第1378話 トーナメント戦の開始までに
今の不動種の並木になった事で、色々と変わった部分があるのは分かった。俺らが自分達に必要な分の調達に関しては、これまで通り桜花さんに頼むので問題はなさそうだね。
「桜花さん、ちょっと思ったんだけど……料理をメインに作ってる共同体ってあったりする?」
「ん? あぁ、ヨッシさんならその辺は気になるよな。それに関しちゃ、存在するっぽいってのが正解だな」
「あれ? 明確に存在してる訳じゃないの?」
「集団として、明確な観測が出来てねぇんだよ。代表の1人が材料の仕入れと、完成品の取引をしに来てはいるんだがな」
「あ、そういう感じなんだ」
「そういえば、群集の方で情報が出るのを待ってる人達もいたんだよな?」
ヨッシさんがハンバーグを作って試食データに置き換わるのが判明した時に、オリーブオイルとかローストビーフとか色々な情報をまとめに上げてた集団がいたはず。
活動を止めていない限り、今も動いてそうだけど……てか、インクアイリー絡みでもこの手の集団は話題に出てたような? 多分、表に出てこないから知らないだけで、そういう集団って結構いそうな気がする。
「多分その集団なんだが、1つの共同体なのかが分からなくてな」
「……なるほど」
ふむ、1つの共同体かどうか分からないか。うーん、インクアイリーみたいに他の群集とも混ざって存在してる可能性もありそうだし、同じ群集だけだとしても協力はしつつも複数の共同体が存在してる可能性もあるのか。内部情報が出てこないなら、ハッキリとした事は不明だよなー。
「まぁ大々的に表に出てくる訳じゃないが、完成品の料理が色々と流れてきてるから、興味があればその手のアイテムをメインで取り扱ってる不動種の人を訪ねてみるといいぞ」
「あ、そっか。専門で取り扱う人がいるんだから、そこを見に行けば何が作れるかは分かるよね」
「ちょっと見に行きたいのです! あ、でも実況がー!?」
ハーレさんが頭を抱えて悩んでますなー。まぁ普段のハーレさんの食欲を考えれば、こういう反応は予想出来るよね。
「その手の回復アイテムとしては優秀だろうし、時間が空いている時に見に行くのでいいんじゃないかな?」
「だなー。……そういや、トーナメント戦の開始っていつから?」
「あー、侵食属性の進化の軌跡の調達が終わったらすぐとは聞いてるが……まだしばらくかかるかもな。確保が終わってトーナメント戦の準備が始まったフレンドコールをするから、今のうちに見てきたらどうだ?」
「え、いいの!?」
場合によってはとは思ったけど、桜花さんからの提案が出てきたね。トーナメント戦がいつ始まるか分からない状態なら、近場でブラブラしてるのも悪くはないだろ。
「まだ始まってねぇのに、開始まで足止めしとくのも悪いしな。呼んだらすぐに戻ってきてくれれば、俺としては問題ねぇぜ?」
「やったー! それじゃ、みんなで食べ歩きに行くのです!」
「おいこら、いつから食べ歩きになった!?」
ノリノリなのはいいけど、もう既に食べる気でいる!? 試食データに置き換えになってるアイテムって回復量が多いのに、食べ歩きを目的で行くのはどうなんだ!?
「たまにはそういうのもいいんじゃないかな? それはそれで楽しそうだし!」
「ふっふっふ、そうなのです! あ、サヤ、頭の上に乗ってていいですか!?」
「あ、うん。問題ないかな!」
「サヤまで乗り気だな!? いやまぁいいけどさ」
別にダメな事をしてる訳でもないし、手持ち無沙汰な中途半端な時間帯で色々見ていくのは普通にあり。なんかサヤもハーレさんも観光してるような感覚な気もするけど……こうも景色が変われば、そういう気分にもなるか。
「あ、桜花さん。そういう場所だと、トレード向きのアイテムって何になるの? 何でもいいって訳じゃないよね?」
「メインで料理を扱うから、材料になるアイテムや器になる竹辺りが向いてるな。そのまま回復に使える果物系よりは、加工前の肉や魚の持ち込みが歓迎されるぜ?」
「やっぱりその手のものになるよね? うーん、竹は全然持ってないから、アイテムの詰め合わせで手に入れた肉や魚をトレードに使うしかないかも?」
「あー、そうなるのか」
うーん、取り扱う品が限定的になる分だけ、料理絡みで使うものがトレードの対象になってくるのか。貨幣の概念がないから、どうしても物々交換になるし、その辺は仕方ないのかも。
こうなってくるとピンポイントで欲しい料理がある場合は、ヨッシさんに作ってもらうか、桜花さんに頼んで調達してもらった方が早いのかもなー。今回はその下調べのつもりで行くのがいいのかも?
