第1390話 検証のトーナメント戦 その9


 ベスタのオオカミは『変質進化・侵食』と『纏属進化・纏浄』が打ち消し合って通常の状態に戻り、蒼弦さんのオオカミはスケルトンではあるものの……『侵食』の効果で土と氷で身体が作り上げられている様子。さて、今の蒼弦さんの状態で戦えば、どういう風になるのやら?


「蒼弦、死ぬ前に全力でかかってこい!」

「当然! 遠慮なくいかせてもらうぜ! 『爪刃乱舞』!」


「元の姿へと回帰したベスタ選手と、黒の異形種とはまた違った異形へと変化を遂げている蒼弦選手が衝突していく! 果たして、この勝負はどうなるのかー!?」

「……蒼弦さんの……『侵食』の効果次第?」

「今まで全然見た事がない姿だし、どういう風に効果が出るかだよなー。それにしても……この状態でも『侵食』は『侵食』で、ガッツリとHPは減り続けてるんだな」


 ふむふむ、やっぱり最大のデメリットはこの部分か。この姿、時間制限ありなほど不安定な状態なんだろうね。


「どうやらそのようですね! HPが減りゆく中、蒼弦選手の爪が氷と石で巨大に形成され、迫っていくー! しかし、ベスタ選手はそれを悠々と躱している状態だー! どことなく、蒼弦選手の動きが悪いように見えますが、これはどうした事だー!?」

「攻撃を仕掛ける部位が毎回作り直されてるっぽいし、地味に距離感が掴みにくいんじゃね? 流石に連撃でリーチが変わるのは、ちょっとやりにくいぞ」

「……ベスタさんは……普段より……余計に距離を取って……回避してる」

「どういう効果が出るかを試してほしいところではありますが、ベスタ選手であっても攻撃範囲が読み切れないという事のようですね! ベスタ選手、避ける、避ける、避けるー! 負けじと、蒼弦選手も攻撃を繰り広げていくが……おぉーっと!? これは、空振った爪が地面に刺さり、地面を凍らせていくー!? それだけではなく、躱されて抉った木々も凍り付いているー!?」


 ほほう? こりゃ面白い効果が出てきてるじゃん。なるほど、これが今の蒼弦さんの状態での『侵食』の効果か。あ、ベスタと蒼弦さんの動きが止まったな。


「ほう? 自身の体の形成だけではなく、周囲まで凍らせているのか」

「見た感じ、そうっぽいんだが……リーダー、避け過ぎじゃねぇ? 普通なら割と当たってると思うんだが?」

「実戦形式で試すのに、わざわざ受ける訳もないだろう。それに……この様子を見る限り、俺自身が『凍傷』か『凍結』の状態異常になるだろうよ」

「ま、それは同感なんだが……リーダー、実際に試してみねぇ?」

「検証だからそれは構わんし、元々そうするつもりだ。だが、先にこれは聞いておきたくてな?」

「ん? 何か気になる部分でもあったか?」

「氷属性の影響は一目瞭然だが、土属性の効果は出ているか? 軽く見た感じでは……足元に影響がありそうだが?」

「あ、そこか。駆ける時に、スパイク状の小石が地面に伸びてるみたいでな。踏ん張りやすくはなってる様子だぞ」


 え、そんな変化があったのか!? あー、確かにそう言われてみれば……スケルトンのみの時よりも力強さのある踏み込みにはなってたような? てか、姿がまるで違うから、言われなきゃ分からんわ!


「どうやら、土属性は地面の中へと侵食していたようだー! これはどのように見ますか!?」

「足場って大事だし、近接で動く時に踏ん張りやすくなるのはいいとは思うけど……そういう風に効果が出てるとは気付かなかった。ベスタが変に反撃しなかったのは、その辺を観察してたのかも?」

「……攻撃範囲が……読み切れなかった?」

「そういう事もあるのですね! これはベスタ選手だからこそ、避け切れていたという側面もありそうです! さぁ、こうしている間にも蒼弦選手のHPは刻一刻と減少していくー!? ここからどうなっていくのか!?」


 無防備に受けるだけなら誰でも出来るだろうけど、リーチは可変だから避けにくいのは間違いない。蒼弦さんのどことなく悪い動きは……多分、踏み込みの力加減が分からないのと、変化するリーチに振り回されていたのもありそうだ。


「リーダー、そろそろ攻撃再開といくぜ! このままじゃそのまま死にかねないんでな! 『アイスニードル』!」

「ほう? 魔法では、そういう効果の出方か」

「もしかしてと思ったが、やっぱりだな! 『アイスニードル』『アイスニードル』『アイスニードル』!」

「ふん、これは思った以上に厄介か」


 おー、そういう感じに出てくるか! この状態、本当に面白いな!


