第1392話 検証のトーナメント戦 その11


 湯豆腐さんといなり寿司さんでの3位決定戦も検証内容としては佳境だな。スケルトンでの『侵食』効果が出ている湯豆腐さんのHPがどんどん減っているし、HPを回復しようとして逆に盛大に減ったから……もう単純に時間切れが近い。


「湯豆腐選手、何か思いついた手段があるようだー!? 『侵食』の効果を活かした、絶対的な防御とはどのようなものなのかー!?」

「瘴気魔法が問答無用でスキルの発動のキャンセルが出来てたしなー。あれも強力だったけど……持続して防御に使うとすれば、複合魔法のアースプロテクションか、岩の操作辺り?」

「……広げるなら……砂の操作の方が……いいよ?」

「あ、確かに。範囲を求めるなら、そっちか」

「ここでもいくつかの可能性が浮かんでいるようですが、果たして湯豆腐選手が実行するのは何なのかー!?」


 俺と風音さんが言った中にある手段なのか、それともまた別の何かなのか……まぁ見ていきますか。


「あー、湯豆腐? 結構あちこちから色々と案が聞こえてるが……大丈夫か?」

「同じアイデアの人が結構いるっすよ!? でも、それはそれで構わないっす! 同じ発想があるって事は、成功の見込みがあるっすからね!」

「ま、確かにそりゃそうだな。それじゃ、俺は全力でそれを突破するつもりで攻撃でいいか?」

「どっちがより強力か、勝負っすね! 望むところっすよ!」


「おぉーっと! 検証ではありますが、その中でも勝負が成立したー! 湯豆腐選手は残りHPが少なくなっていますし、この攻防が3位決定戦の勝敗を分けるのかー!? さぁ、最後の見所です!」


 さて、どういう結果になるか、静かに見届けようか。


「それじゃ始めるぞ。『大型化』『白の刻印:剛力』『重爪刃・連舞』!」

「っ!? とっておきで来たっすね! 『白の刻印:増幅』『アースクリエイト』『砂の操作』!」


「いなり寿司選手、ここで元々大きな姿から、更に大きくなってきたー!? その巨躯の爪には銀光と白光を帯びて、連撃とチャージを併せ持つ攻撃をしていくー! それに対する湯豆腐選手は、白光と瘴気が混ざり合った砂を前面へと展開し、それを操作し、攻撃を防いでいくー! 共に白の刻印を刻み、相対するオオカミだー!」

「あー、そうか。魔法で生成した砂も魔法なんだから、白の刻印で強化も出来るよな」

「……基礎的な威力は……上がるけど……操作の精度は……変わらないよ?」

「あ、風音さんはこの使い方を詳しく知ってた?」

「……うん。……防御的に使うなら……耐久性は……上がるはず?」

「なるほど、生成したものの強度を底上げする感じ?」

「……そうなるよ。……その結果……操作時間は……削られにくくなる」

「どうやら、砂の操作での耐久性を上げる効果があるようだー! さぁ、湯豆腐選手が自身のHPを削りながら守り切るのか!? それとも、いなり寿司選手が砂の防御を突破するのかー!?」


 元々、操作系スキルの威力はどう操作するかに影響を受ける。その底上げに使えるって事なら……こりゃいいかもね。


「中々、抜けれねぇな、その砂! おらよ!」

「まだまだ強化が甘い段階とはいえ、強化ありの応用連携スキルを防げるってのはありっすね! それ、連撃は強化されてるっすか!?」

「あー、どうも強化のされ方が鈍いし、『侵食』は連撃のカウントにも影響が出てそうだぜ? 『侵食』の媒体が応用スキルってのも影響してるのかもな」

「それはありそうっすね! でも、その分だけ、HPの減りがヤバいっすけど!?」

「みたいだな!」


「いなり寿司選手、怒涛の爪での連撃を放つー! だが、当たる回数に対して連撃の強化が甘いようだー!? そして、湯豆腐選手のHPは、普通にダメージを受けるようにガリガリと削られていくー!」

「……操作系スキルは……使っている間……ずっとHPが減る?」

「見た感じではそうっぽいなー。いなり寿司さんも攻撃しながら言ってたけど、連撃のカウントやチャージに悪影響は出てるみたいだな。でも、このペースで湯豆腐さんのHPが減り続けたら……最大まで保たないぞ」

「……1対1では……効果が薄そう。……でも……1対多なら……効果は絶大?」

「あー、どうだろ? 『侵食』が銀光の強まりを抑えて、結果的に操作系スキルの消耗も抑えてるなら……そうなるかもな。HPの減り方は攻撃の有無では特に変わってないし……」

