第1366話 刻瘴石を使う為に
<『名も無き未開の河口域』から『名も無き未開の海岸』に移動しました>
纏瘴を解除して、河口域から海岸へとエリア切り替えは完了。時間が23時を過ぎたから、少しずつだけど夜が明けてき始めた。完全に夜が明けるまでには検証を終わらせないとなー。
弥生さんやシュウさん、水月さん、アーサー、ジェイさん、斬雨さん、ジャックさん、マムシさんは海中へと入っての移動を開始。サヤもハーレさんとヨッシさんを連れて下へ降りていったし、アルのクジラの上には俺、レナさん、フラム、スミ、スリムさん。ルストさんだけは、空中に浮かせた石からぶら下がってるけども。
「およ? 誰かいるね?」
「あ、マジだ……って、あれ、十六夜さんなんじゃ?」
「おぉ! 確かに十六夜さんなのさー!」
距離が遠いからパッと見では分かりにくかったけど、やっぱり十六夜さんか! 空中に浮いて、海面を見下ろしながらどんどん沖の方に進んで行ってるっぽい?
「何をやってるのかな?」
「十六夜さんの事だからソロで戦っているんだろうが……おい、もしかして完全体狙いって事はないか?」
「十六夜さんならありそうかも?」
「あー、確かに」
ベスタも称号『格上に抗うモノ』の上位版がある可能性を考えてたし、実力者なら試してみようと思っても不思議じゃないよな。河口域に居てLv上げをしてて、さっきの情報共有板の内容を見て試しに動いてもおかしくない!
「ケイさん、気になるのは分かるけど、僕らも僕らの検証をしていかないと時間がどんどん遅くなるよ?」
「そりゃそうだ!? スミ、明るくなってきてるし、明かりはもう無くていいぞ!」
「……それもそうだな。解除しておくか」
これでアルの下を照らしていた光は消えたけど……別に問題はないよな? 元々、夜目でも見えない訳じゃないし、太陽が出てきて海中も俺でも見やすくなってきてるくらいだし――
「んー、流石に擬態をしてない個体の方がいいから、少し先に進もっか。十六夜さんの邪魔しても嫌だから、少し離れた方向がいいよね」
「だなー。ルストさん、どの方向に何があるとかって分かる?」
「北へ行けば、徐々にですが深くなりますね! 東か西に進むのであれば、特に深さは変わらないですよ! 西には向かった事はありますが、東には進んだ事がないのですが!」
「はい! 西はどういう特徴がありますか!?」
「西でしたら、徐々に岩が点在してきますね! その先にはタイドプールになる海岸エリアへと繋がっていますよ!」
ふむふむ、西へ行けば岩場に繋がっている感じか。東がどうなっているかも気になるけど、ルストさんがその情報は持ってないのは仕方ないね。
というか、そこまで遠くに行く予定ではないしなー。途中で丁度いい敵が見つかれば――
「ケイさん、擬態の個体はいらないよね?」
「流石に性能を確かめるのには使いにくいからパスしたいけど……弥生さん、もう見つけた?」
「うん、タコをねー。でも、使いにくいならスルーで!」
「黒の異形種というものは、骨やゾンビになるという話でしたよね!? 私は競争クエストには全く参加していなかったのですが、そのような敵があちこちに出てきていたのであれば参加していた方がよかったかもしれません! 確か、弥生さんとシュウさんが以前やっていたゲームでライバル関係にあった人達も来ていたそうですし、その戦闘の光景を是非見てみたかったのですが――」
「……ルストさんは、『彼岸花』『ラジアータ』『リコリス』という3人をご存知なのですか?」
「その名前自体は聞いたばかりではありますが、知ってはいますよ、ジェイさん! 私自身はその頃、途中で受験の真っ最中になったのでずっとやっていたゲームではなかったのですが、赤のサファリ同盟の皆さんでオフライン版のモンエボ以外で何かオンラインゲームを一緒にやろうという話になって始めたゲームでの事ですからね! その時のライバルギルドの主戦力の相手がその3人だという話ですよ!」
「ルスト、多少の話はいいけども……ゲーム名までは言わないように。正直、知られたくない事ではあるからね」
「あぁ、そういえばシュウさんは……危ない、危ない! この内容こそ、シュウさんも弥生さんも知られたくない内容ですね!?」
あー、あの3人って明確に他のゲームでライバル的な立ち位置にいたギルドのメンバーなんだな。勝ち逃げは許さないみたいな話はあったけど……そういやシュウさんって他のゲームをBANになるくらいの大暴れをした事もあるんだっけ?
