第37章 空白期間にやれる事

第1373話 放課後の出来事


 今日の授業も終わり、放課後になった。さーて、ついさっき夏のアルバイトをするスーパーの店長さんから呼び出しメッセージもあったから、そっちに行ってきますか。都合がよければって内容だったけど、俺は問題ないし、多分アルバイトの件絡みのはず。

 昨日ほどは周囲の目が鬱陶しい状態にはなってないし、相沢さんとは昼休みも特に話もしてないから、学校で無理に話す必要も――


「吉崎くん、いる?」

「げっ、相沢さん!?」

「その反応は酷くない!?」

「……だってなぁ」


 うわー、露骨にクラスの中の連中からの視線が突き刺さってくるんだけど。俺から話しかけた訳じゃないのに、その視線は鬱陶しいわ!

 あー、昼休みには普通にいたのは見たけど、他の人と食べてて平穏だったのになー。廊下から声をかけてきたのに気付いただけでこれかよ!


「……なんか居心地、悪い気がするね?」

「じゃ、俺は帰るな! 圭吾、またな!」

「……ほいよー」


 逃げたな、慎也。いや、俺も逃げ出したい状況ではあるんだけど……これからどう考えても同じ場所に向かう事になるんだよな。え、冗談だよな? こういう雰囲気でスーパーまで一緒に行くとか、冗談抜きで嫌なんだけど!?


「あ、どうしたんだろ? ごめん、吉崎くん、先に行ってて!」

「……ほいよっと」


 わざわざそれを宣言していかないでくれない!? もう嫌なんだけど、この変な注目のされ方! てか、誰かが手招きしてたけど……あー、相沢さんと昼を一緒に食べてる人が呼んでた感じか。なるほど、昨日は休んでたはずだし、この状況が謎なのかも。


「奏、これって何かあったの? なんか奏が吉崎くんに話しかけた瞬間に空気が変わったんだけど……」

「あはは、それがねー?」


 なんか気楽に話してるけど、俺的にはともかくこの場からの離脱が最優先! 晴香も多分来る事になるだろうから、今から行くのはどう考えても早過ぎるけど、教室で待ってるよりはスーパーのイートインスペースで時間を潰す方が遥かに有意義だ! 



 ◇ ◇ ◇



 居心地の悪い教室から脱出し、スーパーへと向かって歩いていく。あー、とんでもなく暑いな……。毎年、どんどん暑くなってない?


「ん? 晴香からか?」


 何か通知がきたと思えば、新着メッセージが届いた様子。あー、晴香からだと思ったら、何気にサヤからだな。いきなりどうしたんだろ? えーと、流石に歩きながら見るのは危ないから、一旦止まって道の端に寄って……それからメッセージの確認!


「なるほど、手土産の件か」


 ふむふむ、結構長いけど内容を要約すれば……『食べ物にはするけど、何を選んだらいいか悩んでる』って事か。晴香やヨッシさんに相談にしにくいとも書いてるしなー。晴香が遊びに行く中での事だから、食べ物の好みが知りたいっぽいね。


「……晴香の好みなぁ?」


 我が妹ながら、なんでも食って好き嫌いは特にないはず? あえて言えば肉の方が好きな気もするけど、海鮮も普通に好きだし、野菜が嫌いという事もない。海鮮系はサヤの親戚繋がりで除外になりそうだし、肉が土産ってのもなんか微妙だな?


「……改めて言われると、難しいな!?」


 これは、いっそ食べ物であっても、メインの食材ではなくデザート系の方がいいのかも? こっちのお土産として有名なお菓子辺りが無難な……なんか有名なのってあったっけ?

 こっちで有名なうどんは前に送ってるし、お菓子ではないもんな。うーん、パッと思い付かないぞ!? あ、そっか。こういう時こそ、スーパーのおばちゃん達や店長さんの知恵を借りよう! 丁度いい時間潰しにはなるはず!


「手が空いてりゃいいんだけどなー」


 相手は仕事中だから、その邪魔だけはしないようにしないとね。サヤへの返信はそれを聞いてから……いや、先に聞いてみるって事を送っておいた方がいいか。よし、『夏休みのアルバイト先に行く用事があるから、そこで良さそうなものを見繕ってみる』と送っておいて……さて、スーパーに行きますか!



 ◇ ◇ ◇



 スーパーのおばちゃん達は手が空いていなかったけども、店長さんは手が空いていたようで、すぐにバックヤードへと通された。まぁ元々アルバイトの件で呼び出されてたんだし、多少の待ち時間があるのも想定済みだったようである。俺以外にはまだ他に誰も来てないみたいだし、今がいいタイミングって事で聞いてみた。


「ふむふむ、晴香ちゃんが旅行に行く時のお土産が何がいいか……それ、なんでお兄さんの圭吾くんが聞いてるんだい?」

「あー、そういやなんでだろ?」


 言われてから思ったけど、本当になんで俺が悩んでるんだ? これ、本来なら晴香とヨッシさんで決める事のような気が? なんでサヤが悩んだ結果、俺へと相談という流れになっている!?

