第1385話 検証のトーナメント戦 その4


 さーて、体内から瘴気が溢れ出して、文字通り『侵食』されていってる状態になってきた。なるほど、こうやって強制的にスキル『侵食』が発動になるとは思わなかったね。


「これは意外や意外! まさかのスキル『侵食』の強制発動だー! この変化、どのように見ますか!? 今まさに、変化を終えてHPの減りが始まりましたが!」

「どう見ると聞かれたら……まぁ、強制的な時間制限の設定じゃね? 元々、スキルの『侵食』自体でどんどんHPが減っていくんだし、ゾンビや骨の状態だけの時間にも制限があるって事だろ」

「……ゾンビやスケルトンの……特徴を活かすか……スキル『侵食』での……効果を活かすか……その違い?」

「もうちょい正確に情報を調べた方がいいけど、速度を活かすなら、スケルトン。威力を活かすなら、ゾンビ。『侵食』での範囲拡張を活かすなら、初めからスキル『侵食』の発動かもな」

「……使い方は……状況次第?」

「望む戦い方に合わせて、使い方を変えるという事ですね! さぁ、瘴気によって形作られたオオカミ2名は、ここからどういう動きを見せるのかー!?」


 まだどういう事が出来るのかを確認している最中だから、明確にどういう時にどう使うべきとは断言はし切れない。でもまぁ、行動に制限がかかる致命的な部位破壊さえ避ければ、ゾンビもスケルトンも弱りにくいっぽいしなー。

 これでやるとすれば、ゾンビやスケルトンの状態で距離を詰めて、そこから『侵食』を展開して自爆特攻みたいな使い方が良さそうではあるね。


「おーっと! 変化を終えて、話し合いを始めそうなので、実況は少しの間、中断とさせていただきます! さぁ、この一戦はどういう決着になるのか!?」


 ベスタといなり寿司さんがお互いに近付いている状態だし、この状況から確認する事も色々あるだろうからね。まぁ残ってるHPも少ないけど、どういう風に検証を続けていくかってのは大事なところ!


「いなり寿司、俺の状態はどう見えている?」

「あー、全身で削げ落ちていた肉の部分が瘴気で補填されてる感じだな。コケ部分は……元々黒いけど、なんか毒々しい光沢みたいなのが出てる気もする。俺の方は?」

「なるほど、見えている範囲と同じか。そちらは四肢と頭部が瘴気で肉体が形成されている様子だな。密度は薄いが、全身も瘴気で骨が隠れてはいるか」

「……前脚はそう見えてるけど、そこまで大規模に変わるのか。てか、どんどんHPが減っていってるんだが!?」

「そこは前情報としてあった範囲だな。ふむ、残りHP的に先に死ぬのは俺か」

「減り方は同じ勢いだし、リーダーの方がHPが減ってるんだからそうなるよな!? あー、このまま侵食されて終わり?」

「いや、『侵食』を使っている相手に『侵食』の効果が有効かどうかを試してみるぞ」

「あ、それは確かにやっといた方がいいよな。となると、リーダーが通常攻撃で俺に攻撃してもらって、俺が『侵食』でスキルのキャンセルを防いでみるってとこか?」

「あぁ、それでいく。ついでだから、攻撃範囲の拡張もしてみるか。『増殖』!」

「おわっ!? ちょ、それどうなってんの!?」


 なんか地面に瘴気で形作られたコケがバッと広がったんだけど……これって、ベスタのコケとの融合種としての『増殖』か! でも、普通のコケの増殖での広がり方よりも早くねぇ!?


「おぉーっと!? ここでベスタ選手の脚にある瘴気で形作られたコケが、地面を侵食しようとばかりに広く、そして早くなっているー! コケの第一人者であるケイさん、この様子をどう見ますか!?」

「どう考えても普通の『増殖』よりも広がるのが早いし、範囲も広すぎるな。周囲一体、見えてる範囲を一気に覆ってるし……コケの行動範囲も瘴気で拡大してるっぽい。てか、発動に合わせてベスタのHPも減ってるし、『侵食』の効果は確実に出てるな」

「……効果がなければ……HPも更に減りはしない。……地面が……瘴気のコケに……覆われた状態……触れると……アウト?」

「多分? あ、でもいなり寿司さんには変化はないし、『侵食』の状態なら、敵からの『侵食』は受けないっぽいな。まぁ地面に降りられなくするのは、相当厄介だろうけど……」

「……厄介な……広げ方。……操作系スキルでも……出来る?」

「あー、生成するものにも『侵食』の影響があるなら、それはあり得るかも?」

「その辺りは、次の一戦で検証という形になるでしょう! 蒼弦選手も湯豆腐選手も、バランス型ではありますが操作系スキルを使う方ですからね!」

「なら、そっちでだなー」


 確か、蒼弦さんは氷属性を使っているんだよな。湯豆腐さんは……あれ? 何属性だ? オオカミ組って何気に色んな属性の人がいるから、どの人がどの属性をメインで持ってるのかを正確に知らないぞ!?

