第1370話 検証の成果
『刻瘴石』を使って誕生させた、黒の異形種の撃破は完了。かなり攻撃的な上に、耐性を持ってる攻撃のダメージはさっぱり通らないし……それ以上に属性『侵食』の効果だと思われるスキルの無効化が厄介だった。
だから、その成果として手に入った『進化の軌跡・侵食』は想像を超える程にヤバすぎるアイテムの可能性が高い! いや、マジでこれがアイテムとして落ちてくるって何事だよ!? ふぅ……とりあえず落ち着け。まだデブリスフロウが効果時間中だけど、みんなは退避してるし、まずはこれを確認だ。
「今ので『進化の軌跡・侵食』が手に入らなかった人がいれば、申告を頼む!」
もうここは全員が手に入れたという前提で問いかけてみる! 『変質進化』が発生する進化の軌跡は一律でみんなが手に入れてたんだから、今回もその可能性は高いし……実際に誰も反応がないな。
「どうやら皆さん、手に入れたようですね! では、早速どのようなものか試してみましょうか! 自分自身の姿ですと撮り切れない部分もありますが、自身の視点から進化の様子を捉えたスクショというのも貴重なもの! 弥生さん、シュウさん! 外からの様子の撮影はお願いしますね! レナさんとハーレさんも、後で撮ったスクショを承諾に送ってくれると助かります! それでは……発声での使い方がいまいち分からないので、取り出して使っていきましょうか!」
あー、うん。ルストさんがすごい早口で、早速進化を始めてるね。もう弥生さんもシュウさんも止める様子もないし――
「およ? 弥生、シュウさん、止めないのー?」
「もう害じゃないなら、いいかなーって気になってきた……。みんな、この効果は気になってるだろうしさー」
「僕も同じような心境だね。ケイさんがしてくれていた防御を避けたりもしていたから、その埋め合わせって事にしてもらっていいかい?」
「そりゃいいけど……この進化、大丈夫なのか?」
瘴気を纏ってこそいないけど、なんかだんだんとルストさんの木が朽ちていってるんだけど。青々と茂っていた葉っぱが枯葉に変わって散っていくとか、どういう進化だよ、これ! 進化と言っていいのか疑問なんだけど?
「わー!? なんか枯れていってるのさー!?」
「これ、黒の異形種化してるのかな?」
「ルストさん、大丈夫なの?」
「えぇ、ご心配なさらなくても大丈夫ですとも、ヨッシさん! これは『変質進化・侵食』という名のようですね!」
「……なるほど、属性であっても纏属進化ではないのですか」
「そのようですよ、ジェイさん! この萎れていくのも、奇妙な感じで面白いものですね! 海の上でパラパラと落ちていく葉を眺めるというのもまた新鮮な光景です! まだ進化が終わっていないですし、どこまで進んでいくのでしょうか!? フラムさん、樹洞の中の変化も撮り逃さないようお願いします!」
「おうよ!」
『侵食』自体が属性だけど『纏侵』みたいな名前にはならず、そもそも纏属進化ではなく、変質進化の一種だというのは興味深いとこだね。ルストさんは枯れていってる様子は欠片も気にしてないどころか、進化の過程で枯れている状態すら楽しんでいるのが凄いもんだな。
「おわっ!? え、なんで海水!?」
「おや、樹洞が朽ちて穴が開きましたか! フラムさん、樹洞内でのスクショは撮っていただけましたか!?」
「あー、一応は?」
「それならばよしとしましょう!」
あ、それでいいんだ? 樹洞の中にいたフラムが思いっきり海水の中に落ちたけど、まさか樹洞に穴が空くとは……。今のルストさんの見た目はゾンビとスケルトンと言いがたいけど、植物の場合はこうなるよなー。
「外からの様子はいかがでしょうか!?」
「それはバッチリ! 弥生もシュウさんも、ハーレもしっかり撮ってるよね?」
「もちろんなのさー!」
「まぁ、そこは当然だよねー! 頼まれてたしさ」
「まさかプレイヤーにこういう進化があるとは思っていなかったけどね。黒の異形種は進化に失敗した果ての姿のようなものだから、精神生命体が中にいる状態ではないと思ったけども……」
うーん、確かにシュウさんの言うように、この進化は予想外だよな。力を纏っているという感じはしないし、むしろ力に負けて無残な姿になっているような……?