あれ、もしかして……その手の騒動ならどこかのサイトで事件として纏められてたりする? あー、聞かれたくない事みたいだし、その辺の追求は流石にやめとこ。
「流石にこの話題は迂闊な事を言うとマンションから追い出されかねないので、やめておきましょう! 夜も明けてきましたし、そろそろ本格的に海鳥が飛んでき始める可能性もありますね! 折角ですし、そちらを狙ってみるのも如何でしょうか?」
「おぉ! 海鳥を黒の異形種にするのー!?」
「およ? 確かにありと言えばありかも?」
ふむふむ、確かにこの手の浅い海のエリアで海鳥とまともに戦った事はないし、相手としては悪くないか? 鳥なら海中で泳いで距離を取られる事はそうないだろうし、空中戦自体はメンバー的には問題ないはず。むしろ、中途半端な浅さの海での水中戦よりはやりやすいかも?
「ゾンビになるか、骨になるかが問題かな?」
「それは実際にやってみないと分からないけど……どうなるんだろうね?」
「ありだとは思うが、ケイ、どうすんだ?」
「半端な水中戦になる可能性も高い場所だし、空中戦に絞った方がやりやすい可能性はあると思うから俺的にはありだけど……シュウさん、ジェイさん、どう?」
「……確かに、この種族によって浅いとも深いとも言える水深での戦闘は微妙ではありますね。水中戦が完全に初めてになるスミもいますし……」
「おい、ジェイ! 俺が戦力外になるとでも言う気か!?」
「そこまでは言いませんが……戦い方が普段と違うものになるのは間違いないですよ? Lv16以上のフィールドボス相当と考えるなら、捕獲も容易ではないでしょうしね」
「地の利を与え過ぎないという部分は利点なのは間違いないだろうね。投擲系のスキルは水中では威力は落ちるという側面もあるよ」
「という事ですが、スミ、異論はありますか?」
「……ふん、そういう事なら構わん。だが、そう都合よく瘴気強化種の鳥がいるのか?」
「以前来た時に何体か倒しているので、それがなっていてくれればいいんですが! あ、ちなみに誰が倒したかというのを確認する術がないので絶対にとは言えませんが、初めからある程度は瘴気強化種も配置はされているようですね! 今まで、何度か見かけはしましたし!」
「何気にルストさん、ここで敵を倒してるんかい!」
いや、あれだけ無茶苦茶な動きが出来ていれば雑魚敵なら格上でも撃破は可能か? でも、ルストさんってスクショを撮るのには拘るだろうけど、わざわざ格上の敵に突っ込んで倒すなんて事を――
「あぁ、倒したと言っても完全体からの攻撃に巻き込む形でですけどね! 私もその時に死にはしましたが、巻き添えに散っていく海鳥の群れというのも撮ってみたかったので――」
「巻き込んだだけかよ! あー、でも納得……」
完全体のスクショを撮って、それで襲われて……そこから逃げながら周囲にいた海鳥の群れを巻き込むスクショを撮るって、それはそれで無茶な事をしてるな!? ルストさん、実は『格上に抗うモノ』の上位の称号に有無を知ってる可能性がありそう。これ、聞いたら教えてくれないもんかね?
「そう言ってる間に、少し先から普通の色合いのペリカンが飛んできたぞ。あれを使うか?」
「おっ、マジだ! スミ、ナイス発見! アル、あれを捕獲するから近くまで移動で!」
「おうよ!」
「……この程度は他の連中も気付いてただろうがな」
「およ? そこは素直に受け止めとけばいいんじゃない?」
「……ふん」
なんというか、スミってどうも素直じゃないような印象を受けるよなー。まぁそれが悪い訳じゃないんだけど……まぁ今はその辺はいいか。なんとかあのペリカンを捕まえて、対象として使えるかを識別して確認しないとね。
「んー、擬態ではない個体だけど、目視で確認しても発見報酬は出てないから瘴気強化種の可能性は高いよね? まだ残滓の可能性はあるけど、候補としてはありっぽいよね、シュウさん?」
「確かにね。ケイさん、僕と弥生で捕まえてくるから、『刻瘴石』の使用は任せていいかい?」
「持ってるのは俺だし、そこは問題なし! あ、足場はいる?」
「無くてもなんとかなるけど、あった方が後々はやりやすいかも?」
「確かにみんなが乗れる足場があった方がやりやすくはあるかもしれないね」
「よし、それじゃその方向でいこう! スリムさん、シュウさんと弥生さんがペリカンを捕まえてきたら、アルのクジラの背中を拡張する形で土の足場の生成をよろしく!」
「ホホウ! それは了解なので!」
よし、こういう時には土の操作Lv10の効果が存分に発揮出来るね。俺の水の操作でも足場には出来るだろうけど、しっかりとした足場としては土の方が遥かに上だしな。スリムさんがいてくれて助かるし、それに合わせて指示を出していこう!
「海水の方にいる人達も、足場を展開したらそっちに移動で! 戦場はそっちに固定して、そこから空中へと攻撃を仕掛ける!」
「おっし! 分かったぜ、ケイ!」
「了解だよ、コケのアニキ!」
「海岸で空中戦になるとは思いませんでしたが、まぁそれもいいですね。やりますよ、斬雨」
「俺としては、いつも空中戦みたいなもんだしな。骨になろうが、ゾンビになろうが、叩き斬ってやるまでだ!」
みんな、これからの戦闘への気合は十分。不安要素であるフラムの電気魔法も、空中戦であればかなり安全にはなるだろ。
さて、そうしてる間にペリカンにかなり近付いてきたけど……デカいな、このペリカン!? ちょ、2メートルくらいないか!?
