第1387話 検証のトーナメント戦 その6


 さて、蒼弦さんと湯豆腐さんが検証中だけど、侵食の効果を付与魔法で強化すれば突破出来るかどうかは後回しになった。とりあえず、これから試すのは、この変質進化中にHPが回復出来るかどうかだね。


「ここで、湯豆腐選手がHPを回復させる為に蜜柑を取り出したー! 果たして、これでHPを回復する事が出来るのかー!?」

「それが出来れば『侵食』での時間制限を伸ばす事が可能だろうし、重要な内容ではあるんだよなー。まぁ食べられないって可能性もあるけど……」

「……だからこそ……これから試す」

「非常に重要な内容だという事ですね! 果たしてどういう結果になるのかー!?」


 さて、大真面目にこれは試してみないと分からないけど……どうなる事やら? 


「それじゃいくっすよ!」

「おう!」


 そう言いながら湯豆腐さんのオオカミが蜜柑に噛みついて……え、そうなる!? あー、でも性質を考えたらそういう事もあり得るか。


「っ!? こうなるんっすか!?」

「……そうきたか」


「おぉーっと!? まさか、まさかの! 食べようとした蜜柑が、瘴気に触れて塵へと変わってしまったー!? ……勿体ないですねー」

「確かに勿体ないけど、そこで乗り出すな。てか、模擬戦の最中なら実際に使ったカウントにはならないだろ」

「はっ!? これは失礼しました! 模擬戦ではアイテムの消費は、実際には行われてはいないので、今の蜜柑は無駄にはなっていないはずですね!」

「……そのはず? ……それにしても……食べる以前の……問題だった?」

「まぁ瘴気で肉体の欠損を補ってたり、攻撃範囲を拡大してる状態だもんなー。こういう結果になるのは、瘴気の性質を考えてみれば不自然ではないか」

「確かにそれはそうですね! 普段の状態で目にする範囲の瘴気ではそういう印象も薄いですが、共闘イベントの演出時の瘴気は酷いものでしたし、そこから考えればこの演出も納得というものです!」

「……そう……なの?」

「あー、人によっては知らない事もある内容か」


 風音さんは、その頃ってどこにいたんだろ? 群集間の移籍が解禁になったばかりの頃だから、桜花さんを探しに青の群集へ行ってたか?

 うーん、風音さんは『瘴気の凝晶』や『浄化の輝晶』を持ってなかったんだから、少なくとも共闘イベントの積極的に参加してた訳ではないんだろうね。あの後から始めた人もいるだろうし、その辺の説明をしとくか。


「えーと、共闘イベントが終わった後に復活はしてるけど、演出で瘴気が溢れ出た場所で植物系が朽ちていったりしてたんだよ。まぁ一般生物の動物も一緒に駄目にはなってたんだろうけど……由来が瘴気になるなら、その辺に繋がるって事だな」

「……そうなんだ」

「解説をありがとうございます、ケイさん! おぉーっと! 湯豆腐選手、他にも色々と食べ物を取り出していくー! これは、瘴気によって消されずに食べられるアイテムがないかを探すのが目的かー!? ……じゅるり」

「おい!? 最後の『じゅるり』はいらんだろ!」

「……色々と……あるね?」


 それにしても……本当に色々と出てくるな!? 焼いた肉や、焼いた魚、果物系も色々ある。あー、ハンバーグとかローストビーフとか、ガッツリと加工された試食データに置き換わってるタイプのもあるね。


「……いや、出し過ぎじゃねぇか?」

「消費はされないんだし、どんどん試していくまでっすよ!」

「あー、そりゃそうか。つっても、HPの残りも考えてくれよ? 半分は切ったぞ?」

「それを回復させる為の手段でもあるっすからね! まぁ駄目なら駄目で、その時に考えるっす!」


 なるほど、食べられるものが少しでも存在すれば減ってるHPは無視してもいいもんな。実際にアイテムを消費せず、本格的に戦闘をしてる訳じゃない今なら尚更に。


「あぁ!? ステーキが!? 焼き魚が!? 果物がー!? 全部塵になって消えていくのさー!?」

「おーい、素に戻らず実況をちゃんとしろ、実況を! これ、無駄にはなってないからな!」


 相変わらず食べ物が関係してくると変な方向に行くよな、ハーレさん! 確かに塵になっていく食べ物を見たら勿体ないって気持ちにはなるけどさ! 