 えーと、湯豆腐さんの姿を思い出せ! 属性持ちなら体色というか、オオカミなら体毛に出てくるからな。見た目さえ思い出せば、そこは……いかん、他のオオカミの人達が一緒にいる時ばっか思い浮かんで、湯豆腐さんの属性には自信がない!?


「さぁ、森の地面に広がった『侵食』の影響を受けたコケの『増殖』を、瘴気で出来た脚でいなり寿司選手が踏みしめていくー! 通常の状態だとこれでどうなるのかー!?」


 って、その辺は後で見る事になるんだから、今は別にいい! あんまり解説役としては役立ってない気もするけど、今は実況の方に集中で! 


「リーダー、スキル未使用時に『侵食』の効果が出てるものに触れるとなんかあったっけ?」

「いや、それは特に何もなかったはずだ」

「だよな。となると、とりあえずこれでやってみるか。『爪撃』!」


 おー、使うスキルはシンプルだけど、目に見えて変化が大きいな。さて、これはどうなるんだろ?


「いなり寿司選手の爪が『侵食』により瘴気で拡張され、それを地面に盛大に振り下ろすー! 地面に広がったコケがあった部分に爪が突き刺さるが、特にこれといった変化は見えないかー!?」

「どうも『侵食』の効果がある同士では、お互いに影響は出ないっぽいな。もし効果が出てるなら、今ので『爪撃』はスキルとしても威力は出てないだろうしさ」

「……攻撃範囲が広がってたし……スキルの範囲拡張は……ちゃんと動いてた。……HPも……減っている」

「との事ですね! さぁ、ベスタ選手もいなり寿司選手も、スキルを発動した事で、残るHPはあと僅か! このまま、『侵食』の効果でHPが無くなって終わるのかー!?」


 うーん、色々とスキルを使って試していきたいとこではあるけど、スキルを発動する度に更にHPが減っていくという状況は中々厳しいものがあるね。『侵食』の効果でのHPの減り方、どういう法則で変化するんだろ?


「いなり寿司、次はタイミングを合わせて『爪撃』をLv6で発動してみてくれ。俺はLv1で発動を試してみる」

「消費行動値での、HPの削れ方の比較検証だな?」

「それもあるが、拡張範囲の変化の比較検証もだな。もし変化があるとすれば、Lv6だと……発動だけで俺は死ぬかもしれん。悪いが、今回は負担が大きい方を任せる」

「それくらいは任されるぜ。とはいえ、残りHP的に2人とも死ぬのもあり得そうだが……」

「そうなった時は、そうなった時だ。猶予は少ないし、すぐにやるぞ」

「おう! あー、空振りでいいか?」

「あぁ、今はお互いに攻撃しても仕方ないからな」

「了解だ」


 ふむふむ、疑問に思った部分はベスタも同じって事か。行動値の消費量に応じて変化があるなら、それは確認しておいた方がいい部分! もし何も変化がなかったとしても、それはそれで使い方が変わってきそうだしね。


「さぁ、これで1戦目の検証は終わりになりそうです! ベスタ選手、いなり寿司選手、共に最後のスキルの発動に備えていくー!」


 トーナメント戦での戦いって感じではなく、もう完全に検証のやり方だけど、まぁそれが今回の目的だからなー。実戦形式で試しながらを少し期待してたけど、流石に1戦目でそれは厳しかったか。

 決勝戦か3位決定戦くらいでなら、実戦形式での運用方法が見れたらいいんだけど……まぁそれは検証の進み方次第だな。


「やるぞ、いなり寿司! 『爪撃』!」

「おう! 『爪撃』!」


「おぉーっと!? ベスタ選手の爪の拡張範囲より、いなり寿司選手の拡張範囲が広いかー!? そして、減っていくHPの量もいなり寿司選手の方が多いようだー!?」

「なるほど。使う行動値が多ければ多いほど、範囲も拡張になるんだな。あー、ベスタのコケの範囲が狭まってる?」

「……『侵食』の影響があるのは……1つのスキルだけ?」

「多分、この感じならそうっぽい。『魔力集中』の効果の出方と一緒なのかも?」

「……攻撃に使う……その部位だけの……強化?」

「そうそう、そんな感じ。出来れば、同時に複数の部位を使うスキルで見たいとこではあるけど……あ、無理っぽいか」

「どうやらそのようですね! 今の『爪撃』の発動で、いなり寿司選手のHPの減少量がベスタ選手の残りHPを下回り、今、底を尽きたー! 決勝戦へと進むのはベスタ選手となりました!」

「まぁ今回のは、勝ち負けは無いようなもんだけどなー」

「……勝敗は……特に……意味はない」

「それは確かにそうですが、実況としては言わない訳にはいきませんからね! ですが総評は省略してよさそうですし……とりあえず、一旦休憩を挟みまして、2戦目の開始までお待ち下さい!」