「おぉーっと!? ベスタ選手を直接狙った訳ではない氷の弾が、周囲の木々や地面を凍らせていくー! これが属性ありの『侵食』の効果なのかー!?」

「なるほど、周囲の環境を侵食していくのか。持ってる属性……にしては、おかしな状況だな。属性持ちなだけなら、湯豆腐さんがこうなってもおかしくなかったはず?」

「……纏属進化としては……纏土。……だけど……今は明確に……氷属性の効果。……引き出す条件が……何かの『纏属進化』?」

「あー、併用して初めて効果が出るようになる可能性か。それは十分あるかも?」

「その辺りは、次の3位決定戦で試してもらいたいところですね! さぁ、次々と周囲が凍っていますが、ベスタ選手はその影響下にはない状態を保っています! だが、その範囲も狭まっているー!」


 蒼弦さんはベスタに当てるよりも周囲を凍らせる事を目的にして放ちまくったみたいだけど……氷に侵食された森の状態って、すごいもんだな。てか、この侵食された氷って触れても大丈夫なのか? あ、思いっきりベスタが踏みにいった。


「この程度なら、触れても問題はなさそうか」

「あー、普通に触れられるのかよ」

「ふん、昇華止まり程度の氷だと、そこまでの影響度はないんだろう。流石に直接当たれば違うだろうが……」

「……当ててみても?」

「もうそれほど時間も残っていないし、実際に受けてみた方がいいだろうな。だが、何を受けるかというのが問題だぞ?」

「あー、確かにそうだよな。どれにするか……!?」


 侵食の効果でHPが減り続けているんだし、猶予はそれほど残っていないもんな。試すとしても、色んな種類の攻撃を出来るだけの時間はない。精々、あと数発?


「おし、決めた! 俺ならではの攻撃でいくぜ! 『魔力集中』『白の刻印:剛力』『氷爪凍連舞』!」

「っ!? 応用複合スキルか! 『自己強化』『コケ渡り』!」

「ちょ!? ベスタさん、避けるのかよ!」

「完全に殺す気でやり過ぎだ! それに……この場合は、この方がいいだろう!」

「あー、違いねぇな!」


 おっと、まさか実戦形式へ戻るとは思わなかったけど……まぁベスタの気持ちは分かる。どう考えも蒼弦さんの攻撃は、無防備な状態のベスタに当てるには過剰過ぎるしなー。


「銀光と白光を放ち、巨大な氷の爪を振り回す蒼弦選手が、森を氷漬けにして砕いていくー! その凶悪な威力を前に、ベスタ選手が回避へと動きを変えたー!」

「まぁ、当たったら確実にベスタも凍りそうだし……多分、この感じだと『凍結』の状態異常は確定じゃね?」

「……応用スキルは……多分……避けるしかない?」

「普通の『侵食』の効果でも、通常スキルは無力になるからなー。思った以上に、属性の『侵食』は効果がヤバそうだ」

「応用複合スキルでとなると、それも特に危険という事ですね!」


 まさかここで蒼弦さんが応用複合スキルを使ってくるとは思わなかったけど……スキルに氷属性を持ってるやつだもんな。森の凍り方もさっきよりも凶悪だし、凍った状態で衝撃を受けて砕けてるくらいだから……当たると本当にヤバそうだ。これ、他の属性でどうなるのかも気になるとこだよね。


「ベスタ選手、躱す、躱す、躱すー! 回避のみで、反撃には移らないのは何故だー!?」

「……触れたら……氷に侵食される?」

「あー、その可能性はあるかも? 少なくとも下手に相殺も試す気にはなれない状態だよな」


 白の刻印で威力を底上げしてるし、魔力集中を使った事でより氷の爪が巨大化してるもんな。元々、『氷爪凍連舞』そのものにも『凍結』効果があったはずだし……触れれば、即アウトな可能性は高い。


「くっ! 全然リーダーに当たらねぇ!? 余裕あり過ぎじゃね!?」

「それほど余裕がある訳でもないんだが……まぁ、そろそろいいか。『黒の刻印:消去』!」

「なっ!? あ、でもそうなるのか!? だったら、最後の一撃は入れさせてもらう!」

「……ふん、やはりこうなったか」


「ベスタ選手、蒼弦選手が爪を振り切った後に頭へと突っ込んで白の刻印を消していくー! しかし、それと同時に体表面が凍り、『凍結』で動きが盛大に鈍ってしまったー!? そこを逃さず、蒼弦選手は最後の一撃を入れていくー! 更に追加で『凍傷』の状態異常も入っていったー!」

「あー、やっぱりこうなるか。この状態の相手には、下手に触れない方がいいのかもな」

「……それか……弱点属性を纏う?」

「その辺は試してみないと何とも……?」

「凶悪過ぎるが故の攻撃は、下手に受けない方がよさそうかー!? ベスタ選手、意図的に受けたとはいえ大ピンチに陥ったー!」


 検証の為にわざと触れたんだろうけど……まぁベスタだからこそ避け切れていたってのもあるだろうね。蒼弦さん、普段よりも動きに鈍りがあったけど……一撃振るう度にどんどんその動きが良くなってたしさ。


