第1389話 検証のトーナメント戦 その8


 桜花さんに生成してもらった『進化の軌跡・雷の純結晶』の存在が、なんか既にベスタと蒼弦さんに伝わっていて、カウントダウンが終わった決勝戦で大々的にそれが伝えられたなー。うん、このトーナメント戦が終わったら、俺がやる事は決まってそうな予感。


「さて、蒼弦。本来の検証の方を始めるが、いいな?」

「問題ねぇぜ、リーダー! とりあえず、さっき打ち合わせた内容の説明からか?」

「そうだな、それは俺から説明しておこう。これからの検証内容としては、まずお互いに『変質進化・侵食』を行い、進化先がどうなるかを確認する。まぁこの部分は、先の一戦で蒼弦が進化をしていなかったのが微妙な部分にはなるんだが……ちょっとした方向転換があったから仕方あるまい」

「本当は湯豆腐が死ぬ前に、俺も進化するつもりだったんだがなー。いやー、あそこで進化の併用って案が出てくるとは思ってなかったもんで……」


 あ、もしかして俺の思い付きが予定を狂わせちゃった!? ……いや、内容的には凄い重要な内容だったんだから、あそこで口を挟んだのは悪い事ではないはず! 邪魔だと思っているのなら、聞こえていたとしてもスルーしておくだろうしさ!


「あ、ケイさんを責めてる訳じゃねぇからな! 他の人達も、何か気になる事があったら遠慮なく言ってくれよ!」

「……流石に人数が多過ぎて、聞き逃しかねんがな。同じ連結PTになっているオオカミ組の方で情報共有板を見ているから、声が届いていないようならそちらに報告を上げてくれ」

「即応性が必要そうな情報ならPT会話で報告してくれる事になってる……というか、そうした方がいいって結論になったからな!」


 ふむふむ、俺が割り込んだのが結果的にはそういう対応になった訳か。確かに大勢の声が重なる状態で無理に伝えるより、PT会話で話す事が出来る人を経由した方が確実だもんなー。……うん、そういう対応をする理由は間違いなく俺だね。


「今、説明がありましたが、何か気になる点が出てきた場合には『情報共有板』に報告をという事になっているようです! これは間違いなく、私達……いえ、ケイさんの割り込みが原因ですね!」

「……間違いない!」

「原因と言うな! 原因と! 確かに割り込みにはなったけど、無意味な事をしたとは思ってないからな!?」

「えぇ、確かにそれはそうでしょう! コケの人のいつもの思い付きは、決して無視出来るものではないというのは周知の事実ですからね! ただ、何度もそれで中断になると予定が狂い過ぎて駄目という事なのでしょう! 重要な情報は出てきましたが、このトーナメント戦の範囲で検証し切れるか怪しい量へと変わってきていますし!」

「あー、否定が出来ん……」

「……それだけ……重要な事!」

「『ビックリ情報箱』と呼ばれる所以は、その辺りにありますからねー!」

「おいこら!? 最近はさっぱり聞かなくなったあだ名を掘り返すな!?」

「さぁ、連絡事項も終わったようですし、検証の決勝戦の始まりだー!」

「思いっきり流すな!?」

「……でも……始まるよ?」

「ぐっ!?」


 ここぞとばかりに色々と言ってくれたな、ハーレさん! でもまぁ、結果はどうあれ中断させ過ぎたのも事実だし……その辺をキッパリ言っておいてくれた方が、ベスタ達はやりやすいか。

 誰も彼もが割り込んだら、検証どころじゃなくなるのも間違いないし……。うん、その辺はちょっとやり過ぎたって事で、少し反省しないとな。


「ここから先は実行前にその都度で説明していくとして……蒼弦、始めるぞ。『変質進化・侵食』!」

「おう、了解だ! 『変質進化・侵食』!」


 さてと、検証が本格的に始まったから、そろそろ脱線しそうな内容は自重しとこ。いきなり進化からだけど、どういう変化があるのやら?


「さぁ、ベスタ選手と蒼弦選手が共に進化を実行していくー! おぉーっと!? これはどちらも同じ演出か!? ベスタ選手と蒼弦選手が共に体毛が抜け落ち、痩せ細って肉体が消滅していく! これはスケルトンになるようだー!」

「あ、これはありがたいパターンだな。ベスタは1戦目の時にゾンビになってたけど、条件は何も変わってないのに今回はスケルトンになってるなら……ゾンビとスケルトンのどっちになるかの条件はない可能性が高いぞ」

「……どっちになるかは……運次第?」

「どうやらそのようですね! 条件が決まっていないのが分かったのは、大きな成果でしょう!」


 トーナメント戦の真っ最中ではキャラの構成が大きく変わる事はないだろうし、属性や特性の有無は影響しないという認識で間違いないはず。……白の刻印のセット内容を変更する事くらいは出来るだろうけど、流石にそれが影響するとも思えないしね。


