第1362話 新たな進化形態
内容が内容だけに一旦持ち帰って検討するという事にはなったけども……悩む状況にはなってきた。『刻瘴石』での検証でも新しい進化の軌跡が出る可能性がある以上、少しくらいの回数なら追加でやるくらいは問題ないか?
「ちょっと、みんなと相談させてくれ! 流石に1人じゃ決めにくい!」
「それは私達も同様ですね。いっそ、今のうちに群集へ報告でもしてきますか?」
「それもいいかもしれないね。それで結論が出ればよし。出ないようならば、元々予定にあった『刻瘴石』の検証だけにしておこうか」
「その辺も含めて相談で!」
「私はそれで構いませんよ」
「なら、それで決定だね。アルマースさん、スリムさん、話し合っている間は河口域に移動してもらっていいかい? 流石にここでは危ないからね」
「ホホウ! それは問題ないので! でも、このウミガメはどうするので?」
「惜しいですが、今は放していきましょう。瘴気強化種が普通にいるのなら、無理に固執する必要もないでしょうし……構いませんよね?」
「まぁまた捕まえればいいから、問題はないよ」
「俺も賛成! 連れていって、スリムさんに捕獲を続ける負担はかけさせられないしね」
大丈夫だとは思うけど、『刻瘴石』の検証も反対される可能性もゼロではないからなー。その辺の結論が出るまでずっと捕まえておくのは……うん、やっぱりなしだ。格下ならともかく、格上だからなー。
「では、続きの検証をするようであれば改めて捕獲という事にしましょうか」
「ほいよっと! それじゃみんな、一旦離れるぞ!」
「はーい!」
よし、ハーレさんの元気のいい返事に続いてみんなの同意は得られていったし、一旦この海岸エリアからは離脱で! ほぼ進まない状況で戻る事になったけど、まぁ『刻瘴石』の検証は多分やるから後で戻ってくるし、そこは問題なし! これだけのメンバーがいるんだし、新しく敵を見つけるのもそこまで難しくはないだろ。
◇ ◇ ◇
<『名も無き未開の海岸』から『名も無き未開の河口域』に移動しました>
さて、アルとスリムさんの生成した土の上に分かれて乗って、河口域の方へ戻ってきた。周囲はマングローブが水に浸かっている状態だけど……とりあえず陸地部分に向けて進んでいるから、そこまで辿り着いたら群集に報告だなー。
「ねぇねぇ、ケイさん? これ、各群集ごとに分かれて相談するにしても、PT会話で丸聞こえじゃない?」
「あー、まぁどうするかの部分は聞こえてもいいんじゃね? どっちにしても群集への報告は必須だろうしさ」
「およ? んー、それは確かにそうだけど……まぁいっか。報告する事自体はみんな、賛成?」
「別に俺は反対する理由はないし、問題はねぇぜ。ただまぁ、報告をするなら……この『進化の軌跡・打撃の極意』を実際に使ってみたくはあるけどな」
「それは確かになー」
ロブスターが特性『打撃』を持っている俺にはほぼ無意味な進化になるけど……そういや、サヤのクマとアルのクジラも特性で『打撃』は持ってたはず。半数には無意味だから、ここで試しに使ってみるのもあり? ……あ、その辺を相談する為に、声が聞こえない手段って話か!
「ジェイさん、シュウさん、一旦PTの連結解除でいい? 色々とやりにくい気がしてきた……」
「……その方がいいでしょうね。どのような変化が現れるのか、それぞれに試してみるべきです」
「下手にどこかだけに消費を負担させる訳にもいかないし、そこは仕方ない措置だろうね。陸地に着いたら、連結PTを解除して……今が22時半くらいだから、23時を目処に再集結でいいかい?」
23時かー。普段ならもう終わりにする時間ではあるけど……そこからやるとしても、続きの検証をやるとしても30分もはかからないはず? いや、場合によってはフィールドボスに相当する戦闘はあるんだよな。……時間的に大丈夫か?
「ケイさん、ケイさん! 時間、大丈夫ですか!?」
「……ちょっと微妙なとこ。無茶言ってるのは承知だけど、報告の時間って10分くらいまでにならない?」
「……10分でこの内容の報告ですか。まぁ報告だけならばそのくらいの時間でも構いませんが……方針を決めるとなれば流石に時間は足りませんよ?」
「ですよねー」
うん、言ってみたけど厳しいよなー。これから『進化の軌跡・打撃の極意』を誰かが使ってみて、ここまで分かってる内容と一緒の報告してってやってる間に10分はあっという間に過ぎそう。
こりゃ、多少遅くなるのは覚悟の上で動くしかないか。まぁ疲れ果てる程の事は……あー、フィールドボスに相当する戦闘だとなんとも微妙? これもどういう敵になるかが正確には不明だから、判断が難しいな。
<『瘴気汚染・重度』が『瘴気汚染』に軽減されました>
あ、やっと軽減になったかー。これですぐにでも纏瘴は解除出来るようにはなったけど……まだ解除するのはやめとこ。場合によっては、この状態は活用出来る!
