第1377話 今の状況を聞いて
さて、色々と雑談をしながら桜花さんの桜の木までやってきた。他の人達が集まっているけど、どう話しかけたもんだろ? あんまり割り込みをしたくはないし、桜花さんの手が空くのを――
「桜花さん! 風音さん! こんにちはー!」
「おっ、ハーレさんか。ケイさん達も一緒ってのは、良いとこに来たな!」
「……みんな、こんにちは」
思いっきりハーレさんが駆けていって呼びかけたけど……まぁ話してる人が立ち去った後だから問題ないか。
「良いタイミングでグリーズ・リベルテが来たぞ!」
「今日は見かけないと思ったら、少し遅かったのか」
「ま、それぞれに事情もあるしな! そういう事もあるだろ!」
「内容的に、一番最適な人達だしねー!」
むしろ、なんか集まってる人達に歓迎されてない? あー、この反応はひょっとして……実況依頼か? 俺らが最適な人達ってのがよく分からない状態だけど、ともかくそこも含めて桜花さんから情報収集だな! 割り込みで邪魔になってる様子ではないし、遠慮なくいこう!
「おっす、桜花さん、風音さん。オオカミ組がトーナメント戦を開催してるって話を聞いたんだけど、その辺の詳細を聞けたりしない? ログインしたばっかで、状況がいまいち掴めてなくてさ」
「反応が妙に鈍いと思ったら、状況を知っててきた訳じゃないんだな。まぁそのくらいは説明するが……ケイさん達に実況と解説を頼めねぇか? 時間があったらでいいんだが……」
「えっと、みんな、いいですか!?」
「あー、とりあえずどういうトーナメント戦か、先に聞いてもいい? 規模によっては、流石に厳しいし……」
どれだけの時間で実況をする事になるかが分からないから、その辺を聞いてからじゃないと決めかねるよなー。まぁ今日の夕方は大々的に何かが出来そうな状況でもないけどさ……。
「そりゃそうだな! まだ開始までには時間があるから、先にその説明をしていくか。まぁ大前提がちょっと間違ってるっぽいしな」
「……はい? え、どういう事だ?」
「ログインして間もないなら、多分、その辺で立ち聞きして半端な情報なんだとは思うが……オオカミ組が絡んでるトーナメント戦は一般で開催してるんじゃなくて、検証用だぜ? 『刻浄石』の入手狙いのトーナメント戦があちこちで開催されてるから、情報が混じってるんじゃねぇか?」
「マジか!?」
おーい、ハーレさん!? 立ち聞きしてきた内容が全然違うっぽいんだけど……って、目線を向けたらそっぽを向いて素知らぬ様子にしてる!?
どうもハーレさんが立ち聞きした内容は結構間違っているっぽいし、桜花さんへ聞きにきたのは正解だったかもしれない。でも、検証が目的ならまとめや情報共有板で話題に出てる可能性もあるのか。
「おし、具体的な検証内容を説明しとくか! トーナメント戦は予定してるが、どの戦闘でもやる内容自体はどれも同じになってるぜ」
「ほほう? 同じ内容で……?」
いきなり不思議な内容になってきたけど、それって普通の模擬戦を何回か繰り返すのじゃ駄目なのか? うーん、まぁその辺も理由もあって事だろうし……。
「……その前に……そもそも……オオカミ組の……主催じゃない」
「え、そこから違うのかな!?」
「……うん」
「オオカミ組がトーナメント戦に参加する形で、主催はモンスターズ・サバイバルの方だぞ」
「あ、そういう感じか! それで、具体的に何をどう検証するんだ? なんか随分と変則的な形になってるっぽいけど……」
「あれだ、あれ! ケイさん達が昨日の夜に情報を上げた『変質進化・侵食』の効果確認が目的だ。効果的に1戦辺りが短くなる可能性があるから、トーナメント戦で何回かに分けてやる感じだぞ」
「あー、なるほど!」
確かにあの進化は自分のHPが減っていく状態だし、どういう効果があるのかを試すのにも制限があるもんな。だから、1回の模擬戦では検証し切れないと判断してのトーナメント戦か! こういう手段ならアイテムを使っても消滅はしないし、検証するにはいい環境なのかもね。
「はい! もしかして、オオカミ組の人達が『黒の異形種』を誕生させて、倒してますか!?」
「今、その真っ最中って話だな。それが終わり次第、検証のトーナメント戦をやるって事になってるぜ。それとは別に、あちこちで情報ポイントをまとめる為のトーナメント戦が開催中だから……多分、情報が混ざったんだろうな」
「具体的に誰かに通して話を聞いた訳じゃないから、その可能性はある気がします!」
「エンに登ってる状態からじゃ、流石に無理があったんじゃないかな?」
「あはは、確かにそうかもね?」
「まぁハーレさんも詳しくは分からないって言ってたしなー」
「えっへん! そうなのです!」
偉そうにする事ではない気がするけど、まぁ元々が不確かな情報だったのは間違いない。オオカミ組が動いているという事や、トーナメント戦をしている事は、部分的に見れば決して間違いだらけの情報って訳でもないもんな。
「って事は、その実況依頼って要は検証の内容の解説を俺らにしてくれって話?」
「ま、そうなるな! 他のとこでも色んな人がやるだろうけど、ケイさん達が空いてるならやってもらいたいって感じだぜ」
「なるほどなー。そういう話なら納得」
だからこそ、俺らが一番最適な人達ね。アルとレナさんが昨日の夜に報告をしてくれただろうけど、時間が時間だっただけで俺らもその当事者ではあるもんな。属性『侵食』を直接見ているからこそ、担える役割になる!
