第1368話 生み出した黒の異形種
骨だけになった異形種のペリカンの攻撃が予想外過ぎる! 嘴の形をした瘴気の塊に水の操作が噛みつかれた上に、その部分がどんどん侵食されて操作出来なくなるとか想像してなかったわ! 生成量の多い水の操作Lv10だから耐え切れてるけど……この攻撃は普通に受けたらとんでもなくヤバい気がする!
ともかくジェイさんに指揮を任せたんだから、俺は防御に専念で! この攻撃……いつまで続くんだ? あー、その辺の切り替わりにも要注意か。完全に未知な攻撃パターンだし、防御の対応を誤れば危険なのは確実だしな。その辺に意識を割きつつ、ジェイさんの指揮を聞いておかないと!
「あ、瘴気が消え……って、おわっ!?」
ちょ!? 噛みついている瘴気の塊が消滅したと思ったら、今度は新たに瘴気を全身に広げて突っ込んできた!? えぇい、とりあえずこれを受け止めて……くっ、流石に突撃だと操作時間も削られるけど、それ以上に触れた部分から生成した水が操作出来なくなっていくのがキッツい!
「これは!? 変幻自在に姿を変える瘴気が、肉体の代わりとして動いているようですね! 標準状態では翼となり、攻撃に移る際にはその部分へ大きく形を変えていくようです! 形のあり方としては、魔力集中に近いのでしょうか? そして、これまでには存在していなかった、水の操作へと侵食していく瘴気! このスクショは非常に面白い! えぇ、今回この場に来たのは正解でしたようですね! これほどの光景が――」
なんかまたルストさんが語り出してるけど、そこはもう聞き流そう。でも、確かにペリカンの攻撃に合わせて瘴気が形を変えているのは間違いないし……それがこの敵の特徴って感じはするよな。攻撃部位に出てくる魔力集中の効果に近いものは感じるし、『瘴気』と『侵食』の2属性が乗った魔力集中の効果の可能性はありそうだ。
それにしても……何度もぶつかってきてるし、連続での突撃系の攻撃か! でも、銀光は放っていないから応用スキルではなさそう? ……通常スキルでこの威力かよ! 威力というより性質が厄介だな!?
「ケイさん、抑え切れますか?」
「まだまだ余裕だっての!」
「……それならいいのですが、油断はなさらないようにお願いしますよ」
「分かってるって!」
水の操作がLv10だからこそなんとか耐え切れてるだけで、ヤバい攻撃だって事くらいは承知済み! フィールドボスに相当しているのかは不明だけど、少なくとも攻撃については迂闊に受けたらヤバいものだってくらいは分かってる!
おし、一旦攻撃は止まった。まだ攻勢には移れる状態にはなってないけど、ジェイさんはここからどうする? って、また噛みついてきたか! くっ、これが収まったら1回、再発動してあのペリカンを閉じ込め……いや、その辺の方針はジェイさんに任せてるんだし、今は防御に徹しよう!
「ヨッシさん、確か強化統率を持っていましたね? 1体ほど生成してもらって、あれがどういう性質を持つ攻撃なのかを確かめてもらっても構いませんか?」
「実験台にするのはいいけど……どう生成して、どう動かしたらいいの?」
「無属性で突っ込ませて下さい!」
「了解! 『強化統率』! ハチ1号、『近距離攻撃』!」
何も属性を持たせずに生成した統率個体だから、シンプルに針で刺しに攻撃しに行ってるし、邪魔しないように通る部分の水を空けておけば、ペリカンに向かって飛んでいってるね。さて、これでどうなるか?
あ、ペリカンにはあっさりと針が刺さったけど、触れた瞬間に『瘴気汚染』になっているね。それどころか、噛みつきを終えたペリカンが纏う瘴気が統率個体のハチを包みこんで……あ、動きが止まって――
「え、ヨッシ!? 統率個体が消えたよ!?」
「まだHPは残ってたのに、なんでかな!?」
「……スキルの効果が、強制的に打ち消されてるのかも?」
「およ? それだと相当厄介だね。ジェイさん、どうするー?」
明らかに不自然な感じでヨッシさんの統率個体のハチが消えたけど……レナさんの言うように、属性『侵食』は相当厄介な性質を持ってる可能性が高いな。規模次第で完全に打ち消せる訳じゃないっぽいけど、スキルのキャンセル性能持ちはかなり面倒だぞ。
「……斬雨、統率個体では分かりにくいので直接攻撃をお願いできますか? 下手をすれば厄介な状況になりそうですが……」
「はっ! 『斬撃耐性』持ちが相手だと出番がねぇかと思ったが、誰かが確認しなきゃいけねぇだろうし、そのくらいはさせてもらおうか!」
「えぇ、無茶振りなのは承知ですが……近接攻撃が可能かどうかの確認が必要ですしね。とりあえず通常スキルで攻撃を!」
「おうよ! 『魔力集中』! ケイさん、出してくれ!」
「ほいよっと!」
「おらよ! 『乱切り』!」
斬雨さんが水の防御の外に出て、思いっきりペリカンへと斬りかかっていく。でも、ペリカンの骨に当たって盛大に弾かれてるっぽいね。
「ちっ! やっぱり硬いが、全くダメージが入ってない訳じゃ……くっ!」
あー、斬雨さんの全身を包み込むように瘴気が伸びてきて、動きが止まった? 統率個体と違って『瘴気汚染』にはなってないみたいだけど、『瘴気耐性Ⅰ』辺りが上手く機能してるのかも。もしくは得たばかりの『瘴気属性強化Ⅰ』か?
