第1398話 桜花の元へ
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『群雄の密林』に移動しました>
エンからでも占有したここには直接転移が出来るので、サクッとマサキの元まで転移! 夕方も見たけど……ここは不動種の並木が出来たから、人が多いですなー!
「おー、聞いちゃいたけど、凄い事になってんな!」
「ん? ダイクさん、見るのは初めてか?」
「新エリアの繋がりの方を探りに行ってたからな! 新拠点での不動種の並木はまだしっかりとは見てなかったもんで? ま、話には聞いてたから、どういう風になってたかは知ってたんだけどな」
「あー、なるほど」
俺もずっとここの整備を見てた訳じゃないし、他の場所に出向いてたならそういう事もあるか。レナさんは昨日、俺らと一緒に動いてたくらいだし……。
「そういや、昨日はダイクさんはレナさんと一緒には来なかったんだな?」
「あー、共同検証の件か。ぶっちゃけ、俺……ルストさんのあのマイペースさが苦手でなー。ルストさん、俺がいたら弥生さんからの攻撃の盾に使う時もあるしさ。レナさんもそこは知ってたし、PTの枠も無さそうだったから遠慮させてもらってたんだよ」
「なるほどなー。そういう理由か」
なんというか……サラッと言ってるけど、ダイクさんのルストさんからの扱いが地味に酷いな!? あの弥生さんの盾にされるのは……うん、流石に避けたくなる理由は分かる。
「まぁ俺の事はいいとして、サクッと移動しようぜ! 桜花さんは桜の並木の端だって聞いてるけど……すぐ分かる位置?」
「端も端だから、この状態ではかなり見つけやすいぞ。距離はあるけど、まぁそこまで遠くはないしさ」
「ま、端まで見渡せる範囲だし……となると、一番遠くのあそこか! あー、アルマースさんが目立つな。……ん?」
「お、マジだな」
ここからでも分かる、アルの木を背負ったクジラですなー。まぁプレイヤー名までは見える距離じゃないし、見えるとは言っても小さくだけど……それでも、そこにいると分かっていればアルだと分かる範囲だね。
とりあえず話ながら、移動開始! ふむふむ、真っ直ぐ進むだけなら水のカーペットの操作感は特に変わらないか。
「あ、そういやケイさん、水のカーペットが新しくなったって聞いてるけど……使い勝手はどんなもん?」
「今使ってる真っ最中だけど、操作感は水の操作Lv10な分だけ快適だなー。ただ、通常の移動に使うには……大差は感じないかも?」
「あー、そりゃそうか。どっちかというと、より実戦向きな感じの調整っぽいもんな」
「そうそう、そんな感じ。ただ、多少は防御に使えるけど……連撃には耐えれそうにないから、そこまで万能とは言えないかも?」
「それでも、不意の一撃は防げそうなのは大きくね?」
「まぁなー」
とはいえ、まだまだ実戦での使用は殆どしてないから、その辺の感覚はこれからですなー。まぁ俺と同じ水のカーペットを使うダイクさんが気にしてくる気持ちは分かるけど。
「そういや、ダイクさんは何かスキルLvを10にした?」
「それ、思いっきり悩み中でなー。『水の操作』か『土の操作』か『水魔法』か『土魔法』か『草花魔法』かの5つで悩み中なんだよ……」
「候補が多いな!? あー、でもその気持ちは分かる!」
「だろ!? 複数の属性を普段から使ってたら、滅茶苦茶悩む!」
俺は『水魔法』と『水の操作』の両方をLv10に出来ているけど……それは本当に運が良かったからの話だもんな。誰も効果の内容を知らない段階で実験的にLv10にしたって経緯もあるし……どういう効果が得られるかの情報があれば、判断材料が増える代わりに悩む要素が増えるのも仕方ないよな。
「おっと、そうしてる間にもう到着か。思ったより、早く辿り着けるな?」
「まぁ空を飛べばなー」
地上でも通路が出来ているから早いだろうけど……どうしても他の人がいる関係で出せる速度には限度がある。まぁ空を移動してる人も結構いるから、空だから無制限って訳でもないけどさ。
それにしても……桜花さんの元に集まってる人が多いな!? アルとハーレさんの姿は見えるけど、サヤとヨッシさんはどこにいる? クマのプレイヤー自体は何人も見えるけど、竜を背負った――
「ケイ、こっちかな! 樹洞の中!」
「そっちか! すぐ行く!」
桜花さんの樹洞の中から顔を出したサヤが呼びかけてきたし、中に退避してたのか。まぁ人が多い状態だし、今はそれで良いのかも? ヨッシさんの姿も見えないから、一緒に樹洞の中にいるのかもね。
「ダイクさんは、一緒に来るか?」
「いや、俺はしばらくその辺を見てくるわ! この辺、他にも何人か知り合いがいるっぽいし……ちょっと急用があったのも思い出したわ!」
「あ、そうなのか。それじゃまた後で!」
「サヤさんとの対決、楽しみにしてるからな!」
「そりゃどうも!」
という事でダイクさんと別れて……って、あれ? まだ後でとは言ったけど、俺は模擬戦に向かうんだから……話すタイミングってあるのか? うーん、まぁいいや。
とりあえず今はみんなと合流が先……って、アルが近付いてきたな。更にそこからハーレさんがクラゲを使って浮かび上がってきたけど……この様子は何かあったのか? なんか下が騒がしいみたいだけど――
「ケイさん、すぐに控え室へどうぞ!」
「……ハーレさん、いきなりどうした? てか、控え室?」
「ちょっと人が集まり過ぎてて大変なのさー!」
「ケイはサヤと一緒に桜花さんの樹洞の中で待機してろ。今、貸し切り状態にしてくれてるからな」
「ちょ、なんでそんなに人が集まってんの!? てか、集めたのってハーレさんだよな!?」
「色々と想定外な状態になってるのです!」
改めて下を見てみれば……うわー、凄い人の量!? ちょっと待って、なんでこんなに人が集まってる!? まともに通れるような隙間がないくらいに人が集まりまくってるんだけど、夕方の実況でもここまでの人数はいなかったぞ!?