「みんな、どうする? 俺はやってもいいと思うけど……」
ある意味では昨日の検証内容の続きにもなるし、確認しておいて損はない内容のはず。今まさにオオカミ組が『刻瘴石』の調達中なら、少し待てばトーナメント戦も始まるだろうし、中途半端な時間になった今日なら良い機会かも?
「はい! 私はやりたいです!」
「特に何かする予定は決まってなかったし、いいんじゃない?」
「ハーレが実況で、解説がケイかな?」
「はっ!? ゲスト枠がいません!? ヨッシか風音さん、どうですか!?」
「……いいよ?」
「あ、風音さんが即答だったね。それじゃ風音さん、よろしくね」
「なら、それで決定なのさー!」
あっさりと決まっていったな、おい!? まぁ俺に解説役が回ってくるのは予想の範囲内だし、ゲスト枠が必須なのか自体の疑問は置いておくとして……風音さんがやってくれるのなら問題ないだろう。
サヤには言ってないのは、まぁそういう目立ち方は苦手にしてるからだろうね。ハーレさんなりに、無理を言うのはやめるようになった……ん? あー、でもサヤが微妙に寂しそうなのは……うん、難儀なとこだな。色々と難しいとこだけど……まぁ今は仕方ない。
「桜花さん、その件は引き受けるぞ」
「おう、ありがとよ! あとはオオカミ組の準備が済むまで待ってくれればいいんだが……」
「そういや、それってオオカミ組だけでやってんの? それとも他の群集と共同で?」
「情報ポイントで交換した『刻瘴石』を使って、灰の群集だけでやっている状態だな。ちなみにオオカミ組がメインの戦力ではあるけど、指揮を取ってるのはベスタさんだぞ」
「マジか!?」
まさかのオオカミ組だけではなく、ベスタの指揮で動いている状況か。敵が敵だからオオカミ組でも失敗する事もあり得るかと思ったけど、ベスタがいるなら要らない心配だなー。
「その検証、ベスタさんの発案だったりする?」
「いや、大元は掲示板で『刻浄石』の話題ばっかり出てたのを気にしてた事からだな。そこから流れで実際に使って確かめようって話になって、それに名乗りを上げたのがオオカミ組とモンスターズ・サバイバルって流れになるな。ベスタさんはその話を取りまとめていた感じになる」
「あ、具体的に誰かが言い出した訳じゃないんだね?」
「まぁな。でも、割といつもの流れだぜ?」
「あはは、確かにそれはそうかも?」
「ですよねー!」
話している流れで試したい事が出てきて、実際にそれをやろうって人が出てくるのはいつもの事! 今回はその場に俺らがいなかっただけで、灰の群集でのいつもの検証風景ですなー。
「さてと、その実況や解説をやるのはいいんだけど……しばらくは調達待ち?」
「そういう事になるな! それまで、何か他に用事があれば聞いとくぞ?」
「あ、それなら気になってる事があるんだけど……桜花さん、ひまわり油とかオリーブオイルの増産ってどうなってるか分かる?」
「おー、あれか! ひまわりを種から育てたのが育ってきて原材料の確保が出来るようになってきたのと、昨日の補填で配られたスキル強化の種で岩の操作のLvを上げやすくなったって事で、増産体制が整い始めたとこだな。食材アイテムの詰め合わせの器を使って、揚げ物は出来るようになってるぞ」
「あ、進展はあったんだね!」
「おぉ!? 揚げ物が食べられるのさー!」
ふむふむ、そうなってる可能性はあるとは思ってたけど、やっぱりそっちでも動きはあったんだな! そういや昨日も情報共有板で聞いたけど、群集支援種の捜索でその話題は途切れてたっけ。その辺のチェックをしっかりやっておくいい機会かもね。
「小麦粉や片栗粉も、小麦やじゃがいもの栽培に成功して、岩の操作が育った事で製粉もしやすくなったそうで、手に入るようにはなってきてるぞ。ま、まだまだ少なくはあるが……競争クエストが終わって、その辺が大きく動き出してるからな」
「おぉ!? 思った以上に色々出来てるのさー!」
「あはは、小麦粉や片栗粉まで出来てるんだ? 流石に醤油とかは……?」
「流石に醤油はねぇな! ただまぁ上手く揚げれば既に味付け済みの唐揚げや竜田揚げの試食データに変わるらしいから、それで味は付くみたいだぜ」
