Monsters Evolve Online 〜生存の鍵は進化にあり〜

第１３９９話 環境の変化による弊害

　俺とサヤの対決が、妙な形で盛大に注目されている様子。多分、この不動種の並木が出来たばかりで、不慣れな状態の弊害なんだろうけど……まぁベスタとレナさんが来てくれたようだし、安心は出来そうだ。

「ちょ、えっ！？　実況を中止！？」

「待って！？　それを楽しみにしてきたんだけど！？」

「……あ、でも、確かにちょっとこの状況は……どうなんだ？」

「よく考えたら、大勢で押しかけて無理強い……！？」

「あー、自分がされたら絶対に嫌なやつじゃん……」

「いや、でもあの『グリーズ・リベルテ』だぜ！？　散々、これまで目立ってるのに、今回に限ってなんで！？」

「そうだぞ！　夕方には実況の声も乗せた状態でやってたじゃん！？」

　あー、ベスタ達の声が聞こえるように遮音設定を切ってくれたんだろうけど……他の人の声まで明確に聞こえてき始めたか。やっぱり共同体そのものに対する認識で、サヤ自身への認識はないっぽいなー。

「そこの人達！　同じ共同体だからって、全員が同じように動ける訳じゃないからね！　自分の所属してる共同体の人と、全て同じ事が出来るとでも思ってるの！？　自分がそれを要求されて、なんでも受け入れて実行出来るの！？」

「そ、それは……」

「……そう言われると、無理だよな」

　おー、レナさんが俺の言いたい内容を思いっきり言ってくれてるね。サヤの意思を確認した後、俺がやろうとしてた事を全てやられてる状態だけど……。

「レナの言う通りだ。平然と全く同じ事が出来るのは、風雷コンビだけでいい」

「それほど褒めるな、ベスタの旦那！　なぁ、疾風の！」

「それほどの事でもあるけどな、ベスタの旦那！　なぁ、迅雷の！」

「コイツらと同じ事を要求するのが、どれだけ酷か……分からない訳じゃないだろう？　そもそも、自分の実況を聞きたいって奴ばかりじゃないだろう？」

「……まぁ確かに」

「風雷コンビは極端過ぎる例ではあるけど……やってた事はそういう事だよな」

「実況があると、集中出来ない事はあるかも？」

「……今回、中継に実況の音声を乗せないのはそれが理由？」

「コケの人は平気だけど、クマの人がその手の事が駄目なのか！？」

「そういや、あの人って大規模戦以外では目立つ形で動く事って少ないよね？」

「げっ！？　もしかして、苦手な事を強要してる状態になってた！？」

「……これ、やらかしてる！？　あ、そういや森林深部の人が殆どいない気がするよ！？」

「……え？　あ、そういやそうじゃん！？」

「あ、だから桜花さんの樹洞の中に退避して……やばっ？　俺ら、追い詰めてたのか！？」

「状況に気付いたなら、言う事があるでしょ！」

「っ！？　すみませんでした！」

「ごめんなさい！」

　ふぅ……外から謝罪が次々と聞こえてきてるし、とりあえずは鎮静化したと考えてよさそうだな。とはいえ、許すかどうかは……俺が決める事じゃない。

「……みんな……謝ってる」

「そうみたいだが……これ以上はサヤさんの負担になるし、外の音は遮断するぞ。ベスタさんとレナさんが来たのを伝えておきたかっただけだしな」

「助かる、桜花さん！」

　とりあえず外の状態は分かった。ベスタやレナさん、それに風雷コンビが今の騒動の抑えに回ってくれているし、外の人達も無茶を言っていた事にも気付いてくれた。それなら、後はサヤ次第。

「サヤ……外の人達をどうしたい？」

「……悪気があったとも思えないし、責める気はないかな」

　まぁ変に目立つのが苦手なんだから、ここで更に目立つような真似を選ぶ訳もないか。でも、サヤの声は重々しく沈んでるし……こりゃどうしたもんだ？

「サヤ、今日は模擬戦を中止にして、人の少ない場所に行くのもありだよ？　ケイさんとの対戦に張り切ってたのは知ってるけど、仕切り直して非公開でやるのもいいんじゃない？」

「…………」

　ヨッシさんが寄り添ってくれているけども、どうも中止や仕切り直しにも躊躇があるっぽい。サヤが目立つのが苦手な理由って生来の性格の問題じゃなくて、後天的なトラブルが原因みたいだし……自覚してて、改善したいとも思ってるみたいだからこその躊躇なのかも？

　あー、親しい相手でなければ断るのが苦手って部分もありそうか。確かラーサさんと仲良くなったのも、そういう時に助けられたからだったはずだし……根が真面目過ぎるからこそかもなー。それが今、悪い形で板挟みになってる状態なんだろうね。

　うーん、ここまでの事態になるとは想定してなかったけど、それでも多少は目立つ状態になるのを受け入れてはいたんだし……後押しをするなら、そっち方向がいいのか？　今の状態って自責の念が結構ありそうだし……。

