第1369話 黒の異形種との攻防


 シュウさんが生成した岩の上に弥生さんと水月さんがいて、ペリカンの上へと回り込んでいっている。あ、操作していた氷塊が侵食されて落下し始めてたヨッシさん達も、空中に浮き直したね。


「およ? あれ、完全にキャンセルされた訳じゃないんだ?」

「あはは、触れてた部分が駄目になっただけで、離れたら追加生成で修復出来たみたい?」

「おぉ!? そうなんだー! ヨッシ、それなら私達も上に行くのです!」

「うん、そのつもり!」


 ふむふむ、黒の刻印の剥奪と違って、規模が大きければ完全に操作権を奪われる訳ではないんだな。操作系スキルでも応用スキルの規模なら、部分的にやられる程度で済むのか。


「ジェイ、俺らも上に回り込むか?」

「いえ、それはやめておきましょう。わざわざ同じ役割を2つ用意した意味がなくなりますし、私達は少し様子を見て動きますよ」

「……私達は、ペリカンがどう動くかを確認してから動くのでいいのかな?」

「えぇ、そうなりますね。今はケイさんが防いでいますが、そもそも誰を狙っているのかが分かりませんし……スミ、危機察知に反応はどうなっていました?」

「俺らのPTには出ちゃいねぇよ。出ていたら言っている」

「私も同じくなのさー!」

「となると、狙われていたのは赤の群集のどなたかですね。まだ攻撃の狙いがこちらへ向かっていますし……狙われているのはルストさん、フラムさん、アーサーさんの3人の内の誰かですか」

「俺らなの!? フラム兄、狙われてるっぽいよ!?」

「みたいだな!」

「おや、そういう事でしたか! それの確認が必要なら、私は少し離れてみましょうか! 私が狙われているのだとすれば、迫り来る異形の姿を撮る事も出来るので一石二鳥でしょう!」


 ちょ!? 反応を返す前に、ルストさんが一気に凄い勢いで離れていってる! あ、でも全然無反応だし、狙われているのはルストさんじゃなさそう?


「どうやら狙われているのは、ルストさんではなさそうですね」

「アーサーかフラムの2択なら……この場合、フラムじゃね?」

「ちょ、ケイ!? また俺を殺そうとしてねぇ!?」

「いやいや、大真面目な話で……ここまで攻撃的な相手なら、冗談抜きで一番Lvが低い相手を優先して狙うのはあり得ると思うけど」

「……え、マジな話なのか、これ?」

 

 個人的な心情を抜きにしても、これだけ好戦的な敵で、狙われている相手が2択まで絞れたなら、条件としてそうなってきても何も不思議じゃない。みんなのLvが横並びだったら判別しにくいけど、この場では明らかにフラムが飛び抜けてLvが低いのは間違いないしな。


「それは確かにそうかもしれませんね。ルストさん、フラムさんを連れて逃げ回るのは可能ですか?」

「それならば、望む所です! フラムさん、行きますよ!」

「おわっ!? ちょ、ルストさん!? ぎゃー!?」


 凄い速度でルストさんが戻ってきたと思ったら、根でフラムを縛り上げて、樹洞を開けて中に放り込んで、再び凄い勢いで移動して……あ、チャージ中のペリカンの向きがルストさんの移動してる方に変わった。


「どうやら、狙われていたのはフラムさんで間違いないようですね。ケイさん、ルストさんとフラムさんのフォローを頼みますよ」

「……必要ある? 正直、ルストさんが躱せないとも思えないん――」

「あ、ケイさん! そこはフォローをお願い! ルストは自分がダメージを受ける事より、スクショを撮る方を優先しちゃうから!」

「マジか!? あー、そういう事なら了解っと!」


 フラムだけなら別の意味で放置でもいいんだけど、ここでルストさんに死なれるのは困る! なんて事ない攻撃なら普通に躱しそうだけど、確かに大技が迫ってきてる瞬間なら、スクショの撮影を優先しそうだよなー!?

