第1401話 ケイとサヤの対決 上


 サヤとの対戦は、俺の準備は完了。今はハーレさん達の実況準備の完了待ちだけど――


「ケイさん、準備完了なのさー! いつでも始めていいのです!」

「ほいよっと。サヤ、始めるぞ」

「分かったかな! 負けないからね、ケイ!」

「その言葉、そのまま返す!」


 そんな言葉の応酬をしつつ、エンの樹洞の中央にある光の中へと進んでいく。さぁ、どこに出るか?


<『模擬戦エリア:平原』へと移動しました。模擬戦の開始のカウントダウンを開始します>


 ふむふむ、昼間だけど、曇りで薄暗い。ふむ、こりゃ太陽を光源とした光の操作は使えないか。それに、色々なエリアの特徴を内包している平原とはね。


「こりゃまた、随分と面白い場所になったなー!」

「確かに、それはそうかな!」


 えーと、俺の開始位置は拓けた場所で、サヤの開始位置は木々の合間ってところか。周囲をぐるっと見てみれば、少し離れた位置に川が見えるな。ちょっと背が高い草むらもあるけど……あれは、ちょっと足場が怪しいか? 沼って可能性はありそうだね。


 サヤも周囲を見渡して状況の把握をしているし、この地形を上手く使うのもありだな。無視して空中戦というのもありだけど……ここは、開始早々に地の利を取りに行くか。


「ちゃんと声は聞こえないようになってるけど……サヤ、いけそうか?」

「うん、問題ないよ」

「それならよし!」


 さーて、どんどんカウントダウンが進んでいるし、開始になったらすぐに動かないとな。

 今回は実況の声が聞こえないから、姿を隠すのも有効な手段ではある。まぁサヤ相手に視界が通る場所で隠れられるとは思わないけど……死角なら流石にどうにも――


<模擬戦を開始します>


 って、考えてる間に始まったか。サヤはどう動いて――


「『略:魔法砲撃』『並列制御』『略:エレクトロクリエイト』『略:エレクトロクリエイト』!」

「なっ!?」


 ちょ、サヤが初手から昇華魔法!? くっ! 魔法砲撃を使って、俺へピンポイント狙いの攻撃か!? クマの首にいる竜の口と尻尾から、電気が放たれ……って、させるか!


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 126/127 : 魔力値 311/314

<行動値を3消費して『土の操作Lv7』を発動します>  行動値 123/127


 よし、これで口と尻尾から放たれている電撃が重ならないように土の壁を生成しつつ、サヤのクマへも攻撃して――


「それは甘いかな! 『魔力集中』『双爪撃』!」

「はい!?」


 ちょ、待て待て!? 竜からの放電を止めて、身を屈めて、生成した土の壁の左右に向けて、地面を抉って土埃を上げた!? ちっ、これは生成した土が視界の邪魔になってるし、解除だ、解除!


 くっ、今のは俺の行動を誘導されたっぽいな。しっかりと土の壁をぶつけるのも避けられてるし……今のは単純に妨害せずに昇華魔法にさせて、回避した方が正解だったかも? それにしても……。


「……どこに行った?」


 周囲が木々に覆われた中とはいえ、木と木の間は結構ある方だから隠れようとしても、そう簡単にはいかないよな。……サヤが昇華魔法を使う素振りで、完全に意表を突かれたかも。

 有限な行動値を消費するから、出来ればこの手のスキルは使いたくないないけど……サヤの姿を見失ったんだから、流石に仕方ないな。


<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します>  行動値 118/127

 

 えーと、矢印の表示は……木と草むらの影に隠れて、ちょっとずつ近付くように移動してるね。俺からは姿が確認出来ないから、完全に死角になる位置を狙って進んで……あ、止まった。


「…………」

「…………」


 サヤも俺も声を出す事がない状態だけど……さて、どうする? サヤの位置は分かってるから攻撃を仕掛けようと思えば出来るけど……状況的に、俺が獲物察知を使っているのはバレバレだよな。

 その上で、サヤが今の位置に留まって動く様子がないんだし……何かを仕掛けてくるか? 遠隔同調でコケを切り離して、こっそりと近付く? いや、むしろそれを誘ってきてる?