「桜花さん、ちょっと確認」

「ん？　確認って、どういう内容だ？」

「サヤに聞こえないように、実況を聞きたい人に届ける方法って何かある？」

「……あー、無茶な方法を言い出すな。それがありゃ、こんな状況には――」

「……なってないか。なら、その方法を見つけりゃいい訳だ」

「いや、確かにそりゃそうだが……無茶を言ってねぇか！？」

「無茶は承知の上だっての！」

　でも、それが一番、サヤにとって納得のいく答えのはず。考えろ、何か手段はないのか！？　中継に実況の声を乗せるには、PT会話をそのまま反映させるという仕様だったよな。でも、それじゃ俺やサヤに声が届くから今回は邪魔という判断で出来ない。

　それならハーレさん達が実況をしている状態を、移動種から中継して……あー、これは音声が乗らないから無理か。無所属なら出来るなんていうバグもあったけど、それはもう修正済みだしな。

「……ケイ、もういいかな。今回は仕切り直して――」

「明らかに納得してないってのが分かるのに、そうですかって済ませられるか！」

「っ！？」

　考えろ、考えろ、考えろ！　何か抜け道はないか！？　遠くまで音声を伝えられる方法……いや、待てよ？　要は内容が伝わればいいんだし、別に音声にこだわる必要もないのか？　だとすれば……。

「アル！　『同族同調』で、桜花さんの『樹洞投影』に文字の入力画面を映すのは可能か！？　まとめのでも、情報共有板のでも、文字が出せるならどこでもいい！」

「やった事はないが……おい、待て。その内容って、もしかしてリアルタイムで実況を書き起こして、それを中継する気か！？」

「思考操作で入力が早い人がいれば、可能だろ！　あとは、それが映せるかどうか！　流石に投影が2つになるのは我慢してもらう必要はあるけど、それも誰かに読み上げてもらうのでもいけるだろ！」

「無茶な事を考えやがるな！？　だがまぁ、それなら一手間かかってもいけなくないか。桜花さん、試してみていいか？」

「……やってみるしかねぇな。繋ぐぞ、アルマースさん。『樹洞投影』！」

「さて、どうなる？　……『同族同調』！」

　これでアルの見ている視界が、桜花さんの樹洞に投影された。問題はその視界の中に、ステータス画面の類いが表示出来るか否か……。くっ、外の様子がアルの視点から映されてるだけか！

「ちっ、まとめの画面は映ってない――」

「いや、アルマースさん、そうでもねぇぜ？　今までこういう使い方をした事がなかったから気付かなかったが、『同族同調』で映す範囲の設定ってのがあるな。入力中の文字は無理だが、確定した後ならまとめも情報共有板の表示も可能そうだ」

「マジか！？　桜花さん、それを試してくれ！」

「おうよ！」

　おっ！　映し出されているアルの視点に、まとめの俺らの専用報告欄の表示が出た！　見た感じでは普段、自分で表示しているのを拡大して投影してるような感じだな。

「……しっかり……映ってる！」

「よし、これならいける！」

「いけそうだが……こんな設定があったんだな？」

「中継と言ったら、『同族同調』の投影より、模擬戦の投影の方が遥かに多いからな。この仕様は盲点だったが……何に使うんだ、これ？」

「あー、作戦会議とかじゃね？　ほら、俺らもまとめの内容を確認しつつ、情報共有板で話すとかあるじゃん？」

「……なるほど。あれを直接人が集まった際にやるのに使えそうだな。となると、俺の視界を経由しなくても桜花さんだけでもいけるんじゃねぇか？」

「いや、それは無理だ。この設定項目、アルマースさんの『同族同調』と繋げた事で初めて出てきているからな」

「……そういう仕様って事か」

　ふむふむ、まぁ思いもよらない仕様はあったけども……というか、青の群集とかでは使われてそうな気がする手段だな？　ジェイさんの立案の作戦会議とか、こういう機能を使ってやってそうな気がしてきた。

　まぁそこは置いておくとして……これで思考操作で入力が早い人さえ用意出来れば、対戦と実況を中止にはせず、それでいてサヤの集中力を乱さないという条件はクリア出来る！

「サヤ、この手段ならどうだ？」

「……それ、手間じゃないのかな？　なんだか無理を言ってるみたいで――」

「無理に対して、無理で返すだけだから、そこは気にしなくていい！　この手段なら、サヤが納得出来るかどうかって部分だけで考えてくれ！　中止したい訳じゃないんだよな？」

「……うん。この手段なら、いけると思うけど……」

「よし！　なら、これでいくぞ！」

　サヤの様子から躊躇というか、遠慮みたいなのは感じるけども……さっきみたいな重々しい雰囲気はかなり払拭されている。完全にスッキリする状態にならないのは……まぁ雰囲気的に、仕方ないか。

「桜花さん、ベスタとレナさんを中に入れてくれない？　サヤからはこれでOKも出たし、後は書き起こせる人を探せばなんとかいけるだろ！」

「少し待っててくれ、ケイさん。ベスタさん、レナさん、ケイさんが中で呼んでるが入ってもらえるか？」

　この樹洞の主である桜花さんなら、外にも中にも話しかけられるからね。アルとハーレさんもPT会話で内容は聞こえているだろうけど……この件はグリーズ・リベルテのメンバー以外の方がいいだろ。