「蒼弦、死ぬ前にその状態で昇華魔法を試してみろ」

「へ? いやいや、これ以上は――」

「検証の為だ。別にここで勝敗が決まっても構わん」

「……はぁ、リーダーには真っ向勝負で勝ちたいんだがな。ま、今回のこれはノーカウントにしとくか。『並列制御』『アイスクリエイト』『アイスクリエイト』!」


「もうあと僅かでHPが尽きる蒼弦選手が、昇華魔法を発動していく! 見た目は普通のダイヤモンドダストと変わらないようですが……いや、違いますね! 効果範囲内の全てのものが凍りついています!」

「うっわ、この規模はエグいな!?」

「……踏み入れたら……生き残れなさそう」

「その中にいるベスタ選手のHPが凄まじい勢いで減っていき……今、底を尽きたー! 蒼弦選手のHPが尽きる寸前でしたが、まさかの大逆転! 勝者、蒼弦選手です!」


 まぁ今回のは、ベスタが意図的にどういう風に効果が出るかを確認した結果ではあるけどね。蒼弦さんとしては、勝ったとは言っても嬉しい状態ではないんだろうな。

 勝敗が決まったらダイヤモンドダストの効果が切れて、蒼弦さんの姿が元に戻ったね。あ、ベスタも復活してきたか。


「トーナメント戦『検証! 進化の軌跡・侵食!』、最後まで勝ち抜いたのは蒼弦選手です! この結果、どのように見ますか!?」

「どのようにって言われても……検証の為にベスタが勝ちを譲ったようなもんだしなー。まぁその成果と言うなら、今回の蒼弦さんが使った『変質進化・侵食』と『纏属進化・纏土』の併用はヤバいってのはよく分かった。まぁ纏った属性は関係ないっぽいけど」

「……危険なのは……状態異常を持ってる属性かも? ……状態異常を……確定に近いくらいに引き上げてる?」

「色々と試す必要はあるだろうけど、まぁそんな感じだよなー。こういう相手に遭遇したら、下手に相手をせず逃げに徹した方がいいかもしれん」

「……色々と……試したい!」

「まだまだ検証の余地を多大に残した状態での決着という事ですね! ベスタ選手、蒼弦選手、いかがでしたでしょうか!?」


 呼びかけてはいるけど、ハーレさんの声は聞こえてるか? 他のとこも似たように締めに入って……いや、ベスタは結構聞き分けるから、聞こえてはいるけど、反応してくれるかどうかの問題か。


「色々と感想を尋ねる声が聞こえているが……蒼弦、正直なところ、どうだった?」

「……これはヤベェな。死亡覚悟で、状態異常をばら撒くって戦法が成立しそうだぞ」

「効果を見る限り、そうだろうな。この手段を使う相手からは逃げに徹するのがいいのだろうが、真っ向から対処する手段も模索したいとこではあるか」

「……そんな手段、あんのか? 強力な分、死亡前提での効果っぽい気もするぜ?」

「すぐに思いつく手段としては、こちらも同種の手段を使う事ではあるが……あぁ、その為の『純結晶』の進化の軌跡かもしれんな。対となる属性で緩和させる事は出来るだろう」

「……昇華まで使えるくらいがあれば、なんとかなるか?」

「今の時点では分からんが、まぁその可能性はあるだろうよ」


 あー、確かにそういう可能性は十分考えられるよな。多分だけど、ここまでの効果を発揮したのは昇華になっている氷属性だからこそ。

 大人数が倒されるくらいなら、誰かが身を張って守り切る方がよっぽどいいはずだしなー。その手段として、新しく見つけた『純結晶』の進化の軌跡があってもおかしくない! ……あとで、これの検証もしないとね。一時付与がどうなってるのか、重要な部分だし!


「まぁ他にも色々と試す事はあるが、成果としては十分過ぎるだろう。湯豆腐といなり寿司の方で、もう少し普通の侵食を試してもらえばいい」

「……あー、俺らは予定にない内容になってたもんな。って事で、予定にあったけど出来てない部分は3位決定戦の方に任せたぜ!」


 なんか盛大に予定を狂わせてすみませんでした! 魔法に普通の『侵食』の効果が乗るかとか、白の刻印を使えば通常の物理攻撃のスキルで『侵食』を突破出来るかとか、付与魔法の効果を乗せれば大丈夫かとか、その辺は全然出来てないままだもんな!?


「残すところは、3位決定戦だけとなります! 少し休憩を挟んだ後、最後の1戦の開始となりますので少々お待ち下さい!」


 想像以上に色々と情報が出まくってるトーナメント戦だけどあと1戦で終わりか。そこまでで18時になりそうだから、夕方はそこで一区切りになりそうだね。


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