第1400話 ケイとサヤの対決の準備


 ちょっとした騒動があって、サヤとの対決が無くなりかけたけど……まぁ結果的には、予定通りに対決だな! というか、サヤが俺との対決をかなり楽しみにしててくれてたんだね。

 状況が完全に落ち着くまで、アルとハーレさんも桜花さんの樹洞の中に退避して、外の音も遮断して待機中。


 今はベスタとレナさんが、この状況に合わせて考えた実況手段を実行する為に動いてくれている真っ最中だな。まだ元々の開始予定の20時半にはなってないけど……思ったよりも時間は経ってて、もう少しで時間になるなー。ちょっと開始が遅れそうだけど、まぁ流石に仕方ないか。

 

「そういや、桜花さん。さっきの騒ぎって何時頃から?」

「ん? あぁ、それならハーレさんが来てケイさん以外の全員が揃った頃だな。それほど時間が経ってた訳じゃないんだが……どこからともなく、どんどん人が増えてきてな?」

「あー、そういうタイミングか」


 俺が食器の片付けをしていた間に、一気に人が増えまくって対処しようにも出来なかったってとこか。まぁあんな事態は全く想像してなかったしなー。


「一応、俺とハーレさんで対応しようとはしたんだが……どんどん増えてくる勢いに押されてな。なんとかサヤとヨッシさんを桜花さんの樹洞の中に退避させるのが精一杯だった……」

「風雷コンビに攻撃させる判断が出来る、ベスタさんが凄いのです!」

「あー、まぁあれは確かになー」


 味方への攻撃を巻き込むのではなく直接的に躊躇なく実行するのは、まぁ心理的なハードルは高いしね。事態が悪化している最中ならば、尚更に。


「……桜花……次からは……あれを真似して良い?」

「いやいや、あれはやめとけ、風音さん。誰でも気軽に出来る手段じゃねぇからな。ありゃベスタさんとレナさんの2人がいたからこそで、下手にやれば悪化しかしねぇぞ?」

「……そうなの?」

「良くも悪くも、馴染みじゃない人の方が多かったからな……。アルマースさん達が昇華魔法を使っていれば、明確に『グリーズ・リベルテ』への反感が出てた可能性もある。俺や風音さんに対してもな?」

「……それは……駄目!」

「だから、あの手は使うなよ? 俺の樹洞の中から合わない奴を追っ払うのとは規模が違うんだ。群集全体に睨みを効かせられるベスタさんとレナさんだから出来た芸当だからな」

「……分かった」


 桜花さんの言っている通り、あれはベスタとレナさんだから上手く出来た事。俺も似たような事をやろうと考えてはいたけど、後始末には2人の力を借りるつもりだったし……本当に、あのタイミングで来てくれて助かった!


「まぁケイさんなら、敵に容赦しないのは知られてるから……抑えられる可能性はあったかもな。ケイさんからの巻き込む以外の攻撃なんざ、誰も想定してないだろうしよ」

「……はい? え、桜花さん、流石に俺でも無理じゃね? いや、まぁいざとなればやる気ではあったけど……」

「いや、俺らは微妙だが、競争クエストで総指揮をした事があるケイならいけるだろ。その経験があるの、何人だと思ってんだ?」

「あー、そう言われるとそうか」


 あんまり意識してなかったけど……よく考えてみれば、群集全体の総指揮をした経験がある人なんて数えるほどしかいない。その相手を怒らせたという状況だと認識さえさせられれば、少なくともあの勢い自体は止められたか。

 とはいえ、俺がやれば少なからず『グリーズ・リベルテ』に対する反感は避けられなかっただろうね。まぁそんなものより、優先すべき事があったんだし――


「みんな、戻ったよー!」

「外は落ち着いたから、もう出ても構わんぞ」


 おっと、ベスタとレナさんが戻ってきたね。揃って戻ってきたって事は、目処がついたっぽい?


