第1361話 刻浄石の検証結果
半覚醒のタツノオトシゴを守っていた『浄化の守り』の破壊は完了! あとは、本体を倒せばこの案件自体は終わり! まぁ途中で疑問点は出たから、そっちの検証は追加でやるべきだけど……まずは今のを終わらせよう。
「えーと、タツノオトシゴは誰が倒す?」
「その前に、赤の群集でのダメージの減衰幅を確認してもらっていいですか? 自力で倒せるものか、少し確認しておきたいのですが……」
「あー、そりゃそうだ。シュウさんは動けないから……弥生さん、適当に攻撃してみてもらっていい?」
「うん、いいよー。今回は分かりやすいように……『魔力集中』『強爪撃』!」
おっ、普段は全然発声でスキルを使う事がない弥生さんが、わざわざ発声でスキルを発動してくれたね。ある程度の推測は出来るとはいえ、こうやって実際に何を使ってくれたか分かるようにしてくれるのはありがたいね。
「んー、今のはLv5で発動したけど……かなりダメージの減衰が出てるねー。全然HPが減ってないや」
「そうっぽいなー。こりゃ、今までと同じで半覚醒を自分達で倒すのは現実的じゃないかー」
「自分達だけで倒すとすれば、暴発を利用する必要はありますね。そもそも、戦う必要があれば……ですが」
「まぁそこはこの1戦が終わった後に確かめてみようじゃないか。それでも多少は運任せにはなるけどね」
「……それはそうですね」
単独の群集だけで集まっているPTで、同じ群集の半覚醒だった場合にどうなるかって部分だよなー。もし、戦闘なしで正常化まで行くのなら暴発で削る必要はないけど……そこは実際に試してみるまで分からない。
そもそも、半覚醒にするまでどこの所属の精神生命体なのかが不明なんだから、結構博打なんだよなー。……この後で試すにしても、運良く試したい組み合わせを引き当てられるかどうかが問題だな。
『……ハヤク……スマセロ……』
って、呑気に話してたら急かしてくるんかい! いやまぁ倒されるのを待ってるのに、目の前で話し込まれたらそういう反応になるんだろうけど……。
「急かされましたし、手早く終わらせましょうか。スリムさん、あれをやるので、受け皿をお願いします」
「ホホウ! 了解なので! 『アースクリエイト』『土の操作』!」
ん? タツノオトシゴと海面の間に、大皿みたいな形の土を生成してる? あー、真ん中に行くほど深くなってるし、大皿というより傾斜の緩いすり鉢みたいな感じか。……これ、どういう手段だ? 受け皿とか言ってたけど……。
「ケイさん今は無理なので……確かアルマースさんも水の昇華はお持ちでしたよね?」
「あぁ、それはあるが……ジェイさん、何をやる気だ?」
「まぁ使うもの自体はシンプルに『デブリスフロウ』ですよ。逃がさない特製の受け皿はありますけどね」
「……この巨大な土の皿は、そういう用途か」
「うっわ、見たくないものを見た気分……」
「ケイさんに是非とも使いたかったんですが……まぁ無理ですからね」
「ちょ、俺狙い!?」
すり鉢状の容器の中に土石流を流し込んで、その中でダメージを与えまくるって手段なんだろうなー。まぁ俺なら水部分はアブソーブ・アクアで吸い取ってしまえば済む話だけど……結構な広範囲になるデブリスフロウをそういう風に使うとは、ジェイさんはやっぱり油断ならないな!?
「ケイさんには有効打にならないのは分かりきっていますので、遠慮なく使っていきますよ。アルマースさん、よろしいですか?」
「まぁそういう事なら別に問題はねぇな。ただ、倒し切れるのか?」
「どうでしょうね? 別に進化はしていないので、個体としての強さはフィールドボスには相当しないとは思いますけども……」
「……やってみないと分からないか」
「えぇ、そうなります」
変に口を挟まなくても話が進んでいるし、ここは任せてしまおうっと。どっちにしても今の俺は『瘴気汚染・重度』の真っ最中だから、下手に戦闘は出来ないしね! ……そろそろ『瘴気汚染・重度』から『瘴気汚染』へ軽減しないかな?