「そして、同じスケルトンでも大きな違いが一目瞭然だー!」

「ベスタの骨の色が真っ黒なのは、闇属性の影響なんだろうなー」

「……蒼弦選手は……白骨だけど……表面に……薄っすらと霜が立っている?」

「所持している属性の影響がここで顕著に現れてきたかー! 氷属性は少し分かりにくいですが、闇属性は相当分かりやすくなっていますね!」


 骨だけになっても、こういう風に属性が分かるのはいいね。まぁ元々は体色で分かってた部分だし、見た目で分かるような要素があるのは当然かもなー。


「なるほど、今回はスケルトンになったか。前の1戦とは何も変えていないから、ランダムで決まると考えてよさそうだな」

「リーダーのコケ、どこ行った?」

「ん? あぁ、どうやら骨の隙間に紛れているみたいだな。枯れたような状態だし、骨が黒いから見落としやすいのかもしれん」

「……なるほど。確かに、こりゃ分かりにくいな」

「まぁそこは個体差が大きな部分だから、属性の色が骨にも反映されるという点が分かれば十分だ。……よく、今までこの要素の報告がなかったな?」

「あ、そういえば報告にあっても良さそうな内容だな? ……敵だと、属性持ちはスケルトンにはならないのか? それとも単純に遭遇してないだけか?」

「どちらの可能性もあるが……まぁそれは後で情報を積み重ねていくしかない部分だ。今は置いておくぞ」

「了解だ、リーダー!」


 あ、確かに『瘴気』属性以外の属性持ちのスケルトンって見た覚えはないかも? ……ゾンビでも見た覚えはないような気もするけど、そもそも遭遇数が多い訳じゃないから何とも言えん!


「ベスタ選手の言う通り、情報を積み重ねていくしかない部分でしょうね! 先日終わった競争イベントで、色が着いたスケルトンを目撃したという方は情報共有板やまとめ機能への報告にご協力をお願いします! 特に意識せずにいた可能性もありますので、何か心当たりがあればで構いません!」

「まぁ骨の色とか気にしてなかったもんな。ベスタの黒い骨は目立つから意識したけど、そうでなければわざわざ報告するような内容でもなかったか」

「……黒い骨の……ドラゴンも……出来る?」

「まぁ風音さんのドラゴンがスケルトンになったら、そうなるんだろうな」

「カラフルな骨の種族が並ぶというのも、面白い光景かもしれませんね! 次のスクショのコンテストの開催の際に、そういうコンセプトも悪くないかもしれません!」


 ハーレさんの言った内容になんか頷きまくってる人が結構いるんだけど!? まぁサファリ系プレイヤーの人達にとっては演出の幅が広がったりするんだし、そりゃ食いつくか。前回だって纏瘴や纏浄を使った演出が結構あったし、今回のこれを使わない理由が思いつかないわ!


「さて、次の段階に移行していくぞ。これからするのは、さっきの1戦で判明した『纏属進化』と『変質進化』の併用だ。俺が『纏浄』を試して、蒼弦が『纏土』を試す事にしている」

「特殊な纏属進化のパターンと、普通の纏属進化のパターンを試してみようって感じになってるぜ!」


「どうやら、先の1戦の影響は大きいようだー! 果たして、どのような姿へと変わっていくのかー!? これは興味深いところですね!」

「だなー。特に『纏浄』の場合だとどうなるのかが気になる」

「……『纏瘴』しか出来ない……可能性もある?」

「あー、絶対にないとは言えないな。瘴気属性だったからこそ併用が出来たって可能性はあるか……」

「それを確かめる意味合いもあるのでしょう! さぁ、どういう結果になるのかが楽しみです!」


 てっきり全部が出来るものだと考えてたけど、瘴気属性のみ有効って可能性もあったんだな。まぁ実際どうなのかを試すのが、これからの検証になるんだろうけど……本当にどうなるんだろ? 特に『纏浄』の方!


「それでは始めるぞ。『纏属進化・纏浄』!」

「了解だ、リーダー! 『纏属進化・纏土』!」


 効果がなければ何も変化はないはずだけど……おっ、どっちも変化あり! なるほど、変化があるんだし、併用出来るのは瘴気属性だけではないので確定か!


「おぉーっと!? ベスタ選手、蒼弦選手、共に進化が始まりましたが……ベスタ選手は無くなった肉体が元に戻っていっているー!? 蒼弦選手は茶色い膜に覆われ、その姿はまだ確認出来ない様子となっているー!」

「……纏浄は……侵食を……打ち消してる?」

「見た感じではそうっぽいなー。同時に使って何か別の形態にパワーアップするんじゃなくて、元の状態に再生させてるのか」


 『侵食』属性だけだと瘴気の量が少なくて、『浄化』属性の影響力が上回ってるのかもな。でも、これはこれで良い成果なのかも?