「ごほん! 大変失礼しました! どうやら、どの食べ物であっても問答無用で駄目なようですね。今出てきた、かき氷くらいはいけそうな気がするのですが……あぁー!? 器の竹が塵となって、中身がぶち撒けられたー!?」

「あー、まぁ竹の器も植物だしな」

「……器が土器なら……大丈夫?」

「いや、この様子だとかき氷も駄目な気がする。水も汚染されるし……多分、氷もアウトだと思うぞ」

「……残念」

「回復アイテムの使用ではどうやってもHPの回復は不可能そうですね! 他の回復手段であればどうなのでしょうか!?」

「……スキルでの回復か。そもそも、オオカミに回復系のスキルってある?」

「……特性『大食い』があれば……捕食攻撃で……回復は出来るはず? ……後は……『治癒活性』?」

「あー、あれか」


 俺のロブスターが『治癒活性』を持ってるけど、全然使ってないな。あれって継続回復が可能だったはずだけど……この場合はどうなるんだ? 湯豆腐さんが持っていなければ意味がない……いや、『治癒活性』なら纏癒で……ん?

 あ、ちょっと待った!? ふと思いついた可能性だけど、これはどうなんだ? ……ちょっと試してもらうか。


「ハーレさん、少し試してもらいたい内容を思いついたから、呼びかけてもらっていいか?」

「おぉーっと!? ここで解説のケイさんが何かを思いついた様子!? 蒼弦さん、湯豆腐さん、少し試してもらいたい事が出てきたのですが、声が届いているようであればご返答をお願いします!」


 もしこれが可能なら、色々と運用方法の幅が広がってくるはず。……場合によっては、あれが相当ヤバい事になりそうな気がする。いや、実際に可能かどうかはまだ分からないけど……。


「おっし、そろそろ白の刻印で――」

「ボス! ハーレさんが呼びかけてきてるっすよ!」

「え、マジか!? あー、他の中継の人達、悪い! またちょっと静かにしといてくれ。この状況で呼びかけてくるって事は、ケイさんが何か思いついたんだろ?」

「はい、そうなります! ケイさん、何を思いついたのー?」

「それはこれから伝えるから待ってろ」

「はーい!」


 他の中継の声が静まるのに少し時間はかかるだろうから、ほんの少しだけ待って……そろそろいけるか?


「蒼弦さん、聞き取れる状態になった?」

「あぁ、問題ないぞ。それで……まだ言った範囲で試す内容が終わってないんだが、そこに割り込む内容ってどういうのを思いついたんだ?」

「あー、不可能な可能性もあるんだけど……『変質進化』と『纏属進化』の併用って可能?」

「……へ? あ、そういや進化の種類としては別枠か!?」

「『変質進化』と『纏属進化』の併用っすか!? 考えてなかったっすけど……出来る可能性はありそうっすね!」


 これは、纏癒の一時付与のスキルとして『治癒活性』がある事から思い至った可能性。もしこれが可能なら、『極意』系統の進化の軌跡と、属性系統の進化の軌跡は併用出来ると考えていいはず。

 応用複合スキルの存在を考えたら、完全に不可能とも思えないんだよな。ただまぁ、上手くいくという保証もない……。


「ダメ元にはなるんだけど、ちょっと試してもらう訳にはいかない? 特に試してもらいたいパターンとして、『纏瘴』との併用があるんだけど」

「なるほどな。その組み合わせなら、黒の異形種の構成と同じに出来るのか。湯豆腐、いけるか?」

「やってみる価値はありそうっすね! ケイさん、もしダメだったら、どうするっすか?」

「その場合は、そのまま予定通りにだなー。あ、湯豆腐さんって『治癒活性』は使える? 元々は、そっちで今の継続ダメージをどうにか出来ないかって方向で考えてたとこなんだけど」

「……『治癒活性』っすか? 俺は持ってないっすね」

「『治癒活性』なら、確かいなり寿司が持ってたはずだな。3位決定戦の時に試すってのでどうだ?」

「なら、それでよろしく!」

「了解っす!」

「おし、その方向で決定だな! 湯豆腐の反応で状況は把握してるとは思うが、これよりケイさんの発案で『纏属進化』と『変質進化』の併用を試していくぜ! そういう流れでいくから、実況を再開してくれ!」


 さーて、伝えるべき事は伝えた! ちょっと試す順番を狂わせてしまった気もするけど、白の刻印で『侵食』効果を突破して湯豆腐さんが倒されてからじゃ遅かった可能性もあるからね。

 湯豆腐さんのHPはまだ4割ほど残ってるから、纏属進化の併用が成功しても即座に死ぬ事はないはず。むしろ、一時的にでも瘴気属性を得たら、今のHPの減りが止まったりしないかな?


「さぁ、ケイさんの発案によりとんでもない内容へと検証が切り替わっていくー! 果たして、『纏属進化』と『変質進化』の併用は可能なのかー!?」

「さーて、これでどうなるか……」

「……気になる!」

「湯豆腐選手が『瘴気の凝晶』を取り出し、進化の準備を整えたー!」


「それじゃ始めるっすよ! 『纏属進化・纏瘴』!」

「……へぇ?」


 おっ、発声と共に、溢れ出した瘴気に覆われる進化の演出が始まったって事は、進化が実行になったか! 