「斬雨、どうなりましたか!?」
「どうもこうも、まだ連撃数は残ってるのにキャンセルされたぞ! この状態は実体がないのか、動きは封じられてねぇがな!」
「……やはりですか。そのまま続けて、普通の応用スキルで攻撃を! どこまでの範囲が無力化出来るかを確認します!」
「そうなるわな! いくぜ、『連閃』!」
まだ斬雨さんの周囲に瘴気が伸びたままだけど、今回はちゃんと銀光を放って連撃が次々と骨部分に当たってはいるし、銀光も連撃が当たるのに合わせてどんどん強まっていっている。でも、これは……。
「ちっ! 相性最悪にも程があるだろ!」
「応用スキルであればキャンセルはされないようですが……『斬撃耐性』の方が厄介ですね。斬雨、黒の刻印は刻めますか?」
「やるだけやってみるが、期待はすん――」
げっ!? 一気に瘴気が膨れ上がって、元々大きなペリカンが更に大きな状態になった!? 黒の異形種ってゾンビかスケルトンってイメージだったけど、今の様子を見る限りじゃ瘴気が変動する肉体だよなー!?
「また突撃……って、今度は銀光ありかよ!?」
「テメェ、無視か!?」
ちょ、斬雨さんを完全に無視してこっちに連続で突っ込んでくるって!? シンプルに威力で操作時間も削られるし、触れる体積が広いから、一気に駄目になる水が多い!? このままで保つのか!?
いや、どこかで再発動しないと操作時間はともかく、防御に使う水自体が足りなくなりそう! だー! 1人で防御をし切れるようには用意されてないだろ、これ?
「ホホウ!? ケイさん、大丈夫なので!?」
「結構ヤバいかも! 再発動するから、その間に抜けてきたら誰か防御を頼んだ!」
「そんなにですか!? アルマースさん、スチームエクスプロージョンで打ち上げて強引に距離を取ります! ケイさん、解除の際に合図を! スリム、皆さんの固定をお願いします! 斬雨、一旦戻って下さい!」
「了解だ!」
「ほいよっと!」
「ホホウ、了解なので!」
「ちっ、仕方ねぇか!」
強引な手段なのは確かだろうけど、今はそれくらいの無茶が必要っぽい! 格上の特殊な敵で、その上これだけ攻撃的だとキッツいわ!
でも、出来るだけ連撃は使い潰させておきたいし……よし、もうギリギリだけど、みんなの固定は済んだみたいだし……ここだ!
「解除、行くぞ!」
「アルマースさん! 『略:ファイアクリエイト』!」
「吹っ飛べ! 『アクアクリエイト』!」
真っ正面から俺の水の操作へ突っ込んできていたペリカンの攻撃は空振りになり、その真下から大きな爆音が轟き、ペリカンは上空へと吹き飛ばされていく。
俺らへも余波はあったけど、スリムさんがみんなを土に埋めた状態にしてたから、なんとか無事だな。ふぅ、流石は土の操作Lv10だね。直撃を受けた訳じゃないけど、昇華魔法でもしっかりと耐え切ってるよ。
<行動値10と魔力値20消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 102/124(上限値使用:1): 魔力値 270/310
<行動値を2消費して『水の操作Lv10』を発動します> 行動値 100/124(上限値使用:1)
とりあえず俺も、即座に水の操作を再展開! 連撃は多分使い切ったと思うけど、それでも他の応用スキルでの追撃の可能性はあるからね。てか、攻撃的過ぎてヤバいな、この敵!
「およ? 今のでHPが半分以上は削れてるねー」
「……攻撃性が高いだけで、魔法への耐久性はそれほど無いようですね?」
「回避行動もそれほどじゃないみたいだし、一気に攻めに転じるのがいいかもしれないね。まぁ今のは咄嗟に避けてはいたようだけども……」
「直撃前に、一気に真上に飛び上がってたからねー! 魔力視で昇華魔法には反応はするのかも?」
「シュウさんと弥生さんの見立てはそういう感じだそうだが、ジェイ、どうする?」
「……そうですね。ここは下手に守りを固めるよりは、攻撃に転じた方が良さそうですか」
「まだまだ行動値と魔力値は残ってるから、それなりには耐えられるぞ!」
一応、俺の状態も伝えてはおく! とはいえ、あんまり防戦一方で進めるのもよくはない状況だよな。ぶっちゃけ、1回でも今の水の操作を破られるとは思わなかったわ!