「問題は減り続けるHPの量という事ですね! さぁ、そうしている間にもどんどんと湯豆腐選手のHPが減っていき、もう瀕死状態だー!」


 白の刻印で強化した応用連携スキル……それも大型化して質量を増して威力を高めている状態を防げるなら、防御としては強力なのは間違いない。だけど、これは本当に命懸けだし――


「……これは、無理っすね!」

「ちょ!? おい、まだ最後まで……あー、死んだか」


 あらら、最後まで保たずに湯豆腐さんのHPが尽きてポリゴンとなって砕け散ってしまったか。まぁ今のは厳しいよなー。


「ここで湯豆腐選手のHPが尽きたー! まだいなり寿司選手の強化が最大まで進んでいないですが、ここで決着ー! 3位決定戦の勝者はいなり寿司選手となりました!」

「今のは不完全燃焼だろうけど……まぁ『治癒活性』でHPが減り過ぎてたな」

「……耐えるには……HPが足りなかった」

「初手から使えていたら、違った結果になったかもしれないと考えると微妙な心境ですね! ところで、いなり寿司選手の『重爪刃・連舞』は……最大まで強化は可能だったのでしょうか?」

「正直、何とも言えないなー。連撃は最後まで強化にはならなさそうだったけど……チャージが中途半端に終わるとか見た事ないんだけど」

「……キャンセルは……されてないから……溜め終わるのに……時間がかかる?」

「まぁ可能性としてはそのくらいだよなー。連撃は判定が半減してた感じか?」

「……半減までは……行かない? ……多分……3分の2……くらい」

「あー、そんなもんか」

「感覚的な部分なので、明確な数値としては分かりませんが、それでも連撃のカウントでの銀光の強化が鈍っていたのは間違いないですね! 応用スキル同士のぶつかり合いであれば……結局、破れるという結果で良いのでしょうか!?」

「少なくとも、連撃を最後まで当てられるだけの時間が稼げなかったって事だから……操作時間の減り方を考慮に入れなくても、『侵食』で防御をするのがそう長くは保たないのは確実だな」

「……瘴気魔法で……一斉にキャンセルを……狙った方が……効率はいいかも?」

「なるほど! やはり、『侵食』のHPを代償としての時間制限があるのは厳しいようですね!」

「回復して時間が伸ばせられるなら、方法もあるんだろうけどなー」

「……それは……無理そう」


 最大のデメリット要素を緩和する手段は……まぁ『纏浄』と重ねて『変質進化・侵食』そのものをキャンセルする事くらいか。それ以外は、延命手段はないと考えた方がいいかもね。

 あ、そうやって話してる間に湯豆腐さんが復活してるな。とはいえ、トーナメントの終了のカウントダウンが出てるから、それまでの少しの間だな。


「いやー、死んだっすねー!」

「そりゃ別にいいんだが……結局、応用連携スキルなら破れるのか?」

「少なくとも、白の刻印で増幅した砂の操作なら、簡単には破られないっすね! 操作時間にはまだ余裕があったっすよ?」

「……なるほど。応用スキルに『侵食』を乗せられると、破るのも容易じゃなくなるが、絶対に破れない訳でもないってとこか」

「多分、そうっすね! でも、通常スキルに乗ってるのやつなら、応用スキルで十分、突破出来るんじゃないっすか?」

「その辺は、まぁ後で追加の検証……つっても、すぐには無理か」

「そろそろ晩飯の人もいるっすからねー! 俺としては、応用魔法スキルに乗せるとどうなるかが気になるっすよ?」

「……それはそれでヤバそうだな」


 まだまだ調べる組み合わせはありそうだけど、今のトーナメント戦で可能なのはここまでか。まぁまだ判明してない事もある感じけど、それでも分かった事も多い。

 今は何のイベントも開催されてない空白期間なんだから、Lvを上げつつ、合間で確認していけばいいのかもね。


「色々とありましたが、トーナメント戦『検証! 進化の軌跡・侵食!』はこれにて終了となります! まだまだ試す内容はありそうですが、一旦ここで一区切りでしょう! さて、実況は『グリーズ・リベルテ』所属、リスとクラゲのハーレと!」

「解説は、同じく『グリーズ・リベルテ』所属のコケとロブスターのケイと」

「……ゲストは……龍とトカゲの……風音」

「以上の3名でお送りしました! 続きに関しては私には分かりませんので、オオカミ組へとお問い合わせ下さい!」


 ふぅ、桜花さんを筆頭に不動種の人達が投影していたスクリーンも消したし、これにてトーナメント戦の実況は終わりだね。あー、他に何をするにしても微妙な時間だったから丁度いいかと思ったけど、思ったより長く感じたな。


「そして! ここで、『グリーズ・リベルテ』からのお知らせです! 本日、20時半以降にケイさんとサヤの対決を行います! 興味がある方は見に来てください!」

「え、ハーレ!? ここで宣伝するのかな!?」

「おっ、マジか! ケイさん、サヤさんと戦うのか!?」

「それは本当だけど……思いっきり食いつくな、ザックさん」

「そりゃそうだろ! 何気にすごい組み合わせだし、興味はあるっての! なぁ、みんな!」


 ちょ、人が多く集まってる中でそれを聞く!? てか、ハーレさんもこのタイミングで宣伝しなくてもいいんじゃね!? サヤが困惑しちゃってるんだけど!?