「ケイ、1日くらいなら大丈夫じゃねぇか?」
「まぁ明日さえちゃんと起きられたら、それで問題はないけど……ハーレさん、それでいくか?」
「そうするのさー! 寝坊さえ防げば、問題はないのです!」
「なら、そうするかー」
決して23時で終わりにしなければならないという訳ではないし、格上のフィールドボスに相当するとしても、流石に対人戦ほどの疲弊もないはず。……正直、この場にいる他の人達を全員同時に相手にする方がヤバそうだしなー。
「検証の為なのは分かりますが、面倒な手順を踏むのですね、ケイさん!」
「そりゃまぁ、共同でやってるのにどこかに一方的な負担を押し付ける訳にはいかない――」
「では、私が自発的に知りたくて使う分には問題ありませんね! これ、発声ではどのように使えば……面倒なので、インベントリから直接いきましょうか!」
「……はい? あ、使った!?」
ちょ、え、なんかルストさんが白い光の膜に急に包まれ始めたんだけど!? 誰が消費するかを決めるのに揉める可能性があるから、それぞれに別々でって考えてたんだけど……そんなのお構いなしか!?
「……あらら。シュウさん、これはいいの?」
「……共同の検証としてはどこかに負担を押し付けるのはなしなんだろうけど、それを気にするルストでもなかったね」
「まぁそうだよねー。ルスト、それでいいの?」
「検証自体は私としてはどうでもいいですからね! そもそもこの木でどのような変化があるのかという事は純粋に気になりますし……おぉ! この進化は『変質進化』と呼ぶのですか! なるほど、なるほど。属性を纏うのではなく、自分自身の性質を変化させるからこその名前なのでしょうね! それで木のどの辺りが打撃の特性を反映した姿になるのかが楽しみ……おぉ! 進化が終わりましたか! さて、どのような変化――」
相変わらずの早口だけど、ルストさんの『変質進化』とやらが終わった様子。検証に興味がないけど、その変化の光景には興味があるって感じだよな、ルストさん。
こういう流れで、サラッと『変質進化』って新しい進化形態が判明かー。この場合、後ろに付く形態の略称って何になるんだろ? てか、本当にいいのか、この状態……。
「ルストさん、検証に興味はないと言っていましたが……本当にいいのですか?」
「えぇ、問題はありませんよ、ジェイさん! どうせ、私は対人戦にも駆け引きにも興味はありませんので! どれにも影響しない私が、自分の興味本位の為に使うのならば気兼ねも何も必要はないでしょう! あ、一時付与のスキルは『殴打重衝撃』と『連強衝打』の2つになっていますよ! それはそうとして……これは私のどの部分が特性『打撃』の効果が出ているのでしょうか!? あぁ! 妙に太くなって、白い模様が出ている根が2本ほどありましたね! これは……『根棍棒』ではなく、根が打撃に対応した状況になっているようですね? なるほど、なるほど。この状態でそのまま……これはいけますか? 『連強衝打』! おぉ! 銀光を放つ根というのは、ありですね! これは色んな可能性を感じます!」
「……色々と、ありがとうございます、ルストさん」
ジェイさんが、早口で捲し立てているルストさんに圧倒されている!? いやまぁ、その気持ちは分かるけど。……いや、本当に早口過ぎて割り込むに割り込めないんだよな、ルストさんのこの状況。
「えーと、軽くまとめると『進化の軌跡・打撃の極意』を使えば、『変質進化』っていう新しい進化形態になるんだね。その効果としては、打撃に適した部位を一時的に作り出すみたい。それで、一時付与のスキルは『殴打重衝撃』と『連強衝打』の2つなら……チャージ系が1個、連撃系が1個って感じだね。ルストさん、効果時間と略称を教えてー!」
「効果時間は30分ですね、レナさん! 略称は特にないようです! 発声で進化をする際には『変質進化・打撃』でいけるような感じですね! ふむふむ、物理型の応用スキルは何も持っていませんでしたけど、これは何かの演出に使えそうですね! これであれば、素直に特性『打撃』を得るのもありでしょうか? いえ、ですが根の操作ほどの汎用性はありませんし……なるほど、お試しとして使うのも選択肢になるのですか! ですが、それほど数は手に入りそうにはないですし……」
「あ、うん、まぁそこはじっくりと考えといて!」
周囲のマングローブに根を巻きつけながら、次々と銀光を放つ太い根を叩きつけているけど……ルストさんのスキル構成ってどうなってるんだ? 攻撃手段は物理な気がするけど、ほぼ根の操作だけで攻撃してない?