 さっきの竜での魔法砲撃の電撃も、半分の狙いは俺の行動の誘導が狙い。だけど、もう半分は本当に当てるつもりでもいたのかも? ヨッシさんみたいに状態異常に強い訳じゃないし、電気での麻痺を弾けるほどではないから、ロブスターもコケも麻痺は運次第で入るはず。

 初手から昇華魔法と見せかけて、生成時間が長くなる魔法砲撃での放電がそのものが狙い? いや、それもありつつ、可能なら昇華魔法にした可能性もあるな。


「っ!?」


 ちょ、何かが草むらから飛んできた!? くっ、これ、サヤのクマの投擲攻撃か!? ロブスターじゃ回避しにくいから、ここはこれだ! 全部を思考操作でやりたいけど、変に誤発動が起こると危ないから基本は発声で!


<行動値5と魔力値10消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』を発動します> 行動値 113/127 : 魔力値 301/314


 土じゃなくて水で防御しないと、変に視界を塞がるからな! 操作系スキルでも防げなくはないけど、サヤは俺の手の内を知っているんだから、さっきみたいに視界を塞ぐ要因に使われても困――


「……って、ちょい待った!?」


 サヤの位置を示す矢印の移動と同時に、木が倒れていく音が次々と聞こえてるんだけど!? サヤ、一体何をする気……って、倒す意味はそこだよなー!?


「投げるものは、現地調達かよ!?」


 くっそ! 次々と根元で絶たれた木が投げられてきてるんだけど、どう考えてもサヤが大型砲撃を使って投げてきてるよな!? 近接で攻めてくるものとばかり思ってたから、この状況は想定外にも程があるわ!


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅱ』を発動します>  行動値 113/127 → 113/125(上限値使用:2)


 飛行鎧にしたいとこだけど、今回は不意の一撃が怖いから流線型の水球の中に入って、それで回避に動く! 人に囲まれていた桜花さんのとこに突入した時に咄嗟に試した手段だけど、これって意外と使えそうだから――


「無茶してくるな、サヤ!?」

「無茶でもしないと、ケイには近付けないしね! 『並列制御』『共生指示:登録1』『爪刃乱舞・風』!」


 だー! 何本か投げられた木を避けたと思えば、投げた木に竜を巻き付かせて、そのまま一緒に跳んでくるとは思わなかったわ! しかも風属性を乗せた爪刃乱舞での風の刃と、エレクトロボールの連射付き!?


<ダメージ判定が発生しました。あと2回の発生で『移動操作制御Ⅱ』は強制解除になります>


<ダメージ判定が発生しました。あと1回の発生で『移動操作制御Ⅱ』は強制解除になります>


「げっ!?」


 やばい、やばい、やばい!? まだ不慣れなこれじゃ、回避がし切れない!? 


<『移動操作制御Ⅱ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 113/125 → 113/127


 サヤが地面に着地してから命中精度が上がってきたし、強制解除になる前に自発的に解除! でも、サヤにもう既にかなり距離を詰められてるし……一度、強引に距離を取る!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値8と魔力値16消費して『水魔法Lv8:アクアディヒュース』は並列発動の待機になります> 行動値 105/127 : 魔力値 285/314

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値14と魔力値14消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』は並列発動の待機になります> 行動値 91/127 : 魔力値 276/314

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 普通に発動しただけではサヤなら凌ぎそうだから、付与魔法で強化して発動!


「っ!? 『略:ウィンドウォール』!」


 おし、咄嗟に後ろに下がりつつ風で防御して威力を削いではいたけど、サヤの竜よりも魔法の強さは俺の方が遥かに上! ……サヤが自分から後ろに跳んでたから予想以上に吹っ飛んだし、思ったほどダメージも入っていないけど……とりあえず距離は取れて、俺も地面に着地っと。

 近くに散乱している木々も一緒に吹っ飛ばせたのも、良かったかもね。その辺を盾にして接近を狙うのは十分に考えられるし、近接が得意なサヤを下手に近付けさせれるかっての!