水の操作Lv10を、黒の刻印の剥奪以外の力技での突破とか……攻撃の威力が半端ない! それ以上に、瘴気で攻撃範囲を広げて、触れた場所の水を駄目にしてくるとかキッツいわ!
「わわっ!? 今度はチャージを始めたのさー!? 全身だから、突撃系なのです!?」
「……白光も放ってるし、あれはどうなってるのかな?」
「『守護』ならキャンセルを防がれるし、『剛力』なら威力がとんでもない事になりそうだね」
どっちだとしても、非常に攻撃的なのは間違いない。あー、また瘴気で大きな姿に変えているし……すごい厄介だな。全体的なバランスとしてはフィールドボス相当にはなってないけど、攻撃面については完全にフィールドボス相当な気がするわ! 下手すると、それ以上の攻撃特化型なんじゃね!?
「……決めました。スミ、ジャックさん、上空で飛んでいるあれに痛い一撃を叩き込みますよ」
「ふん、上等だ。それで具体的にどうする?」
「組み合わせ的に、魔法弾でも撃ち込む気か?」
「えぇ、そのつもりです。シュウさんと私のどちらかがアースエンチャントで土属性を付与しますので、そこに魔法弾にしたゲイルスラッシュを投げ込んで下さい」
「なるほど、弱点を強引に作る訳だね。ジェイさん、そこに白の刻印は必要かい?」
「白の刻印で増幅が可能なのであれば、それはお願いします。ジャックもそのつもりでお願いしますよ」
「あぁ、了解だ」
なるほど、付与魔法で弱点を作って、白の刻印で威力を高めた暴風魔法を叩き込む作戦か。持ってる属性や特性、ここまでの攻撃パターンから考えると、ほぼ確実に物理型だしね。
「弥生さんと斬雨は、撹乱をお願いします。あと、黒の刻印の低下をお持ちの方はいますか? 魔法への抵抗も下げておきたいのですが……」
「あ、それなら私は持ってるかな!」
「私も持っていますね」
「サヤさんと水月さんがお持ちなら……そうですね。私、斬雨、サヤさんの3人と、シュウさん、弥生さん、水月さんの3人で2手に分かれましょう。隙を見て、刻める方が黒の刻印を刻むという事でよろしいですか?」
「分かったかな! よろしくね、斬雨さん、ジェイさん!」
「おう、よろしくな!」
「僕らも頑張ろうか、弥生、水月さん」
「もちろんだね、シュウさん!」
「えぇ、やりましょう!」
なるほど、同じ役割を持つのを2つ用意か。まぁ用意周到なジェイさんっぽいやり方だし、有効な手段なのは間違いないね。攻撃の狙いに変化がある可能性も否定は出来ないし、とんでもない威力になる事を想定すれば、いい手段だろ。
「スミとジャックさんは攻撃の準備を!」
「ふん、任せておけ。『魔力集中』『魔法弾』!」
「さて、どの程度効くかはやってみての判断だな。『白の刻印:増幅』『ゲイルスラッシュ』!」
さて、攻撃準備は着々と進んでいるけど……この手段だと、確実に俺らの攻撃の方が後手に回る。そこは俺が耐え切るしか――
「レナさんとハーレさんで、あのチャージをキャンセルは出来ますか?」
「およ? んー、私は今、消去も剥奪をセットしてないんだけど……ハーレはある?」
「両方セットしてるから、どっちでもいけるのさー!」
「それならいけそうかも? あ、ヨッシさん、わたしがハーレを背負って突っ込むから、落とさないように氷で固定してもらえない?」
「あ、うん。それなら任せて!」
「それじゃ、妨害しに行くのさー!」
「よっと! それじゃヨッシさん、お願いね」
「了解! 『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」
別に俺に耐えるのを任せた訳ではなかったっぽいね。まぁそれでも、確実にキャンセルが出来るとも限らないけど……。レナさんが消去か剥奪が出来れば良かったんだろうけど、何をセットしてるかはその時次第だしなー。
「ジェイさん、キャンセルはいけると思う?」
「……どうでしょうね? 無事に辿り着けるかが問題なんですが……」
「およ? 足場の石が消えた!?」
「え!? それなら、私が持ち上げ……わっ!? 私の氷までちょっとずつ消えてる!?」
「わー!? これ、厄介なのさー!?」
あー、なるほど。肉体代わりに広げている瘴気に触れても、これまでと同じように足場が無効化されるのか。……近付くの、難しくね!?
「弥生、僕らは上に回り込んで落下しながら狙っていくよ。『アースクリエイト』『岩の操作』!」
「この状況なら、そうなるよねー! レナ、お手本ありがと! 水月さんも行くよー!」
「あ、はい! 分かりました!」
「弥生のお手本のつもりじゃないんだけどー!?」
あぁ、そうか。移動用の足場が消されるとしても、あの肉体の拡張に使っている瘴気には攻撃する時までは質量がないっぽいもんな。『瘴気汚染』にならないなら、自由落下で近付けば済む話か!
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