第1365話 検証の続き
さて、群集のみんなへの報告は終わり! まさか魔法弾にした応用魔法スキルの件で目撃者がいたとは思わなかったけど、再現が早くて助かったもんだね。
「あ、レナさん。魔法弾の件、誰かが見てたのって気付いてた?」
「あれなら、多分だけど十六夜さんだねー。ちょっと離れた位置を、目立たないように通っていくヤドカリは見かけたし!」
「……なるほど」
知らない誰かかと思ってたら、思いっきり知ってる人だった! あー、十六夜さんならここをソロでも進めるだろうし、見たとしても匿名の報告欄に報告を上げるよねー。うん、なんかすごく納得してしまった。
「おや、割と近くを通っていたヤドカリの人がどうかしたのかい? 確かケイさんが清水魔法を使っていた時にこっちを見てた気がするけども」
「あー、魔法弾の件が既に報告が上がってたもんで……。てか、シュウさんも気付いてたんだ?」
「しっかりと名前までは見てなかったけど、まぁ灰の群集のプレイヤーである事くらいはね」
「……あの時、十六夜さんがいたのには気付きませんでしたね」
「ジェイさんは気付いてなかったかー」
「えぇ、まぁ。今回の検証は、特に人目を気にする必要もありませんでしたから、戦闘に影響が出る距離にいるからどうか以外の点では気は配っていなかったですしね」
「まぁそんなもんだよなー」
あの時の獲物察知の担当は俺だったけど、他のプレイヤーの反応があっても近く過ぎなければ気にしてもなかったもんね。実際、それで特に問題はなかった……とも言えないのか。見てたのが十六夜さんで、灰の群集だったからよかっただけの話……。
いや、でも他の群集の誰かに見られるのを気にしてたら、占有エリア以外で戦闘なんか出来んわ! あの時は俺としてもどういう結果が出るか分かってなかったんだし、そこはどうしようもない事だ!
「さてと! その辺の話題は終わりにして……シュウさん、ジェイさん、それぞれの群集の判断はどうなった? 俺ら、灰の群集は共同検証は続行って事になったけど」
「青の群集も同じ結論ですね。インクアイリーといった群集の枠組みを超えて活動する集団がいる以上、間近に対戦を控えている訳ではない状況で隠す意味はないという流れになりました」
「およ? 青の群集もインクアイリーの事は気にするんだ?」
「……むしろ、検証を主に行う集団と判明しているのに、気にしない理由が何処にもないですよ? あわよくば、協力の申し出をしたいところではありますが……」
あー、考えてる事が思いっきり同じだな。まぁ青の群集の中にもインクアイリーとの接点がある人もいるだろうし、競争クエストで直接引っ掻きましてきた相手以外なら協力は出来る可能性はあるよな。オリガミさんとか、普通に傭兵として協力してくれたしさ。
「ん? インクアイリーの人達と話がしたいなら、私達の方から話を通すのは出来るよ? いけるよね、シュウさん」
「まぁ何人かはリアルでの連絡先は知っているし……そもそも、ご近所さんもいるからね」
「そーなんだよねー。大家のわたしを除け者で、色々画策してるとかさー!」
「……はい? え、レナさんのとこのマンションに住んでる人がいるのか!?」
「うん、いるよー。個人情報だから、誰かまでは流石に言えないけどね」
「……マジっすか」
うっわ、予想外のところからとんでもない繋がりがあったな!? 明確にインクアイリーのメンバーだと言えるのは何人か遭遇してるけど……その中の誰なんだろ? あ、そもそもあの時に会った人の中にいるとも限らないのか。俺らが直接は戦ってなくても、他にもメンバーはいたはずだろうし……。
「非常に気になる情報ですし、もし手をお借りしたい時は連絡を頼む事はあるかもしれませんが……今は置いておきましょうか。シュウさん、赤の群集の方はいかがです?」
「僕らの方はインクアイリーの名前は出なかったけど、ケイさんやレナさんが関わっている時点で拒否的な反応はなかったよ。警戒もされているけど、それ以上にウィルさんやルアーさんに信頼されているね、ケイさん」
「……そりゃどうも」
「どういたしましてだね!」
なんかそういう風に言われると気恥ずかしいんだけど!? まぁ確かにそうなる心当たりは色々とあるけども……その割には競争クエストの時は容赦ないな!? まぁそこで変に手を抜かれる方が嫌だけどさ!
