第1391話 検証のトーナメント戦 その10


 ベスタと蒼弦さんの決勝戦が終わり、後は湯豆腐さんといなり寿司さんの3位決定戦だな。色々と試す内容を変えてしまっていたから、元々予定してた分はここで済ましてしまわないと……。


「えっと、中断になってた検証案件って何があったかな?」

「あー、正直、あんまり自信はないけど……魔法に普通の『侵食』の効果が乗るかとか、白の刻印を使えば通常の物理攻撃のスキルで『侵食』を突破出来るかとか、付与魔法の効果を乗せれば大丈夫かとか、その辺のはず?」

「そんなところかな? あ、湯豆腐さんが『治癒活性』を使うのもあったんじゃないかな?」

「あっ、そういやそれもか!」

「……色々と……後回しになってる。……内容的に……仕方ないけど」

「あはは、まぁケイさんの発案のは色々とビックリな内容だったしね。そういえば、極意系の『進化の軌跡』は併用って出来るの?」

「あれは、多分『侵食』との併用は無理だろ。そもそも同じ『変質進化』になるんだし……可能性があるとしたら、属性との併用じゃね?」

「あ、そっか。それはそうだよね」

「ふっふっふ! ケイさん、その辺は18時になってからお試しなのさー!」

「まぁそうなるだろうなー」


 サヤとヨッシさんは不在になるけど、俺とハーレさんの2人でも確かめられる部分ではある。まだ入手が容易ではないアイテムだけど、『純結晶』の効果と合わせて出来るだけ早く調べておいた方がいいだろ。


「ケイ、その成果は期待してるかな!」

「夜に合流した時には、情報は出揃ってそうだしね。アルさん、驚くかも?」

「おっし、思いっきり驚かそうじゃん!」

「ふっふっふ! それは面白そうなのです!」


 夜に合流した時のアルの反応も楽しみになってきた。今の時点でも色々と判明しているけど、まだ追加の内容はある訳だしな! 場合によっては、サヤとの対戦の時に実戦で試してみるのも……いや、それはやめとくか。サヤとは一時的な進化での手段より、自分自身が持ってる手段で戦いたいしね。


「さーて、3位決定戦の準備が進んでいるようですし、実況を再開していきます! 対戦カードは、土属性を持つオオカミの湯豆腐選手と大型で物理型のオオカミのいなり寿司選手となっております! さぁ、果たして勝利の女神はどちらへ微笑むのか!?」


 今回のトーナメント戦はエリア設定に変化がない設定なので、3位決定戦も昼間の森の中での対戦だね。残ってる検証の内容的に、湯豆腐さんが『侵食』の変質進化をした方がよさそうだよなー。


「いなり寿司さん、俺が『侵食』を使うので問題ないっすよね?」

「そもそも俺は『治癒活性』が使えないしな。役割的に、俺が白の刻印を使っての通常の攻撃スキルでの突破役だろ」

「そうなるっすね! 魔法に『侵食』効果を乗せるのも、俺の役目っすね!」

「……付与魔法で強化は、いけるか?」

「HPの減り具合次第っすねー。まぁ駄目なら駄目で、後で模擬戦を行って検証をやればいいっすよ!」

「ま、そりゃそうか。とりあえず、今の状態で出来る事をやっていくか」

「そうっすね!」


 うーん、色んなスキルとの相乗効果があるし……本当に試すパターンが増えまくってるな!? 何もかもすぐに網羅して調べようって事自体が無謀ではあるのかもね。


「さぁ、最終戦となる3位決定戦、カウントダウンが始まりました! 今回はどのような情報が出てくるのか!?」

「まぁ今回は確認する内容ばっかだし、大きな情報はないんじゃね?」

「……それでも……大事な内容?」

「具体的にどのような結果になるのかというのは重要ではありますからね! ……3……2……1……開始です!」


 これが最終戦にはなるけど、さっき2人が話していたように全ての内容を網羅し切れる訳じゃない。とはいえ、風音さんの言うように大事な内容の確認であるのも間違いないからなー。あんまり解説としての役割はないだろうけど、しっかりと見届けますか!

 

「それじゃいなり寿司さん、やるっすよ! 『変質進化・侵食』!」

「おう!」


 さて、進化が始まっていくけど、今回の湯豆腐さんはゾンビとスケルトン、どっちに進化するんだろうな? 


