第1386話 検証のトーナメント戦 その5


 次は、蒼弦さんと湯豆腐さんの1戦だな。ベスタといなり寿司さんでは基礎性能と物理攻撃をメインで検証してたから、これからのは魔法や操作系スキルでの効果の確認かもね。


「さぁ、これよりトーナメント戦『検証! 進化の軌跡・侵食!』の2戦目が始まります! 対戦者は、共同体『オオカミ組』のリーダーの蒼弦選手と、同じく共同体『オオカミ組』の副リーダー的な立ち位置となっている湯豆腐選手だー! 決勝へと駒を進めて、ベスタ選手と戦うのはどちらなのかー!?」

「あ、湯豆腐さんって副リーダーなんだ?」

「明確にそういう立場と決まっている訳ではありませんが、蒼弦選手が動けない時に代わりに指揮を取る事がありますからね! 私達の『グリーズ・リベルテ』で言うならば、アルマースさんの立ち位置のようなものとなります!」

「あー、なるほど」

「……そうなんだ?」


 グリーズ・リベルテでのリーダーは俺だけど、システム的に用意はされてなくても副リーダーと言われればアルだよなー。必ずいつもそれぞれの共同体のリーダーがいるとは限らないから、不在時や手が離せない時にそういう役割になる人はそりゃいるよね。

 でも、オオカミ組って連盟機能でいくつかの部隊に分かれてなかったっけ? あー、連盟を使っても本体になる共同体があるし、その中でのトップ2って事かも? まぁ重要な役目がある人なのは間違いないか。


「さぁ、中継画面はトーナメント表から切り替わり、戦場へと切り替わっていくー! 設定は先の1戦と同じく、昼間の晴れの森の中でアイテム使用可となっています! この辺り、どう見ますでしょうか!?」

「どう見るって……まぁさっきとは違った側面から検証していく形になるだろうな。ゾンビやスケルトンそのものの性質はある程度の確認はしたし、今回は魔法や操作系スキルへの影響度がメインってとこか」

「……『侵食』同士が……お互いに影響を……与える範囲も……気になる?」

「確かにその辺りが見所になりそうです! さぁ、氷属性で白いオオカミの蒼弦選手と、土属性で茶色いオオカミの湯豆腐選手が向かい合って、カウントダウンが開始となったー!」


 あ、湯豆腐さんのオオカミは土属性なのか。ふむふむ、標準の色が灰色や茶色が混ざってるような感じだけど、土属性だとそれが目立つようには出てないから印象が薄かったのか。蒼弦さんの氷属性での白色も、バランス型だからか控えめだしなー。元のオオカミとしての体色とのバランスもあるから、2人とも属性持ちだと言われなきゃ地味に気付きにくいよね。


「ボス、どういう方向でやるっすか?」

「俺らは、とりあえず魔法だな。リーダーといなり寿司で、物理攻撃の影響度合いは分かったから……あー、でも『侵食』の影響の受け方を確認しといた方がいいのか?」

「それはそうっすね! それじゃ俺が先に『変質進化・侵食』をするっすから、ボスが魔法や操作系で攻め込んで下さいっす!」

「へいへいっと。それでキャンセルされる範囲を確認だな」

「それでいくっすよ!」


 ふむふむ、開始のカウントダウンは盛大に無視して、方向性の相談中か。まぁ検証がメインの目的なんだし、何をするかの打ち合わせは大事だよね。


「どうやら、まずは湯豆腐選手だけが『変質進化・侵食』を行い、蒼弦選手が実際にその効果がどう出るかを確認していくようですね! さぁ、どのような結果が出てくるのか!?」

「とりあえず、どの程度までなら『侵食』の効果でスキルの無効化が有効かってとこか。黒の異形種が使ってたものと同じならある程度は分かるけど、その辺に違いがあるかどうかが気になるな」

「……応用スキル以外は……ほぼアウトって……聞いた」

「まぁ全てを試した訳じゃないし、通常スキルでもLv10の水の操作なら部分的な効果だったからなー。無効化が出来る基準はどこかにあるはず」

「……その確認は……大事!」

「ケイ選手の持っている水の操作Lv10は完全には無効化されていませんでしたが、果たして普通の操作系スキルであればどの程度まで耐え切れるのか、そこは重要ですね!」


 この辺は実際に色々と試していくしかない部分だけど、どこまで大丈夫なのかという目安は欲しいとこだね。まぁ応用スキルなら大丈夫だとは思うけど、問題は通常スキルがどの程度からなら大丈夫なのかだな。