「なるほど、この組み合わせだとお互いに打ち消しあって通常状態に戻るのか。スキルの『侵食』を発動している間にこれが可能かどうかが気になるが……まぁ流石にそれは出来んから、後で試すしかないか」


「ベスタ選手、完全に元通りの姿へとなっているー! どうやら『纏属進化・纏浄』と『変質進化・侵食』を併用すれば、お互いの効果を打ち消すようだー!? しかし、まだスキル『侵食』の発動中だとどうなるかが分からない状態となっているー!」

「そこは次の3位決定戦で試してもらいたいとこだよなー。死にかけギリギリまで使って、その状況で進化を解除出来るならかなり有用な使い方だしさ」

「……『侵食』状態で暴れて……『纏浄』で戻して……逃げる?」

「そうそう、そんな感じ。まぁそこまで上手く噛み合って使えるかは分からないけどなー。むしろ、それがトドメになるくらいもあり得るし……」

「……自滅を……早める可能性?」

「元々がデメリットのある進化同士だしなー。打ち消しあってメリットになるか、相乗効果でデメリットが増すか……試してみるまで分からん!」

「……それは……そうかも?」


 気になるのは、先に『纏浄』を使っていた場合か。でも、これだとスキル『侵食』の影響は出てないから、特に結果は変わらないかも。

 ん? 逆に『浄化制御』の使用中とかになるとどうなるんだ? あー、まぁそれを考えるのはスキル『侵食』の効果中に『纏浄』をしてみたら予想も出来てくるだろうし……今考えても無駄なだけだな。試行回数がどう考えても足らん!


「その辺りは次の3位決定戦での検証に期待ですね! そうしている間に、蒼弦選手の進化も終わっているー! おーっと!? 骨が茶色に変色して、骨の表面に氷も残っていますね!」

「まぁ予想を大きく外すような状態ではないけど、併用出来るのはこれで確定だなー」

「……分かりやすい……変化」


 この状態で纏土での土属性が、元々持ってる氷属性に大きく影響してくる事はなさそうだ。まぁ元々持っている属性を押し除けて効果が出るなんて事は、いくらなんでもないよなー。


「蒼弦、どういう感じだ?」

「スケルトンになってる事以外は普通の纏属進化と特に何も変わらない感じだぜ。これ、どっちかというとケイさんが見つけたっていう『純結晶』で試さないと意味がないかもな?」

「……なるほどな。まぁこれまで通りの進化の軌跡では、効果として不足過ぎるのも間違いないか」

「だと思うぜ? Lv2のスキルを一時付与されたところで、役立つのは属性のみだし……」

「だろうな。さて、俺の方は元に戻ったが……蒼弦、スキルの『侵食』を使って魔法を試してみろ」

「おう! 分かりやすく『自己強化』を発動してから……いくぜ! 『侵食』! って、おわっ!?」


 さーて、蒼弦さんが『侵食』を発動したから……って、えぇ!? ちょ、そういう変化が出てくるのか!? これ、予想外なんだけど!?


「おぉーっと!? これは予想もしていなかった光景が広がっていますね! スケルトンになって失われていた肉体が、氷と土のよって形成されていくー!」

「まさか、氷と土で出来たオオカミが出来上がるとは思わなかったぞ!?」

「……土の上に……氷が覆ってる?」

「まさか、まさかの姿の変化だったー! そして、『侵食』そのものの効果でHPが減り始めていくー!」


 うっわ、これは本気で予想外の展開なんだけど! いや、これって結構面白い要素じゃない? 瘴気で肉体を拡張するものとばかり思ってたけど、属性を持っていればそれが反映されるとかさ!


「蒼弦、予想外の状態になっているが……どうだ?」

「あー、色々とビックリではあるんだけど……操作感は、普段と変わらない感じだな。リーダー、ここから一戦やるか?」

「……いいだろう。その状態での『侵食』がどう働くのか、実戦の中で確認するのもありだしな」

「おっしゃ! それじゃ全力で行くぜ!」


「おーっと! ここでベスタ選手と蒼弦選手が、実戦形式での検証に移行だー! この属性が反映された『侵食』の効果は果たしてどのようなものなのかー!? そして、勝利の女神はどちらに微笑むのか!? 見逃せない一戦、開始です!」


 予想外の状態になったからこそ、実戦の中で試してみようって流れか。こりゃ本格的に面白いことになってきた! 勝つのはベスタな気はするけど、この状態での『侵食』効果は是非とも見ておきたいしね。

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