「実況のリアルタイムの書き起こしは……出来そうな人は見つかった? 意外と早かった気がするんだけど」

「あぁ、あっさりと見つかった。……探しに行く必要すらなくてな」

「……はい? え、それってどういう?」

「聞いてよ、ケイさん! 風雷コンビが、あっさりと出来ちゃったの!」

「風雷コンビが!? あー、そうきたか!」


 意外な気がしたけど、よく考えてみたらそれだけの実力はありそうだよな、あのコンビ。話し言葉をそのままリアルタイムで書き起こすのは簡単じゃないだろうけど……2人とも出来るってのが、相変わらずなコンビだなー。


「ただまぁ、どちらが俺とレナを担当するかで喧嘩している最中だ」

「……はい? え、そんな理由で喧嘩!?」

「そこが頭の痛いところなんだけど……お互いに譲って変えようとするタイミングすら一緒でね……。あ、ハーレの実況の書き起こしもあった方がいい? 一応、他にも出来る人は見つけたけど?」

「私のはそれほど重要な内容を話す訳じゃないし、そこは自由にしてもらっていいのさー!」

「だそうだけど、ケインさんはどうするー?」

「わっはっは! やる事があるなら、やるまでだっての!」


 おわっ!? 予想外の人が出てきたけど、ケインってリアルタイムでの書き起こしが出来るのか!? 風雷コンビ以上に、こっちはものすごく意外……。

 あー、ダイクさんが水のカーペットに乗せてきたっぽいね。俺の構成によく似たコケとザリガニの組み合わせのケインと……赤いキツネって事は――


「よう、ケイさん」

「プロメテウスさんも来てるのか」

「ちょ、俺はスルー!?」

「あ、悪い、悪い。ケイン、ハーレさんの実況の書き起こしは任せた」

「おう! 思考操作での文字の入力速度には自信があるからな!」

「ま、それが戦闘に対して、大して活かせられないのが玉に瑕だがな」

「うっせーよ、プロメテウス! 戦闘中の状況判断と、普段の文字入力の速度を同格に扱うんじゃねぇ!」


 まぁそりゃ単純に比べられるものではないし、ここはケインの言ってる事の方が正しいね。それにしても……本当に意外なとこから、意外な人が名乗りを上げたもんだな。


「さて、これで人員自体は確保した。今はあちこちの不動種の元へ移動種が散っているから、ケイとサヤはそろそろ対戦の準備に向かっておけ」

「ほいよっと。あ、でも風雷コンビが喧嘩中なんじゃ?」

「今回の件ならこっちから役割を振ればすぐに収まる。他の事に意識を向けさせるには都合がよかったから、そのまま放置してるだけだ」

「あー、なるほど」

「それって、意識を逸らす必要がある状態って事かな?」


 ……しまったな。吹っ切れた様子のサヤが、また不安そうな様子になってきた。下手に風雷コンビの喧嘩を放置している理由を確認すべきじゃなかったか?


「あはは、サヤさん、そんなに不安そうにしなくても大丈夫! 外でやらかしたって凹んでる人の気分を紛らわせる為だから! サヤさんまで凹んだら無限ループに入っちゃうから、そこは止めといて!」

「……そういう事なら、分かったかな」


 サヤを困らせた事で凹んでいる人達と、その様子を知って凹むサヤ……どっちも止めないと、確かにお互いに凹み続けて収拾がつかないな!? 風雷コンビの喧嘩が、そういう人達の意識を逸らす為に役立っているとは……。


「ケイ、サヤ、残りは俺らの方でなんとか済ませとくから、2人は準備に行っとけ」

「任せた、アル! サヤ、それでいいか?」

「うん、大丈夫かな!」

「ほいよっと!」


 さーて、それじゃ水のカーペットを出して、空から移動していきますか!


<行動値上限を使用して『移動操作制御Ⅱ』を発動します>  行動値 127/127 → 125/125(上限値使用:2)


 強制解除で展開出来ない時でさえなければ、水のカーペットを使うのはこっちの方がいいだろ。ちょっと当たっても、2回までは大丈夫だしな!

