第1402話 ケイとサヤの対決 中


 決して甘く見ていた訳じゃないけど……サヤが予想外にも魔法を多用してくるなー。でも、『簡略指示』での発動はクマの方の魔力値を消費している。威力は竜のものだけど、使える頻度はそれほど多くはない。

 それを踏まえた上で、ここからどう攻めるか……。エレクトロボールやエレクトロボムの連発は『共生指示』からの発動だから、再使用時間が発生してるはず。でも、その間は黒の刻印の剥奪を用意している可能性は高いし……水をメインに使うのはなしか。


「ケイ、攻めてこないのかな?」

「……わざわざそう言うって事は、何か狙ってる?」

「そう思わせて、回復時間を稼いでいるのかもね?」

「心理戦かよ!」


 クマに有効なのは魔法だけど、着実に当てないとサヤには迎撃される可能性が高い。さっきみたいに妨害してくる可能性もあるし……かと言って、俺自身が近接範囲に突っ込むのはリスクがあり過ぎる。

 長距離でなくても、中距離くらいは保って……それでいて、サヤへの有効打を狙うしかないか。いや、先に竜を潰した方が色々とやりやすい?


 ちっ、これだっていう有効打が思い付かないな。何か意表を突いて、隙を作らないと……カウンターでコケとロブスターを切り離されかねない。でも、それを考えている今の間に回復をされるのも……よし、とりあえずこうしておくか。悟られないように、思考操作で……。


<行動値上限を15使用して『遠隔同調Lv1』を発動します>  行動値 90/121 → 90/106(上限値使用:21):効果時間 5分


 コケは飛行鎧に隠れているから、思考操作で発動したら気付かれないはず。時間制限はあるけど、これで5分間は斬り離されても死にはしない。多少は行動値と魔力値が回復してるけど……それはサヤも同じだから、優位な点ではないな。

 この手段は絶対とは言えない安全策ではあるけど……この辺を上手く使わないと。幸い、コケはその辺のあちこちに存在している場所だし……いや、コケのスキルだけで勝てるとも思えないし、これでいくか!


<行動値上限を3使用と魔力値9消費して『魔力集中Lv3』を発動します>  行動値 90/106 → 90/103(上限値使用:24): 魔力値 281/314 :効果時間 14分


 こっちは見た目通りだから、普通に発声で発動! 普段は後衛で動いているからあまり使わないけど、今の状況なら発動しといた方がいいだろ。


「近接なら、望むところかな! 『略:ウィンドクリエイト』!」

「そう簡単に近付けさせないっての!」


 竜の口から吐く風の勢い自体はそれほどないのに、上手くクマの加速の為の推進力に使ってるな!? 昇華になってないのが幸いってとこか。


<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します>  行動値 90/103 → 90/102(上限値使用:25)


 この手段は前にも使った事があるけど……さて、サヤはどう対処する?


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値10と魔力値90消費して『半自動制御Lv1:登録枠1』は並列発動の待機になります>  行動値 80/102(上限値使用:25): 魔力値 191/314 再使用時間 90秒

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値20と魔力値20消費して『水魔法Lv10:アクアクラスター』を発動します> 行動値 60/102(上限値使用:25): 魔力値 171/314

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 右のハサミから、アクアクラスターの水滴を連続発射! これの弾数は操作数の4倍だから、今は24発! そして左のハサミからは、アースバレットを最大60発!


「これ、無茶苦茶かな!? 『爪刃乱舞・風』!」


 とか言いながら、すぐに方向転換しつつ、アクアクラスターの水弾とアースバレットで、回避と迎撃の対応を分けているのは流石だね。でも、狙いはこっちだ! アースバレットを魔法砲撃ではなく、通常発動で……よし、今だ!


「っ! 竜が狙い!?」

「さてね?」


 まぁ思いっきり竜に石の礫を当てたんだし、狙いはその通りだけどなー。対戦中にそこを肯定する意味はないし、竜だけが狙いという訳でもない。隙があればクマの方に叩き込む! とはいえ、元々の威力が高い訳じゃないから……躱し切れずに多少のダメージは入っていても、まだまだ有効打ではないか。

 今のうちに出来るだけサヤに近付きつつ、アクアクラスターの水滴を付けて――


「だったら、これかな!」

「……そうくるか」


 ちっ、躱し切れないと判断して、近くに倒れている木を盾にしてアクアクラスターのみを防ぎ始めたな。1発ずつの威力は低いアースバレットはそのまま受けて、最後でぶっ放すやつだけは確実に凌ぐつもりっぽい。

 でも、そうはさせるか! まだ1つも水滴が付けられていないけど、まだどっちの弾数も3分の1くらいは残ってるしね! サヤの上空へ移動して、上から狙い撃ちを――


「もらったかな!」

「なっ!?」


 やばっ!? これ、思考操作での雷の操作か!? 回避が間に合わ――


<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>

<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 60/102 → 60/108(上限値使用:19)


 くっ、飛行鎧が破られて、ロブスターに麻痺まで入った!? ちっ、海の種族だから、根本的に雷属性そのものが苦手か!