あ、ダイクさんはこの状況を見たから離れたのか! ……いや、でも大真面目に何がどうしてこんな状態に――
「ん? あ、アルからのPT申請か」
「状況の説明は後でするから、先に桜花さんの樹洞に入っててくれ」
「……ほいよっと」
サヤが目立つのを嫌がって樹洞に入っている……という訳ではなさそうだ。とりあえず事情を聞くとしても、言われた通りに手早く桜花さんの樹洞に入った方が良さそうだ。
<ケイ様がPTに加入しました>
これでPTに加入はしたし、PT会話で事情は聞ける。その状態で水のカーペットの形状を変えて、流線型の水球にして、その中に入って、外周の反発力を強めにして……大勢の人に当たらないように気を付けつつ、一気に加速! 桜花さんの根本まで突破出来るルートは、ここだ!
おー、思い付きでやってみたけど、これは案外ありだな。2回までは当たっても大丈夫だし、一気に距離を詰めたい時には良いかも?
おっし、あっという間に桜花さんの樹洞の前に到着! ちょっと停止のタイミングを間違えて地面に突撃して跳ねたけど……まぁ許容範囲だろ。
<『移動操作制御Ⅱ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 125/125 → 125/127
一旦解除して、被弾回数はリセットだな。下手に残しておいて強制解除になってしまったら、こっちは再使用までが長いしね。
「おぉ!? なんか新しい移動方法なのさー!?」
「水で出来たラグビーボールみたいだな? へぇ、『移動操作制御Ⅱ』を手に入れたとは聞いたが、それを早速活用してるのか」
おし、アルとハーレさんからの反応がありつつも、桜花さんの桜の木の根本に着地! このやり方、普通の戦闘時でも防御をしつつ、一気に距離を詰めるのに使えそうだな? まぁそれはいいとして……。
「桜花さん、入るぞ!」
「おう、急いで入れよ、ケイさん!」
「ほいよっと!」
「あ、コケの人が来てるぞ!」
「え、いつの間に!?」
「さっき、水が飛んできてたけど、もしかしてそれか!?」
「桜花さんの樹洞の中に入られた!?」
「桜花さん! コケの人に話を通してくれ! 頼むから!」
えーと、外の声は遮音設定になってないっぽくて普通に聞こえてきてるけど……これは本当にどういう状況?
中にいるのは……サヤとヨッシさんと風音さんか。何がどうして、こうなってる!? 俺とサヤの対戦って、ここまでになる注目度か?
「アル、本当に今の状況ってどうなってんの?」
「……簡単に説明すると、ケイが何かとんでもないものを出してくるんじゃないかってのがこの状況の発端だ。ガチでのサヤとの対戦なら、相当追い詰められそうだから、何か変わった手段が出てくるって期待だな」
「……はい?」
え、ちょっと待って。この騒ぎ、俺が原因なの!? いやいや、そんな期待をされても困るんだが!?
「あー、桜花さん、悪い。ケイへの状況説明の続きは任せていいか?」
「わー!? みんな、落ち着いてなのさー!?」
「おう、任せとけ!」
どうも外の様子も騒がしいし、外にいた人達の相手をアルとハーレさんがしてるっぽい? でも、そういう期待があったとしても、なんでこんな状況になってんの!?
