第1379話 色んな料理
『進化の軌跡・侵食』の効果を細かく確認する為のトーナメント戦の開始まで少し時間があったので、桜花さんの紹介で松の並木にいる『マツタケ』さんに会いに来てみたはいいものの……キノコ側が本当にマツタケの姿をしてるとは思わなかった。
てか、ケインとプロメテウスさんと同じ共同体だとも思わなかったなー。まぁ別に共同体に所属してる人は多いんだし、同じ森林深部ならそういう事もあるか。
それ以上に、ハーレさんがまた食い気を発揮してるのは失礼だろ! プレイヤーだろうが、新しく見かけた食材に由来するものだと過剰反応し過ぎだ! そういう場合は、こうだ! ハサミを振り上げて、リスの頭に振り下ろす!
「あぅ!? 痛っ……くはないけど、ケイさん、何するのさー!?」
「何するも何も、他のプレイヤーを食べ物として見るなっての! 何度目だよ、これ!」
「……今回のは仕方ないね」
「流石にハーレが悪いかな?」
「あぅ……怒られた……」
まったく、ヨッシさんが止めた後もチラチラと視線を向けていたら、これくらいしないと止まらないだろ。話す相手を見るにしても、松の木から声が出てるんだからそっちに向いた方がいい。
「なんかすまん。うちのハーレさんが……」
「この『マツタケ』に反応する人も多いから、俺としては気にしないぜ? というか、気になるならウチのケインが迷惑をかけた詫びも兼ねて、何個か持ってってもいいぞ」
「……はい? え、もしかしてプレイヤー産のマツタケって、アイテムとしてあるのか!?」
「あるんですか!? なら、採集しても大丈夫ですか!?」
「おう、好きに採っていってくれ! 『略:胞子成長』!」
「やったー!」
おー、周囲に胞子が広がったかと思えば、あちこちからマツタケが生えてきた。そうか、プレイヤー産の果物があるんだから、キノコだって食べられるのは存在してるよな。
生えまくってるマツタケをハーレさんが次々と採っていってるけど……そういや、食べ物を色々と台無しにするけど、こうやって採集する時には駄目にしないような? うーん、その辺はよく分からん!
「てか、ここに来て知ったが……意外とみんな、マツタケの事は知らないのな? 結構前に報告は上げてたはずなんだが……」
「……俺、初めて見たぞ?」
「まぁ俺が植わってたの、森林深部の北西の外れだしなー。あんまり目立ってもなかったか」
「えっと、北西って事は、ミズキの森林と赤の群集の森林への切り替えの近いとこかな?」
「おう、その辺だな! 人通りは少ない場所だ!」
「……確かに、その辺は人は少ないかもね。どっちに行くとしても、端の方には寄らないし……」
「だよなー」
どこかで見た事があったような気もするけど、植わってたのがその辺の位置なら微妙かも? あ、でも松の木で会ってたとも限らないのか。うーん、色んな人に色んなとこで遭遇してるし、その辺は気にしても仕方ないかもね。
「てか、ハーレさん! 許可が出てるから採るのはいいけど、程々にしとけよ」
「ふっふっふ! ケイさん、採集数には上限があるから気にする必要はないのです!」
「その上限まで採り尽くすなって意味なんだが!? 流石に全部は採らない方がいいよな、マツタケさん!?」
「いや、お詫びも兼ねてるし、別に今回限りなら構わんぜ? 折角だし、マツタケを使って何か作ってみてくれや!」
「という事なのです! これ、そのままじゃ何の効果もないのさー!」
「あ、そうなのか」
マツタケを生で食べるのは聞いた事ないけど、オフライン版じゃキノコは生で食ってたもんなー。ふむ、効果が全く存在してないアイテムときたか。
「プレイヤー産のキノコって全然出回ってないって聞いてたけど、その辺って関係あったりするの?」
「ヨッシさん、その情報は少し古いぜ? あぁ、だから桜花さんが俺に紹介してきてたのか!」
「えっと、何か要素があったりするの?」
「まぁな! キノコは食用の使い道がいまいち判明してなかったんだが、一定以上の水準に調理した段階で、料理の効果を底上げする効果があるそうだぜ。要は調理用のバフアイテムだな!」
「え、そんな効果があったんだ?」
ほほう? どうやら全然知らないところで、料理関係は色々と進んでいたらしいね。テスト明けから成熟体への進化や競争クエストで、その手の事に本格的に時間を割く余裕もなかったしなー。
そこまで長時間ではないけど、ヨッシさんが気になる部分はしっかり聞いておいてもらおう!
