアの中間辺りにある湖だ。行くなら、灰の群集の草原エリアから西に向かって、川を越えた先になるぜ」
「あ、あっちの方になるのかな!?」
「草原エリアの西か。北はグラス平原や望海砂漠に行くのに向かった事はあるが、西には進んだ事はなかったな。場所としては悪くないんじゃねぇか?」
「そうかも? エリア名も初めて聞くし、場所的にものんびり出来そうかも?」
「ふっふっふ! どういう場所か気になるし、そこに向かうのです! 桜花さん、情報ありがとー!」
「いやいや、これくらいどうって事はねぇよ!」
なんだかんだで有名どころには結構出向いてたみたいだけど、それでもまだ行った事どころか、エリア名すら知らない場所が残ってたか。『黎明の地』の北西方向は俺らが一番行ってない場所だから、今日の目的地としてはいいかもね。
まぁ他にもチラホラと行った事がない場所もあるにはあるけど……とりあえず今回はそこでいいだろ!
「おし、それじゃこれからの目的地は『湖中の蛍林』に決定で!」
「「「「おー!」」」」
さーて、どんな風景が待っているのかが楽しみだね。道中も行った事がないエリアばっかだろうし、ちょっとした差異を探してみるのも一興だろ。
「さて、まずは草原エリアに移動だなー。西には行った事がないけど、移動妨害のボスは何がいるんだ?」
「草原の西は……確か、『移動ヒマワリ』だったか?」
「アルマースさん、正解だ。あぁ、いいタイミングといえばいいタイミングか。そこだぜ、油用のひまわり畑が広がってるのはな。エリア名としては『日向の牧地』だ」
「え、そうなの!?」
「てっきり、草原エリアの中かと思ってたのさー!?」
「初期エリアの方にもあるんだが、共闘イベントの時に色々と駄目になった事があったから、何ヶ所かに分散してるそうでな。そこのは、隣の青の群集の荒野メンバーとの共同管理だぜ?」
「あ、危機管理の一環なのかな!」
なるほど、確かに初期エリアだけでやるのはリスクが高過ぎるという側面はあるよなー。エリア名が『日向の牧地』となると……元々、ヒマワリが出てくる場所という可能性もありそうだね?
「ま、その辺を見学するのもありかもな?」
「だなー! 桜花さん、情報サンキュー!」
「いいって事よ! 検証続きでバタバタしてたんだし、ちょっとゆっくりしてきてくれ!」
「ほいよっと!」
今日はもうずっとトーナメント戦や模擬戦で動きっぱなしなんだし、昨日も格上の場所で検証してたもんな。もう23時まで2時間もないけど……まぁちょっとくらいのんびりしていきますか。
◇ ◇ ◇
<『群雄の密林』から『始まりの草原・灰の群集エリア3』に移動しました>
目的地も決まり、いつものようにアルに乗って草原エリアまでやってきた。今日は昼の日だし、心地よい晴れだから、のんびり散策には良い天候だ。リアルと違って凶悪な猛暑なんて事もないしなー。
「草原はやっぱり見渡せる範囲が広いのさー!」
「まぁ拓けてるし、木もそんなの多くはないしね。それに、不動種の人も減ってる?」
「群雄の密林の並木へ移った人が多いのかな?」
「そうかもなー」
草原エリアに来た回数は少ないけども、その少ない中での記憶では……もう少し不動種の人が植わってた覚えはある。まぁ今も皆無ではないけども、あの並木が出来たら移動していく人も多くて当然か。
「とりあえず、すぐに西へ向かうぞ。ケイ、ボスのヒマワリはどうする?」
「誰かが瞬殺でいいんじゃね? そこで時間をかけても仕方ないだろうしさ」
「ま、そりゃそうか。問題は誰がやるかだが……」
「植物相手なら、ヨッシの毒の出番なのさー! それで瞬殺なのです!」
「ヨッシ、それでいいかな?」
「あ、うん。任せて!」
ぶっちゃけ誰がやっても結果は変わらないだろうけど、ササっと済ませてしまうのがいいとこだしね。そういや、今くらいになってると妨害ボスの周回PTってどうなってるんだろ?
「そういえば、草原エリアといえば風雷コンビの喧嘩が有名です!」
「いや、流石に今はいないんじゃないか? 俺らが出てくる前、模擬戦に向かってただろ?」
「あぅ!? そういえばそうだったのさー!?」
あれ、今頃は実況ありで中継されてる頃合いなんだろうか? 風雷コンビの対決がすぐ決着になるとは思えないし、長期戦になってる可能性はありそうかも?
「ねぇ、サヤ? 風雷コンビの対戦を中継してるとこは見たりしなかった?」
「……中継自体が多かったから、流石に個別の内容までは把握出来なかったかな?」
「色んな人が対戦をしてるのさー! エンの近くも、ここのユカリの近くも、人が多かったのです!」
「ケイとサヤが、対戦欲に火を着けたのかもな?」
「……そう言われても、反応に困るんだけど?」
「別に悪い事はしてないし、気にはしないかな!」
「ま、それは違いないな」
「ですよねー!」
俺らが影響を与えた結果だとしても、悪い事じゃないのはサヤの言う通り! 俺らとの対戦を狙ったトーナメント戦の開催は頓挫したから、その代わりに個別で対戦をしている可能性はありそうだけど……まぁそれも悪い事ではないしね!