「ヨッシ、ヨッシ! 氷はダメですか!?」
「え? あ、あれも一応、食材にはなるもんね。桜花さん、氷はどうなの?」
「氷に関しちゃ、人によるとしか言えんぞ。他の枠で水の操作と氷の操作を使ってマサキのいる川の水で氷を作るって人もいるし、トレード頼みって人もいるからな。後者なら、トレード材料にはなるぜ?」
「あ、それはいいね! そっか、自前で作るって手段もあるんだ」
「なるほどなー」
すぐ近くに濁った川は流れているけど、水の操作で取り出せば不純物は取り除ける。その水を操作状態から外して、生成した冷気を操作した氷の操作で凍らせる事も可能なはず!
難易度が高い訳ではないけど、それなりにスキルLvは必要になってくるから誰にでも気軽に出来る内容でもない。だからこそ、トレードの材料にはなるんだね。雪山から持ってくるのも手間だろうし、そういう手段があるのはありがたいかも?
「桜花さん! 誰か、この人がお勧めって不動種の人はいますか!?」
「……あー、お勧めなぁ? 桜の不動種ってほぼ森林深部以外の人ばっかだから、この辺の人はそれほど交流が多い訳じゃないんだが……って、別に桜の木に限定する必要もないか。それなら……おし、松の木の並木道に『マツタケ』って不動種の知り合いがいるから、そこに行ってみろ。話は通しておくからよ」
「おー! マツタケさん!? 高級なキノコな予感がします!」
「あんまり名前は関係ない気もするかな?」
「いや、そうでもねぇぜ、サヤさん。あいつ、松の木の不動種とキノコの共生進化だからな」
「あ、名前の通りになってるかな!?」
まさかの松と茸の両方の意味を持ってる人だった!? 絶対に狙って付けてるな、その名前! でも、覚えやすい人な気がする……というか、その名前は覚えがあるような? あー、森林深部にいた不動種の人なら、見かけた事があってもおかしくはないか。
「てか、あんまりここでのんびり話してると、見ていく時間が無くなるぜ?」
「はっ、それはそうなのです! ケイさん、水のカーペットで上から行くのさー!」
「へいへいっと。それじゃ……えーと、桜花さん、トーナメント戦に戻ってくる時のフレンドコールは……?」
「ケイさんにするのでいいか?」
「それで問題なし!」
という事で、手早く水のカーペットを展開していきますか!
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 127/127 → 125/125(上限値使用:2)
すぐに水のカーペットを広げて……そういや、これは水の操作Lv10に登録し直しておきたいとこだな。まぁ今すぐにやる必要はないけど、どこかの機会でやっとこ。デメリット覚悟で咄嗟の防御に使ったりもするんだし、そういう時の為にも最大量で生成出来るようにしといた方がいいはず!
って、生成が終わったらすぐにハーレさんが飛び乗ってるし……。さっきまでサヤのクマの頭の上にいたのはどうした!? まぁこっちでの移動になったら意味はないけどさー。
「あ、そういや風音さんは一緒に行くか?」
「……ううん……ここでいる。……みんなは……楽しんできて?」
「はーい! ケイさん、出発なのさー!」
「ほいよっと! それじゃサクッと行ってくるわ!」
「……いってらっしゃい!」
「おう、行ってこい!」
まぁ風音さんなら、桜花さんの方に残りますよねー! 一応聞いてみたけど、今の返答は予想通り。
さて、手早く『マツタケ』さんとやらに会いに行ってきますか! 森林深部の人で、桜花さんの知り合いでもあるのなら、変な事になる心配はいらないだろ。
◇ ◇ ◇
桜の不動種の並木から空へと上がり、上か様子を見ていく。えーと、松の木の並木はどっちだ? 昨日とはまるで様子が違うから、空から見てみて正解だな!
「ケイさん、松の木は東の方なのです!」
「あ、そっちか!」
ふむふむ、昨日見た時は他の種類の木の並木が全然出来てなかったっぽいけど、今はしっかりと完成している様子。桜の並木が中央にあって、マサキを中心に扇形のそれぞれの種類の並木が広がってる形か。
「東から順に、蜜柑の木、松の木、樫の木、桜の木、杉の木、栗の木かな?」
「それ以外の種類の木が、西に並んでる感じになってるね」
「だなー。でも、微妙に種類が違ってたりもするから、蜜柑だけだったり柑橘だったりで分かれてるんだろうな」
系統が同じなだけで、全く同じ種類で進化している訳でもないっぽい。まぁ同じような人も多いから、同じ進化先の人も結構いるんだろうけどね。その辺は、アルとルストさんの違いみたいなもんだろ。
同じ系統で偏ってない西の端の並木は、バオバブの木やバナナの木やヤシの木とか……種類が滅茶苦茶だな!? あれはあれで、カオスな並木になってて面白そうではあるけどさ。
「ともかく、松の木の人だから東の方だな! サヤ、ハーレさん、『マツタケ』さんを探してくれ!」
「任せてかな!」
「了解です!」
「どんな人なんだろうね、マツタケさん?」
「桜花さんが紹介してくれたくらいだし、変な人ではないはず!」
「どんな料理があるのか、楽しみなのさー!」
「あはは、確かにね!」
あんまりのんびりし過ぎて、見る時間が無くなっても困るから急いでいこう! てか、不動種の人がこれだけ集まると凄いもんだな! 確かにこれは役割分担をしなけりゃ、どこに行けばいいのかさっぱり分からなくなりそうだね。
◇ ◇ ◇
樫の木の並木を超え、松の木の並木の上空へと移動は完了。料理系統を扱う中央寄りに進んではきたから、多分この辺にマツタケさんが植わってるはず。
あー、桜の並木も凄かったけど、松の並木っていうのも凄いな。桜の花の煌びやかさみたいなのはないけど、なんというか気分が引き締まりそうな迫力がある!