うーん、根で攻撃する為の物理攻撃もいくつかあったはずだし、そういうのを使ってるのも見た事はあるけど……今のルストさんは謎過ぎる! なんか根の操作がLv10になってても不思議じゃないけど……その情報が赤の群集に伝わってるかは怪しそうな気もする。検証に興味がないって言い切ってるしなー。
「はい、ともかくこれで新しい進化の『変質進化』の概要は判明だね! あとはこの情報を群集に持ち帰って、方針の確認をしつつ、出来るだけ早めに済ませるようにはするけど、遅くても23時を目処に戻ってくるって事でいいね? PT連結を解除する必要もなくなったしさ!」
「確かにレナさんの言う通りですし、そうしましょうか。シュウさん、ここはルストさんに感謝しておきます」
「それは本人に……って、聞いていないね。まぁ何度も暴走していたし、それの埋め合わせだと思ってくれればいいよ」
「えぇ、そうさせていただきますね」
「だなー。俺らもそうさせてもらうわ!」
ルストさんのおかげで、手に入った『進化の軌跡・打撃の極意』を使った時の内容は分かったしね。この情報を暴走しまくった埋め合わせとして受け取れって事なら、その方が気兼ねなくいられる!
仮にジェイさんが試した場合だと……素直にそれを信じていいのかが微妙だったりするけど。ルストさんなら、ここで偽情報を言ってくるような真似をする訳がないしなー。これまでの経験上、ルストさんはそういう駆け引きは一切ないと分かってるのからね。
さて、これで各群集で分かれて報告だなー。連結PTを解除する必要もなくなったし、陸地を目指す必要もなくなったし、ルストさんが進化をした時点で進むのも止まっている状況。これならすぐにでも報告は出来るけど……。
「それじゃ情報共有板に報告に行くとして……流石に全員は危ないよな?」
「俺は確実に周囲を見てないと危険だから、周辺の警戒をしておくが……」
「サヤ、ヨッシ! 私達も周辺警戒に回るのさー!」
「うん! 一緒にやるかな!」
「あはは、どうもそういう事みたい? ケイさん、レナさん、報告はよろしくね?」
「はーい、お任せあれ!」
「任された! アル、報告中の指揮は頼んだ!」
「おうよ!」
河口域の方へ退避してきたとはいえ、流石に全員で無防備にって訳にはいかないもんね。まぁ4人も周辺警戒に回る必要はない気もするけど、報告に大人数がいても仕方ない部分もあるからなー。ここは役割分担で――
「さて、僕らは……水月さん、僕と弥生の二人が行って大丈夫かい?」
「基本的にはなんとかなるかと思いますが……流石にルストさんは無理ですよ?」
「……だろうね。弥生、ルストがやり過ぎないように警戒を頼めるかい? 変な敵を引き連れてきても困るからね」
「普通の敵ならどうとでもするだろうけど、フィールドボスでも引き連れてこられたら流石に危ないもんねー。もしそうなったら?」
「その場合は、すぐに呼び戻してくれるかい? ケイさん、ジェイさん、それでいいかい?」
「あー、それは了解!」
「……この様子では、その可能性が否定出来ないのが怖いですね。えぇ、まぁそれくらいは了解で構いません!」
なんだかマングローブを破壊しまくってるルストさんだけど……破壊した光景のスクショでも撮ってる感じか? 使用感を確かめているようにも思えるけど……両方兼ねてやってても不思議じゃないな!?
「ジェイ、俺はこっちの警戒の指揮に残るが……他には誰が報告に行く?」
「ジャックさんがそちらに残るのであれば……斬雨、スミ、一緒に報告に来てください。マムシさん、スリムさん、ジャックさんで警戒をお願いします。……フィールドボスには要注意を」
「俺は報告か。まぁいいだろう」
「はっ! 地味に素直じゃねぇな、スミ」
「……ふん、うるさいタチウオが!」
「ホホウ! 我らは周囲の警戒なので!」
「さて、どうなる事か」
青の群集の方も誰が報告に行くかが決まったみたいだなー。まぁ誰が報告に行くかは気にしても意味はないんだけど……フィールドボスへの警戒が優先か。結構な大人数が報告じゃなくて、警戒に残った形になったね。
正直、ここでフィールドボス戦をする意味も薄れてきてはいるけど……もし自然発生のフィールドボスがいるなら、それ相手に『刻浄石』を使ってみたくはあるもんな。その辺は運次第だけど……。
「ルースートー! 適度なところで止めなさーい! というか、なんでそんなに破壊をしてるの!?」
「いえ、これは壊すつもりではないんですが……この太い根が重り代わりになって、移動の挙動を変えられるのですよ! ただ、まだ思ったように動かし切れていないので、効果時間中にコツを掴もうかと!」
「なんか動きが変だと思ったら!? そんな事をしてたの!?」
あー、盛大に壊しまくってるのは意図的なものではなかったのか。てか、あの特性『打撃』を得る為に出来た太い根って重いんだ?
普段はあって当たり前だから意識してないだけで、特性『打撃』の模様が出ている部位って普通より重めになってるとかありそう? 何気にその辺の情報って重要な気がするなー。まぁとりあえず、さっさと報告に行きますか。
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