「……要はメインの食材になるんじゃなくて、他を引き立てる役目なの?」
「おう、そんな感じだ! 干しといたキノコなら、良い出汁になるらしいぜ?」
「そっか、出汁としても使うんだ! 色々と出来るようになってるみたいだし、スープとかも作れそう? 取り引きで置いている調理済みのものってあるんだよね?」
「それをメインに扱ってるからな! 桜花さんからヨッシさんに色々見せてやってくれとは言われてるから、好きに見ていってくれ」
「うん、そうさせてもらうね」
「私も見たいのさー!」
「おっし、そういう事なら1品ずつ出して行く方が良さそうだな! まずはこれからだ!」
「おぉ!? 美味しそうに焼かれてマツタケなのさー!?」
「あ、普通にこれは焼けるんだね?」
「マツタケはメインを張れる食材だからな!」
マツタケさんのインベントリの中から取り出されたのは、綺麗な焼け目がある大きな葉っぱの上に載せられたマツタケである。あー、良い香りがしてますなー。普通にリアルで買えば高級食材だもんな、これ。
「これの効果はHP50%分の継続回復になるから、被ダメが継続してある時には使っとくといいぜ!」
「あ、それは便利そうかな!」
「へぇ、そりゃいいな!」
てか、存在してたのか、継続回復のアイテム! これまでの回復アイテムは一気に回復するタイプだったけど、徐々に回数するタイプかー。……PTで動くことが多いし、よく考えたらあんまり使う事はない気がする? いや、状況次第か。
「これ、マツタケさんが材料を提供してる感じ?」
「おう! 加工はプロメテウスがやってる、俺のとこの目玉商品だな! 上手く焼けばいいだけだから、割とシンプルだぜ?」
「おぉ、そうなんだ! ヨッシ、後で焼いてみるのです!」
「あはは、その火加減が難しそうだけどね。火種は……この辺のあちこちで火は使ってたから、言えば貰える?」
「調理中は集中してる人も多いから、その辺だけは気を付ければ問題ないぞ」
「あはは、まぁその気持ちは分かるかも?」
そういや上から見渡した時に、あちこちで火を使ってる様子は見えたもんな。ああいうのは大体、料理をしている最中の人だったのかも? まぁここで駄目でも、ミズキの森林に行けばカインさんが起こしてる火もあるだろうし、どこかしらで火種は調達出来るだろ。
「ふと思ったんだけど……ヨッシさん、本格的に火の操作を鍛えた方がよくね?」
「んー、確かにそれはそうかも? 焼くのはいつも誰かに任せてたけど……色々やるなら自分で調整出来た方がいいよね。でも、ハチだと氷属性が邪魔してくるし……」
「そういう時こそ、ウニを使うのさー! 支配進化になってるヨッシなら、問題ないのです!」
「あ、それもそうだね。その方向で考えてみるよ」
「それがいいかもなー。あ、でも進化の方向性が変わらないように要注意だぞ!」
「あはは、それも確かに。下手に魔法型に変わったら、支配進化にしてる意味がなくなるもんね」
「折角のステータスが、無駄になりかねないしな」
ヨッシさんのハチは状態異常に特化してるけど物理と魔法で言えば魔法寄り。ウニが完全に物理だから、ここが魔法寄りにならないように気を付けないと駄目な部分! 支配進化で得意部分を重ねるのは無駄が大きくなるから、そこは要注意!
「色々と考えてるとこ悪いが、時間もそれほど無いだろうし、次々と出していくぜ?」
「あ、それはそうだね。マツタケさん、お願い!」
「ワクワク!」
「他にはどんなのがあるのかな?」
「色々ありそうだよなー」
思っていた以上に料理関係では色々と進展があるみたいだし、品揃えがどうなってるのかは気になる! というか、各種類の並木の一区画を調理済みのアイテムの取り引き場所に割り当てるくらいだし、かなりの規模になってそうだよね。
◇ ◇ ◇
それから、色々と……本当に色々と料理を見せてもらった。今まであったバーベキューで出てきたシンプルに焼いただけのものや、乾燥させただけのものも結構あったけど、それ以上に色々な料理があったもんだよ。
「まさか塩唐揚げがあるとは思わなかったなー」
味付けがシンプルなものであれば、結構な種類の揚げ物があった。フライドポテトもあったし、素揚げも色々と。色んな種類の天ぷらがあったのも驚きだけど……何気にパン粉が必要なフライ系は無かったな?
「ふっふっふ、揚げ物系が色々あったのさー!」
「揚げ物は基本的に、HPの回復量が多めだったかな?」
「元の素材にもよるみたいだけどね。フライ系が無いのは……パン粉が無いから?」
「パン自体がまだみたいでなー」
あ、やっぱり思った通り、パンがないからパン粉も存在してないんだな。目玉焼きやゆで卵もあったから、卵自体は普通に手に入るようにはなってるみたいだしね。
「んー、確かにパンを焼くのは難しいかも? 調理というより、発酵をどうするかが問題だよね?」
「まさしく、そこが行き詰まってる原因とは聞いてるぜ!」
「あ、やっぱりそうなんだ? ドライイーストや天然酵母は作れてない?」
「あー、俺は取り引きで扱ってるだけで、具体的な作り方まではさっぱりでな。もっと詳しい話となれば、その手の料理を持ち込んでくる人に聞いてくれや!」
「あはは、それは確かにそうだよね。そういえば、揚げ物に使ってるのってひまわり油? 絞れそうなものなら、オリーブオイルって可能性もありそうだけど……牛脂とかラードは厳しい?」
「メインはひまわり油って話だぜ? オリーブオイルは、オリーブ自体がまだ希少なんだとよ。動物性の油は、そもそも入手経路が分からんとさ」
「あ、そうなんだ」
へぇ、オリーブオイルはまだ希少なんだね。まぁ原材料の量産が出来るようにならないと、すぐには増えはしないよなー。動物性の油は、そもそも入手方法自体が不明か。
てか、オフライン版ではひまわりを敵で見た事はあるけど……オンライン版ではろくに見た覚えがないな? ただ単に俺らが遭遇してないだけか? プレイヤー産のひまわりの種とかもあったりするのかね?