「さぁ湯豆腐選手が、このトーナメント戦で2度目の『変質進化・侵食』を実行だー! おぉーと! 今度は体毛が抜け落ち、痩せ細っていくという事は、これはスケルトンへの進化のようですね!」

「前は湯豆腐さんはゾンビだったから、今回は違った方になったな。こりゃやっぱりランダムか?」

「……前提条件は同じ……はず? ……でも……進化先が違う。……定まっていないと……考えた方がいい」

「まだまだ試行回数は必要そうではありますが、傾向としてはランダムな可能性が高まっていますね! 私としては、ゾンビの方で属性を乗せた『侵食』を見てみたかったところではありますが、まぁそれは今回は仕方ないでしょう!」

「まぁ今回は併用する予定じゃないしな。纏属進化と併用しなければ、属性持ちでも姿は特に変わらないっていうのも違いの一つか。どうも湯豆腐さんの元々持ってる土属性には影響が出てないみたいだし」

「……外的要因が重なって……初めて効果を……発揮する?」

「そうなのかもなー。属性がなんでもいいのなら、既に持ってる属性でもありか?」

「……そうかも?」

「その辺りは、他の機会に要検証というところでしょう! さぁ、湯豆腐選手の進化も終わり、スケルトンなオオカミの登場です!」


 追々と調べていく必要はあるだろうけど、この辺は普段から再現をよくしている人達に……いや、『進化の軌跡・侵食』を持ってるプレイヤーに限られるから、オオカミ組がメインでやる事にはなりそうか。

 まぁ対人戦の競争クエストは終わって間もないし、ある程度の概要が分かれば、それ以上は焦って調べる必要もないだろ。どちらかというと、安定して新しい種類の進化の軌跡を手に入れられる環境作りの方が必須だな。


「さて、俺は50分までには離脱したいから、サクサク終わらせるぞ」

「いなり寿司さん、最近、少しログアウト時間が早くなったっすよね? 何かあったっすか?」

「ちょっと用があるだけだ。それはいいから、さっさと『侵食』を使って『治癒活性』から試せ」

「了解っす! 『侵食』! 少しHPが減るのを待つっすよ!」

「ま、流石にそこは仕方ねぇか」


「さぁまずは『治癒活性』の効果があるかどうかの確認からのようですね! 湯豆腐選手、『侵食』を使って瘴気での肉体を形成していくー! やはり、この時点では属性の影響は出ていないようですね!」

「みたいだなー。流石に素で属性持ちに有利な風には出来てないか」

「……属性持ちだと……使えなくなるのも……困るかも?」

「そりゃ属性なしの特権みたいな使い方にはならないよなー」

「それぞれの育成方向によって、極端な違いが出ないようにという仕様なのでしょう! さぁ、スキル『侵食』の効果によってHPが減り出した湯豆腐選手、果たして『治癒活性』で止められるのかー!?」


 俺が確認を頼んだ内容ではあるけども……実際に使ってみるまでは分からないもんな。多少、HPが減ってから試してみるつもりみたいだけど、一体どうなるやら?


「とりあえずこれくらいでいいっすかね!」

「この短時間で、1割ちょっとの減少か。……何もしなければ、どの程度は保つんだ?」

「精々、数分ってとこっすね! どうも割合で減ってる感じもするっすから、HPが多ければいいって訳でもなさそうっすよ!」

「そう都合よくはいかないか」

「そういう事っすね! 正直、嫌な予感もしてるっすけど……いくっすよ! 『治癒活性』!」

「なっ!? おい、HPの減りが早まったぞ!?」

「あ、やっぱりっすか!? 『治癒活性』はストップっす!」


 あー、なるほど。回復するどころか、むしろダメージが増えているって――


「おぉーっと!? 『治癒活性』の発動と共に、急激に湯豆腐選手のHPの減少が早まったー!? これは一体何が起きたのかー!?」

「これ、回復での効果時間の延長をさせる気がないな。アイテムも食べさせてくれないし、下手にスキルで回復しようとしたら自滅か」

「……回復が……正常に機能してない……のかも?」

「まぁゾンビやスケルトンだしなー。そもそも回復出来る対象になってない可能性は高かった……って、あれ? ちょい待った、これって外からの攻撃にも使えるか?」

「……どういう事?」

「あー、瘴気属性持ちも敵に回復アイテムを食わせたら、そのままダメージに変わるっていう特徴があってさ。『纏瘴』でも自己回復スキル以外は回復不可だし、それが更に大きな特徴として出てきてる可能性があるって話」