あ、外の音が聞こえなくなったから、桜花さんが遮音設定に切り替えてくれたのか。……状況が分からない以上、下手に外の騒々しい声は聞こえない方がいいよな。
「ケイ、ごめんかな……」
「え、なんでそこでサヤが謝る!? 桜花さん、マジでどうなってんの!?」
「あー、この騒動はベスタさんが解説を引き受けるってのも一因にあってな? レナさんもゲスト枠になって……その上、その実況があるのが俺のとこだけってのもあるんだよ」
ん? まぁ凄い豪華な解説とゲストにはなってるけど、サヤが謝る理由にはなってないような……。
「あ、もしかして実況を中継に乗せてくれって要望か!? 外の人達が集まってる理由!」
「正解だ、ケイさん」
「……私がそれを嫌がったから、こういう事になっちゃってるかな」
「あー、なるほど……」
大雑把にではあるけど、今の状況は飲み込めた。要は、実況ありで俺らの対戦の中継を見たい人が、桜花さんの周辺だけではどうにもならないくらいに多くなり過ぎてる訳か。
俺にも、サヤにも、実況をするハーレさんやベスタやレナさんにも期待が集まり過ぎた結果がこれかー。みんな、普段はこんな無茶な事はしないだろうに……。
「……もしかして、夕方のハーレさんと対決も関係してる?」
「おう、してるぜ。なんだかんだで、ハーレさんが少しでもケイさんを追い詰めてた部分があったからな。あれは突発的なものだったから、お互いに準備をしてる今度のはもっと凄いだろうって期待が出てるんだが……」
「マジか……」
ハーレさんとの対戦の時には気にせずに、ザックさんの実況の声を中継に乗せていたからな。グリーズ・リベルテのメンバー同士での対戦なら、当然今回もそうなると思われてて……サヤがそれを嫌がっているからこその、この状況か。
なるほど、サヤが謝ってきたのはそこが理由だな。俺には問題がないのは分かってるから、自分の責任だと……。
「おし! サヤ、対戦は中止にするか! もしくは、やっても非公開で!」
「……え? ケイ!? いくらなんでもそれは――」
「今回は検証じゃないんだし、サヤが嫌がるなら元々の予定はなし! 今の最優先は、サヤの意思だからな!」
「……ケイ」
検証じゃないんだから、誰が何と言おうが決定権は俺らにある! みんなから期待されてるんだろうけど、こういう状況になったならそんな期待は知った事じゃない!
「ケイさんはそう言ってるけど……どうするの?」
「この状態だと、その方がいいと思うのさー! サヤ、色々と読み違えてごめんなのさー!」
「……そもそも、サヤが集中して全力で戦うには実況は邪魔になるしな。実行するかどうかは、ケイとサヤで決めろ! それを伝えるのは俺の方でやる!」
この妙な流れは、普段から接していた森林深部以外の人も大勢集まっているって影響もあるんだろうね。群雄の密林に海エリア以外の不動種の人達が揃って移動してきた事で、それぞれの馴染みの人が混ざってしまっているからこその事態。
多分、誰一人として悪気があってやってる訳じゃない。でも、サヤが注目を集めるのが苦手というのを知らない人が……共同体『グリーズ・リベルテ』のメンバー同士の対戦という内容に引っ張られてる状況なんだろう。
気持ちは分かるけど……やっぱり優先すべきは、サヤの心情。色々とあったのを聞いた後なら尚更に……いや、そうじゃないな。単純にサヤに嫌な思いをさせたくないだけかも?
「サヤはどうしたい? 灰の群集のみんなが相手とはいえ、俺はサヤの味方をするぞ」
「……私は……」
うーん、どうもサヤの葛藤が見え隠れしてるな。俺の出した選択肢も結構無茶な内容だし、少し考える時間は必要か。
「まぁすぐに答えも出しにくいだろうし……桜花さん、しばらくここにいてもいいか?」
「そりゃ構わんが……ケイさん、何気にすげぇな? ここで中止とか、結構文句が出ると思うが……」
「いやいや、何が大事かって優先順位の話だから! サヤの心境を最優先! そこに文句を言うなら……外にいる全員、頭を冷やしてやる!」
「ははっ! 確かにケイさんなら、それは出来そうだな!」
「まぁな!」
サヤが変に責任を感じないように、そういう部分を引き受けるのは俺でいい。まぁ後で、ベスタやレナさんに力を借りて状況を収めれば――
「何の騒ぎかと思えば……風雷コンビ、やれ!」
「「了解だ、ベスタの旦那! 『エレクトロクリエイト』!」」
おわっ!? 外からとんでもない雷鳴が聞こえてきたし、今の声はベスタと風雷コンビ!? 桜花さん、遮音設定を切ったのか!?
「みんな、静まりなさーい! 自分達がどういう事をしてるか、自覚してるの!? まったく、ダイクが慌てて呼びにきたから何かと思えば……」
「レナさんの言う通りだな! なぁ、疾風の!」
「そうだぜ! なぁ、迅雷の!」
「「グリーズ・リベルテを困らせてどうする!」」
「風雷コンビがそれを言うのはわたし的には微妙なんだけど、その通りだから! そういう真似をするなら、実況自体を止めちゃうからね!」
あ、この声はレナさんだよな!? てか、ダイクさんが呼びに行ってたのか!? 風雷コンビの発言にツッコミたいのは同意だけど……今はこのコンビだからこそ効果がある言葉なのかもなー。
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