「むしろ、ウィルさんにはジェイさんに偽の情報を掴まされないようにと警戒されたくらいだね」
「……あの方にそれは言われたくはありませんけどね。まぁウィルさんやルアーさんがケイさんを信頼するのは当然ではありますか」
「ジェイ、それはどういう意味だ?」
「あぁ、そういえばスミはその頃にはまだいませんでしたか。今でこそ赤の群集は『リバイバル』が実権を握って安定していますが、内情が崩壊していた時期がありましてね?」
「……それくらいは知っている。だが、それになぜケイの名前が出てくる?」
「赤の群集の安定化に、ケイさん達が絡んでいるからですよ。今でこそ赤の群集の作戦参謀となっているウィルさんですが、一時は無所属へ追放されていますからね」
「そんな事もあったよなー」
ウィルさんが自分が全ての責任を背負ってBANされたように見せかけて引退しようとしてたもんなー。俺が関与したというよりは巻き込まれた形にはなるんだけど……レナさんのあの邪悪なスライムの排除の方が影響は大きくない?
「……ふん、そういう事か。それで今の立ち位置にいるという事は……共同体名が『リバイバル』なのはその辺が由来か?」
「ざっくりと言えばそうなりますね。まぁ他にも色々とあるとは聞いていますが……今は関係ない話ですので置いておきますよ」
「あぁ、それで構わん。信頼の根拠が知りたかっただけだ」
ふむふむ、スミは後から始めたって聞いたし、そういう人はあの頃の赤の群集の騒動って知らないんだなー。こうやって振り返ってみれば、すっかりと赤の群集の立て直しは成功したもんだね。
「わっはっは! その立て直しには俺らも頑張ってたからな!」
「さてと、それぞれの群集の方針は共同での検証に同意みたいだし、続きを――」
「おいこら、ケイ!? 盛大に無視は酷くねぇ!?」
「普段よりちょっと遅めになるってのが分かってるんだから、無駄な事に時間をかけられるか!」
「ちょっとくらい良いじゃねぇか!?」
「あー、水月さん、こいつが明日遅刻してきたら報告するから!」
「えぇ、もしそうなった場合はよろしくお願いしますね、ケイさん」
「ちょ!? ケイ、それは卑怯じゃね!?」
卑怯も何もあるか! てか、これ以上は本気で脱線し過ぎるから、軌道修正! 次の内容はかなりの高確率で戦闘になるんだし、その辺は注意いないと!
「ケイさん、シュウさん、瘴気汚染と過剰浄化の方はどうなっていますか? もう重度ではなくなっているのでは?」
「僕はもう解除になっているから大丈夫だね」
「ん? あ、いつの間にか単なる瘴気汚染へ軽減になってるし、これなら纏瘴は解除出来るから俺も問題なし! そういや、『刻瘴石』の生成はどうする? 必要ならこれから俺が瘴気魔法をぶっ放してみるけど」
「……今回の生成はやめておきませんか? 既に1個は存在していますし、更に1個を生成すると扱いがややこしくなるでしょう?」
「あぁ、確かにそれはそうだね。2戦やるつもりならいいけども、時間を気にするなら厳しいだろうしね」
「あー、確かに……」
少なくとも『刻浄石』で明確にこれまでと違う成果が出たんだし、『刻瘴石』でも何かが起こるのはほぼ確実。あ、でもそうなると……1つの群集だけで半覚醒の相手をしてみる件はどうなるんだろ? てか、これも報告しそびれてる内容だ!?
「はい! 1つの群集で『刻浄石』を使ってみるのはどうしますか!?」
「そちらを優先したいので『刻瘴石』の生成は、今回は見送りという提案ですね。『刻浄石』の生成はジャックさんにしてもらおうかと思っていますが、いかがです?」
「おや、僕じゃないのかい?」
「……それは初耳なんだが?」
「えぇ、今初めて言いましたからね。その検証の実行役、灰の群集に任せようかと思いまして……その際に戦力外になるのは、赤の群集と青の群集の方が良いでしょう?」
「なるほど、そういう理由か。それなら青の群集は俺かジェイの2択になるが……赤の群集はシュウさんか?」
なんかシレッと灰の群集が実行役になってるんだけど!? いやまぁ、PTでまとめて逃げて対応しやすいのは俺らになるのか? もし仮に半覚醒になったのが味方ではなく戦闘になったとしても、少し距離を取ってから連結PTにしてみんなで戦うという方法はありなはず!
あれ? でも、戦闘をするのを見越すのであれば……戦力外になる人って他の群集の人の方が避けるべきなんじゃ? あ、何か別の目的があるな、これ!?