そうなれば『纏瘴』も解除出来るんだけど……あ、でも解除まではしなくていいか。時間経過で『瘴気汚染』が回復すれば、『刻瘴石』の生成用に瘴気魔法もぶっ放せるし! でも、それは状況次第か。
「……準備が済んだなら、早くやれ。後にもする事が残っているんだしな」
「やれやれ、スミからも急かされますか。それでは始めますよ、アルマースさん。ヨッシさん、解放をお願いします! 『アースクリエイト』!」
「あ、うん! 了解!」
「サクッと終わらせるとするか! 『アクアクリエイト』!」
ヨッシさんが氷の操作を解除した後に、スリムさんの用意した巨大な土の受け皿へとタツノオトシゴがデブリスフロウと共に落ちていく。
『……クッ!? ……コレデ……カイ……ホ………』
タツノオトシゴの声がちょっとだけ聞こえたかと思ったら、土石流の中に呑まれていったようで、全然聞こえなくなったね。
うへぇ……この中、入りたくねー。次々と土石流が生成されているのに、広がる先がスリムさんの土の受け皿の中だけに制限されて……普通よりも受ける回数が増えまくってる気がする。
「……これは、凄まじいね。弥生、抜け出せるかい?」
「んー、正直厳しいかも? もしこれに捕まったら、受け皿になってる土の操作を剥奪するしかないかな。シュウさんは……アブソーブ・アースでどうにかなるよね?」
「まぁ僕はそうだけど……脅威なのは間違いないよ。水だけでもこれは有効だろうし……吸い取るとすれば、流動性を作り出している水要素の方が確実だね。だろう、ケイさん?」
「その話題、俺にくるんだな。まぁただの土や石だけになったら、こうも流れはしないだろうから、遥かにマシだろうね」
「……ですから、ケイさんには使えないんですよね」
「ピンポイントで俺を狙い過ぎじゃない!?」
「狙われるだけの心当たりがないとでも?」
「……それは、あるけどさー」
心当たりがあったとしても、こうやって目の前で自分を仕留める為に考えた手段を披露されると微妙な気分になるわ! ……他にも色々考案されてそうで怖いんだけど!?
でも、この攻撃方法を真似るというのはありだよな。俺ならこれをどうアレンジする? 大量に生成量が増えた水を受け皿にして、同じようにデブリスフロウを受け止め……いや、昇華魔法を受け止められるなら、他の昇華魔法でもいいのか。
いっそ、受け皿ではなく中を空洞にして閉じ込めて、スチームエクスプロージョン辺りの爆風を閉じ込めて威力を凝縮させるなんて事も……タイミングがシビアにはなりそうだけど、ありはあり――
<ケイが成熟体・暴走種を討伐しました>
<成熟体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
<ケイ2ndが成熟体・暴走種を討伐しました>
<成熟体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
<『進化の軌跡・打撃の極意』を獲得しました>
おっと、タツノオトシゴが消えていく状態は見えなかったけど、どうも討伐は成功したみたい――
「って、『進化の軌跡・打撃の極意』って何!?」
「なるほど、これが『刻浄石』を使って誕生させた半覚醒の討伐報酬という訳ですか。みなさん、入手したものは同じですか?」
「わたしも『進化の軌跡・打撃の極意』だけど、同じ人は挙手で! あ、手が無理なら他の何かを上げるのでもいいよー!」
「あ、うん、分かった! フラム兄!」
「おう! お、おぉ!? バ、バランスが!?」
なるほど、アーサーはフラムをイノシシの頭の上に持ち上げて、フラムはツチノコで立つようにしてるのか。マムシさんは大蛇の頭を持ち上げたり、ジャックさんは二つの頭を同時に上げてたりするね。とりあえず俺も、声には出してたけどハサミを上げとこう。
あ、弥生さんとシュウさんが並んで座って、招き猫みたいに片脚を上げてるのはわざとだな!? 獲物察知を使えるかどうかを聞いた時と違って、完全に動きを合わせてるし!
「んー、全員入手したものは同じみたいだし、これは確定入手っぽいねー!」
「そうみたいだけど……これって、進化の軌跡なんだし、やっぱり纏属進化になるやつ?」
「……属性を纏う訳ではないですし、進化名は微妙に違いそうな気がしますね? ですが、名前的には特性『打撃』を一時的に得る進化にはなりそうですよ」
やっぱりそういう解釈にはなるよなー。『打撃の極意』って事は、得られる特性は『打撃』なんだろうけど……一時付与されるスキルによっては応用スキルを使う幅が広がるな。
あ、違う!? いや、それも1つの要素なのは間違いないけど、それだけじゃない!? これ、場合によってはとんでもなく戦略の幅が広がって――
「ジェイ、これって何か役に立つのか? 一時的な特性なんざ――」
「これは確実に役立ちますよ。斬雨も『断風』を使う時は纏風を使っているでしょう?」
「あー、そういやそうか。って事は、こりゃ俺とは真逆で属性持ちの魔法型が、応用複合スキルを使う為のものってか!」
「……それは例の1つであって、そう単純な話でもない可能性もありますけどね」
「それはそうだろうね。どれだけの特性がこれで得られるか次第で、戦術に大きく幅が生まれるよ。例えば、特性『擬態』とかがあれば……どうだい?」
「……ちっ! 攻撃用だけとも限らねぇって事か!」
あ、シュウさんが思いっきり危険な可能性について明言したよ!? まぁ俺もそれは考えてたところだけど……ちっ、とんでもない要素が出てきたもんだな! しかも、入手の過程で他の群集の協力が必要って……また無茶な事を仕掛けてきてるしさ!