「……やっぱり、そう簡単には近付かせてくれないかな?」

「そりゃ、サヤの有利な距離にはしないっての」


 それに防戦一方で済ませる気もない! サヤ相手に昇華魔法は外した時のリスクが高過ぎるから、今回は使わない方がいい。そうなると……とりあえずこれでいくか。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値1と魔力値2消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 90/127 : 魔力値 274/314

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値2と魔力値2消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 98/127 : 魔力値 272/314

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 昇華魔法にはならないように、少し離した位置で――


「させないかな! 『略:エレクトロクリエイト』!」

「はい!?」


 くっ! 電気の生成を魔力視で見せて、そこで妨害するとかありか!? サヤは操作系スキルが不得意な状態から完全には脱却した訳じゃないのに、距離感覚自体は正確になってるな!? でも、指定が不可能になった訳じゃ……いや、こういう方向もありか。ここは思考操作で悟られずに……。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を3消費して『土の操作Lv7』は並列発動の待機になります>  行動値 95/127

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を4消費して『水の操作Lv10』は並列発動の待機になります>  行動値 91/127

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 サヤに妨害された水を操作出来なくもないけど、それは破棄して、サヤの足元の土を操作下に――


「っ!?」

「……気付くの、早いな!」

「いきなり思考操作になれば、違和感はあって当然かな!」

「ですよねー! おらよっと!」

「数が多い程度では、押し切られないよ! 『爪刃乱舞・風』!」


 ちっ、足元の土を操作して少し動かした途端に、すぐに跳び退かれて捕獲はならず。小さめの水球を6個、小さめの土の塊を4個で攻撃を仕掛けてはいるけど……あっさりと見極められて、回避と迎撃がされてしまってるな。

 うーん、いかん。水の操作の精度と土の操作の精度に差があって、精度の低い方に感覚が引っ張られてるっぽい。全く別の挙動で動かすならともかく、同じような挙動だと同時に使わない方がいいのかも?


「……なんだか、手抜きをしてないかな? 『爪刃乱舞・風』!」

「いや、そういう訳じゃないんだけど……」

「なら、どういう事かな! 『略:突撃』『並列制御』『略:ウィンドクリエイト』『強爪撃・風』!」

「っ!?」


 迎撃も回避もせず、被弾もお構いなしに、竜の口から風を吹き出して推進力にしつつ、強引に突っ切って爪を振りかぶってきた!?

 くっ、これは横薙ぎだし……狙いは、俺のコケとロブスターの切り離しか! 少し位置をズラして、コケで滑らせ……いや、ダメだ! 多分、サヤにはその動きは対処される! 今まで見せてない手段じゃないと……だったら、これか!


<行動値10と魔力値20消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 81/127 : 魔力値 262/314


 俺を中心に水が溢れ出すように大量に生成しつつ、サヤを押し流して、その上で後ろに跳ねていく! よし、これでまた距離が出来たし、操作下に置いて、黒の刻印の剥奪を使わせてしまおう。


<行動値を2消費して『水の操作Lv10』を発動します>  行動値 79/127


 これで、サヤを水の中に閉じ込めて――


「っ!?」


 え、ちょい待った!? サヤの竜が口を開いて……ヤバっ!? これ、サヤの手段を読み違えた!? 急いで俺だけ水の外に……いや、解除した方が――


「ぐっ!?」


 くそっ! エレクトロボムを、俺の水の中に連射を始めてきた! 今の状況で水の中から俺だけ除外するよりも先に、何発も電気が届いて……これ、間違っても麻痺が入る前に遮断しないと、自分の水で自分の首を絞めてる事になるわ! 水の操作、解除!


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 79/127 → 79/121(上限値使用:6)


 その上で、飛行鎧を展開してエレクトロボムを回避! あー、今ので結構ロブスターのHPが削られたな……。でも、麻痺が入らなかっただけマシか。


「あっ、水が無くなったね?」

「今のを狙ってたな、サヤ!?」

「当然かな!」

「簡単に言ってくれるな!?」


 くっそ、地味にサヤの竜との相性が悪いな、俺の水! あの大量の水を、狙いを付けなくて済む攻撃に転化してくるとは思わなかったわ! 


 サヤを近付けさせなければ勝てるとまで甘く見てたつもりはないけども……窒息を気にもせず、攻撃を優先的に仕掛けてくるとはね。

 というか、サヤが魔法を攻撃の起点にしてくる事自体が意外だったし、まだ応用スキルを1つも使わせられてないなー。さて、ここからどう攻めたもんだ?

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