第1404話 対戦を終えて


<『模擬戦エリア』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 サヤとの対戦が終わって、エンの前へと戻された。ふぅ、サヤはやっぱり強かったなー。色々と対戦中の内容を聞いてみたいとこではあるけど……。


「とりあえず、桜花さんのとこに戻るか」

「あ、うん。そうしようかな!」


 時間的には、もう少しで21時になりそうってところ。エンの周りにはログインしてきたばかりの人や、逆にログアウトしていく人の姿も見えていて、少し混雑してるしね。

 正直、桜花さんの側はもっと混雑してそうな気もするけど、ササっとアル達と合流してしまった方がいいだろ。実況の方がどうなってたのかも気になるしなー。


「アル、今からそっちに戻るけど、問題ない?」

「ん? あぁ、色々と盛り上がってはいるが、流石に始まる前の件で反省した後だから、囲まれる心配はないな」

「ですよねー。それじゃすぐに戻る」

「おう、待ってるぞ」


 ベスタやレナさんが騒動を収めていたんだし、今もあの状態になる可能性は低いよな。さてと、移動をするにはこれだな!


<行動値上限を使用して『移動操作制御Ⅱ』を発動します>  行動値 27/127 → 125/125(上限値使用:2)


 手早く水のカーペットを展開して、その上に飛び乗る! サヤも何も言わなくても乗ってきたし――


「……この新しい移動操作制御、思った以上に厄介だったかな」

「まぁそうだろうなー。多少の無茶は出来るようになったしさ」

「これを潰すなら、連撃じゃなくて3点同時攻撃が有効?」

「あー、多分そうかも?」


 なんかいつするかも未定な次の対戦に向けて、思いっきり分析されてません? いや、気持ちは分かるけども!


「とりあえず、先に転移するぞー。話すのはそれからで!」

「あ、ごめんかな!」


 一緒に移動中なら、同じ状況のまま転移されるとはいえ……それはあくまでも全員が転移を選んだ場合の話。俺だけが転移をしたら、サヤを放り出して転移しちゃう事になるからなー。


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『群雄の密林』に移動しました>


 さて、これでマサキの元へと転移は完了! 桜花さんの元までは上空を飛んで移動していきますか!


「そういや、対戦中にもちょっと言ったけど……サヤは今回、随分と手段が違ってたな?」

「あはは、ケイは私の近接に警戒をしてると思ってたからかな! それに……いつまでも、苦手を苦手のままにしておきたくもないしね?」

「……なるほど」


 俺が1番何を警戒していたかを読んだ上で、警戒の薄い部分を思いっきり使ってきた訳か。それに、あの戦い方が竜を追加した時に想定していた動きでもあるのかも?


「結構意表は突いたつもりだったんだけど……ケイには、対処されちゃったかな?」

「いやいや、結構焦ったからな!? 水の操作に電気魔法を流された時とか、雷の操作で麻痺した時とか、空洞で跳ねさせたのを逆に利用された時とか!」

「あはは、そう言ってくれるなら、やった甲斐があったかな!」

「……まぁ、俺としても自分を倒す手段が結構ありそうだなーってのは実感したけどさ」


 Lv10に至ったスキルが万能だとは思っていないけど……まさか、それを逆に利用されるとはね。でも、ああいう使い方も出来るというのはいい刺激にはなったかも。


「そういえば、ケイはいつの間に『遠隔同調』を使ってたのかな?」

「んー、コケを離す結構前から。サヤはコケとロブスターの分断も狙ってただろ?」

「うん、ずっとそれは狙ってたけど……あ、その対策として発動してたのかな!?」

「そうそう、そんな感じ。実際に移動させた時に竜がこっちを向いてて焦ったんだけど……あれって気付いてなかった?」

「……それは気付いてなかったかな。でも、よく見てたら『群体数』が変わって、気付けたはずだし……そこは反省点かも?」

「あ、そういう見分け方もありか!」


 確かにHPの代わりに群体数が変化するんだし、それは普通に表示されているもんな。……情報の見落とし、サヤでもあったりするんだね。いや、全ての状況に対応し続けるのは無茶な話か。


「それはそうと……水の中の空洞に閉じ込めてきたあれ、普通に連携攻撃で使えそうじゃない?」

「サヤがあれだけ対応出来るなら、確かにいけるな。水の方にヨッシさんの電気も流しておけばより凶悪に出来るかも?」

「あ、それは良さそうかな!」


 水の上を跳ねるという使い方はした事があるけど、思いつきでやったあれは……色々と使い道はありそうだ。多過ぎると思っていた水の生成量も、使い方次第で相当化けるだろ!