そういや、アイテムの説明としてはどうなってるんだろ? 欠片とか結晶とか、進化階位を限定するような要素もなさそうだけど……ちょっと見てみるか。
【進化の軌跡・侵食】
黒の異形種が異形へと変わり果てた軌跡を結晶化したもの。
特殊進化の『変質進化』をさせる事が出来る。付与される属性は侵食。
ふむふむ、異形へと変わり果てる軌跡が結晶化したものね。まぁその辺の記述は普通の進化の軌跡と変わらないけど……って、ちょい待った!? え、これって……。
「ルストさん、その進化って効果時間はどうなってる? アイテムの説明を見てたんだけど、その記載がない……」
「進化の効果時間ですか? それなら……確かにどこにも表示が出ていませんね?」
「……それはどういう事ですか? 効果時間が設定されていない? いえ、いくらなんでもこれが永続的な進化だとは思えませんし……あぁ、そういう可能性がありそうですね?」
「ジェイさん、何か思いついた?」
「えぇ、まぁあくまでも推測ではありますが……この進化にはデメリットがありそうな気がしますし、その辺を確認してみましょう。ルストさん、一時付与のスキルはどうなっていますか?」
なんでここで一時付与のスキルの確認が……って、そういう事か!? あー、確かにそこにデメリットが存在してる可能性は高いよな。今の姿だけでは、さっきまで戦っていたペリカンの様子には全然近くない状態だし……。
「一時付与は『侵食』というスキルが1つだけですね! 早速使ってみましょう! 『侵食』!」
「およ? 全く躊躇なくいったねー。あ、瘴気で出来た葉っぱがモサっと生えてきた!」
「なるほど、これは凄いね」
「ルスト、枯れ方が酷くなって、どんどんHPが減っていってるんだけど……それは大丈夫?」
「いえ、全然駄目ですね、弥生さん! HPが尽きるまでがタイムリミットのようです! ですが、それまでの間にこのような拡張が可能なようですよ!」
「おー!? 瘴気で出来た根が、思いっきり伸びていったのさー!」
なるほど、自身のHPの消費をタイムリミットとした、瘴気での攻撃範囲の拡張がこの進化の本質か。おそらく、その瘴気部分では格下のスキルの効果を無効化する効果もありそうだから……使い方次第でとんでもない進化だな。
「ルストさん、それは樹木魔法にも反映は出来るのか?」
「どうでしょうか? 少しやってみましょう。『葉っぱカッター』!」
「おぉ! モサっと生えた葉っぱが、大量に飛んでいったのさー!」
「……通常よりも遥かに枚数が多いが、それは元からか?」
「いえ、違いますよ、アルマースさん! この枚数の増加は『侵食』の効果のようです! あぁ、スキルを使えばHPの減り方もどんどん早まっていきますね! どうやらこの進化はキャンセルは不可能なようですが……死する事は問題ないですが、それまでの間にこの進化での光景を撮りまくっておきましょうか!」
あ、そこまで言った途端に一気に動きが速くなって、生成した小石に根で掴まって動くのを瘴気で拡張した根でやるようになってる!? 瘴気で出来た葉っぱを周囲にも散らしまくって……なんか、とんでもなく奇妙な光景が繰り広げられてるなー。
「えーと、シュウさん? どうもこのままルストさんは死ぬっぽいけど……それはいいのか?」
「いいか悪いかはなんとも言い難いけども、進化の性質上は仕方なさそうではあるね。ルスト、この近くに転移の実を使った地点はあるかい?」
「それならご心配は必要ありません! すぐ近くとまではいきませんが、このエリアに設置しているのが1ヶ所ありますので……あっ――」
「あー!? 今、十六夜さんが死んだのさー!」
「……へ? あ、そういや十六夜さんが少し先にいたっけ」
確か完全体を探してた様子っぽかったけど……死んだという事は、実際に完全体を見つけて、戦闘になってたんだろうね。俺らは黒の異形種を相手にしてたからそっちまで意識が向いてなかったけど……それってどの方向――
<ケイが完全体・暴走種を発見しました>
<完全体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント10、融合進化ポイント10、生存進化ポイント10獲得しました>
<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『完全体・暴走種の発見』を取得しました>
<増強進化ポイントを3獲得しました>
<ケイ2ndが完全体・暴走種を発見しました>
<完全体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント10、融合進化ポイント10、生存進化ポイント10獲得しました>
<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『完全体・暴走種の発見』を取得しました>
<増強進化ポイントを3獲得しました>
ちょ!? 完全体の発見報酬が出た!? え、これが出るって事は視認出来る距離に完全体がいて、誰かが見つけたんだよな。あ、でも十六夜さんが仕留められたのを目撃しただけなら俺らが襲われる心配は――
「……ねぇ、あのリュウグウノツカイ、こっちに向かってきてないかな!?」
「およ? なんか白光と銀光が混ざってるし……あ、誰かスクショを撮ったりしてないよね!?」
「ルスト、さっき変な反応をしてなかった!? 『あっ』って言ってたよね?」
「すみません、弥生さん! 自分の葉っぱを撮っている間に、どうやら映り込んだようです!」
「ルスト、何をやってるの!?」
「チャージみたいだけど、随分と溜まるのが早い……いや、これは応用連携スキルの方かい?」
ちょ!? 完全体が迫ってきてるのって、ルストさんのミスのせい!? いやいやいや、ここで完全体から逃げる事なんて想定してなかったんだけど!?
てか、慌ててる場合じゃないな。海中じゃなくて空中を泳いでる巨大なリュウグウノツカイだけど、この手の徘徊種ならエリア切り替えまで逃げ切ればなんとかなるはず!