「およ? 海で距離感が狂ってるかと思ったら、ただ単にペリカンが大きいだけだね!?」
「これは大物だね? 弥生、いけるかい?」
「私も大きくなるから、そこは問題なしだよ、シュウさん!」
そう言いながら、スキルの発声はなしで大きくなっていく弥生さんの黒いネコである。うん、こっちも2メートルを超えてそうだし……メスのライオンやヒョウ辺りを大きくして真っ黒にしたらこんな感じか。
「さーて、それじゃ捕獲を始めよっか! シュウさん、お願い!」
「行くよ、弥生。『アースクリエイト』『並列制御』『ウィンドインパクト』『土の操作』!」
おー、弥生さんにウィンドインパクトをぶつけて吹っ飛ばしながら、その先に小石を生成して、その上を一気に駆け抜けてるな!? 初速をこれで作り出して……あ、『飛翔疾走』に切り替わったっぽい? あっという間にペリカンの元へと辿り着きそうだけど……ダメ元でちょっと聞いてみるか。
「シュウさん、弥生さんの『飛翔疾走』ってLv10? 霧の森で逃げ切れなかったのが、不思議なんだけど……」
「ん? あぁ、確かにその通りだけど……詳しい効果内容までは教えないよ」
「ですよねー。まぁLv10だと分かっただけでもいいや」
「僕としては、あれでも追いつけなかったケイさんの逃げっぷりの方が凄まじいとは思うけどね。まぁ次は逃がさないよ?」
「いやいや、それは遠慮しとくから!」
あの逃げた時は相当な無茶をしてギリギリ生き残っただけだしな!? あっさりと弥生さんの『飛翔疾走』がLv10だという事は認めてきたけど……あの時に使ってたのは『飛翔疾走Lv10』だけで、まだ他にもその時に得た別のスキルを隠し持ってそうな予感。
「……何の話かと思ったら、インクアイリーとの一戦の時での乱入の話か?」
「そうなるね、ジャックさん。あの時は共闘になる場所へケイさん達に逃げ切られて……ケイさん達、凄い逃げ方をしてたからね」
「……なるほどな」
「ふん、俺らのお陰で命拾いをしただけか」
「スミのその言葉、あながち間違ってないんだよなー。いやー、あそこでインクアイリーと戦っててくれて助かった!」
「……そこで礼を言われると、何とも微妙な気分になるな」
だろうねー。俺らとしてはあの共闘へ突入出来る状況が唯一の活路だったから、あれがなければシュウさんと弥生さんに仕留められてた可能性は極めて高い。あの時、安全圏に送り返されていたら、勝敗はどうなってたんだろうね?
「よし、捕獲完了! レナ、識別しちゃって!」
「任せて、弥生! 『識別』! おっ、Lv17の瘴気強化種だね。条件は満たしてるから、持って降りてきてー!」
「うん、了解!」
おー、上空で見事にペリカンの首を咥えて捕獲してるよ。流石は弥生さん。おっと、もう小石を足場にして降りてきてるし、今のうちに足場を用意しないとなー!
「アル、移動はストップ! スリムさん、足場の生成を頼んだ!」
「おうよ!」
「ホホウ、了解なので! 『並列制御』『アースクリエイト』『アースクリエイト』『並列制御』『土の操作』『土の操作』!」
ペリカンに近づく為に移動していたアルが止まり、そこへスリムさんがグラウンドのような土の足場を生成していく。土属性って他のゲームじゃ人気の高い属性ではないけど、このゲームでは汎用性が高くて便利だよなー。俺も土の操作Lv10が欲しいけど……流石にそれは遠いかも?
「よっと! ただいまー! ケイさん、『刻瘴石』の使用をよろしくね!」
「ほいよっと!」
インベントリの中から以前生成した時に預かった『刻瘴石』を取り出して、ロブスターのハサミで挟んで持つ! そういやこれって生成した人以外が触れたら『瘴気汚染』になってた気がするけど……どうなんだろ? よし、すぐ近くにいるフラムのツチノコの上に置いてみて……。
「……何やってんだ、ケイ?」
「あ、瘴気汚染にはならないんだな? なるほど、ああなるのは生成直後だけなのかも」
「なんか実験台にされたのか、今!?」
「まぁそうだけど……ここからは戦力にならないんだから、それくらいは役に立っとけよ」
「俺の扱い、雑過ぎじゃね!?」
ぎゃーぎゃーうるさいフラムは置いておいて、今度こそペリカンに『刻瘴石』を使っていきますか! さーて、ほぼ確実に戦闘になるだろうけど……強さはどんなもんだろね? ま、それを確認する為の検証だし、やれば分かるか!
――――
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