「……そうなの?」

「共闘イベントのボスに対して、そのような手段を使って乗り切るという手段もありましたね! となりますと、回復手段が最大の攻撃手段になる可能性がある訳ですか!」

「そうそう、そういう事。HP回復の果物がある木の人の『枝の操作』とか、そのまま攻撃として有効かもしれん!」

「……それは……良い情報!」

「これは、『侵食』状態の敵への対策方法となるかー!?」


 他のプレイヤーを回復させる手段自体が少ないけど、それでも不可能ではないからな。そもそも回復アイテムを食べさせる事でも効果自体は出そうだし――


「ははっ! 大した新情報は出ない気がしてたけど、そうでもなかったみたいだな!」

「それはそうっすね! 『侵食』属性の弱点は『癒』属性って事っすね! 俺は『治癒活性付与』までは持ってないっすけど、『治癒活性付与』が特効になる可能性があるっすよ!」

「そりゃ確かにな。地味で人気のない属性だったが、ここで有用性が出てくるとは意外だったぜ」


 あー、そういや『癒』属性ってのもあったっけな。殆ど見る事がないから、存在をすっかりと忘れかけて――


「利用者の少ない『癒』属性ですが、まさかの『侵食』属性への特効性能持ちかー!? 『治癒活性付与』と言えば『治癒活性』の昇華によって手に入る、数少ない他のプレイヤーを直接回復する手段ではありますが、まさかまさかの大躍進もあり得るのかー!?」

「可能性としてはあるけど……まぁHPを回復したい時って基本的には行動値も回復させたい時だしなー」

「……だから……人気が……ない?」

「どうしても他のプレイヤーを回復する手段が応用スキルのみとなりますし、行動値の消費が激しいというデメリットが大きいでしょうね!」


 基本的に不遇なスキルって思い浮かばないけど、あえて挙げるなら『治癒活性付与』がその中の1つなんだろうな。みんな、自分で回復させるのを前提で動いているから、他の人に回復してもらう事ってほぼないしね。

 ハーレさんが言っているように、アルの『枝の操作』も含めて行動値の消費が激しいのは確実にデメリット。『治癒活性付与』がどの程度の消費なのかは知らないけど、応用スキルならそう連発出来るような性能もしてないだろ。


「えっと、みんな落ち着いてきたっすかね?」

「みたいだな。おし、それじゃ次をやるぞ」

「了解っす! 次は魔法に『侵食』効果が乗るかどうかっすね! まぁボスの氷に乗ってたっぽいっすから、多分普通のも乗るとは思うっすけど……」

「問題は、どういう風に効果が出るかだろ? それじゃ行くぞ! 『魔力集中』『強爪撃』!」

「防いでみるっすよ! 『アースウォール』!」


 ほほう? 目に見えて変化もしっかり出てるし、これはしっかりと効果は出そうだね。ただ、これって……。


「いなり寿司選手、普通に爪での攻撃を仕掛けていくー! それを防ぐように瘴気が滲み出る土の防壁を湯豆腐選手が展開するが……おぉーと!? いなり寿司選手の爪が土の防壁に触れた途端に、瘴気に侵食され、魔力集中のオーラが消えたー!?」

「なるほど、魔法にもしっかりとキャンセル効果が出てるっぽいな。でも、湯豆腐さんのHPがその分だけ減ってるし……防御の意味なくね?」

「……防ぐ為に……HPが減ったら……意味がない?」

「確かにそれはもっともだー! 今は検証なので問題はありませんが、実戦なら本末転倒にもほどがありますね!」


 今のは分かりやすくていいんだけど、実戦では全く意味がない動きだな。『侵食』はデメリットが多いんだし、短期決戦で死ぬまでどんどん攻めまくるのが……いや、そうでもないか。


「今の、ちょっと訂正。場合によっては、今の使い方もありかもしれない」

「それはどういう事でしょうか!?」

「よく考えたら猛攻を防ぐ盾にもなり得るんだよ。ただ、どこまでの攻撃に耐え得るかが問題にはなってくるけど……」

「……スキルを……寄せつけない……防壁!?」

「それは、残っている検証案件の結果が重要になってきそうな内容ですね!?」

「そうなるんだよなー」


 応用スキルでは突破されてしまうだろうけど、それについては……実際にやってみてもらうしかない。まぁ大きく元の予定からはズレないし、特に問題はないはず?


「これが、命懸けの絶対的な防御になる可能性っすか! 面白そうっすね!」

「おいおい、普通の応用スキルで突破出来るだろ? そこまで大袈裟な――」

「『侵食』の効果を乗せる対象にもよるんじゃないっすかね?」

「へぇ? 何か思いついてるのか?」

「そうっすね! 実際にやってみるっすよ!」


 おっ、湯豆腐さんも何か手段を思い付いてるっぽいな。ただ単なる『アースウォール』じゃ絶対的な防壁にはならないだろうけど、色々とやり方はありそうだし、どういう方法でやってみるのかは興味あるね。


 

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