第1384話 検証のトーナメント戦 その3


 検証のトーナメント戦の1戦目、ベスタといなり寿司さんの戦闘中。まぁ検証がメインだから、ベスタが一方的に無防備に攻撃を受けまくっている状態にはなっている。……ゾンビだからって、頭と右前脚を切り落とされても生きてるのがビックリだけど!

 うーん、色々と今までにはなかった光景が広がってるから意味はあるんだろうけど……トーナメント戦って感じが全然しないな。いやまぁ、検証がメインなんだから当然なんだけども!


「いなり寿司選手は攻撃を終え、銀光が収まっていくー! ベスタ選手は右前脚と頭部が切り離され、身動きが取れない状態だー! ここまで追い詰めれた状態から、立て直しは可能なのかー!?」

「……これって視界は……どうなってるの?」

「あ、そういやどうなんだろうな? ベスタのコケは融合したものだから、そっちからは見えないだろうし……落とされた頭から見てる状態か?」

「その辺りは気になる部分ですね! それでは少し聞いてみましょうか! ベスタさん、その状態で視界はどうなっていますでしょうか?」


 あ、そのまま普通に聞くんだね。でも、実況をしてるのは俺らの場所だけじゃないし、これが聞こえてるかどうかは……反応次第っすなー。


「リーダー、その状態での視点の質問がチラホラきてるみたいだぞ?」

「あぁ、聞こえている。今の俺の視点は、落ちている頭から見たものになるが、身体の方も操作は出来る状態だ。口もこうして動かす事は可能だな」

「……なんか、すげぇ光景なんだが?」

「そういうものだと考えるしかないだろう。あぁ、苦手生物フィルタで見ている人はいるか? どういう風に見えているか、気になっている人もいるみたいだしな」


 ほほう? 俺らもさっき話題にはしてたけど、この動きが少し止まったタイミングで他にも色々と質問している人がいるっぽいね。うーん、その質問内容を聞けるように出来ないもんか?

 あー、これって前に俺らがやったように各中継場所で解説役をそれぞれに用意するんじゃなくて、実際に戦う人達と一緒のPTにして、その音声も同時に流せるようにした方がいいっぽい気がするね。……この辺、次回から修正すべき反省点かも?


「どうやら他の中継場所から、この光景が苦手生物フィルターでどのように見えているかという話が出ているようです! これは気になる内容ですね!」

「……どう見える?」

「さっぱり分からん!」


 デフォルメ化しても、切り落とされた頭とか脚とかどうにかなるもんなのか!? 実際に自分で苦手生物フィルタを反映させて確認して――


「ふむ、切り落とされた本来あるべき部分が半透明化して、切断部位は綿のようにデフォルメ化か。そして、落ちた部位はぬいぐるみにような感じとはな。それはそれで異質ではあるが、まぁ本来の光景よりは随分とマシだな」

「……千切れたぬいぐるみの頭や脚でも、十分不気味だけどな!?」


 そのいなり寿司さんのツッコミには同意だけど……相当マシになっているというベスタの意見にも同意ではある。今の説明以上の緩和を望むなら、そもそもゾンビで部位破壊が可能な状態そのものを無くすしかないもんな。


「どうやら、従来の苦手生物フィルタの強力な置き換えに近いような処置がされているようですね! それでもどうしても苦手という方もいるでしょうが、その辺はどう思われますか!?」

「どうって言われても……どうしようもなくね?」

「……別に……今に限った話じゃないよ? ……赤の群集に……そういう集団はいるし」

「言われてみれば確かにそうですね! こういう光景が苦手な方をピンポイントで狙い撃ちという事も可能かもしれません!」


 あー、赤の群集に害虫集団がいるもんな。あれがありなんだから、これは無理というのは流石に通用はしないかも? 苦手生物フィルタでかなり緩和はされるんだから、それ以上の対応はやっぱり無理ですよねー!

 てか、それを分かっていて意図的にこの変質進化を使ってくるプレイヤーとか出てきそうだな!? まぁそれはそれで、何かしらの弱点はあるだろうから仕留めやすいかも?

 

「リーダー、ここまで一方的に済む状況は早々ないだろうし、再生部分くらいは試しておいた方がいいんじゃないか? このまま倒して終わりってのも微妙だろ」

「ふむ、それもそうだな。ただまぁ頭が離れた状態で視界が非常に悪いんだが……これくらいなら、なんとかいけるか? 『群体同化』『コケ渡り』!」

「ちょ!? そんなのありか!?」


 おぉ、そんな事が出来るのか。なるほど、別にスキル自体が全然使えなくなってる訳じゃないんだな。


「おーっと、ここで新たな動きが出てきたー! 前脚と頭を失ったベスタ選手が、切り落とされたオオカミの前脚に向かってコケを通じて移動を行ったー! そして、近くに行った事で自動的に繋ぎ合わさっていくー!」