「……そこはやっぱり置き換えになっちゃうんだね」
「料理を色々試してる人達からは、不評部分みたいだな。まぁ気持ちは分からんでもないが……」
うーん、うなぎの白焼きを作った時にも微妙そうな心境にはなってたもんな、ヨッシさん。塩味だけのステーキや焼き魚くらいまでが、そのままの調理した味で食べられるものの限度か……。
「まぁゲーム内じゃ、この辺は仕方ないね! ハーレ、サヤ、夏休みに揃った時は思いっきり頑張るから、覚悟しといて!」
「もちろんなのさー!」
「必要な食材があったら言ってかな!」
「うん、その辺はよろしくね、サヤ!」
おー、気合いが入りまくってますなー、ヨッシさん。夏休みの件でハーレさんのテンションが上がりまくってるのは分かってたけど、ヨッシさんもあまり表には出さないだけでかなり楽しみにはしてそうだよね。仲良き事はいい事だ。
「あー、ケイさん? 流れ的に俺への注文って訳ではないよな?」
「今のはサヤ達のリアルでの予定の話だから、そこは気にしないでおいてくれ」
「やっぱりそんな流れで合ってたか」
「そうなるなー。ちなみに、その辺の調理済みの料理って桜花さんが取引で扱ってたりする?」
「あー、いや、その辺は扱ってねぇぞ。いや、正確には扱わないようにしたってのが正解か」
「……へ? え、それってどういう意味?」
てっきり桜花さんが扱ってるものと思って、どんなのが作られるようになってるのかを聞こうと思ったんだけど……全然予想してなかった答えが返ってきたんだけど!? あ、でも『扱わないようにした』のなら、なんとなく理由は分かったかも?
「まぁ単純な話ではあるんだが、不動種での並木が出来ただろ? これだけの数が一ヶ所に集まると、誰が何を扱ってんのかが分かりにくくなるから、ある程度は場所で取り扱う品を分ける事になってな?」
「あ、やっぱりそんなとこか! それだと、どこがどんな物を取り扱ってるんだ?」
「……マサキに近いほど……回復アイテムの……取り扱いは……多いよ?」
「ま、風音さんの言った通りだな! マサキに近いとこが、即効性の高い果物や簡易的なドライフルーツや干し肉や干し魚みたいな回復系がメインだ。中間地点でガッツリと料理系を取り扱ってて、進化の軌跡や投擲用の弾を筆頭に戦闘向けの緊急性の高くない消費アイテムは俺みたいな端の方で取り扱ってるぜ」
「あー、なるほど」
桜花さんの場所が決してマサキのいる場所から遠過ぎる訳でもないけど、マサキの位置を中心にして取り扱うアイテムの種類を変えているんだね。まぁ利便性を考えたら、その方がいいのかも?
「そんな違いが出来たんだ!? あ、でもそれなら桜花さんからは回復アイテムは仕入れられないのー!?」
「いや、馴染みのある人向けに一応、在庫自体は置いてるぞ。それでも数は減らしたし、在庫がない時もあるが……事前に声をかけてくれれば、必要なものの調達と取り置きは可能だぜ? ま、誰にでもって訳にはいかんがな」
「おぉ!? そうなんだ!」
ふむふむ、何が欲しいか予め言っておけば、桜花さんが調達しておいてくれるって事か。あんまり頻繁に頼むと手間取らせそうではあるけど、どうしても必要な時は頼りにさせてもらおうかな?
「……桜花さん、それって特別扱いになるんじゃ?」
「ヨッシさん、灰の群集に来てからずっと馴染みな相手を贔屓して、とやかく言われる筋合いはねぇから心配すんな! それにそれぞれ、馴染みのプレイヤーはいるんだからどこも似たようなもんだし、十六夜さんみたいな人もいるからよ?」
「あ、確かにそれはそうかも? そっか、そういう事情もあるんだね」
「そういうこった!」
ふむふむ、それぞれの不動種の人の馴染みの人にはこれまで通りになるように対応はしつつ、全体として役割分担をしていこうって感じなんだね。まぁここに大移動して間もないし、それで上手くいくかはこれから次第ってとこなのかも?
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