「それじゃ湯豆腐、始めるぞ。『魔力集中』!」

「了解っす! 『変質進化・侵食』!」


 さて、今回はゾンビとスケルトン、どっちに進化するんだろ? この辺の法則性が分かればいいんだけど……サンプル数が流石に少な過ぎるだろうからなー。


「さぁ、湯豆腐選手の異形への進化が始まったー! おぉーっと! 肉体が膨れ上がって、あちこちが弾け飛んでいくー!」

「今回はゾンビか。この辺、法則性ってどうなってるんだろうな?」

「……属性を持っていたら……ゾンビ? ……ベスタさんも……湯豆腐さんも……属性持ち」

「あー、そういや昨日戦ったペリカンは、『瘴気』と『侵食』以外の属性は持ってなかったような? でも、それってこれまで見た全部に当てはまる?」

「……自信は……ない」

「……だよなー」


 俺も流石に、そこが条件だと言い切る自信はない! てか、普通に属性を持ってないゾンビとか見たような気もするし……だー! そもそも『瘴気』属性は得られてないから、敵と同じと判断する事自体が間違ってる気もしてくる!?


「そうしている間に、湯豆腐選手は不完全な姿のオオカミへと変わり、ゾンビと化している! その辺りの条件はサンプルを集めて比較していくしかないと思いますが、いかがでしょうか!?」

「まぁそうなるなー。でも、決勝や3位決定戦で違った種類に進化してくれれば、固定されてない可能性は高くなるかも?」

「……同じ条件でも……進化先が変わるから?」

「そうそう、そういう感じ。明確に違ってくれた方が、所持してる属性や特性の影響では変化しないって事が分かるしさ」

「それは確かにそうかもしれません! まだ先の話ではありますが、決勝戦と3位決定戦の見所になるのかー!?」


 これ、冗談抜きでトーナメント戦って形にしてて良かったかもね。対戦の組み合わせはともかく、参加した人の条件を一切変えずに一連の流れで比較検証がやりやすい。

 纏樹とかは木の種類がランダムで決まってたりもするし、ゾンビかスケルトンのどっちになるかがランダムになってる可能性はあるんだよなー。少し前にも話したけど、咄嗟の判断が変わってくる要素でもあるし……。


「湯豆腐、『強靭』が『復元』になってたりするか?」

「そうなってるっすね。これ、『強靭』を持ってないとどうなるか気になるとこっすよ?」

「まぁ『強靭』が消えて『復元』が追加されてるのか、『強靭』が『復元』と入れ替わってるかの違いはあるからな。あー、後で『強靭』を持ってないパターンでの検証も必要か」

「それはそうっすね! でも、それは後での話っすよ、ボス! 『侵食』!」

「……だな。今は、今の検証を始めるか! 『アイスインパクト』!」

「っ!? そうなるっすか!?」


 さて、まずは魔法を使った場合の検証からか。これでどうなるか……ほほう、こうなるのか。


「不完全なゾンビの肉体を瘴気で補填した湯豆腐選手に向けて、蒼弦選手が氷塊を叩きつけていったー! だが、無効化される事なく、そのままクリーンヒットー!? いや、そうでもなさそうだー! 湯豆腐選手に当たった瞬間から、氷塊への侵食が始まって、威力を伝え切る前に砕け散ったー!」

「あー、多少の勢いは残って、ダメージは通る感じなのか。防御するつもりで構えていなければ、『侵食』があってもある程度は貫通するんだな」

「……でも……威力はかなり……削がれてる?」

「意外や意外! なんとも中途半端な結果がいきなり出てきたものですね!?」


 このくらいの魔法ならあっさり完全無力化されるかと思ったけど、そうでもなかったのはちょっと意外。でも、そうなった理由はなんとなく理由は分かったかも。


「ボス! この侵食していく瘴気、形を変えるのはどうすればいいっすかね!?」

「リーダー達はスキルを使った時に変化してたが……あぁ、そうか! 湯豆腐、自己強化を使え! それで全身に広げられるだろ!」

「あ、確かにそれはありそうっすね! 『自己強化』! おぉ、全身を包み込んでいるっす! ……その分、HPの減りが少し増えた気もするっすけど!」


 あ、やっぱりそうか。『侵食』以外のスキルを何も使ってなかったから、効果が発揮し切らずに中途半端な状態になってたっぽいね。


「湯豆腐選手の自己強化の発動と共に、侵食する瘴気が全身に広まったー!? これはどういう事だー!?」

「まぁ単純に魔力集中か自己強化で、効果範囲が広がるんだろうな。魔力集中と同じような効果の出方とは言ったけど、実際は魔力集中に『侵食』が乗ってたのかも?」

「……さっきの1戦は……どっちも魔力集中を……使ってた」

「なるほど、『侵食』の効果を最大限に発揮する為には『魔力集中』か『自己強化』の使用が必須という事ですね! これは重要な情報でしょう!」

「あとは、魔法や操作系スキルを使う際にはどういう風に効果が乗るかだなー」

「……気になる」


 試してみてくれと言いたいとこだけど、実況をやっているのは俺らだけじゃないのが痛い……。今はあちこちから声が届いてる状態だろうから、変に呼びかけるのもやりにくいんだよなー。

 やっぱりPTか連結PTを組んで、実況をするPTの音声も中継に一緒に流してしまう方が色々とやりやすいか。まぁ今更考えてもどうしようもないところだし、蒼弦さんと湯豆腐さんがどこの実況でもいいから、その辺の疑問が出たところを拾ってくれればいいんだけど……まぁどういう風に進めるかは任せよう!