「おぉ!? ここで湯豆腐選手のオオカミが、瘴気に包まれ、進化が始まったー! これは併用可能という事かー!?」

「まぁ『変質進化』がキャンセルになって、こっちの進化に切り替わったって可能性はあるけど……あ、それはそれで重要な気がする」

「……時間制限を……強制的に破れるから?」

「そうそう、そういう感じ。まぁ併用出来た場合は……効果時間ってどうなるんだろ?」

「……それは……すぐに分かる?」

「その辺りは、進化を終えた湯豆腐選手からの報告待ちになりますねー! おぉーと! そうしている間に、湯豆腐選手のオオカミを包み込んでいた瘴気が消えていくー!」


 どういう結果になったとしても、この状況が興味深いのは間違いない。切り替えになったのか、併用になったのか、結論はどっちだ!?


「どうやら、姿はあまり変わらないようですが……いえ、瘴気の密度が増して濃くなったように見えますね! 湯豆腐選手は『自己強化』を発動中でしたので、瘴気を纏ったかどうかは分かりにくいところですが!」

「あー、そこは進化前に切ってもらっておけばよかったな。……今更言っても遅いけど」

「……そういう事も……あるよ」

「確かに今更言っても遅くは……おーっと!? 湯豆腐選手のHPの減りが止まっているー!? これはどういう事だー!? いや、僅かずつだが減ってはいるようだー!」


 気にしてもどうにもならない事は置いておいて、湯豆腐さんの確認待ちだな。明らかに目に見えるのはHPの減る速度の変化か。ふむふむ、同時に使えばこういう恩恵はあるんだな。


「湯豆腐、どうなった?」

「……これ、成功っす! 属性『瘴気』と『侵食』が両方あるっすよ!」

「マジかよ!? って事は、その状態で『瘴気制御』に切り替えられるのか?」

「多分、出来ると思うっす! 自己強化解除で……『瘴気制御』発動っすよ!」


「湯豆腐選手の纏っていた瘴気が形を変えて、全身が瘴気に覆われて巨大化していくー!? これが『瘴気』属性と『侵食』属性を同時に使った姿なのかー!?」

「なんというか……瘴気で出来たオオカミみたいになって、ゾンビ感は無くなったな?」

「……瘴気での……大型化?」

「あー、言われてみればそんな感じか」

「これは、動きに合わせて瘴気の変動がありそうな予感がします! おぉーと!? HPの減りが再び加速したー!? これは、元よりも減りが早いかもしれないぞー!?」

「あー、併用は出来るけど、負担は重くなる感じなのかもな」

「……あっという間に……死にそう?」


 どういう効果が出てくるかは分からなかったけど……うん、このHPの減り方はヤバい。でも、その分だけ効果には期待が出来そうな気もする?


「ボス!? これ、ヤバいんっすけど!?」

「ゆっくり話してる間はなさそうだな!? よし、その状態を突破出来そうな攻撃を試す! 湯豆腐は、俺を仕留める気でかかってこい!」

「りょ、了解っす! 『爪刃双閃舞・瘴』!」

「禍々しい爪だな、おい!? 『白の刻印:剛力』『アイスクリエイト』『並列制御』『氷塊の操作』『氷爪凍連舞』!」


「湯豆腐選手の全身を覆っていた禍々しい瘴気が爪に集まり、巨大な瘴気の爪を形成し、銀光を放ちながら蒼弦選手に迫っていくー! それに対する蒼弦選手は、氷塊で禍々しい凶爪を受け止めつつ、冷気と銀光と白光が混ざった爪での連撃で応戦していく! 氷塊は侵食されて形を無くしているが、これは追加生成で凌いでいるようだー! そして、湯豆腐選手へ爪での連撃が次々と当たっている! だが、侵食の影響を受けているのか、思ったほどのダメージにはなっていないようだー!?」

「銀光が強まってるから、連撃のカウントは増えているし、突破は出来そうな感じだな」

「……威力が足りないうちは……厳しいけど……強化していけば……突破出来そう?」

「おぉーと! まさしくその通りになったー! 蒼弦選手、氷塊で湯豆腐選手の猛攻を凌ぎ切り、眩い銀光の爪をクリーンヒットー! 続けて、強化された連撃で刻んでいくー! この1戦、ここまでで終わりかー!?」


 ただでさえ湯豆腐さんのHPの減りが早まっている状態だから、蒼弦さんに凌ぎ切られた時点でこれ以上は厳しいだろうね。まぁ併用出来るのが判明したのはいい成果かな?

 こうなってくると、他の属性と併用したらどうなるかも気になってくるけどさー。特に『浄化』属性との組み合わせだとどうなるんだろ?

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