「ケイさん、呼ばれてきたけど……何か思いついた感じ？」

「対戦を中止にするなら、それでも構わんぞ。後処理は手伝うから、無理に――」

「ううん、中止にはせずにやるかな！」

「……ほう？」

　おー、ベスタの言葉を遮って、力強い声がサヤから返ってきた。ははっ！　おっし、どうやらサヤも完全に吹っ切れたっぽいな！　だったら、後は考えた内容を実行に移すまで！

「どうやら中止する訳ではなさそうだな。かと言って、そのまま受け入れたというには……サヤが吹っ切れ過ぎてもいるか。ケイ、どういう手段を見つけ出した？」

「まだ他の人次第なんだけど、そこに投影してるスクリーンは見える？」

「およ？　あ、これ、青の群集でやってる作戦会議の手段だね！　一気に全員が書き込むと混乱を招くから、他の群集は立ち入り禁止にして、代表者が散らばって質問の受付の整理してるやつだけど……これを使ってどうするの？」

　なんかシレッとレナさんから青の群集が使っているって確定情報が出てきたんだけど……まぁそこはいいや。今、重要なのはそこじゃない！

「これで実況の内容を書き起こしてもらって、それを投影してもらおうかなーって手段なんだけど……思考操作で、そのくらいの速度の入力が出来る人っているよな？」

「あ、リアルタイムの文字起こしって手段だね！　んー、流石に誰の入力速度が速いかまでは把握してないから、出来る人は探す必要はあるけど……うん、多分それなりにはいるとは思うよ！」

「なるほどな。実況の負担は、実況を見たい側で負担しろというのは、もっともな理屈か。少なくとも、これならばサヤに負担がかかる事はないな」

「それはそだねー！　サヤさんも納得済みみたいだし……この内容ならケイさん達が呼びかけるよりは、わたしやベスタさんが呼びかける方がやりやすいかも？」

「だろうな。少なからず俺やレナの存在が騒動を大きくした側面もあるようだから、そのくらいは引き受けよう」

「助かる！」

　俺らが要求するような形にすれば、変に角が立つ可能性が否定し切れないからね。今回は俺らがこういう状況に陥ったけども、今後も他の人が似たような状況に陥る可能性もあるんだし……ここで解決策を用意しておけば、後々で動きやすくもなるはず！

「それじゃ、わたしはちょっと出来そうな人を探してくるよー！　ベスタさん、この場を任せてもいい？」

「あぁ、それは構わん。今回の件は群雄の密林へ人が集まり過ぎた弊害でもあるし、ここで一度しっかりと変化を意識をしてもらう必要もある。……俺らも含めてな」

「あはは、まぁ一気に人が集まり過ぎちゃって、普段は接してない人とかもいるからねー。その弊害が出るのは……想定が甘かったしさ。サヤさん、なんか負担をかけちゃう形になっちゃってごめんね？」

「私もこんな形になるとは思ってなかったから……誰の事も責める気にはなれないかな？　想定が甘かったって意味では、私も同じだし……」

　まぁ誰に落ち度があるかと言えば……大きく環境が変わった事に対する意識の変化が無かった全員って事になるんだろうね。みんなもだけど、俺もサヤも、不用意に広めてしまったハーレさんも……誰か1人が悪いという訳じゃない。あえて言うなら、俺らも含めてみんなが少しずつ悪いのが今回の一件か。

「とりあえず、ケイ達はしばらく桜花の樹洞の中で大人しくしておけ。書き起こせる人が揃いそうならそれでいくが、もし無理なら俺が解説自体を元から書き起こしていく」

「およ？　あ、ベスタさんならそれは出来るよね！　んー、わたしもやろうと思えば出来るけど……」

「レナ、あくまでそれは最終手段だからな？　ちょっとは外の連中にも手伝わせろ」

「あはは、確かにそれはそうだね！　それじゃ、わたしは五里霧林の灰のサファリ同盟の新本拠地まで出向いてくるよ！」

「あぁ、任せた。さて、俺はとりあえず人を散らせるか」

　ふぅ、なんとかベスタとレナさんの力を借りれたし、後は実況の書き起こしを実行出来る人が見つかるかどうかだな。ベスタやレナさんが直接、リアルタイムで書き起こせるのは凄いけど……そこに頼りっきりは絶対に良くないしね。

　とりあえず、俺らはベスタに言われたように、しばらくはここで待機って事で――

「……ケイ、ありがとね」

「どういたしましてっと。やるからには、負けないからな？」

「ふふっ、それは私の台詞かな！」

　さーて、サヤの調子もいつも通りになってるし、全力で対決を――

「あ、ハーレ……今度、何かの実況の時にゲストをやってみてもいいかな？」

「えっ！？　サヤ、それは本気なの！？」

「うん、本気！　……いつまでも、引き摺ってられないかな！」

「そういう事なら、大歓迎なのさー！」

　訂正。サヤは、いつも以上に気合が入ってるっぽいね。まさか、ここでサヤからゲスト枠に出るって言葉が聞けるとは思わなかったよ。今回の件で、何か思うところでもあったのかも？