第1367話 刻瘴石の効果
どうやら生成から時間が経っていれば、『刻瘴石』に触れても特に異常は発生しない様子。まぁそうじゃなければアイテムとして持ち運ぶのには不便だもんなー。
さーて、スリムさんが生成した足場の端の方に弥生さんが取り押さえてくれているペリカンに『刻瘴石』を使う……前にこれは確認しとこうか。
「レナさん、Lv以外の識別情報も一応教えておいてくれない? どう変化が出るか知りたいし」
「およ? あ、それもそうだね。瘴気強化種なのは間違いないよー! 属性は無しで、特性は『大食い』『突撃』『強靭』『大型』の4つ!」
「……割とシンプル?」
「まぁ格上ではあっても、所詮はその辺にいる雑魚敵だしねー」
「あー、そりゃそうか」
とりあえず物理型の特性だという事は分かったし、大型なのは見ればすぐ分かる。全身に白い模様があるけど、ペリカンが元々白いから分かりにくいわ!
「さて、このペリカンがどう変わるのか……?」
ゾンビかスケルトンになるんだろうけど……どっちになるんだろうな? それ特有の特性も得そうだし、黒の異形種になったら改めて識別する必要もあるね。
「ゾンビになると思う人ー!」
なんかハーレさんが呼びかけてるけど……誰も何も反応しない。これは無視してる……訳ではないだろうね。少なくともサヤとヨッシさんが何も言わずにスルーするとも思えない。
「あれ? ゾンビだと思ってる人はいないのかな?」
「ホホウ! ゾンビよりは全身骨格の標本の方がイメージしやすいので!」
「なんとなくだけど、海だからゾンビだと勝手に崩れちゃいそうな予感もするんだよねー。だから、わたしの予想としてはスケルトン!」
「実際、海ではゾンビは出てこないって話だしねー?」
「レナさんの予想しているエリア環境が影響を与えるかどうかというのも、回数を重ねて調べていきたいとこでもありますね」
「おぉ! 適当に聞いただけなのに、結構考えて予想してたのさー!」
「適当に聞いたんかい!」
確かに予想外に分析した結果が返ってきてたけど、実際どうなんだろうな? 海中だとゾンビではボロボロになってる肉体が勝手に崩れ落ちていくのは本当にありそうだし、弥生さんが言ってたけど海ではゾンビは出てこないみたいだしなー。
「私としてはどちらでも構いません! どちらにせよ、これまでは存在していなかった異形の姿になる確率は高いでしょうし、ケイさん早くお願いします! この変化は余す所なくスクショに収めていきますので!」
「……ほいよっと。レナさん、また識別を頼んでいい? えーと、多分進化後でいいのか?」
「識別は任せて! んー、黒の異形種自体が進化の失敗みたいな形ではあるけど、一応は進化でいいんじゃない?」
「まぁそれなら一応進化と呼ぶとして……弥生さんは『刻瘴石』を使って進化が始まったらすぐに離れてくれ」
「それはいいけど、ケイさんもまとめて運ぼうか? 近くに残るの、どうなるか分からないから危ないよ?」
「あ、それなら一緒に頼む!」
「うん、それじゃケイさんも回収して離れる感じでいくね!」
「よろしく!」
という事で、スリムさんが生成した土の足場を歩いて、弥生さんが抑え込んでいる巨大なペリカンの元へと近付いていく。フィールドボスの誕生の時は『瘴気石』を目の前に置けば勝手に食べてくれたけど、『刻瘴石』はどうなるんだろう?
「おわっ!?」
「わっ!? 急激に暴れ方が強くなったね!?」
「弥生、大丈夫かい?」
「うん、これくらいなら全然大丈夫! 暴れ方が変わって驚いただけだから!」
目の前まで行ったら、急に暴れ方が酷くなるから俺までビックリしたわ! まぁ弥生さんが全力で抑え込みにかかったら、流石に暴れる余地もなくなったっぽいけど……いや、それでも暴れまくってはいるなー。逃げられてないだけで。
「なんか俺が近付く度に暴れ方が酷くなってね?」
「……『刻瘴石』を嫌がっているように見えますね。これは食べさせるのは出来そうにないですか」
「どう見てもそうだよなー。おし、頭に押し付けるか!」
「えぇ、それでいいと思いますよ」
という事で、更にペリカンに近付いて……あー、なんか暴れるというより怯える感じに震え始めた? そんなに嫌か、黒の異形種に進化するのって。……まぁゾンビやスケルトンにはなりたくないよねー。だからって、止めないし、そのままやるけど!