「近くまで行けば、勝手に伸びて繋がるんかい! あ、でもHPは回復しないっぽいな?」

「……無制限に……回復はしなさそう?」


 ふむふむ、部位破壊をしてしまえば一気にHPは削れるし、そこから部位の復帰自体は可能だけど、HPの回復まではされないんだな。黒の異形種はそこからでもしぶといけど、流石にこの『変質進化・侵食』では、そこまでの生存力は持ってないっぽい。脚一本と頭が落ちて、残りHPは2割ってとこか。

 それにしても、見えてない状況で繋ぎに行けるのが凄いな!? 流石に切り落とされた右脚の元へは『コケ渡り』で移動したっぽいけど……この形態では部位の切断には要注意だね。


「どうやら異常な耐久性という程ではないようだな。頭を落とされれば、視点がそっちに固定されて元に戻すのは大変にはなるが……」

「……とか言いながら、普通に頭まで繋がってるんだよな。リーダー、ここからどうする?」

「そのまま仕留められる気でいたが、それは最後に回して少し俺の方からも攻撃を試させてもらおうか」

「おう、それで了解だ。さて、今度は俺が耐える番だな」


 ふむふむ、やっぱりベスタが一方的に無防備な状態で仕留められるだけというのも面白くはないしね。検証がメインではあっても、ゾンビ側だけじゃなくスケルトン側の防御面での変化も見ておきたい!


「さぁ、ここから攻守が交代となるようです! 骨だけのスケルトンなオオカミとなっているいなり寿司選手には、一体どのような変化が起きているのかー!? それにゾンビの攻撃にも何か変化があるのかが気になるところですね!」

「……気になる部分! ……どういう変化があると思う?」

「スケルトンなら、骨は外れそうな予感はするな? そういうのは見たことあるしさ。ゾンビの攻撃は……リミッターとか外れてそうだから、威力が上がる分だけ自分にダメージがあるとかありそうな気もする?」


 ゾンビもので結構あるよな、そういう設定。あー、でもスキルの『侵食』でもHPが減るんだし……いや、短期決戦用に一気に威力を上げまくるって方向性もあり得るのかも?


「『魔力集中』! いくぞ、いなり寿司。『爪刃双閃舞』!」

「おう!」

「おわっ! 踏ん張りが効かねぇ!?」

「……ふん、そうきたか」


 ほほう? スケルトンは骨が外れるかと思ったけど、意外とそうでもなかったな。でも、これって……。


「ベスタ選手の猛攻が始まりましたが、初撃が当たるものの、ダメージは殆ど通らず! しかし、いなり寿司選手は踏ん張れず、思いっきり吹き飛ばされていくー! この骨、相当硬いようだー!」

「硬くてダメージが通りにくい代わりに、軽くなって吹っ飛ばされやすくなってるっぽいな。ゾンビの攻撃の変化は、正直よく分からない範囲か。まぁ攻撃した時にHPが微妙に減ってた気がするな?」

「……威力は……上がってそうだけど……比較しにくい? ……攻撃時に……HPが減ってるのは……間違いない」

「ベスタ選手もいなり寿司選手も、共に普段とは違う様子なのでゾンビでの威力の変化は判別が難しいところのようです! ですが、連撃を重ねる度に、ベスタ選手自身のHPがどんどん減っていくー! これで威力が上がっていなければ、ただの嫌がらせ仕様だー!」


 攻撃が当たる度にHPが明確に減ってるのに、威力が上がってないってどんな嫌がらせって話だし、威力自体は多分上がっている。でもまぁ具体的な威力の上がり具合は、通常時との比較をしないと分かりにくい状態なのは間違いないけどなー。


「ちょ、おわっ!?」

「いなり寿司、その状態で攻撃は受け切れるか?」

「いや、これ厳しいって! 普段と感覚が違い過ぎて、まともに踏ん張れねぇ!? 骨が外れないだけマシだけど、HPの減りが少なくても、反撃がしにくいんだが!?」


 爪刃双閃舞にはスキルとして吹き飛ばす効果はないはずだけど、大型になってるいなり寿司さんのオオカミであっても軽々と吹っ飛ばしてるなー。これがゾンビでの威力アップの恩恵なのか、スケルトンのデメリット要素なのか……判別が難しいわ!