「はっ! マツタケさんを見つけ……あー!?」
「ハーレ、どうしたの!?」
「いきなり大声を上げて、どした?」
「あっ、理由が分かったかな! ケイ、あそこ!」
「……あそこ?」
サヤが指し示してる方向を見てみるけど、そんなに驚くような内容が……って、そういう事か!? あー、まぁそりゃいるよな、同じ灰の群集なんだし……。前にアルと検証の模擬戦をしてた時にも声をかけてきてたんだから、馴染みの不動種の人がいたっておかしな事でもないけど……このタイミングでそうくる?
「なんか上から声が……って、ケイさんか! おーい、ケイさん! プロメテウス、ケイさんがいるぞ!」
「見たら分かるからそう騒ぐな、ケイン!」
「どうも桜花さんが俺を紹介したそうなんだが……迷惑をかけないでくれよ、ケイン?」
「ちょ、マツタケ!? 迷惑ってどういう意味だよ!」
「お前は思いっきり八つ当たりで迷惑かけてただろ! プロメテウス、ちょっとケインを連れて離れててくれないか? 例の中継の準備が始まったら呼ぶから」
「あー、その方がよさそうだな。おら、ケイン、行くぞ!」
「ちょ、待っ!? 少しくらい話をさせてくれー!」
あ、赤いキツネのプロメテウスさんが、ケインのザリガニのハサミに噛みついて引き摺っていった。……なんかこの光景は、少し悪い事をしたような気分になってくるね。
「えっと……なんだか気を遣われちゃった?」
「どうもそうみたいかな? まぁ気持ちは分かるけど……」
「ですよねー。とりあえず降りるか」
「そうするのです!」
ケインは俺に対して一方的な難癖をつけてきた事もあるし、その後に態度が変わったとはいえ……その態度もいい気分なものではなかったもんな。プロメテウスさんはその一部始終を見てたし、こういう対応になっても不思議ではないよね。
「おーい! グリーズ・リベルテの人達、降りてきてくれ! 桜花さんから話は聞いてるからな!」
「ほいよっと!」
マツタケさんが俺達に呼びかけてくれてるし、既に桜花さんから話は通っている様子。まさかここにケインがいるとは思わなかったけど……まぁマツタケさんが俺らに何かした訳じゃないし、逆に気を遣わせてしまってるのは申し訳ないな。
もう怒ってないと伝えて、変に気を遣わないでいいと言っておきますか。もしケインがまた余計な事をしてくるようであれば、その時に対処を考えればいいだけだしね。
「はっ!? マツタケさんとプロメテウスさんとケインは同じ共同体なのです!?」
「あ、本当かな! 共同体『タイタン』ってなってるね」
「同じ共同体だったんだ?」
「あー、だから一緒にいたんだな」
『タイタン』って何だっけ? なんか聞いた覚えはあるだけど、何の言葉だったか忘れた! こういう時にアルがいれば由来の解説をしてくれるんだけど、今いないし……まぁいいか。
とりあえずマツタケさんの目の前まで降りて……おぉ、松の木の根元にマツタケが植わってる! 地味に初めて見たけど、これって普通のキノコじゃないよな? 特殊な進化条件とかあったりするのか?
「マツタケさん、こんにちは。えーと、初めましてか?」
「直接話すのは初めてだな、ケイさん。悪いな、俺らのとこの暴走メンバーが前に迷惑をかけて……」
「それはもう済んだ事だから怒ってはいないけど……あの引き離しっぷりは、なんかマズい状態だったりする?」
「あー、それほど時間がないって話だったから、変なやり取りは最小限にしようと思っただけだ。そっちのヨッシさんが、色々と料理を見たいって話だろ?」
「あ、うん。それはそうなんだけど……ハーレ、マツタケをじっと見てるのは止めない?」
「はっ!? つい!?」
ハーレさんが降りてからなんか静かだと思ったら、マツタケを凝視してたんかい! いや、確かに高級食材だけど、プレイヤーは食べられないだろ! この状況で、俺らが失礼な行動をしてどうする!?
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