第1383話 検証のトーナメント戦 その2


 ベスタといなり寿司さんが共に『変質進化・侵食』を使ったけども、どうも同じオオカミだというのに違った見た目になっている。ベスタがゾンビで、いなり寿司さんがスケルトンか。

 あー、ベスタのオオカミの表面にあるコケは枯れたようにもなってるんだな。腐敗したようなゾンビなオオカミの表面に残る、枯れたコケって異様な光景だね。


「さぁ、異形へと進化を終えたベスタ選手といなり寿司選手ですが……これは全く違う姿に変わっているようだー!? 解説のケイさんとゲストの風音さん、この違いをどのように見ますか!?」

「明確に何か条件があるのか、それともランダムなのか……現時点では何とも言えないな」

「……だからこそ……トーナメント戦の意味がある」

「まだ情報不足で、詳しい理由は分からないという事ですね! それではここで、ベスタ選手といなり寿司選手に変化の内容を聞いてみましょうか! ベスタ選手、いなり寿司選手、よろしいでしょうか!?」


 まぁ検証が目的のトーナメント戦なんだし、ここで実際に進化を行った2人に状況を確認していくのは大事だよね。ルストさんから何もかもを聞けてる訳じゃないんだし、詳細を探っていくのはこれから!


「あちこちの実況から、現状確認の声が届いているな。まぁ元よりそのつもりだから、安心しろ」


 聞こえているのはハーレさんの実況だけではないから、こういう言い方になるんだろうけど……なんかそれはそれで大変そうな気がするなー。

 まぁそこを気にしても仕方ないし、今からのは元々の予定部分みたいだし、大人しく聞いておきますか。分析して解説するにしても、まずは内容を聞いてから!


「いなり寿司、まずは俺の方の変化を説明する。その後で、そちらの変化も報告してくれ」

「あぁ、了解だ」

「さて、この異形の姿だが……俺は見ての通りゾンビ型になっている。得られる属性は『瘴気』はなく『侵食』のみで、特性は……『強靭』が『復元』になっているな。種族として黒の異形種に変化している訳でもない」


 特性『復元』って……あぁ、そういやゾンビって簡単には死んでくれなかったんだっけ!? というか、地味に属性だけでなく、特性まで増えて……いや、置き換わるのか? なるほど、そういう特徴があるのは興味深いね。


「おぉーっと!? まさかの特性の置き換わりときたかー!? これは想定外の内容ですね!」

「ゾンビで『強靭』は似合わないから、そこが置き換わるのかもな。でも、ありそうな気がしてた耐性系の特性は追加されていないっぽい?」

「……黒の異形種ほどでは……ないのかも?」

「そうなのかもしれませんね! ですが、属性『侵食』と特性『復元』が合わさればどうなるのかー!? ここは重要な内容になる気がします!」

「付与されるスキルが自分のHPを犠牲にしていく『侵食』ってスキルだけど、それがどう発揮するかが問題かも?」

「……簡単には死なない特性と……死に向かう属性? ……相性が変?」


 軽く考えてみても、相反する内容なんだよなー。昨日のルストさんの進化形態は、植物だったからこそゾンビでもスケルトンでもない種類のものだったって事になるのかも? ふむ……もしそうだとしたら、スキルとしての『侵食』そのものが、姿によって性質が変わるという可能性もある?


「あちこちから疑問の声は上がっているが、まぁその辺はこの後に実際に戦ってみて確認するから待っておけ。いなり寿司、そっちの変化はどうだ?」

「俺の方は『強靭』が『硬骨』へと変わっているぞ。属性は『侵食』のみだな」

「ふむ、そうなるのか。この状態では『強靭』という特性は残らないと思った方がよさそうだな」


 強靭な身体が、硬い骨に置き換わるって事なんだろうけど……なんかこの辺は種族によって違ってきそうな予感? 全員が必ずしも『強靭』の特性を持ってる訳じゃないし、それ以外のパターンがどうなるかが気になる部分だよなー。

 まぁ、こういう要素があるから『纏属進化』じゃなくて『変質進化』なのかも? 明らかに属性を纏う進化ではないし――


「なにやら、戦闘を始める前から色々と変化が判明しているようですね! そういえば、昨日私達グリーズ・リベルテが戦ったスケルトンな黒の異形種となったペリカンも、元は特性『強靭』を持っていて、進化後には無くなっていたように思います!」