「おし! これでどうなる?」
明らかに様子がおかしいペリカンの頭に『刻瘴石』を押し当てて、離して後ろに少し下がって様子を確認! 『刻瘴石』が砕けて、幾つもの破片に分かれて……それが頭の中に入って、なんか禍々しい色の血管みたいなのが全身に広がって脈打ち始めた。あー、見た目が良い印象のない光景だな、これ!
「あ、動きが止まったし、ケイさん、少し離れるよー!」
「ほいよっと!」
明らかに見た目がヤバい様子だから、弥生さんに咥えられてアルの木の根本まで一気に移動。スリムさんが生成した足場は結構広いけど、それでも取れる距離に限度があるのは仕方ないな。
「これはまさしく異形への進化という光景ですね! 全身へと禍々しい瘴気が脈打ちながら広がり、その身を蝕んでいる様子です! 瘴気強化種の力の源泉は瘴気なのでしょうが、これは瘴気の量が多過ぎて残留している精神生命体の力が暴走した状態の発露という事でしょうか!? そうなると、肉体が残るゾンビよりも骨だけとなるとスケルトンの方が状況としてはより酷い状況と言えるのでしょうか? おぉ、苦しそうな雄叫びを上げながら、ペリカンの羽根が抜け落ち、肉も削げ落ちていってますね! これは非常に興味深い光景です!」
もう今日で何度目なのか分からないルストさんの語りだけど……まぁ状況は的確に説明してくれてるし、別にいいか。あちこちに動きまくってスクショを撮りまくってるのは今更だしなー。まぁそれはいいとして……。
「この演出、駄目な人はとことん駄目なんじゃ……? 結構グロいぞ?」
「この手の光景が苦手な方は、今のうちに自己申告をお願いします! 無理に戦闘しろとは言いませんので!」
「アーサー、大丈夫ですか?」
「うん! これくらいは大丈夫!」
年齢的に問題がありそうなのはアーサーだけど、保護者の水月さんが一緒にいて許可を出してるなら問題なし! モンエボ自体は確か元々15歳以上が対象だっけ? オフライン版もオンライン版も両方そうだったと思うけど……この辺は保護者の許可ありなら問題ないんだよなー。
18歳以上のは、保護者の同意は別の意味で取りにくいけど……そもそもそっちは保護者の同意があっても駄目だったか? あー、規制の内容の方向で違ってた気がする。グロ系はフィルターをかける事でいけたような?
てか、この手のゾンビやスケルトン用にも苦手生物フィルターがあるんだっけ? それを使っておけば、この進化の様子も違って見えるんだろうけど……それでも念の為に言っていこう!
「ジェイさんも言ってるけど、苦手なら今のうちに申告してくれ! サヤ、ホラー系は苦手じゃなかったか?」
「駄目なのは幽霊系かな! この手のは大丈夫! 時々、変な深海魚とかは見るし!」
「あ、そうなのか……って、深海魚!?」
「うん、親戚の人が漁で取れたのをたまにね?」
「……なるほど」
深海魚って変な姿のものも多いし、それを直接見る機会があれば平気にもなるか。ネットで見るだけでも変な深海魚って色々いるしなー。
とりあえずサヤが平気で、他に申告してくる人がいないなら大丈夫と考えてもよさそうだね。後で駄目って言われても、確認はしたんだからそこは知らん!
「徐々に肉が落ちていってますし、これはゾンビ通り越してスケルトンでしょうか!? いやー、これは中々にいい光景ですね! 壊れゆく最中でしか出てこない、破滅への絶望の表情が素晴らしい! 生きているものの生命力が溢れる光景もいいですが、それとは真逆の光景もまたいいものです! このような光景はリアルではまずお目にかかるものではありませんし、倫理的にも問題がありますからね! 今こそ、思う存分に撮影させてもらいましょう! おぉ! 姿が完全に変わり終わりましたか!? この姿、完全にスケルトンですね!」
微妙にルストさんが怖い事を言ってる気がするけど……どうやら進化はここで終わりっぽいし、戦闘開始といきますか! まずはレナさんに識別してもらって、動き方を決めて――
<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『異形を生み出すモノ』を取得しました>
<スキル『瘴気属性強化Ⅰ』を取得しました>
<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『異形を生み出すモノ』を取得しました>
<スキル『瘴気属性強化Ⅰ』を取得しました>
ちょ!? 称号を得るのはそれほど予想外ではなかったけど、ここで『瘴気属性強化Ⅰ』が手に入るのか!? ……強化されると、どうなるんだろ? 耐性じゃないけど、瘴気汚染にはなりにくくなったりする? 扱いやすくはなるタイプのスキルだろうし、そういう恩恵はありそうな気がするけど……。
「……およ? 『刻瘴石』では称号取得になるのに、『刻浄石』では称号取得はなしなんだ?」
「あ、言われてみれば確かに……?」
「……何か他に満たしていない条件でもあるのかもしれませんが、その辺の話は後にしましょう! 瘴気を纏って翼を作り出していますし、飛び上がりますよ!」
「確かに考えるのは後だな! レナさん、まずは識別を頼んだ! みんなは、識別情報が分かるまでは防御を固めるつもりで!」
「サッと確認しちゃうね! 『識別』!」
って、いきなり攻撃を仕掛けてきてる!? ちょ、その羽根や肉が無くなった代わりに翼にしてるっぽい瘴気を飛ばしてくるとかあるの!? いや、ちょっと違うな!?