「ともかく、今はまずここの西側の『日向の牧地』まで進むぞ!」
「「「「おー!」」」」
のんびり、まったりな散策はここからスタートで! まぁアルの基礎的な移動速度は以前よりも遥かに速くなってるから、結構な速度は出てるけどね。
いやー、広い草原の中を風を切りながら進むのは気持ちがいいもんだ。『黎明の地』では驚異になる敵はいないし、まったりと観光気分で進んでいこう!
◇ ◇ ◇
<『始まりの草原・灰の群集エリア3』から『日向の牧地』に移動しました>
ヨッシさんが『移動ヒマワリ』を瞬殺して、その先にある『日向の牧地』へとエリアが切り替わったけど……なるほど、エリアとしてはここも草原ではあるっぽいね。
点在する低木があり、エリアの大半を背の低い草花があり、所々に剥き出しの土の地面があり、小規模な湖もあり……異様に目立つひまわり畑もそこにあった。
「おぉ! ひまわり畑が広がってるのさー!」
「思った以上に広いかな!?」
「草原エリアの中にもひまわり畑は点在してたけど、ここは随分と広く作ってるんだね?」
見渡す限り……とまではいかないけど、かなりの広範囲にひまわり畑が出来ている。これ、広さ的にはどの程度だ? 高校のグラウンドよりも広いくらいのスペースはあるかも?
「おっ! みんな、湖の畔を見てみろ!」
「湖の畔? 人が集まってる様子はあるけど……あ、岩で何かを押し潰してる……あれ、油を絞ってるのか!?」
「油の生成もここでやってるんだね。あ、食べ物アイテムの詰め物の土器で受けて、竹で他の器に移し替えてるんだ?」
「あの油があれば、揚げ物が出来るかな?」
「……じゅるり」
「出来ると思うけど、今からいきなり行って交渉はなしだからね? 多少なら融通してくれそうだけど、私達を特別扱いしてもらうのは……ちょっと遠慮したいしさ」
「はっ! 確かにそれはそうなのさー!」
あー、そうか。なんだかんだで俺らは知名度があるんだし、下手に頼めば無理をしてでも融通してくれる可能性は十分ある。とはいえ、馴染みの人ならまだしも、初対面の人にアポ無しでそういう真似をするのは避けたいよなー。
「アル、出来るだけ上空を飛んでくれ。下手に作業の邪魔はしたくないし、油なら調達ルートは確保済みだしな」
「おう、その方がいいだろうな。そういや、マツタケさんに会ったんだってな?」
「そうそう、そのマツタケさんから油のトレードを……って、サヤかヨッシさんから聞いてた?」
「それもあるが、俺とマツタケさんとは元々の知り合いだ。マツタケさん、俺の事は言ってなかったか?」
「それ、初耳なんだけど!?」
マツタケさんは全くそんな事は言ってなかったよな!? くっ、ケインと同じ共同体の人って方に意識が行き過ぎて、アルとの知り合いの可能性は全く考えてなかったよ!?
「あー、まぁサヤとヨッシさんから聞いた限りでは、急な話だったみたいだしな。ケインさんの件もあるし、失念してても仕方ないか」
「アルさん、アルさん! マツタケさんとはどういう知り合いですか!?」
「ケイ達がテスト期間中で不在の時に、野良PTで何度か一緒になった事があってな? その時に普通のキノコを『マツタケ』に進化させるにはどうすればいいかって話をした事があるんだよ。ケイ達が復帰してきてからはバタバタして話せてなかったが……成功してたとはな」
「おー! そういう接点だったんだー!?」
「なるほどなー」
俺らが不在の間でもアルだけはログインしてたんだから、それだけ知り合いが増えているのは不思議でもなんでもないか。まぁその時はマツタケさんは『マツタケ』にはなってなかったみたいだけど……成熟体で『マツタケ』に到達したって考えていいのかもね。
「もしかして、桜花さんはその辺を知ってたから私達をマツタケさんに紹介してくれたのかな?」
「多分、そうだと思うぜ? 桜花さんなら他にも食べ物を専門に扱う不動種の人の心当たりはいくらでもあるだろうが、見知った相手を選んでくれたんだろうよ」
「そっか。それは桜花さんに感謝しないとだね」
「だなー」
ケインの件もあったんだろうけど、色々と桜花さんが気遣ってくれていたみたいだし、本当にありがたいもんだ。その辺の事情の説明がなかったのは……まぁ合間の時間に急いで見に行ってたからってのはあるんだろうね。
「はっ!? そうなると、アルさんはプロメテウスさんやケインさんとも知り合いになってますか!?」
「いや、そっちとは特にこれといって交流はねぇぜ? まぁ同じ共同体だって知ってた程度だな」
「そうなんだ!?」
ふむふむ。まぁ共同体の1人と知り合いだからといって、そのメンバー全員と知り合いになる訳でもないもんな。野良PTで一緒だったなら、尚更に!
「おし! 今度、アルも含めて全員が揃ってる時に一緒に行こう!」
「あー、確かに一度は行っときたいな。取り引き相手になったなら、俺もちょっと話はしておきたいとこだしよ」
「油の入手の目処が立ったら連絡はもらえるようになってるから、その時がいいかもね?」
「ふっふっふ、その時は氷塊を用意していくのです!」
「ケイの出番かな!」
「あー、川から水だけを取り出すんだっけか? まぁそこは任せとけ!」
「その水を私が凍らせて、納品だしね」
具体的にいつになるかはまだ分からないけど、このひまわり畑の様子を見る限りでは……そう遠い事でもなさそうだ。油が手に入れば、色々と出来る事は増えそうだよなー。
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