第1388話 検証のトーナメント戦 その7


 湯豆腐さんが『侵食』の変質進化と同時に『瘴気』の纏属進化を実行する事に成功した。思いつきではあったけど、本当に重ねて使えるとはねー。


「このまま死ぬのも嫌っすね! 『並列制御』『瘴気収束』『アースクリエイト』!」

「ちっ、瘴気魔法か!?」


 おっ、押し負けると判断して、死ぬ前に反撃の一手ときたか。でもまぁ、蒼弦さんも即座に回避に動くのは流石だね。


「おぉーっと! 最後の最後で、湯豆腐選手が『ミアズマ・アース』を発動だー! これは通常の瘴気魔法と同じようですが……蒼弦選手、銀光と白光が最大限まで高まった状態で回避に動いていくー!」


「え、これってマジっすか!?」

「なっ!? くっそ!?」


 ん? 瘴気魔法ってベースは同じ属性で発動した昇華魔法になるはずだけど……地面が隆起したアップリフトだけじゃないのか。なるほど、『侵食』の影響はこんな形でも出てくるんだな。


「おおっと!? ここで、瘴気魔法から瘴気が爆発的に膨れ上がってきたー!? 蒼弦選手、予想外の状況に回避し切れずに瘴気に呑まれていくー! それと同時に、銀光が消え失せたー!?」

「あー、連撃分を使い切って発動が終わったのか、それとも無力化されたのか……微妙にどっちか分からないな?」

「……なんとも言えない……タイミング」

「確かに今のはどちらか分からないー! しかし、ここで湯豆腐選手のHPが全て無くなったー! 勝者、蒼弦選手ー!」


 ふむふむ、今のが直撃していればどう転ぶか分からない部分ではあったけど、流石に湯豆腐さんのHPが減り過ぎてたか。でも、纏瘴にしてからはスキルの使用でHPが減るのは無くなってたみたいだし、さっきの瘴気魔法の変化も大きな発見だね。


「……死んだっすね。ボス、大丈夫っすか?」

「一応はな。あー、さっきの瘴気魔法の後半で膨れ上がった瘴気だが、ありゃダメージ自体は大してないが……『魔力集中』も含めて、全部スキルをキャンセルされたぜ」

「それ、本当っすか!? ……ヤバくないっすかね、その効果?」

「死ぬのと引き換えでの効果だろうな。属性との組み合わせによっても変わってくるんじゃねぇか?」

「普通の昇華魔法に、『侵食』の効果を乗せればそうなるんっすかね?」

「さぁな? やってみないと、それは何とも言えねぇよ」


 うへぇ……蒼弦さんと湯豆腐さんがさっきの瘴気魔法を分析をしてるけど、聞いてるだけでも相当ヤバい内容じゃん! ……『侵食』の効果を乗せた昇華魔法か。『侵食』属性がある時に放てば、そのまま乗るのか? うーん、また次の1戦で試す内容が増えた気がする。


「ケイさんの思いつきによる、『纏属進化』と『変質進化』の併用には大きな可能性が秘められてそうですね! その辺、どうでしょうか!?」

「どうと言われても……まぁそれも実際に発動してみてもらうしかないんじゃね? 普通の魔法に『侵食』効果を乗せられるかどうか、そこもまだ未確認だしさ」

「……湯豆腐さんの……消耗が激しかったから……試せてない部分」

「俺が途中で検証内容を変えたってのもあるけど、色々と試すには『侵食』のタイムリミットが早過ぎるのは間違いないんだよなー」

「……その為の……トーナメント戦!」

「1戦では検証し切れない可能性は元々考慮されているからこそのトーナメント戦ですし、この続きの検証は決勝戦と3位決定戦でという事になりますね!」


 まだ2戦は残ってるし、そこで色々と他の事も試せればいいんだけどね。それでも網羅し切れない情報になりそうだけど……それでも、重要な内容は結構ある。今までの時点でも、かなり大きな成果は出てるしね。


「さぁ、この1戦はここまでとなります! 蒼弦選手が勝ち抜きましたので、決勝戦はベスタ選手と蒼弦選手となりますね! 3位決定戦はいなり寿司選手と湯豆腐選手となりました! しばらくの休憩を挟んだ後、決勝戦の開始となりますので、開始までお待ち下さい!」


 ふぅ、とりあえずこれで2戦目の実況は終わり。色々と試している事はあるけど、『侵食』でのHPの減りが早いから思ったほど時間は経ってないな。この感じなら、18時までにはトーナメント戦は終わりそうだね。


 とりあえず、少し休憩っと! そこまで長時間な訳じゃないけど、解説という立場上、集中しておかないといけないからなー。今の間に、少し気を抜いておこう。あ、サヤとヨッシさんが近付いてきたね。


「なんだか、とんでもない事になってないかな?」

「まさか纏属進化と変質進化が一緒に出来るとは思わなかったもんね」

「あれ、思いつきの疑問だったんだけどなー。マジで出来るとは……」


 いやはや、言い出した俺が言うのもなんだけど、よく試そうとか思ったな!?