 ともかく、まだチャージが終わってない段階だし、ルストさんとペリカンの間に水を移動させて――


「ケイさん、スクショの撮影の邪魔はしないでもらえますか!?」

「はい!? いやいや、防御用だから!」

「水越しのスクショもありではありますが、どうしても間に水があると迫力が落ちてしまいますので! 私は別に死んでも構いませんので、その水は今は除けていただけませんか!?」

「ちょ、ルストさん!? 俺は死ぬのは嫌なんだけど!?」

「何を言いますか、フラムさん! こんな絶好のスクショの撮影チャンスを逃すおつもりですか!?」

「これ、検証中じゃなかったっけ!? ケイ、助けてー!?」


 なんかフラムの切実な叫びが聞こえてきてるけど……そろそろペリカンのチャージも終わりそうだし、どうすべき? 一応、もう既にシュウさん達やレナさん達も上に回り込んでるけど、この状況は予想外!?


「……えーと、これはどうすりゃいい?」

「あ、ケイさん、ルストの妄言は無視でいいよー! 今は検証の方を最優先で!」

「ほいよっと」


 もうこの状況だと、弥生さんの言葉の方を優先させてもらおう。俺の水を避けようとしてルストさんが動き回ってるけど、それは阻止させてもらう! ……なんで味方を守ろうとしてるはずなのに、こんな変な状況になってるんだ?


「くっ!? ケイさんの水の操作が邪魔で……仕方ありません! こうなればケイさん! 可能な限り静止させて、ガラスのように透明な状況を維持していただけ――」

「ルストは黙ってなさーい! レナ、今のうちに攻撃をキャンセルしちゃって!」

「まー、そうなるよねー。ハーレ、飛び降りるよー! 白の刻印が『剛力』ならそのままキャンセル出来るから、『守護』だった場合の為に黒の刻印は『消去』で!」

「はーい! ヨッシ、氷で保護をお願いなのさー!」

「うん、任せて! 再発動……ううん、二重に発動しとくね! 『並列制御』『アイスクリエイト』『アイスクリエイト』『並列制御』『氷塊の操作』『氷塊の操作』!」


 ペリカンの真上の状況はよく見えないけど、そもそもの攻撃を潰してしまえれば防御する意味もないよな! てか、ヨッシさんの氷塊の操作で保護して強引に突破する気か!


「さて、私達も行きますよ。『アースクリエイト』『岩の操作』! サヤさん、乗っていて下さい。シュウさん達と挟撃する形で行きますので」

「あ、うん! 分かったかな!」

「キャンセル後、下から狙うって事か!」

「えぇ、そうなります。キャンセル出来れば、それで終わりでもないですしね」


 確かにそりゃそうだ。キャンセルしたところで、防げるのは今チャージ中のスキルのみ。そこからすぐに別のスキルで追撃の可能性もあるし、距離を取ってくる可能性もある。

 上下で挟み込んでいれば、そのどちらにも対応は出来るし……場合によってはそこで攻撃対象が変わる可能性もあるから、俺はそっちに集中しとこう!


「ジェイ、こっちは魔力凝縮は完了だ! スミに渡しとくぜ!」

「えぇ、了解しました」

「ふん、他の準備をさっさと済ませろ!」


 スミの手に風を凝縮した弾が握られているし、こっちの攻撃準備は完了。だけど、まだ弱体化を入れられてないし、ペリカンの方もチャージが完了したっぽいし……キャンセルは間に合うか!?


「ヨッシさん、よろしくね! 『回蹴・重爪脚』!」

「了解! 駄目になっても、追加生成で!」

「ヨッシ、ナイスなのさー! 骨が見えたし、これなのです! 『黒の刻印:消去』!」


 白光と銀光が混ざった状態から、白光が消えて光が弱まった! まだキャンセル自体が出来たわけじゃないけど……レナさんが思いっきり蹴り始めたら、銀光が消えた! よし、これでキャンセルは成功!