「え? あ、そういやそうだっけ!?」

「……そうなの?」

「その時には気にも留めていませんでしたが、間違いなかったかと!」

「あー、言われてみるまで気付かなかったけど、それは確かにそのはず? ちょっと自信はないけど……」

「……そうなんだ」


 あー、しまったな。昨日のペリカンと戦ってた時に気付いても良さそうな内容なのに、今の今まで本気で気付いてなかった。この『変質進化・侵食』では耐性系の特性までは得ないみたいだけど、進化前から特性が変化するって要素は確認出来る余地はあったか……。


「ハーレ、ケイ。聞いている範囲では昨日の検証は忙しなかったようだし、そこは気にするな。その時に分からなかった事を、より深く掘り下げるのが目的の検証を今やっているんだからな」

「ですよねー!」


 まさかピンポイントで俺らの話に返事がくるとは思わなかったけど……まぁ内容的には、そういう反応にもなるか。


「あ、折角だから聞いておくんだけど……いなり寿司さんのスケルトンって、骨は自分で外せたりする?」

「……は? あー、バラバラになっても組み立てられるって話あったが……どうなんだ?」

「まずはそれをやってみるか?」

「……それもそうだな、リーダー」


 えーと、俺が想定してたのは前に見た頭蓋骨を離しても平気だったサルの光景なんだけど……うーん、まぁいいや。バラバラになっても平気って要素もあるし、ゾンビやスケルトンの倒されにくさの部分を確認していくのも大事だよな。


「リーダー、まだ一時付与の『侵食』は使わないって認識でいいか?」

「あぁ、あれはタイムリミットがあるようだからな。ある程度、この状況での戦闘を試してみてからだ。今は死なない程度に、全力でかかってこい」

「……了解だ! 『魔力集中』『爪刃乱舞』!」


 さて、この姿で戦闘が始まったけど、一体どうなる……って、ベスタが動く気配がない!?


「ゾンビなベスタ選手、スケルトンないなり寿司選手の攻撃を躱す事なく受けていくー! おぉーっと!? これは両者共に、通常とは違う様子だー!」

「ベスタのオオカミは肉片が削れてるけど、HPの減り方が妙に悪いな。それにいなり寿司さんのオオカミは、妙に攻撃速度が速いような?」

「……ゾンビは被ダメを抑える効果で……スケルトンは攻撃速度を上げる効果?」


 パッと見た感じではそうなる。そうなるけど……進化前との比較検証をしてないから、はっきりとは言えないよな。いや、でも明確に違いは出てる部分だし……確実に『魔力集中』ありの攻撃をそのまま受けて、このダメージ量は少な過ぎる。


「いなり寿司、感覚としてはどうだ?」

「明確に、身体が軽くなって移動も攻撃速度も上がってるな。若干、威力は落ちている気がするが、質量分を速度に転化してる気がするぞ。リーダー、そっちはどうだ?」

「見た通りの変化だな。俺の方は、ダメージを負っている感が薄くなっている。攻撃を受けた際の衝撃も、通常時よりも相当鈍い状態だ」


 今思ったんだけど……ベスタがこうやって内容を逐一確認していくなら、解説としての俺って必要ありますかねー!? いやまぁ、楽が出来ていいけどさ!


 それにしても……昨日は一時付与の『侵食』の効果をメインに確認したけど、この姿そのものに色々と追加効果があるとはね。今の時点ではメリット部分として見えるけど、それだけではない気もするなー。


「いなり寿司、次は応用スキルを使って倒し切るつもりで来い」

「……倒していいのか?」

「ゾンビに対して、それが可能かどうか……確認は必要だろう?」

「まぁそれはそうか。それなら、遠慮なくいかせてもらうぜ。『白の刻印:増強』『爪刃双閃舞』!」


 ふむふむ、トーナメント戦にはなってるけどメインは検証だから、勝ち負け自体はどうなってもいいんだろうね。情報ポイントを不要な設定にしてるし、これで八百長という判定が出る事もないはず。てか、八百長にならないようにそう設定してると言うべきか。


「無防備に攻撃を受けるベスタ選手へ、いなり寿司選手の白光と銀光を放つ爪での連撃が決まっていくー! 全身が骨だけとなり、身軽さを得たオオカミの攻撃速度は凄まじいものです! それに対して、ベスタ選手のオオカミが切り刻まれて……おおーっと!? 飛び散った肉片が戻っていこうと蠢いているぞー!?」

「あー、これは特性『復元』の効果か。これ、HPがない種族みたいな系統に変化してね? なんというか、威力よりも削られた肉体分でHPが減ってるような……?」

「……そうかも? ……これって……飛び散った肉片を回収すれば……回復する?」

「その可能性はありそうですが、どのようになるのかが非常に気になりますね!」


 ベスタが無防備に攻撃を受けまくってるから分かりやすい状態にはなってるけど、これが普通の戦闘中なら相当厄介かもなー。HP表記のままではあっても性質的にコケみたいな種族の弱り方に近いし……弱れば弱るほど、まともに動けなくなるんじゃ? って、ちょい待った!?