「この攻撃は俺が水で受ける!」
「任せます、ケイさん!」
迷ってる猶予はなさそうだから、大丈夫な可能性の高い俺のLv10の水の操作で!
<行動値10と魔力値20消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 114/124(上限値使用:1): 魔力値 290/310
<行動値を2消費して『水の操作Lv10』を発動します> 行動値 112/124(上限値使用:1)
俺ら全員を覆うようなバリアみたいな感じで水を大量生成! どういう性質の攻撃か分からないから……って、飛ばしてきた瘴気がデカい嘴みたいな形に変わって、水に噛みついてきた!?
「……これは、特性『大食い』に関係あるスキルを瘴気で範囲の拡大をしているようですね。ケイさん、水の操作は大丈夫ですか?」
「Lv10の操作を舐めるなよ、ジェイさん! まだまだ全然平気だ!」
「まぁそうでしょうね。Lv差はあれども、今の段階ではプレイヤー側の最高峰のスキルですし、ノータイムでの攻撃で破られたら堪りませんよ」
「ですよねー。どっちかというと、今のは触れた方がヤバそうだしな」
「受けてみて『瘴気汚染』になるかどうかを確かめてみたいところですが……あまり油断出来る相手ではないでしょうから、今は止めておくのが無難ですね」
「だなー。あ、フラム。突っ込んできてもいいぞ?」
「それ、俺に実験台になれって言ってねぇ!?」
「いやいや、違うぞ。生贄になれって言ってる」
「もっと酷いわ!」
俺らはいつも囮扱いだから、そう酷い事でもないと思うけどなー。まぁその辺はフラムには期待してないし、大真面目に倒す手順を考えていきますか!
「レナさん、識別情報をよろしく!」
「だねー! えっと、名前は『大骨ペリカン』でLv17! 属性は『瘴気』と『侵食』! 特性は『大食い』『突撃』『硬骨』『大型』『斬撃耐性』『雷属性耐性』『毒属性耐性』だね! 多分、さっきの攻撃が新しい属性『侵食』効果かも?」
「明確に属性名が付いてからの戦闘だし、その可能性は高いよなー!」
属性『侵食』の効果が具体的にどういうものかが知りたいとこではあるけども……って、あれ? なんか、ちょっとおかしいような?
「これ、フィールドボス相当か? 識別情報、『旗頭』も『豪傑』も、それに相当しそうなのは無しだったよな?」
「あくまでそこは推測だったし……強さは別方向に調整されてる可能性はあるかも?」
「さっきの攻撃が、どう考えてもヤバそうな気がするのさー!」
「……ケイ、水の操作は本当に大丈夫なのかな? まだ噛みついたままだけど……」
「あー、まぁ操作時間の削れ方は大した事は……って、はい!?」
「え、ケイさんの水に瘴気が混ざっていってない!?」
待て、待て、待て!? 操作時間は削れてないけど、瘴気が混ざった一部の操作が強制的に不可能になっていってるんだけど!? くっ、侵食ってこういう事か! 黒の刻印とは違って、相手のスキルを直接妨害してくる性質っぽい! この力で群集支援種を乗っ取ってたのかも?
ヤバい、ヤバい、ヤバい! 嘴の形をした瘴気に噛みつかれている位置の水が徐々に減ってるから、追加生成で補修していかないと! くっ、普通の昇華の生成範囲だったらもう破られてるだろ、これ!
「ケイさん、そのままペリカンの攻撃を引きつけておいて下さい。それと今回は、指揮権をもらいますよ」
「へ? そりゃいいけど、なんでまた?」
「この状況、ケイさんは防御に専念してもらっていた方がいいでしょうからね。その攻撃を止めている間に、私の方で討伐方針を決めていきますよ」
「あー、そりゃそうだ。シュウさん、弥生さん、それでいいか?」
「僕はいいけど……弥生もいいかい?」
「問題ないよー! ジェイさんに指揮は任せましょう! ジェイさん、よろしくね」
「えぇ、了解しました」
ここは一先ずジェイさんに任せる事で決定! ジェイさんの指揮で戦闘をするのはなんか新鮮な気もするし、お手並み拝見といきますか!
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