「ハーレ、ヨッシさん、離れてて!」

「そうさせてもらうね!」

「役目は終わったし、離脱なのです!」

「どんどん、いっくよー! えい! とう! およ!? 足場が!? 弥生、足場!」

「え、私!? もう、仕方ないなー!」

「ありがと! えいや!」


 あー、レナさんがペリカンを蹴飛ばしてどんどん下に吹っ飛ばしてるのが、逆に攻撃が届かないようになってるのか。足場になるものが瘴気に侵食されて強制的に無効化されてしまう今の状況だからこそ発生する状況なのかも。


「あぁ!? 折角の強大なスキルの発動が消えて……これはこれでありですね! 力及ばず、最大の攻撃を放つのを妨害されて落ちゆく禍々しいペリカンに、追撃をかける銀光を放つリスの蹴りというのもいいではないですか! それを支え、足場となる巨大なネコというのもまた異質でいいではないですか!」

「それでいいのかよ!」


 いやまぁ、ついツッコんだけど……ルストさんが満足そうならいいや。キャンセルした事を不満に思って邪魔される様子がないだけ、今の方が相当マシな反応だしね。

 とにかく、ルストさんへの防御用に水の操作をこれ以上動かす必要がなくなったのは大きい。ルストさんの動きまくっている状況が元になってるフラムの叫び声は無視でいいや。


「うー、この骨、硬ったいなー!」


 弥生さん自身がレナさんの足場になって、連撃を続けているけど……特性『硬骨』で物理攻撃そのものの効きが悪い様子だな。耐性のある斬撃よりはかなりマシではあるみたいだけど、それでも応用連携スキルを使ってるにしては削れてなさ過ぎる。


「レナでこれなら、物理で削るのは無理かも? シュウさん、予定通り付与魔法をお願い!」

「了解したよ、弥生。『白の刻印:増幅』『アースエンチャント』! ジェイさん、これはタイミング的に黒の刻印は刻めるのかい?」

「……流石に間がなさ過ぎですし、試すには厳しいですね。スミ、それまで保ちますか?」

「無茶を言うな、無茶を! どんどん荒ぶってきてるし、いつまでも保持してられるか!」


 あー、そうか。そういや刻印は1分ほど間を空けなきゃ新しくは刻めないんだっけ。白の刻印も仕様としては同じだけど、個人でカウントがバラバラだから出来る芸当だもんな。

 それにしても、魔法弾にした応用魔法スキルって時間が経てばどんどん形が崩れてくるんだな? まぁこれだけの威力のものがいつまででも持ち続けるられる訳もないか。


「仕方ないですね。スミ、もう投げ放って下さい!」

「吹き飛べ、骨のペリカンが! 『爆散投擲』!」


 スミが思いっきり振りかぶって、形が崩れ出した風の弾を投げ放ち、それが荒れ狂う風の刃を爆発的に広げていく。一気にペリカンのHPは削れたけど……2割も残ってるし、威力足らずか? あ、レナさんが思いっきり吹っ飛ばされてるよ!?


「わわっ!?」

「レナ!?」

「あ、弥生、ありがとねー!」

「それはいいけど……今のでも削り切れないんだ?」

「んー、削り切れそうだと思ったけど……およ!? 付与魔法が消えてるよ!?」

「……なるほど、付与魔法も侵食で消されて効果が出ていなかったという訳ですか」

「本当に面倒だな、このペリカン!?」


 通常スキルは、ほぼ全てが無力化されるって事かよ! こうなるのであれば、むしろジャックさんに風の攻勢付与をかけていた方がよかったんじゃね!?