 いやはや、こういう感じで味方と全力で戦ってみるってのもいいもんだね。自分では見えてなかった弱点とか、思わぬ手段とか、そういう発見が色々とあったもんだ。


「おし、そろそろ見えてきたけど……思ったより混雑はしてないな?」

「普段の実況くらいかな?」

「だよなー」


 出発した時にはもっとすごい人数が集まっていて過密状態だったけど、そんな様子はどこにもない。ふむ、風雷コンビとケインが実況を書き起こしてくれる事になってたんだし、それが上手く機能してあちこちに分散したのかもなー。

 何気にアルのクジラの上にベスタやレナさんとハーレさんがいるから、実況席はあそこだったっぽいね。ヨッシさんは巣の方にいるけど……これは、実況が終わってから移動してきた感じか?


「あ、戻ってきたのさー!」

「サヤ、ケイさん、おかえり!」

「ただいまかな!」

「戻ったぞ! アル、どこに降りればいい!?」

「一旦、桜花さんの樹洞に入ってくれ! 俺らもすぐに行くからよ!」

「ほいよっと!」


 聞き流してたけど、移動中にはまだ呼びかけているような声が聞こえてたからなー。色々と騒めいてもいるし――


「おっ、コケの人達が戻ってきてるな!」

「いやー、すげぇのを見せてもらったぜ! 2ndも、ああいう運用の仕方をすればかなり役立つんだな?」

「コケの人への攻め方、結構な参考になった!」

「まさか、相手の魔法を利用しての攻撃とはなー。Lv10の操作を、ああいう形で破るとは!」

「Lv10に至ったスキルだとしても、工夫次第で対処も可能なんだな」

「2ndは最悪、盾に使えるとは聞いてたけど、魔法を防ぐのに魔法型ってのもありなんだね」

「咄嗟の判断が大変そうだけどな。視点の切り替えは、下手すれば弱点になりそうだし……」

「結構頻繁に切り替えてたけど、それでも把握し切れない部分もあるみたいだしね」


 ワイワイと騒めいている中で、少し気になる情報が聞こえてきたけど……俺はそんなに視界は切り替えてないぞ? となると、サヤがそういう形で動いて――


「「わっはっはっはっは!」」

「……いきなりなんだ、風雷コンビ」

「なに、今の一戦を見て戦いたくなっただけだ! なぁ、疾風の!」

「まぁな! 今のでテンションが上がったからな! なぁ、迅雷の!」

「「いざ、尋常に勝負! 構わないよな、リーダー!」」

「……頼み事は済んだから、勝手にしてくれて構わんぞ」

「では、行くぞ! 疾風の!」

「当然だぜ! 迅雷の!」


 ちょ、風雷コンビがこれから対決するんかい! というか、今日はどっちも龍でログインしてたのか。ちょっとその対戦、見てみたくはあるけど……この後、どうするかも決めないとなー。その辺の話、全然出来てないしさ。


「とりあえず、先に桜花さんの樹洞に入っとくか」

「うん、そうするかな!」

「あ、私も行くよ」

「ほいよっと!」


 という事で、ヨッシさんがサヤのクマの肩に止まってきたから、桜花さんの樹洞の入り口まで飛んでいこう。それにしても、アルとハーレさんは何の話をしてるんだろ?


「はーい! みんな、興奮するのは分かるけど、少し落ち着いてねー!」

「どうすんの、レナさん? みんな、思いっきり興奮状態だけど……」

「風雷コンビまでそんな調子だし、どうしたものかなー? 折角ここまで盛り上がってるなら、いっそ、何かトーナメント戦でも開いちゃおっか?」

「え、マジで? 今からって……今日、それだけで潰れるんじゃね?」

「たまにはそんな日があってもいいんじゃない? ダイクは嫌?」

「別に嫌って訳でもないんだが……アルマースさん達はどうすんの? さっき出てた話もあるしさ?」

「まだその辺は全然決めてなくてな。この後、ケイ達と話して決めるが……」

「色々と悩ましいところなのです……!」


 ふむふむ、周囲の人達の声に混ざって聞こえてきた範囲はそんなとこか。これからの予定の一案を、レナさんやダイクさんと話している最中っぽいなー。

 俺らがそこの会話に加わってもいいけど……これは俺らがそのトーナメント戦に参加するかどうかを、その場の流れだけで勝手に決めないようにする為なのかも? なんか『さっきの話』ってのもあるみたいだし、そこらも含めて桜花さんの樹洞の中で話し合うって事なのかもね。


「おっ、来たな。ケイさん、サヤさん。もうしばらくは他に人は入れないから、寛いでくれてていいぜ」

「……2人とも……お疲れ様」

「サンキュー、桜花さん! 勝ったぜ、風音さん!」

「お言葉に甘えて、休憩させてもらうかな。……次は負けないからね!」

「あはは、サヤは残念だったね。でも、結構いい勝負だったんじゃない?」

「……ケイとの対戦は、行動予想が難し過ぎるかな?」

「いやいや、今回のサヤには言われたくはないけどな!?」


 サヤだって、想定外の動きが多過ぎたし! まぁ今後の連携を考えるのには役立つ情報にはなるし……って、この辺は少し前にも考えたから!