「おおーっと!? ここで、強まった銀光がベスタ選手のオオカミの首を一刀両断! だが、ベスタ選手はまだ生きているー!?」

「頭が切り落とされるとかあるんだな。流石に頭の部位破壊って出来なかったはずだけど、まさかゾンビだと出来るとは……」

「……まだ生きているのも……すごい」

「ゾンビ特有の生存条件があるのでしょうか!?  これは、一体どうなれば死ぬのかー!?」

「敵で出てきた黒の異形種の倒し方と同じで、バラバラにして焼いて終わりとか? あー、でも誰もが火を使える訳じゃないし、一定以上バラバラにしたら終わりかも?」

「……戻せなくすれば……終わり?」


 思った以上の変化だけど、倒せない状態になるとは考え辛い。耐性系の特性は得られないみたいだし、黒の異形種ほどの生存能力はないと考えた方がいいか?


「おい、リーダー!? このまま、進めていいのか!? 本当に仕留めるつもりでやるぞ!?」

「あぁ、構わん。どうやれば頭が落ちた状態からでも死ぬのかは確認しておきたいしな」

「……そりゃそうだが、落ちた頭から声が出るのも不気味なんだが!? まぁいい、これでバラバラにするからな! 『黒の刻印:脆弱』『連爪刃・閃舞』!」


 あ、ベスタはここで完全にいなり寿司さんに仕留めさせる気か。勝敗よりも、どうやったらこの状態で死ぬかの確認を最優先してるっぽいね。まぁ検証なんだし、そうなりますよねー!


「いなり寿司選手が、ベスタ選手に黒の刻印を刻み、物理攻撃への抵抗を大幅に下げていくー! そして、そのまま全身を削り取っていくー!」

「あー、相当な威力がなければ、流石に頭を切り落とすような芸当は不可能っぽいな。逆に言えば、連撃が当たり続けて、最大強化くらいまでいけば部位破壊も可能かも?」

「……部位破壊は……容易じゃなさそう?」

「どうやらそのようですね! そうしている間にも、いなり寿司選手の猛攻が続き、次々と肉片が飛び散っているー! これは苦手な人はとことん苦手な光景となっている気がしますが、色々と大丈夫なのかー!?」

「まぁその為の苦手生物フィルタじゃね? 新しく『ゾンビ』と『スケルトン』で追加されてるんだし……って、そういやあれは仮称じゃなかった?」

「……今はもう変わってる。……どっちも黒の異形種だけど……α型がゾンビ……β型がスケルトン」

「あ、そういう風に変わってるのか」

「いつの間にやら、苦手生物フィルタでの名称が変わっていたようですね! ですが、見た目的にはゾンビやスケルトンと言った方が分かりやすいので、そのまま継続して呼ばせていただきます!」


 あ、名前が正式に変化しててもそのままゾンビやスケルトンで継続していくんだね。まぁいきなりα型やβ型とか呼び名を変えても、どっちがどっちか混乱しそうだし、それでいい気もする。

 どの程度、苦手生物フィルタで抑えられるのかは分からないけど……頭が落ちてる状態ってどう表示されるんだろうね? っと、あんまり考えてる時間はなさそうか。


「おおーっと! 最大まで銀光が強まった攻撃で、いなり寿司選手がベスタ選手の右前脚も切断していくー! 流石に支える脚を一本失えば、バランスを崩して地に伏せるかー!?」

「ふむふむ、HPの減り方は部位を切り離した時がかなり大きくなってるな。流石に頭ほど減りはしてないけど……物理攻撃なら下手に細々と削るより、部位を切断してバラバラにするのが確実っぽいか。もうかなりHPが減ってるけど、これって細切れにしなくても倒せる?」

「……多分……そのまま……倒せる。……黒の異形種ほど……強力だと……強過ぎる」

「あー、確かに。ベスタが無防備になるほど受けてるからこうなってるだけで、実際はもっと色々出来るだろうしなー」

「今は検証だからこそという事ですね! さぁ、無防備なままどんどんと切り刻まれていくベスタ選手、このまま終わるのかー!?」


 ベスタには力比べをする気は一切ないみたいだし、ゾンビとスケルトンのどっちになるかの法則がまだ見えてこないから、この場でゾンビが倒された場合の検証をする気なんだろうね。そうじゃなきゃ、ここまで無防備にはならないよなー。

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