「ジェイ、どうすんだ、この状況!」
「逃げるしかないでしょう! ケイさん、急いでこの場を離れます! 構いませんね!」
「そりゃ当然! まだ検証する内容もあるんだし――」
「なっ!?」
「ぐっ!? くそっ!」
「マジかよ!」
「およ!? 思った以上に攻撃が早いよ!?」
げっ!? もう距離を詰められた上に、アルのクジラと、ジャックさんと、マムシさんが一撃で仕留められた!? 逃げようと思っても、アルがこれじゃ無理だろ!
「あー、こりゃもう無理だな。ケイ、諦めろ」
「ですよねー!」
<『同調激強ロブスター』のHPが全損しました。『同調激魔ゴケ』が大幅に弱体化します>
あ、アルが木だけになって、海水に浸かって一気に弱り出したすぐ後に俺も思いっきり斬られた。……うん、俺のコケも海水にちゃぽんと落ちたし、この攻撃の速さは無理! 襲ってきた完全体のリュウグウノツカイの戦闘スタイルは斬雨さんに近そうだけど、凶悪度が遥かに違うわ!
◇ ◇ ◇
全員が死ぬのには、それほど時間がかからなかったのは自明の理。まだリスポーンはせずにいる状態で、話は出来るけども……ここから検証の続きをやるのは厳しいか。
「いやー! 死んだ、死んだ! ルストさん、どんまい!」
「……皆さん、すみませんでした!」
「あー、まぁ流石に今回のは仕方ないって。事故みたいなもんだし、無理に責める気はないし……最後に面白いものは見れたしなー」
「確かにそれはそうですね。あの『侵食』の効果であれば、少なからず防御に使えるのは興味深かったですしね」
地味にルストさん自身の立ち回りも凄かったのはあるけど、『侵食』の効果で拡張させた部分で攻撃を受けてもHPが減らないというのは大きな情報だよな。
まぁ常にHPが減り続けてる状況だからメリットと言い切れるかは分からないけど、他の人が即死だった攻撃を1撃凌いだだけでもすごい成果だし。
「ねぇ、シュウさん、あれに勝てる?」
「……流石に今はまだ厳しいね。防御は展開出来るだろうけど、それを軽く突き破って、防御が防御の役割を果たさないよ。勝つ以前に、凌ぐ事すら厳しいね。そういう弥生はどうだい?」
「私も流石に無理かも? 最初の1発、2発くらいなら躱せるけど、流石にあの勢いで海水まで巻き込んで吹っ飛ばされたりしたら体勢を保つのも厳しいよー。レナは?」
「躱すだけなら、相手にしがみつけば……って、流石にあれはそういう規模じゃないよね。んー、オフライン版なら出来たけど、オンライン版じゃ無理かも?」
うへぇ、弥生さん、シュウさん、レナさんの3人でも数発凌ぐのすら困難なレベルか。まだ差があり過ぎるってのは間違いなくあるんだろうけど……あの完全体のリュウグウノツカイが大き過ぎたってのもありそうだね。クジラをあっさり一刀両断してしまえるサイズなんだから、最大級のサイズじゃね?
「……全滅してしまいましたし、今日の検証はここでお開きにしましょうか。時間も時間ですし、ここから戻って合流して『刻浄石』の生成をしていくのは厳しいでしょう」
「ですよねー。となると、その辺はまた今度?」
「まぁ僕ら以外にも既に情報は広めているし、誰かがやるんじゃないかい?」
「あー、それは確かに?」
こういう結果になった以上、ある意味では途中で報告しておいて正解だったのかもね。どっちにしてもここから先は試行回数を増やして確認していくべき内容になってくるし、元々の予定分は終わってはいるもんな。
明日が休日ならこのまま続行といきたいけど、もう既にいつもログアウトする23時は過ぎているしね。更に時間がかかる状況になってしまったなら、諦めも大事だな。下手に夜更かしして、寝坊する方が困るしさ。
「なんか消化不良ではあるけど、今日の共同検証はここまでで! お疲れ様でした!」
「また何か共同で検証する事があればお願いしますね」
「みんな、お疲れ様。あぁ、次からは機会があってもルストは連れてこないから、そのつもりでお願いするよ」
「待ってください、シュウさん!? 何故そのような事になるのですか!?」
「ルースートー? 心当たりが無いとは言わせないからねー?」
「弥生さんまで!?」
さーて、それじゃサクッと帰還の実でリスポーンして森林深部に戻って、今日は終わりだな。あ、終わりにする前に『刻瘴石』の報告はしとかないといけないか。
「ケイ、どこに戻る?」
「とりあえず森林深部で!」
「森林深部だねー! サクッと戻っちゃおー!」
「はーい! みんな、お疲れ様でした!」
「お疲れ様かな!」
「お疲れ様でした!」
それぞれに挨拶を済ませて、続々とリスポーンしていってるから、俺もさっさと戻りますか。あー、こういう形で全滅して戻るってのも久しぶりなもんだね。
――――
更新お休みのお知らせ
もう少しで今の章が終わるので、一旦休憩します。
再開予定は5月15日から!
詳細は近況ノートを確認して下さい。
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