「ベスタ選手がいなり寿司選手を何度も吹き飛ばしていくー! そして、吹き飛ばした後の場所へと即座に回り込むのは、流石ベスタ選手と言ったところかー!? そして、最大強化まで銀光が強まり、その一撃が直撃ー! おぉーと! ここで威力に耐え切れなくなったのか、受けた前脚の骨が外れたー!」


「ほう? そうなるのか」

「うげっ!? 骨って外れんの!?」


 ふむふむ、やっぱり骨は外れたね。それでどういう変化が……あぁ、そういう感じか。


「なるほど、骨が外れたら一気にHPが減る仕様っぽいな。一定以上のダメージが出るスキルを叩き込めば、骨が外れるのか」

「……威力が足りないと……HPが減らせない?」

「今のは連撃攻撃だし、1撃ずつの威力は控えめだしなー。攻撃の当て方でも変わってきそうな気もするけど、単発攻撃で骨を外すのを狙う方が良さそうだ」

「……チャージ攻撃で……一気に外す? ……もしくは……高威力の……単発の魔法?」

「狙うなら、その辺な気がするなー。物理攻撃の通常スキルでも、白の刻印の剛力でも使えばいけるかも? まぁこの辺は色々と試してみてになるだろうけど……」

「スケルトンはいかに骨を外していくか、そこが攻略の要点となりそうですね! さぁ、前脚の骨を外されていなり寿司選手が倒れ伏しているが、動く事は出来るのかー!?」


 ゾンビは切断での部位破壊が可能で、スケルトンは骨を外す事が可能か。むしろ、そういう部分を攻めないとダメージが通りにくい仕様になっているっぽい。部位に関わらず、1ヶ所がそうなるとHPが3割削れるくらいだね。

 うーん、昨日戦ったペリカンって普通に魔法が効いてた気もするけど……耐性用の特性の有無が大きかったりする? そもそも、この『変質進化・侵食』は黒の異形種に似てはいるけど、性質として完全に同じものではないのかも?


「……リーダー、片方だけの前脚が外れたらまともに動けないんだが?」

「這ってでも、強引に外れた骨の回収は無理か?」

「……一応やってみるが、これって実戦じゃ無理な動きなんじゃ?」

「今は何が出来るかの確認だから、実戦での想定はいらん。ともかく、戻るものかやってみろ」

「おうよ」


 さて、外れた骨だけの右前脚に向かって、なんとか動いているいなり寿司さんだけど……動きにくそうだなー。


「前脚が一本足りない状態で、いなり寿司選手が外れた骨を繋げる為に動き出していくー! 随分と動きが悪いですが、これはどういう事でしょうか!?」

「どういう事も何も、前脚が片方でも無くなればそりゃバランスが崩れて動きにくいだろ。まぁそれでも、全く進めない訳じゃないだろうけど……」

「……四足歩行だと……足の骨が弱点?」

「そのような悪条件の中、いなり寿司選手は自身の前脚の骨へと到着し、倒れ伏したー! おぉーっと! 近付いた途端に、骨が再び繋がっていくー!」

「あ、やっぱりこっちも繋がりはするんだな? HPは回復しないのもゾンビと同じか」

「……でも……隙だらけ」

「だなー。今回はベスタも言ってたけど、検証の最中だからいいけど……実戦だと部位が切断されたり、骨を外されたら一気に厳しくなるか」

「……狙うなら……そこ!」

「避けるべきもそこだな。まぁ味方が近くにいれば、元に戻してもらうって手もあるけど……それが有効かどうかはケースバイケースか」

「必ずしも、味方の手が空いているとは限りませんからね! さぁ、これでゾンビとスケルトンの基本的な性能は判明かー!?」


 えーと、多分そうなるのでいいのか? ゾンビはダメージを受けた時の衝撃を緩和して、攻撃時の威力は強化し、その反動でダメージあり。部位破壊をされれば大ダメージ。

 スケルトンはダメージを大幅に軽減する代わりに吹っ飛びやすくなり、攻撃時には単独の威力は下がるけど攻撃速度がかなり強化されて、骨が外れると大ダメージ。


 あー、どっちも癖が強いな、おい。しかもこれ、スキル『侵食』を発動してないから、HPが減り続ける状態にはなって――


「ちょ!? え、『侵食』が自動発動するのか!?」

「なるほど、こうくるか。長々とこの状況は維持させない仕様みたいだな」


「おぉーっと!? ここでベスタ選手、いなり寿司選手、共に身体の内部から滲み出るように瘴気が発生だー! 瘴気がベスタ選手の崩れた肉体の一部を埋め、いなり寿司選手の脚と頭の骨の周囲を肉体のように形作ってしていくー!」

「あー、ずっとこの状態を維持出来るのかと思ったら、反応的にそうでもないっぽいな。ベスタといなり寿司さんの同時に変化が出たし、『変質進化・侵食』をしてから一定時間経過でスキル『侵食』が自動発動か」

「……問答無用の……強制発動!」


 スキル『侵食』を使わなければ、進化の軌跡として時間制限がないのかと思ったけど……この様子を見る限り、それはなさそうだな。というか、強制的にスキルの『侵食』が発動するってのが、属性の『侵食』の『それっぽさ』はあるね。まさにこの状態こそ、制御し切れない力に侵食されていってる状況じゃん。

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