「おし、もう1度魔法をぶっ放すぞ。それでさっきとの違いを確かめて、その後に湯豆腐が魔法を使ってみろ」

「了解っす! あと気になったんっすけど、この状態で回復アイテムって使えるんすかね?」

「あー、どうなんだ? それも後で試してみるか」

「そうしてみるっすね!」


 あ、これでHPの回復は本当にどうなってるんだろ? 回復出来ればそれだけ効果時間の延長になるから、流石に無理か? てか、無理だと思って試す内容から除外して考えてたよ。うん、そこは思い込みじゃなくて、しっかりと試しておくべきところだな!


「色々とやっていく事が決まっていくー! それぞれどのような結果になるのか、非常に気になるところです!」


 それは同意。さーて、とりあえず結果を見ないと解説も何もないから、続けて見ていこう。


「それじゃ、魔法をいくぜ! 『アイスインパクト』!」

「おぉ!? さっきとは全然違うっすね!?」


「蒼弦選手の放った氷塊が、今度は湯豆腐選手の体に届く前に、瞬く間に侵食されて消えていったー! これが『侵食』の無力化効果なのかー!?」

「未強化のLv6の魔法だと、ここまであっさり無力化か。この効果、やっぱり凶悪だなー」

「……付与魔法で強化したら……どうなるの? ……それと……白の刻印での増幅も」

「それは気になるとこだけど、蒼弦さんと湯豆腐さんがそこら辺を持ってるか次第?」

「……それは……そうかも?」

「スキルLvは人によって違いますし、蒼弦選手も湯豆腐選手も共にバランス型なので、その辺はなんとも言えないところですね! もし持っているようであれば試してもらいたいですが……!」


 聞こえているかどうか、そこが問題だよなー。大勢の声が聞こえている中で、個別に内容を聞き分けるのって難しいし……。うーん、やっぱりこの検証の仕方は改善の余地ありだね。


「ん? 今のはハーレさんか? 試してほしい内容があるか? あー、悪い! 他の中継の人達、少しだけ中断を頼む!」

「おぉーと! 蒼弦さん、聞こえてますかー?」

「おう、他が静かにしてくれたから聞こえてるぜ! そこ、ケイさんもいるんだよな? 確認してほしい内容ってなんだ?」


 おっと、蒼弦さんがハーレさんの試してほしい発言をなんとか聞き取ってくれたみたいだね。俺が横にいるのも分かってるみたいだし、俺が返事をした方がいいな。


「中断させて悪い! 蒼弦さんと湯豆腐さんは、白の刻印の増幅か、付与魔法は持ってるか? それで強化した魔法ならどうなるかってのが気になったんだけど……」

「あー、そういう検証内容か。悪い、俺は氷の操作はLv7にはなってるが、氷魔法はまだLv6でな。湯豆腐はどうだ?」

「俺は土魔法Lv7っすから、付与魔法はいけるっすよ! ケイさん、それは次の1戦で試すので良いっすか? 今の条件だと比較検証がしにくいっす! 白の刻印は、後で登録を変えてみてみるっす!」

「あー、それもそうか。なら、次の1戦の時によろしく!」

「了解っす!」


 蒼弦さんが氷の付与魔法を使えたなら、この場ですぐに比較検証も出来たんだろうけど、『侵食』を使ってる側が変わると流石にやりにくいもんな。まぁまだトーナメント戦で続きがあるんだから、今の内容は仕切り直してやればいい。


「おっし! それじゃ物理攻撃の、白の刻印の剛力の有無での無力化の変化も確かめてみるか」

「それもそうっすね! その前に、回復を確かめさせてもらうっすよ!」

「おう、そうしとけ! あ、他の中継のとこは再開してくれて構わんぞ! 流石に声が多過ぎるから全部は聞き取れないが、気になる事が聞き取れたら今みたいに中断もするからな!」


 今のは俺らが中断させた形にはなったけど、それは他の人でもあり得るって事だね。てか、聞こえてはいても、やっぱり全員の内容は聞き取れない状況か。まぁそりゃそうだよなー。


 それはそうとして……HPの回復がどうなるか、非常に気になる部分! さて、湯豆腐さんが蜜柑を取り出しているけど、どういう結果になるのやら?

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