「……ねぇ、ケイ? 併用出来るので思った事があるんだけど、ちょっと聞いてもいいかな?」

「ん? 何が気になった?」

「えっと……一時付与の効果が釣り合ってない気がするかな?」

「へ?」


 一時付与効果が釣り合ってないって、どういう……あ、そうか! 言われてみれば確かに――


「……属性の纏属進化の……一時付与スキルが……弱過ぎる?」

「うん、そう思うかな!」

「……確かにそれはそうだな。今までの属性の進化の軌跡じゃスキルLv3までだし……釣り合ってないといえばそうなるか。……サヤ、桜花さんから貰った成熟体用の火の進化の軌跡はあったよな?」

「うん、あるかな!」

「あれで一時付与のスキルLvが上がってたりって事は――」

「ケイさん、それはねぇぜ? 流石にそういう変化がありゃ、不動種の俺らが気付いてる」

「……ですよねー」


 思いっきり桜花さんに否定されたけど、そりゃ流石にそうなるよな。桜花さんを始めとして不動種の人が上位変換を実際にやってるんだから、使った誰かから情報は入ってくるはず。


「ただまぁ、こうなってくると成熟体用の結晶に上位変換する際に、刻印石が2個必要って部分は気になるとこだな。……何か、それを可能にする他のアイテムがあるのかもしれん」

「あー、なるほど。他に上位変換の素材になるアイテムが存在する可能性か。それと混ぜて上位変換すれば……例えば、昇華に届く属性の進化の軌跡が作れる可能性もある?」

「ま、あくまで可能性の話だがな。後でその方向性で探ってみるから、ケイさん達もその辺は気にかけといてくれ」

「ほいよっと! もしそれっぽいのが手に入れば、持ち込んでくるわ!」

「おう、頼むぜ!」


 まぁまだ入手が不可能なアイテムの可能性もあるけど……今、検証中の『変質進化』用の進化の軌跡も、手に入れるにはかなり早い段階だろうしね。

 あ、でも『刻浄石』も『刻印石』もトレード可能なんだから、その素材もトレードにあっても良さそうな? うーん、もしかして組み合わせに気付いてないだけで、既にあるアイテムだったりする?


「なぁなぁ、ケイさん、桜花さん」

「ん? ザックさん、どうした?」

「もしかして、何か思い当たるアイテムでもあるのか?」

「おう、まぁな! 要は、成熟体用に効果を引き上げるんだろ? なら、『変質進化』用の進化の軌跡を使うのはどうよ? パワーアップ出来そうじゃね?」


 へ? 纏属進化用の進化の軌跡を、変質進化用の進化の軌跡で上位変換させる? いや、発想としてはありか! 一時付与されるスキルの熟練度の元にすると考えればありな方法だ!


「桜花さん、すぐに試せるか!? 素材は俺が持ってる『進化の軌跡・打撃の極意』を出す!」

「すぐにでも試したいが、今は流石に無理……でもねぇか。悪いが俺の中継は少しの間、中断させてもらうぞ! 決勝戦が始まる前に、手早く試しておく!」

「ちょ!? 聞いてたら、一気に話が進むのな!?」

「いいぞ、もっとやれ!」

「コケの人がいると、相変わらず色々と出てくるもんだな」

「今回はザックさんの発案じゃね?」

「わっはっは! まぁその辺は、誰でもいいだろ!」

「コケの人が、そこで即座に材料を出せる状態ってのもすげぇな」

「ワクワク! この結果、どうなるんだろ?」


 なんか周囲の反応が凄いな!? まぁそりゃ、実況の途中での休憩の時にこんな内容を話してたら注目されるのも当然だろうけど!


 ともかく、今は大急ぎで桜花さんに『進化の軌跡・打撃の極意』を渡してしまおう! これはどう考えても俺は使わないから、実験で使うには丁度いいしね! とりあえず取引画面を出して、サクッと確定!


「受け取ったぜ、ケイさん! おし、早速やってみるか!」

「よろしく、桜花さん!」

「おう! あー、属性に希望はあるか? 作った分はケイさんに渡すからよ」

「……希望の属性か。うーん、どうしよう……」


 確認する為に使い捨てにはなる……いや、今のトーナメント戦が終わった後に模擬戦で実際に使ってみればいいだけか。だとすると、後々で使いたい属性かつ、変に効果が下がらない方がいいよな。

 あ、普通の属性だとコケかロブスターのどっちかだけが進化するし、ロブスターですれば属性は問題ないか。纏瘴や纏浄だと両方だけど、そこが特殊なだけだしね。そうなると……連携して使いやすそうなのは、これだな。

 