「僕以外に風の昇華持ちはいないから、そうなるだろうね。ただ、まだ僕は『纏瘴』も『纏浄』も使っていないから、浄化魔法の発動もアブソーブでの生成のどちらでもいけるから……どっちをするかは応相談だね?」
「あぁ、そうなるだろ――」
「いえ、ジャックさんはアブソーブ・ウィンドの発動をお願いします。もし仮に風の浄化魔法に『風属性強化Ⅲ』の効果が出てシュウさんが吸収し切れないと困りますからね」
「……そこの確認が狙いかよ。あー、それじゃ俺がアブソーブ・ウィンドで、シュウさんが風の浄化魔法でいいか?」
「僕はそれで構わないけど……ケイさん達は、実行役を引き受けるかい?」
ジェイさんに目論見自体はあったけど、今のは俺ら灰の群集に対するものじゃないな? 共同検証だから疑うのもあれなんだけど……ジェイさんって油断ならないから、なんとも不安になってくる! まだ他に何かありそうな予感がするし……。
「そう警戒しなくていいですよ、ケイさん。灰の群集に実行役を頼むのは……ルストさんとフラムさんが不安要素なだけなので。どうしても嫌なのであれば私の方でやりますが、共同でやる以上は役割分担も必要かと思いましてね?」
「ちょ!? 俺って不安要素!?」
「私は外してくれた方がありがたいですね! その方が気兼ねなくスクショを撮っていられますし! 半覚醒へと変わっていき、場合によっては戦闘が発生しないというのであれば、それは是非とも無関係な場所から撮影したい光景です! アルマースさん達であればまとまった状況で一枚のスクショに収める事も可能なので、それは是非とも狙いたい一枚ですね! 戦闘になると私も戦う必要はあるでしょうが、その時はその時になって考えれば済みます!」
うん、フラムとルストさんが、ジェイさんにとって不安要素なのはよーく分かった。てか、確かにこの状況なら本当に頼みたくはないなー。特にフラムには戦わせたくない! でも、これもいけるはず?
「風の昇華なら、ハーレさんが使えるけど?」
「その通りなのさー! 私のクラゲは昇華持ちなのです!」
「あ、そうだったのですか。ですが、ジャックさんの『風属性強化Ⅲ』がアブソーブ・ウィンドに与える影響も確認したいんですよ」
「……そっちの確認も狙いかよ!」
あー、そうなるとジャックさんがアブソーブ・ウィンドを使うのは確定で……赤の群集には不安要素があるのは変わらないか。戦闘離脱になるのがシュウさんとジャックさんの2人っていうのは痛いけど……。
「って、ちょい待った!? 順番的に『刻瘴石』を使う検証が先じゃね!? 今の段階で、『刻浄石』の生成で2人も戦線離脱させる理由はないよな!?」
「あぁ、これは言いそびれていましたか。『刻浄石』の生成とその使用をやるのは最後のつもりですよ。『刻瘴石』の生成はやめておこうというのも、ケイさんが戦線離脱になるからですし」
へ? あ、話の流れ的にこれからやるのかと思ってしまってたけど、全然そんな事はなかった!? あー、ハーレさんが質問したから、その流れで話してただけで、元々順番の話はしてなかったな!?
「はっ!? ……もしかして、変なタイミングで声をかけてましたか!?」
「いえ、どっちにしても必要な話だったので問題ないですよ、ハーレさん。それでケイさん、どうしますか?」
ジェイさんが目論んでる事自体は存在してたけど、変な勘違いをしてそれを過剰に警戒してしまってただけっぽい? そもそも『刻浄石』での半覚醒化がどうなるかは博打なんだし――
「あぁ、これは言っておきましょうか。未知の何かがあった際に、この場にいる中で対処能力が一番高いのがケイさんだと認識していますので、それを頼りにさせてもらってはいますよ」
「それが狙いかよ!」
警戒してたのは勘違いでもなんでもなくて、実際に俺にやらせようって意図があったわ! 未知の何かって何!? いや、それが分からないからこその未知なんだろうけど……って、みんなが納得して頷いてるのはなんで!? ……はぁ、ある意味これは信頼の証でもあるのか?
「あー、もう『刻浄石』の使用は俺らが引き受けるのでいいよ! でも、その前に『刻瘴石』の検証をやっていくぞ!」
「えぇ、それは当然ですね」
「とりあえず話は決まったようだし、海岸の方へ移動しようか。まずは敵を探さないとね」
「ですよねー!」
何はともあれ、とにかく次にやるのは『刻瘴石』の検証から! 『刻浄石』と同じように新たな種類の『進化の軌跡』が手に入ればいいんだけど……そういやこの手の『進化の軌跡』って永続的に使える『進化の輝石』はあるんだろうか? んー、分からん!
あ、そうだ。もう『纏瘴』が必要ないなら、サッサと解除しとこ。それから海岸エリアに戻って敵の捜索からやっていこう! 捕まえてたウミガメは状況的に逃しちゃったし、改めて敵の捕獲をしないとなー。
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