「まぁそれでも耐久性そのものはそれほど高くないなら問題はないでしょう。ケイさんと私のデブリスフロウで仕留めます! スリムさん、足場を解除して、受け皿の生成をお願いします!」

「ホホウ、了解なので! 再発動にするので、みなさん足元にご注意なので!」

「オーバーキルな気もするけど、それは了解! とりあえず、逃がさないように捕まえとくぞ!」

「えぇ、お願いします! マムシさん、スミとジャックさんを乗せて移動をお願いします!」

「おう、了解だ!」


 スリムさんが足場を解除したから、ジャックさんやスミはマムシさんの大蛇の背に乗ってアルの上には降りずに海水の方へ退避。俺はアルの上に着地して、他のみんなが準備が出来るまでの間にペリカンを水の中に入れて捕獲! うげっ!? 瘴気で出来た羽根を広げて、羽ばたくように動いてくるのか!


「暴れるなっての! 逃してたまるか!」


 どんどん瘴気に侵食されて操作出来なくなっていく水があるけど、それはすぐに消滅していくから追加生成で補うのみ! あと1発、普通の魔法じゃ侵食を超えて着実なダメージを与えられるか分からないけど、昇華魔法でなら確実に仕留められる!


「ホホウ、すぐに受け皿を作るので! 『アースクリエイト』『土の操作』!」

「ケイさん、逃がさないように大急ぎでお願いしますよ! 私の方でタイミングは合わせますので、生成の方はケイさんが先にして下さい!」

「ほいよっと!」


 追加生成してもどんどん減っていく水の操作で、強引にペリカンをスリムさんの生成した土の受け皿に叩きつけ……うげっ、土も同じように侵食されて消えていってるじゃん!?

 でも、追加生成でどうにか戻しているし、時間的猶予はある! ジェイさんの方が合わせてくれるんだし、一気にここでぶっ殺す! 水の操作を解除して、それでこれだ!


<行動値1と魔力値2消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 99/124(上限値使用:1): 魔力値 268/310


 瘴気に触れない位置に生成したけど、これって発動前に触れられたら侵食されてあっという間になくなりそうだな。


「いきますよ! 『アースクリエイト』!」


<『昇華魔法:デブリスフロウ』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/310


 よし、ペリカンが飛び立とうとする直前にデブリスフロウで呑み込むのは成功! すり鉢状のスリムさんが生成した土の皿もあるから、ここからの脱出は無理だろ!

 しっかりとどんどんHPが減っていって、それが尽きたらポリゴンになって砕け散っていったな。


<ケイがLv11に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>

<ケイが成熟体・異形種を討伐しました>

<成熟体・異形種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>


<ケイ2ndがLv11に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>

<ケイ2ndが成熟体・異形種を討伐しました>

<成熟体・異形種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>


<『進化の軌跡・侵食』を獲得しました>


 よし、なんとか黒の異形種のペリカンの撃破は成功! 特に撃破での称号は得られはしなかったみたいだけど……獲得アイテムはそうきたか。これ、どう考えてもヤバくない? いや、でもデメリットが大きそうな予感もするなー。





【ステータス】


 名前:ケイ

 種族:同調激魔ゴケ

 所属:灰の群集


 レベル 10 → 11

 進化階位:成熟体・同調激魔種

 属性:水、土

 特性:複合適応、同調、魔力強化、魔法耐性、属性強化


 群体数 342/11650 → 342/11900

 魔力値 0/310 → 0/314

 行動値 99/125 → 99/127


 攻撃 117 → 119

 防御 200 → 203

 俊敏 144 → 146

 知識 338 → 344

 器用 396 → 404

 魔力 496 → 505



 名前:ケイ2nd

 種族:同調激強ロブスター

 所属:灰の群集


 レベル 10 → 11

 進化階位:成熟体・同調激強種

 属性:なし

 特性:打撃、斬撃、強靭、堅牢、同調


 HP 16100/16100 → 16100/16550

 魔力値 146/148 → 148/150

 行動値 115/115 → 115/117


 攻撃 488 → 496

 防御 448 → 456

 俊敏 381 → 388

 知識 112 → 114

 器用 150 → 153

 魔力 75 → 76

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る