 とはいえ、ハーレさんとの対戦をした時に実感したけど、戦闘中の防御ではあっさりと破られるから、そういう用途では使いやすいとは言えないか。まぁあくまで移動用なんだから、攻撃に転用しようと考える方が無茶ですよねー。


「サヤ、乗ってくれ!」

「あ、うん!」


 ササっと手早くサヤが水のカーペットの上に乗ったのを確認した! さーて、出発といきますか!


「それじゃ行ってくる!」

「行ってくるかな!」

「おう、行ってこい! さて、どっちが勝つ?」

「2人とも、行ってらっしゃい! どうだろ? エリア次第な部分もあるし、ちょっと予想がし切れないかも?」

「行ってらっしゃーい! サヤ、ファイトなのさー!」


 アルとヨッシさんはそうでもないけど、ハーレさんは明確に俺じゃなくてサヤを応援してきたか!? くっ、俺の方を応援しろとまでは言わないけど、そこはボカしておいてくれてもよくね!?

 だー! ともかく、今はエンの元へ向かって模擬戦の準備を始めていこう! まずは桜花さんの樹洞を出て、マサキまで向かって、そこからエンまで転移だな。



 ◇ ◇ ◇



<『群雄の密林』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 さて、エンの元まで転移は完了。ここは……特に混雑している様子はないな。不動種の並木では人の動きは多かったけど、かなり上空を飛んで移動したから、それほど人とも遭遇はしてないしね。


「ケイ、はい、これかな!」


<サヤ様から模擬戦の申し込みをされました。受諾しますか?>


 おっと、俺からしようかと思ったら、先にサヤからしてきたね。これじゃもちろん受諾でいいんだけど……その前にこれは確認しとこうか。


「サヤ、戦闘準備はもう出来てるのか?」

「あ、うん。私はいつでもいけるけど……ケイはまだだったのかな?」

「いや、俺もすぐで問題ないぞ」


 ロブスターが持ってる『移動操作制御Ⅰ』で、もう1つ『移動操作制御Ⅱ』を取れるかどうかを試してみたかったりはしたけど……正直、駄目な予感しかしないしなー。これで取れると取得条件が破格過ぎるし……うん、今は気にしないって事で承諾を選択!


<ケイ様が模擬戦の申請を受諾しました>


 よし、これでサヤとの模擬戦は確定。特に順番待ちもなさそうだし、サクッと設定を済ませていきますか!


「……ケイ、本当に何もないのかな?」

「あー、全くない訳じゃないんだけど……駄目な可能性の方が遥かに高いしさ?」

「え、やっぱりあるの!? それなら、それが終わってからで――」

「待った、待った! 内容的にはロブスターでの『移動操作制御Ⅱ』の取得だけど、正直、出来る気はしないんだって!? いくらなんでも、2つも取れたら破格過ぎる!」

「あ、そういう内容なのかな? 確かに、それは駄目そうな気はするど……本当にいいの?」

「ここで手札を増やせなきゃ勝てないとか、そんな事を言う気はないからな! そもそも『移動操作制御Ⅱ』自体が、今日手に入れた新しい手札だし?」

「ふふっ、確かにそれはそうかも? なら、今の状態で勝負開始かな!」

「望むところ! まぁとりあえずエンの樹洞の中に移動して、設定していきますか」

「うん! そうするかな!」


 という事で、エンの樹洞の中へと移動開始! 