 ふぅ、ハーレさんがとりあえずの〆をしたし、ベスタといなり寿司さんの様子からトーナメント表の表示に切り替わったから、一息吐こうっと。さて、ちょっとその間に自分なりに今までの流れを整理しとこう。


 いやー、まさかコケの増殖にも『侵食』の効果があるとか、そもそも時間経過で『侵食』が強制発動とか、予想外の部分は色々とあったもんだね。ゾンビになるか、スケルトンになるか、そこの条件がどうなってるかは……まだ不明だな。

 でも、スキル『侵食』を使ってからは、ゾンビやスケルトンの状態の違いはほぼ無意味だった気がする。どっちも足りてない肉体を瘴気で補ってた状況だし、敵の『黒の異形種』とはまた違った感じだもんな。……『侵食』の効果狙いなら、そもそもどっちでも問題はないのかも? どちらかと言うと――


「ケイ、何か考え込んでるかな?」

「ん? あー、ゾンビとスケルトンの違いをちょっと考えててさ」

「ゾンビか、スケルトン、どっちになるかの条件が気になる感じかな?」

「まぁそれもあるんだけど……サヤ、さっきの検証内容を見た上で、相手が『変質進化・侵食』を使ってきたら、どう動く?」

「……え? うーん、『侵食』の効果を考えると使われる前に距離を詰めて攻めたいけど、ゾンビかスケルトンか分からないと攻めにくい……あ、そういう風になってるのかな!?」

「はい! サヤ、それってどういう事ですか!?」


 いつの間にやらサヤが近くに来てたから、そのまま話してたけど、ハーレさんも話に加わってきたね。まぁ実況の合間だし、その間に雑談しておくのもいいだろ。


「えっと、簡単に言えばスタートダッシュが決めにくいかな。まだ確定とは言い切れないけど、威力特化のゾンビか、速度特化のスケルトンか、どっちかで攻め方が変わってくるから……」

「おぉ!? 言われてみればそうなのさー!?」

「あ、そっか。進化した本人だけじゃなく、戦う方からしても迷うところになるんだね?」

「うん、そういう事かな! ケイが気にしてたの、そういう部分だよね?」

「まぁなー。その辺の判断の早さが、色々と影響してきそうだなーって考えてたとこ」


 元々が進化に失敗したような姿だし、進化後の形態が明確に決まってない可能性は十分ある。実戦で使う事を考えれば……性質的に自滅覚悟での特攻になるもんな。

 この辺の要素って、即座にどちらに進化したかを把握して動き始めるか、そしてその動き出しより前に動けるかって判断力の速度勝負になってきそう。


「なんというか……ザックさんが嬉々として使って飛び込んでいきそうな進化だよな、これ」

「あ、確かにそれは言えるかな!」

「確かにやってそうなのさー!」


 ここまでの性能を見る限り、『変質進化・侵食』は短期決戦での運用になるのは間違いない。使い方次第では、1人で状況をひっくり返す事も出来るかも? なにより、死ぬ事への躊躇のなさが重要になってきそうだから――


「おっ、呼んだか、ケイさん!」

「って、すぐ近くにいたのかよ、ザックさん!?」

「わっはっは! そりゃまぁ、検証のトーナメント戦をやってりゃ見にくるぜ!」


 まさかのギャラリーの中に混ざってた!? あー、それならタケさんや翡翠さん達も一緒に……いる訳でもないっぽい? まぁ時間帯の都合で、全員揃ってるとは限らないか。


「それにしても、特攻しがいのある性能だな!」

「ザックさん、突っ込んで行く気満々だね?」

「そりゃもちろんだぜ、ヨッシさん! つっても、まぁその機会がいつあるかは、まだ不明だけどよ?」

「まぁ、そうなるんだよなー」


 あくまで対人戦を想定して運用方法を考えているけど、ぶっちゃけ第2回の競争クエストは終わって間もないしなー。次は共闘イベントだけど……その期間で使うような事ってあるか?

 うーん、根本的に舞台がどこで、敵が何かすら不明だから、判断しようがないな! まぁそもそもまだ入手が気軽じゃないから、そこまで焦る必要もないけどさ。


「いやー、でも実際に早く自分で使ってみたいもんだぜ! まだ手に入れられる気もしねぇがよ!」

「まぁそこはザックさんに頑張ってもらうしか……あ、でもこれはトレード可能か。俺が持ってるやつ、使うか? 模擬戦で試しに使ってみるくらいなら――」

「いやいや、そこはなんとか自力で手に入れるから大丈夫だぜ! てか、次が始まりそうだから、続きを頼む!」

「ほいよっと」


 まぁ自力で入手したいって気持ちは分かるし、今のは野暮な事を言ったかもね。さーて、それじゃトーナメント戦、2戦目の実況と解説をやっていきますか!

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