あー、夕方のトレードの時に『刻浄石』と『刻瘴石』がそれぞれ情報ポイントで500も要求された理由が分かった。他の群集の人の手を借りずに入手する手段があれくらいしかないからだ!
「はい! これって、元々の個体の持ってる特性のものが手に入る感じですか!?」
「多分だけど、そうだろうね。複数ある特性の中から何が手に入るかの法則性までは謎だけど……」
「……そこが分からないと、はっきりとした種類までは判明しませんね。どうやら参加したメンバーに一律で同じものが手に入るの可能性は高そうですが……」
「攻撃用の特性に限られるか、それ以外の特性も出てくるのかで、状況は大違いだろうなー」
「えぇ、それは間違いなくそうですね」
攻撃の手段を広げる範囲なのか、戦術そのものを大きく変えるほどの範囲なのか……その違いは大きいぞ。でも、これって――
「分からないなら、実際に検証して調べていけばいいだけじゃね?」
「……随分と簡単に言うな、フラム!」
「お、おう? なんでケイ、キレてんの?」
「お前な! 『刻浄石』を1つ作るだけでも、どれだけ手間とハードルがあると思ってんの!? そんなに気軽に作れないし、回数も満足な情報を得られるほど実行出来るか!」
「えぇ、そこはケイさんに同意しますよ。生成手順を見ているはずですが……随分と気軽に言ってくれますね。検証、舐めてます?」
「ジェイさんまでキレた!?」
「……フラム君、今のは余計な一言だよ。少なくとも、この件については時間をかけて情報を積み重ねていくしかない内容だからね」
「す、すみませんでしたー!」
「……ったく、コイツは!」
もの凄く簡単に言いやがって! そもそも内容が内容だけに、他の群集と協力して情報を探っていきましょうとも言い難いんだぞ!? まだ当分先だろうけど、内容次第では3回目の競争クエストでの勝敗を分けかねない要素になり得るからな!
「さて、積み重ねていくしかないとは言ったけども……ここで腹の探り合いをするかい?」
「……ここで即断はしかねますね。今日のところは持ち帰って、後日に改めてというのはいかがです? 群集としての方針は決めておいた方がいいでしょう?」
「あー、それは確かに……。俺達だけで探り切れる範囲は超えてるし、試行回数を増やす為にはみんなの協力は必要不可欠だし……ここはジェイさんの案に賛成で!」
「僕らは今は赤の群集の代表ではないから、持ち帰って『リバイバル』へ引き継ぐという形にさせてもらうよ。だから、ジェイさんの案には賛成という事だね」
ジェイさんもシュウさんも、やっぱりここでの決断は控えるよなー。こういう流れになるような内容なのに、これから全部を洗い出そうってノリの気楽なフラムの発言は本当に腹立つなー。
「はい、それじゃ今は一旦持ち帰りの案件って事で決定ね! えーと、そうなると……新たな『刻浄石』の生成は控えた方がいいと思うけど、追加の検証も控えとく?」
「あ、そういやそれも方針が決まるまでは迂闊に出来ないか……」
うーん、これはレナさんの言う通りだよな。こういう形でデメリットが発生するとは思ってなかった。でも、1つの群集だけでやった場合の反応は……全員に新たな種類の進化の軌跡が行き渡らない可能性があるもんなー。
「……その検証自体はしておきたいですが、入手になる進化の軌跡の扱いがややこしくなりますね」
「確かにそうだけど……もし、それでもやるとしたら、どんな種類が手に入ったとしても、それぞれの群集に2個ずつ分けるというのでどうだい?」
「あー、それならありかも?」
手に入る総数は減るけども、そこで持ち逃げをするような相手ではないのは今更疑う必要はないよな。ただ、どうなるかは博打になる要素だから……そういや、『刻瘴石』の方でも同じように新しい進化の軌跡が落ちるのか?
うーん、分からない部分が多いわ! やっぱり、共同で検証するなら信用出来る相手とやっとくべきかもなー。……フラムだけは除くけど!
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