「そういや、さっきチラッと聞こえてた内容なんだけど、サヤって視点を竜に結構切り替えてたのか?」

「あ、うん。森に隠れた時とか、川の中に入った時とか、水の中の空洞を跳ねる時とかは切り替えてたかな」

「森の中と川の中はまだ分かるけど、跳ねた時は何で!?」

「方向的にクマだけだとタイミングが掴み切れない時があったから、竜の位置を細かく調整して補ってた感じかな? 他の時は、クマの姿を完全に隠して、ケイの位置を確認する為だけどね」

「……なるほどなー」


 跳ねまくっている時の竜の位置は正確に覚えてないけど……あのタイミングの把握は、クマだけでしてた訳じゃないのか。それはそれで凄い内容じゃないですかねー!?


「解説がベスタさんとレナさんじゃなきゃ、何が起こってたか伝えきれなかったと思うよ? ハーレも、見えてはいたみたいだけど、細かく理解は出来てなかったみたいだしさ」

「え、そうだったのかな!?」

「へぇ? そりゃ意外……でもないか」


 俺でも正確に竜の動きは見えていなかったんだから、ベスタやレナさんでなければ対応できないのは納得。というか、サヤとの対戦を客観的に実況で見てみたかったかも?


「まとめに書き起こしてたんだから、実況の内容を読もうと思えば読める?」

「まだ消されてなければ読めると思うけど……読むのも大変だと思うよ? 中継の映像と一緒じゃなきゃ、状況も分かりにくいだろうし……」

「あー、まぁそれは確かに?」


 ハーレさんが実況でそれなりに動きを説明してくれてはいるだろうけど……ぶっちゃけ、文字だけで自分がやってた事を客観視するのって難しいよなー。でも、興味はあるからちょっと見て……って、あれ?


「……もう消されてる?」

「え、そうなのかな!?」

「どうもそうっぽい。あー、ベスタから注釈が書いてあるな。えーと、『実況の書き起こしは、下手に残すと増え続けて情報を探す邪魔になるので、実況が終了した時点で削除させてもらいます』だとさ」

「あ、そういう理由なのかな!? ……確かに、どれでも残し続けてたら凄い量になりそうだもんね」

「ですなー」


 消すのが早いような気もするけど、変に残して消すタイミングを逃す方が困るのかも? なんだかんだでまとめにある情報って大量だし、実況の書き起こしが次々と保存されていったら……最初は良くても後々でとんでもなく邪魔になりそうなのは、何となく予想は出来る。

 かといって、一部の人だけのを保存するとなると、それはそれで何かのトラブルの火種になりそうだもんなー。もし残しておきたいのなら、共同体で扱える部分の中で書き起こして、個別の記録として置いておくしかないのかも?


 おっと、そんな話をしてたらアルとハーレさんも樹洞の中へ入ってきたね。レナさん達は一緒じゃないみたいだけど……。


「アル、どういう話になったんだ? トーナメント戦を開催するとかレナさんが言ってたのが聞こえてたけどさ」

「ん? まぁそれくらいは聞こえてたか」

「実は『ケイさんとサヤを倒せ!』って内容のトーナメント戦が提案されました!」

「……え?」

「……はい?」


 ちょっと待って、何その内容!? 俺とサヤを倒すトーナメント戦!? なんでそんな内容に……そもそも誰の発案!?


「誰の発案って訳でもないんだが、決着直後に2人に挑んでみたいって声がチラホラ上がっててな? とはいえ、勝手に俺らで決める訳にもいかない内容だから、こうして先に樹洞に入っててもらったんだが……」

「サヤとケイさん的には、このトーナメント戦はどうですか!?」


 それってみんなが妙に悪ノリした結果で、流れから出てきた案か!? ダイクさんが言ってた『さっきの話』の内容がこれなんだろうな。

 とんでもない話が出てきたけど……あー、挑んでみたいってその気持ち自体は分からなくはない! ただ、その挑戦される側が自分なのが問題だけど!


「流石にそれは遠慮願いたいかな!?」

「俺もパス! 結構な集中力を使った後で、そういうのはやってられん!」

「あ、やっぱりサヤもケイさんも断ってきたね」

「ま、その辺は予想通りではあるな」

「了解なのさー! それじゃレナさんにそう言ってくるねー!」

「任せたぞ、ハーレさん!」

「はーい!」


 色々と俺らへの負担が大きなトーナメント戦への参加は勘弁! 途中で負けたらややこしそうだし、勝ったら勝ったで参加人数が多ければ間違いなくしんどいわ!

 サヤも間違いなく目立ちまくるから、そういう意味でも却下! ……風雷コンビの対戦でも見ていこうかと思ったけど、こりゃ一旦この場を離れた方がいいのかも? ハーレさんが戻ってきたら、これからどうするかを相談しないとなー。

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