 てか、店長さんは普通に晴香を晴香ちゃん呼びなんだなー。まぁ同じ苗字の兄妹がセットでアルバイトする事になったらそうもなるか。そもそも、小さな頃からずっと知ってる人ではあるし、何気にご近所さんの1人だし、そんなものかも? 去年の時点で、俺も苗字では呼ばれてなかったしね。


「まぁそれは別にいいんだけど……あぁ、引っ越したのは四ツ谷さんのとこの子だよね? 確か雫ちゃんだったかな?」

「あ、知ってるんです?」

「知ってるも何も、2人揃ってよく買い物に来てたしね。晴香ちゃんも少し前のイベントでのアルバイトの時に、志望動機で言っていたし……」

「あー、なるほど」


 そっか、そういやヨッシさんも元々はこの近所に住んでて、その上で料理を色々やってたんだから、このスーパーにはよく来るか! 中学生2人組で、食材を買ってたらそりゃ目立って覚えられるよなー。


「んー、あの子なら色々と作れるだろうし、こっちの名産って事ならあれなら……ちょっと待っててくれるかい?」

「あ、はい」


 店長さんが考えながら出て行ったから、何かいいものを思い付いたのかも? 晴香とヨッシさんの状況も把握しているみたいだし、相談してみて正解だったかもなー! いやー、ご近所の縁って凄まじいものがあるね。


「あ、店長さん、こんにちは!」

「あぁ、相沢さん、こんにちは。奥で待っててくれるかい?」

「はい!」


 聞き覚えのある声と共にバックヤードのドアが開き、放課後の廊下で変な流れを作ってくれた相沢さんの登場である。いや、来るのは分かってたけど、なんか妙に落ち着かなくなるな……。


「吉崎くん、なんで身構えるの!?」

「いやー、放課後のあの状態で身構えるなって方が無茶じゃね?」

「私としては普通に声をかけただけなんだけど!?」

「そりゃそうなんだけど……はぁ……」

「ため息を吐かれた!?」


 そりゃそうしたくもなるわ! 相沢さんが悪い訳じゃないんだろうけど、それでもあの状況は居心地が悪いにも程がある。


「単純に疑問なんだけど……相沢さん的には、あの雰囲気は嫌じゃないのか?」

「あー、うん。普通に嫌ではあるんだけど……言っても誰も聞いてくれないし? なんで親しくもない人達に、私が話しかける相手を選別されなきゃいけないの?」

「……そりゃそうだ」


 慎也が昨日の移動中に余計な事を言った際には、相談って形にはなったけど……結局は周囲に嫉妬でしかないから、状況が落ち着くまで無視しかないって結論だったもんな。

 相沢さんとしても、ああいう流れになるのは不本意で当然ですよねー。あれ、俺には話しかけるなって無言の圧力になってるようなもんか。


「相沢さんは相沢さんで、なんか苦労してる?」

「そりゃねー! 部活には一切興味がないのに、変に言い寄ってくるのは多くて、そういうのは突っぱねるのに苦労したもん! 吉崎くんにはばっさりと断られたけど!」

「あー、そういう事もあったのか」


 なるほど、確かにそれは部員集めに苦労しそうな気はするな。いや、むしろそういうのがあったからこそ、俺が会話してるのが変に目立つのか? 『俺は駄目だったのに、なんでアイツが!』とか思われてそう……。うっわ、更にめんどくさ!


「まぁその辺は気分が悪いから置いといて……連絡先、教えてもらえない? ほら、昨日、妹さんも含めてグループメッセージをしようって話!」

「……そういや、それもあったっけ」

「あれ、妹さんはどうだった? 連絡先が分かってたら、変な注目は避けられるしさ!」

「あー、そういう狙いもあったのか。晴香は作っていいって言ってたし、後から来るはずだろうから、その時に作るか」

「おっ、OKが出たんだね! なら、そうしよう!」


 ふむふむ、確かに連絡先を知っていれば学校の中で無理に直接話す必要は無くなるもんな。そうなれば、さっきみたいな変な視線を向けられる心配はない。携帯端末のAR表示は意図的に見られるように共有設定にしなけりゃ、内容は他人には見られる事もない!


「おや、仲が良さそうで何よりだね。圭吾くん、これなんかどうだい?」

「それって……オリーブオイルですか?」

「うん、そうだよ。一応、県内の特産だしね」

「あー、そうだった気もする?」


 パッと思いつかなかったけど、そういやそうだったな! 島の方での特産品だったはずだけど、県内の特産なのは間違いない! なるほど、料理をガッツリやれるヨッシさんが使うのなら、そういう選択肢もありか。


「あれ? 吉崎くん、オリーブオイルをどうするの?」

「あー、妹が旅行に行く時の手土産?」

「あ、幼馴染の子が引っ越したって言ってたもんね! そっか、そっか! え、でもなんでオリーブオイル?」


 これ、相沢さんにはどこまでどう事情を説明していいんだ? 晴香と相沢さんが何かを話してたのは知ってるけど、具体的に何をどこまで知ってるかが分からないんだけど!?