「んー、揚げ物用の油の調達はマツタケさんに頼めば可能?」
「おう、その辺は俺の取り扱いになるから、問題ねぇぜ! ただまぁ、まだひまわり油は量産体制に移行しただけで、完全に量産にはなってる訳じゃないから……しばらくは品薄が続くと思ってくれ」
「……そっか。そういう言い方って事は、今は在庫切れ?」
「すまんが、そうなるな。取り置きの予約は出来るが……しとくか?」
「あ、出来るならお願いしたいかも? えっと、トレードはどれくらいのものになるの?」
「そうだな……。器が希少ってのもあるから、そこが持ち込みか、器ごとかによって変わってくるぞ」
「器って、アイテムの詰め合わせが入ってた壺とかですか!? それならあるから、器の持ち込みは可能なのさー!」
「おう、それだ、それ! 揚げ物の調理にも使うらしいが、問題ないか?」
「うん、いくつか持ってるから大丈夫だね」
あー、なるほど。あの土器っぽい皿だったり壺だったり器が、ここで役に立ってくるのか! そりゃ油は液体なんだし、揚げ物をしようと思えばそれ相応の器が必要になりますよねー!
そういや、その手の壺に入ったキノコ鍋とかもあったっけ。本当、色々と作ってるもんだな!? あの土器みたいな器自体も作れるようになってたりしないもん? あー、考えてみたらやってる人はいそうな気がする!
「なら、壺1つ分のひまわり油で……一辺1メートルの立方体の氷の塊でどうだ? 氷属性持ちなら、調達は出来るよな? 有名な水の操作の使い手もいる訳だしよ?」
「あ、うん。それなら調達は出来ると思うけど……ケイさん、いい?」
「構わんぞー。あ、でも今すぐにとはいかないかも……」
「わっはっは! どっちにしろ、今はひまわり油の在庫がねぇから、実際にトレードする時で構わん!」
「あ、そりゃそうか」
今のはあくまで、取り置きをしてもらっておく場合の話だったもんな。なんだかんだでかき氷も取り扱ってたから、その材料になる氷も重要になってくるんだろうね。
「なら、油は氷塊とトレードで決定かな?」
「そだね。マツタケさん、その条件で取り置きをお願いします」
「おう、了解だ! それじゃ連絡用にフレンド登録を頼むぜ」
「あ、それはそうだね」
「ふっふっふ! これで色々と料理の幅が広がるのさー!」
さーて、これで揚げ物用の油の調達は出来そうだし、色々な料理を見るって目的も達成……おっと、良いタイミングで桜花さんからフレンドコールだね。内容は分かってるし、すぐに出てしまおうっと。
「ケイさん、そっちはどうだ?」
「丁度、ひと段落したところだなー。フレンドコールがきたって事は、すぐに戻ればいい? もう少しでトーナメント戦が始まるんだろ?」
「そうなるな! 今、進化の軌跡の調達を終えて戻ってきたところだから、開始までに戻ってきてくれ!」
「ほいよっと!」
という事で、桜花さんとのフレンドコールは終了。ふぅ、なんとか少しの時間だけど目的は達成出来たね。まぁ料理がこれで全部ではないみたいだし、ラインナップもその時々で違うらしいから、機会があればまた見にくるのもありかもね。
「ケイ、戻るのかな? ヨッシ、もう大丈夫?」
「フレンド登録は終わったし、大丈夫だよ」
「そうなるなー。マツタケさん、色々見せてくれてありがとな。あと、次は無理にケインを引き離さなくてもいいぞ。別にもう怒ってないし、変な事さえしなけりゃそれでいいしさ」
「……それなら、次からはそうさせてもらうわ。地味に共同体のチャットが鬱陶しい事になってるしな」
微妙にプロメテウスさんと揉めてるようなケインの声が小さく聞こえてくるとは思ってたけど、同じ共同体ならそういうパターンもあるのか。まぁ俺も変に敵視したい訳でもないから、次からは普通に接しよう。それで変な事があればその時に考えるとして……。
「それじゃ桜花さんのとこまで戻るぞー!」
「「「おー!」」」
その辺に浮かせていた水のカーペットに乗り直して、移動開始! さーて、戻ったら検証用のトーナメント戦の実況と解説をやっていきますか!
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