「雷属性で頼む!」

「おう、了解だ! さて、出来るかどうかが問題だが……『上位変換・雷』!」


 パッと見では桜花さんが何をしてるのかは分からないけど、これは上位変換に使うアイテムを指定してるんだろうね。ザックさんの思いつきが合ってればいいんだけど……。


「ははっ! ザックさん、大当たりだ! この組み合わせなら、刻印石は必要ないし……おし、これで完成だ!」

「わっはっは! 大当たりか!」

「マジか!?」

「ほらよ、ケイさん!」

「おっとっと!?」


 桜花さんが根で掴んで投げてきたのを、なんとか無事にキャッチ! 取引をすぐに済ませて……なるほど、アイテム名が変わってくるんだな。


「『進化の軌跡・雷の純結晶』か。ただの結晶から純結晶に変わってたら、どう考えても効果が同じはずがないよな!」

「おぉ!? 明確にパワーアップしてる感じなのさー!?」

「ケイ、それはすぐに試すのかな?」

「流石に時間的に厳しいんじゃない? もう決勝が始まるみたいだけど……?」

「はっ!? 確かにそうなのです! ケイさん、それを実際に試すのはトーナメント戦が終わってからなのさー!」

「ほいよっと! まぁ焦って確かめるほど急ぎもしないし、今はそっちを優先で! 桜花さん、それでいいか?」

「俺は別に構わんが……集まってる人達もそれでいいか?」


 あ、そりゃ他の人達にも聞く必要はあるか。とはいえ、今すぐに使えと言われても流石に断るけどな! 今はまだ相当なレアアイテムを材料に使ったんだし、使い捨てだろうからこの場ですぐは使えんわ!


「問題なーし!」

「流石に物が物だし、消費しない模擬戦でか?」

「だろうなー。使い捨てを即座に使えとは頼めん!」

「とりあえず今は、トーナメント戦の実況と解説をお願いします!」

「それなら生成も後でよかったんじゃ?」

「いやいや、そこは気になるだろ!?」

「思いついたら即実行だよね!」

「さて、情報共有板に報告を上げとくかー」

「決勝前に純結晶が発生ってね!」

「……いや、しょうもないダジャレはいらんから」

「漢字が全然違うだろ!」


 なんか変な騒動が一部で発生してるけど……まぁそこはスルーでいいや。さーて、そうしてる間に桜花さんがスクリーンを投影し直しているし、トーナメント戦の実況と解説に戻っていきますか。

 とりあえず決勝戦が先にあるみたいだから、ベスタと蒼弦さんの組み合わせで検証だね。さーて、さっきの1戦じゃ蒼弦さんは変質進化を使ってなかったけど、その辺はどうなるかな?


「さぁ、検証のトーナメント戦、決勝戦が間もなく開始です! 少し脱線もありましたが、そちらは一旦置いておいて、『侵食』の検証の再開です! 後回しにした案件がいくつかありますが、今回でそれらは確認し切れるのかー!?」

「えーと、魔法に『侵食』の効果が乗るか、白の刻印で通常の物理攻撃のスキルで突破出来るか、付与魔法の効果……これは湯豆腐さんがするから、次の3位決定戦だな」

「……ゾンビと……スケルトンへの……違いの確認も?」

「色々と確認する事はありますね! さぁ、カウントダウンの開始です!」


 さーて、ベスタもさっきの1戦は見てただろうし、場合によってはここで他の属性の纏属進化との併用を試してくる可能性もあるよなー。その辺も含めて、どういう風になるかが気になる! 


「……おい、ケイ。聞こえているな?」

「ケイさん、合間で何やってんだ? また新しい種類の進化の軌跡が出てきたって、とんでもねぇな!?」

「ちょ!? え、もうさっきの出来事が伝わってんの!? 早くない!?」

「早いも何も、黒の異形種の討伐PTを維持したままでいるから、そっちから報告が上がってきただけだ。……まったく、思いつきで併用の可能性を見出した直後に、更にこんな情報を出してくるとはな」


 なんかベスタに呆れられてるっぽい反応なんだけど!? ……くっ、流石にさっきの今で、もう情報が伝わってるとか思わなかった!

 でも、オオカミ組をメインとしてた黒の異形種の討伐PTにいるままなら、PT会話で情報は入ってきますよねー。オオカミ組、情報収集に抜かりがないな!?


「ケイの声が聞こえてない人達もいるから、俺から説明はしておく。まだアイテムの具体的な効果は不明だが、『進化の軌跡・雷の純結晶』というアイテムの存在が発覚した。雷属性の進化の軌跡を上位変換する際に、『刻印石』ではなく『進化の軌跡・打撃の極意』を使用すると可能になるそうだ。こちらの検証はトーナメント戦が終わってから行うから、情報は待っておいてくれ」

「一次付与のスキルが昇華相当に期待って内容だな! ま、流石に昇華の称号は得られないとは思うがよ?」


 あ、そうか。いくらなんでも、纏属進化で昇華の称号まで取れるほど都合は良くないかもしれないね。んー、まぁそれも含めて後で検証……って、なんかベスタも検証するような言い方をしてたような?

 ふむ、まぁ『進化の軌跡・侵食』が上位変換の素材に出来る可能性もあるし、物理メインのベスタが試してみるのもいいのかもね。トーナメント戦が終わったら、なんかベスタに連れていかれそうな予感もするけど……それならそれで別にいいか。

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