 というか、相沢さんの弟がヨッシさんに変に手を出していたという話もあった気がする。下手にヨッシさんのリアル話は避けた方がいいか? 変にトラブルを持ち込んでもダメだし、サヤや晴香が警戒してる部分でもあるもんな。


「待って!? ちょっと待って、吉崎くん!? なんでそこで警戒し始めるの?」

「……相沢さん、弟さんは近場にいるのか?」

「へ? 私に弟なんて……あー、あのバカは寮ありの私立に入ってるから! 大丈夫、大丈夫!」


 ん? なんか妙な反応があった気がするけど……今のはなんだ? 


「あれ? 相沢さんはお姉さんが1人いるってだけだったと思うのだけど……弟さん、いたのかい?」

「店長さん!? えーと、えーと、それはですね!?」


 ほほう? 明確に狼狽え始めたけど、これはどういう事だ? さっきの反応でも弟がいるのを慌てて付け加えた感じだし、店長さんが覚え違いをしてるとも思えないようになってきた。

 これはヨッシさんにちょっかいを出してた弟自体が存在してないのか? でも、なんでそんな嘘を吐く必要がある?


「店長さん、お待たせしました!」

「わー! 晴香ちゃん、ヘルプー! 弟がいる設定、嘘なのがバレちゃったー!?」

「……え? えぇ!?」

「ほほう? どういう事か聞かせてもらおうか、晴香?」

「ぎゃー!? 兄貴が怖いのさー!?」


 いいタイミングでやってきたな、晴香。さーて、相沢さんに弟がいるという嘘が出てきた理由を聞かせて――


「あー、圭吾くん? 何か事情があるのは分かるんだけど、それは後にしてくれるかい? ほら、他にも夏のアルバイトの子は来るからさ」

「あ、すみません」


 くっ、流石に場所もタイミングも、問い詰めるには悪過ぎたか! でも、アルバイトの話が終わった後に、じっくりと絞り上げてやろうじゃん! 安心したような雰囲気にはなってるけど、特に晴香は逃げられると思うなよ!


「……というか、アルバイトって何人いるんですか?」

「高校生組は4人だね。吉崎くん達には主に品出しをやってもらう感じになるよ」

「あ、なるほど」


 合計で4人の、夏休みの学生アルバイト組って事になるのか。そうなると、個人的な理由を除いてももう1人も含めたグループメッセージを作っといた方がいいのかも? まぁその辺は、店長さんが考えてくれてるか。


「こんちはーっす!」


 おっと、もう1人のアルバイトの人が……って、こいつかよ! あー、確かに近所だけど……ここでアルバイト仲間になるとは思ってなかったな。まぁ別に仲が悪い相手じゃないし、会うのが久しぶりなだけでやりやすくはあるか。


「あ、来たね。さて、全員が揃ったし――」

「って、吉崎じゃん!? え、ここにいるのかよ!」

「え、誰ですか!?」

「あー、晴香の事じゃなくて、俺の事だ。久しぶりだな、山田。中学卒業以来か?」

「おう、そうなるな! ここにいるって事は、吉崎も同じバイトをやんのか!」

「まぁそうなるなー」


 いやー、まさかの他の高校に進学した、中学時代の同級生と一緒になるとは思わなかったな。何気に全員が知った顔になるとは思わなかったけど、これはこれで気軽にやれそうでよかったよ。

 ん? でも、なんで急に肩を組んできた? 何か内緒話でもしようって感じだけど……。


「……てか、なんで相沢さんまでいるんだよ!? そっちの晴香って呼んでた子も誰だよ!?」

「晴香は俺の妹で、相沢さんは……山田、知ってんの?」

「おまっ! あー、そういうのは興味なかった……つーか、あの騒動の件でお前のクラスの連中はそういうのが多かったっけな」


 あ、そういや相沢さんも同じ中学だったんだから、知っててもおかしくはないのか。偽告白で騙しまくって晒し上げが横行してた時、こいつは別のクラスだったもんなー。むしろ、その元凶の奴と一緒にならなくてよかったよ。


「どうやら顔見知りが多いみたいだけど、話を進めていいかい?」

「あ、脱線させてすみません」

「おっす! 問題ないっすね!」

「……うーん? 山田……山田……山田……? どこかで聞いた事があるような?」

「店長さん、お願いします!」


 なんだか相沢さんが首を傾げているけど、そこは置いといて、とりあえず店長さんの話を聞いていこう。まぁ顔合わせと、8月からのシフトをどうするかって話にはなるんだろうけどね。

 晴香と相沢さんの妙な嘘を問い詰めるのは、その話が終わってからでいいや。でも、山田もいるとなると……問い詰めにくそうだな。



――――


お待たせしました、連載再開です!

電子書籍版の第12巻も8月12日に発売なので、そちらもよろしくお願いします!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る