 それに雷の操作ともなれば、流石にコケの群体数も少なからず減ってるし……いや、でもまだだ! 落下していく俺を狙ってるんだろうけど、まだ負けちゃいない!


「『白の刻印:剛力』『連爪刃・閃舞』!」


 スキル自体をキャンセルされた訳じゃないし、ロブスターを動かしての狙いは付けられないけど、手段はある! サヤが跳び上がったのは、気が急いたな!

 残っていたアースバレットをロブスターの右のハサミを弾き上げるのに使って、攻撃に迫ってくるサヤに向いた瞬間に、残りのアクアクラスターの水滴3発を一気に叩き込む!


「っ!? 今のタイミングで!?」

「意表は突かれたけど、まだ終わりじゃないもんでな!」


 よし、3発中の2発はサヤに当たったし、アースバレットで弾き上げたハサミも上に向いたから、痛いのを食らっとけ! 押し潰せ、アクアクラスター!


「きゃっ!?」


 おし! 俺を攻撃しようと既に振りかぶっていた状態からだと、上手く相殺も出来なかったっぽいね。アクアクラスターの2発が、サヤに直撃……って、竜で受けてるし!? 他のは……水滴を受け止めてた木を投げ捨ててたから、巻き添えで受けてはくれないですよねー!


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅱ』を発動します>  行動値 60/108 → 60/106(上限値使用:21)


 落下する寸前で、なんとか水球で包み込んで退避! あー、危ない、危ない。麻痺が解除になるまでは、逃げ回っとこ。

 それにしてもあのタイミングで雷の操作か。雷そのものの動きなら、そのまま雷のイメージでいけたのかもなー。いやはや、サヤがそもそも持ってる事を忘れてたレベルだったけど……今のは本当に危なかった。


「……やっぱり、手強いかな!」

「迫りながら言われてもなー!?」


 麻痺とかほとんど受けた覚えがないけど、強引に水で動かしてなけりゃもう結構アウトな状態なんですけどねー!? なんとかサヤからの反撃は凌いだけど、手強いのはサヤの方だっての!


 さっきの反撃だって竜を盾にして防いでたから、クマの方にはろくにダメージが入ってないじゃん! アクアクラスターがLv10の魔法でも、弱炎属性の雷の魔法型の竜相手じゃ、そもそもまともな威力になってなさ過ぎる!

 というか、地味に銀光が強まってるし……少なからず、アクアクラスターが連撃の稼ぎに使われたか。少しの攻防の間で、とんでもない事をしてくれますなー!? 


「っ! 逃がさないかな!」

「いやいや、ここは近付けないっての!」


 麻痺はそんなに長くはないから……よし、そう考えている間に回復! でも、迂闊に距離を詰めれば強まってた白光と銀光を放つ爪の餌食になるんだし、今は発動が尽きるまで逃げに徹しよう!

 ここから完全に使い潰させるって手段もあるけど、色んな手段で距離を詰めてくるのに連撃の強化に繋がる動きは危険過ぎ――


「って、おわっ!?」


 ちょ!? 輪切りにされた丸太が飛んで……って、狙いは荒いけど、また木をぶった斬って投げてきてるのか!? 狙いが雑なのは、スキル補正なしで素で投げてるから? あ、川にでも落ちたのか水音が聞こえたね。

 ふむ、とりあえずこれである程度は距離を取れたはずだし、コケで後ろの様子を見ながら回避に専念した方が――


「……あれ? どこに行った!?」


 てっきり倒れた木だらけの中にいるか、俺を追いかけながらなのかと思ったら、姿が見えない!? くっ、いつの間にやら獲物察知の効果は切れてるし、サヤは大技を連発した後だから追撃は諦めたか。

 でも、まだ白光や銀光が見えててもよさそうな気がするけど……何かの陰に隠れたか? サヤの『連爪刃・閃舞』……もしかして、最大強化まで使い切ってた?