「グリーズ・リベルテの内部での模擬戦か。確かに今まで見た事ないし、気にはなるな」

「2人の戦闘スタイルは全然別物だし、その対戦は見たいかも!」

「ケイさんが目立っているけど、なんだかんだでサヤさんも相当な実力者だもんな」

「一緒の戦場になった時に見る事はあっても、模擬戦はそんなにしてないよね?」

「グリーズ・リベルテって、ガチな模擬戦よりも検証や実況をしてるイメージの方があるもんなー」

「桜花さん、ここで中継はすんのか?」

「おう、する予定だぞ。……大々的に広めるつもりじゃなかったんだがな」

「おっし! 20時半なら、見る時間的には大丈夫だ!」

「誰か、実況役を……って、ハーレさんがいけるのか!?」

「問題は解説役だろ! 水準が高い模擬戦になるだろうから、半端な人じゃ解説にならんぞ!」

「解説はアルマースさんがいけそうだけど、もう1人は実力者が欲しいよね。ヨッシさんはこの手の解説はあんまりしてないし……出来そうで引き受けてくれそうなのって……あ、リーダー?」

「今なら、まだ予定が埋まってない可能性はあるな!? おし、すぐに頼んでみようぜ!」

「よしきた!」

「注目の対戦カードだ! 情報、広めとけ!」

「おうよ!」


 うわー、なんかすごい盛り上がってるんだけど……なんでこんな流れになった? というか、ベスタを解説役に呼んでくるのかよ!?


「ハーレ!? なんでこんなに注目を集めるような事をするのかな!?」

「わー!? サヤ、待ってなのさー!?」


 あ、思いっきりサヤに捕まって揺さぶられてるハーレさんの姿があった。まぁ注目されるのが苦手なサヤの気持ちはよく分かる。思いっきり人が集まってる中で、さっきの宣伝をすれば……こういう状況になるのは簡単に予期出来るよな。

 絶対にわざとだろ、ハーレさん。サヤがこうやって嫌がりそうなのも予想出来たと思うけど……なんでわざわざ実行した?


「サ、サヤ? 少し落ち着いて? ほら、模擬戦なら中継で見られても、直接は声は届かないしさ?」

「……確かにそれはそうだけど……ハーレ、何も言わずに勝手にやるのはどうなのかな?」

「わー!?」


 あ、これはサヤが完全に怒ってるね。うーん、サヤの気持ちは分かるし、変に目立つのが嫌なら、いっそ対戦自体をなかった事にするのもありか? あー、でもハーレさんがサヤの気迫に負けずにいるな?


「サヤ、いい機会なはずなのさー!」

「……っ! 今回は私の負けかな。今の状況自体が悪目立ちだし……」

「勝ったのです!」


 おぉ、何だかハーレさんが気迫で押し勝った様子だね。……何がどうしてそうなった? うーん、なんか企んでそうだし、後でハーレさんに聞いてみるか。


「ケイ、それじゃまた後でかな! 負けないからね!」

「ほいよっと! その言葉、そのまま返すぞ!」


 それだけ言って、サヤはログアウトをしていった。まぁ負ける気で戦う気はないけど……なんだろう? 妙にサヤに気合いが入ってたような気もするけど……。


「あはは、サヤにハーレの狙いは伝わったのかも?」

「そうだといいのさー!」

「ハーレさん、それってどういう意味だ?」

「えっと、それは後で人がいない時に話すのさー。今、ここでは無理なのです」

「あー、それなら了解っと」


 小声で言ってくるくらいだし、大勢がいる前では言えない内容か。でも、目立つのが苦手なサヤを、無理矢理にでも目立たせる理由って何だ?


「それじゃ私も晩御飯を食べてくるね。ハーレとケイさんは、『純結晶』の検証だよね?」

「そのつもりなのです!」

「まぁそうなるなー」

「あはは、やっぱりそうなるよね。そっちの成果、期待してるよ!」

「そこは任せとけ!」

「当然なのです!」

「それじゃ、また後でね」


 そこまで言って、ヨッシさんも晩飯を食べにログアウトしていった。まぁ微妙に18時よりも少し早いけど、10分もないくらいだから問題はないか。

 さてと……とりあえず人目が少ない場所に移動して、ハーレさんの狙いを聞いてみますかね。サヤに嫌な思いをさせてまで、無理に目立つ形で模擬戦をやる気はないしさ。

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