 ◇ ◇ ◇



 手早く樹洞の中へと移動して、模擬戦の設定をしていかないとね。この辺は相談しながら決めていくとして……。


「対戦エリアとか時間とか天候はどうする?」

「どれもランダムでいいんじゃないかな? あ、海だけは外してもらえるとありがたいかも?」

「あー、サヤの竜は海水に適応は出来てないもんな。それなら、アイテムありって手段もあるけど?」

「……アイテムはなしでやりたいかな」

「なら、海は除外だなー。湖も避けといた方がいい?」

「ううん、湖エリアなら少しは陸地もあるし大丈夫! ケイは、荒野や砂漠は大丈夫かな? 海は私の都合で除外してもらうんだし、その辺は除外でもいいよ」

「それなら、荒野と砂漠は除外させてもらうぞ。それ以外の場所の中から、エリア、時間帯、天候の全部をランダムで!」

「うん、それでいいかな!」


 よし、対戦エリアの設定はこれで完了。明らかにどっちかが不利になり過ぎる場所だけ除外で、後は運任せでいいだろ。その中での多少の有利不利は、まぁ勝負の時の運って事で!


「アイテムは使用なしでいいとして……行動値の回復速度は標準?」

「そこは標準にしないと、まともな勝負にならないんじゃないかな?」

「ですよねー」


 ほぼ無尽蔵に行動値が使える設定でやるのも面白そうではあるけども、本気で対戦しようという時に使う設定じゃないな。という事で、ここは標準に設定。


「中継は灰の群集限定、外の音声は無しで……こっちの音声が届くのは問題無し?」

「聞こえてくるのは集中力が乱れるから困るけど、聞かれるのは問題ないよ」

「ほいよっと。PT会話も、始まったら遮断だなー」

「うん、それでお願い」


 この辺はサヤの集中力の問題だから、目立つのを嫌がるという部分とは関係はないところだね。競争クエストとかの状況次第では見られても集中力が欠けはしないんだろうけど……一方的に観戦されている状態が駄目なんだろうな。

 ん? この件は中学の頃のトラウマと繋がってるのか? それとも元々?


「ふと思ったんだけど、サヤって元々あがり症?」

「……あはは、それは否定し切れないかな? 大勢で一緒なら問題ないんだけど、小さい頃から1人だとどうしてもね。なんとかしたいとは思ってるんだけど……」

「……なるほど」


 普段の様子からはそう感じていなかったけど、サヤのリアルって結構大人しい方なのかもね。変な先輩と付き合ってると思われてた件も、解決には結構な心労があったのかもしれない。

 いや、本当に最初に会った時に転ばせたのって大きかったんだな!? あれが普通に会っていたのなら……今、こうして一緒にやってなかったかも?


「時々、ハーレのあの誰にでも話しかけにいけるのは、羨ましかったりはするかな?」

「あー、まぁハーレさんは緊張とかとは無縁だからなー」

「なんかいきなり酷い事を言われた気がします!?」

「でも、実際そうじゃない? 私が引っ越した件では盛大に凹んでたけど……緊張は欠片もしてないよね? 接客のアルバイトも、普通どころか活発にやってたんだよね?」

「それはそうだけど!? はっ、サヤ! 接客業をやってみるのはどうですか!?」

「え、今からアルバイトの内容を変えるのは難しいかな!?」


 接客業を経験してみるのは確かにありな気はするけど……でも、漁港での手伝いは……あー、親戚で見知った人が相手だから平気なのかも? 

 でも、サヤはサヤなりに変わろうとしてて、前は嫌がっていたハーレさんの実況でのゲスト役もどこかでやってみようとしてるんだな。……頑張れ、サヤ!


「おし、設定完了! ハーレさん、そろそろ始めても大丈夫か?」

「もう少し待ってー! 今、実況席の準備中なのさー!」

「ほいよっと。準備が終わったら言ってくれ」

「はーい!」


 さて、サヤとの対戦開始まであと少し。多分、クマか竜のどちらかで俺の操作を突破する為に、黒の刻印の『剥奪』は用意してきているはず。その辺をどう凌ぐかが、今回の勝負の分かれ目かもなー。

 俺の得手不得手も把握しているサヤだから、甘く見たらあっという間に負けかねないしね。ハーレさんにも少ししてやられたんだから、一切油断はしないぞ!

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