 あー、アクアクラスターでの攻撃が少なからず俺自身にも死角を作っちゃってたから、サヤならあの時点で使い切っててもおかしくないかも?

 ちっ、竜で受け止めた方に気を取られてたけど、よく考えたらあの時点で銀光も白光も見えなくなってた気がする。


 俺も行動値は回復させておきたいけど、その前にサヤの位置の確認は必須だな。クマの巨体でどこに隠れたか、把握しないと危険過ぎる。身を隠すように動きやすいように行動を誘導されてたとしたら……今こそ、狙ってきてるはず。


<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します>  行動値 62/106(上限値使用:21)


 逃げている間に少し行動値が回復してたか。まぁそれは置いといて……サヤの反応はどこだ? 真っ正面の森の中にはいなさそうだけど……あ、左方向に反応あり! よし、左を向いて……。


「ちょ!? サヤ、川の中か!?」


 さっき聞こえた水音は、投げた丸太があらぬ方向に飛んで川に落ちた音じゃなくて、サヤ自身が飛び込んだ音かよ! くそっ、距離を取ったと思ったけど、下流側に逃げちゃってたから意外と引き離せてないっぽい!?

 今、ちょこんと竜の頭が見えてたけど、潜ったみたいだしさ!? ともかく一旦川から離れて……いや、でもこの状況を利用するのもありだな。地形は……よし、あそこを使うか。


<行動値を19消費して『水流の操作Lv4』を発動します> 行動値 43/106(上限値使用:21)


 残り行動値が心許なくなってきたけど、それはサヤも同じ! 川の水ごとサヤを持ち上げて……あ、泳いで出てこようとしてる!? てか、竜が大型化してますがな!?


「逃すか!」


 川から沼の方へと動かして、流れも盛大に早くしていく! そのまま沼に突っ込ませて、身動きを封じて――


「っ!?」

「げっ!?」


 くっそ、ここで黒の刻印の剥奪で操作を奪ってくるか!? やってるとは思ったけど、やっぱり登録を変えてきてますよねー!

 あー、もう! 完全に手の内を知られてるから、攻撃を先読みされて対処されてる気がするんだけど!?


「ぷはっ! 決め手になりそうなのが、全然決まらないかな……!」

「……そりゃどうも。俺としても、意表を突かれまくる上に、反撃を凌がれて困ってるとこなんだけど?」

「あはは、その辺はお互い様かな?」

「まぁ、確かになー」


 沼に向かって流されているのに気付いたからこそ、即座の剥奪だったんだろうし……竜を元のサイズに戻しての、この会話かー。本当、狙った事が決まらないのはお互い様だよな。

 ザバッと落ちてきた大量の水を被りながら、こうして会話をしてきたって事は回復の時間稼ぎか? まぁそれならそれでこの機会を利用させてもらおう。えーと……うん、コケはあるな。効果時間もまだいけるし……よし、会話に乗って意識を逸らそう。


「行動値はまだあっても、魔力値が尽きてきたってとこか?」

「どうかな? そういうケイこそ、魔力値はあっても、行動値はかなり心許なくなってきたんじゃない?」

「さてなー?」


 とりあえずお互いに状況を探りながらという状況だけど、今のうちにこれだ。気付かれないように、思考操作で!


<行動値を3消費して『群体化Lv3』を発動します>  行動値 40/106(上限値使用:21)


 サヤのクマの背後にある岩の表面のコケを群体化。気付かれた時のリスクは高いけど……仕掛ける価値はあるはず!


「それにしても……随分とサヤは魔法を使ってるもんだな? 珍しくね?」

「近接物理だけだと水の突破が難しいし、これも私の力ではあるしね! そういうケイは、ロブスターではあんまり攻撃してこないね?」

「いや、ただ単に迂闊に近付けないだけだから……」


 可能であれば竜への攻撃をロブスターでしたいんだけど……そんな余力がないんだから、どうしようもない。俺の場合、即死もあり得るんだから……まぁ、近付くけども。


<行動値を3消費して『群体内移動Lv3』を発動します>  行動値 37/106(上限値使用:21)

<『遠隔同調』の効果により、視界を分割表示します>


 よし、これでサヤの背後の様子が見えた。見えたけど……あのー、竜がこっちを見てる気がするのは気のせい? すぐに攻撃を仕掛けようと思ってたけど……なんかあっさりバレそうな予感がするんですけど!?

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