第1359話 刻浄石を使って


 脱線とも言い難い内容で生成出来た『瘴気結晶』については、とりあえずジェイさんが持っておくという事で決定。今はまだ早過ぎるアイテムの可能性が高いけど、その辺の細かな検証はやっといてくれるはず!


「シュウさんは『過剰浄化・重度』が治るまでは、アルの上で休んでてくれ! アル、頼んだ!」

「おうよ! 『根の操作』!」

「弥生、『刻浄石』を渡しておくよ。アルマースさん、ありがとう」

「しっかりと受け取ったからね!」


 シュウさんが生成した『刻浄石』は弥生さんの手に渡ったし、シュウさんもアルが根でクジラの背の上まで連れてきたから大丈夫だな。


「ケイさんも『瘴気汚染・重度』が治るまでは戦闘は駄目なのさー!」

「アルの上から、大人しく見ててかな!」

「継続ダメージが入ってるんだから、死なないように要注意だよ!」

「ですよねー。って、マジでコケが危ないな!?」


 元々ロブスターの背中にあるだけの群体数だから、それなりに群体数が減ってたわ! 下手すりゃそのまま死に……これ、ある意味自滅状態だけど、完全にHPや群体数って0になる?

 いや、そもそもHPが回復不可だから、流石にそれはないか。まぁ迂闊な被弾は死にかねないし、まともに行動値も魔力値も回復しなくなってるから、防御だけはしっかりするつもりでいようっと。あ、でもコケならこれでいけるか。


<行動値を5消費して『増殖Lv5』を発動します>  行動値 116/124(上限値使用:1)


 ふぅ、HPではないからコケの群体数に関してはこれで回復が可能! ……だけど、ちょっとずつ群体数が減っていってるね。凄い量の継続ダメージではないから、まぁ一気に削れはしないだろ。前に使った時も、死にはしなかったしさ。


「おし、それじゃ『刻浄石』の方から検証を始めていこう! ルストさん、見つけたウミガメを捕まえてきてもらっていいか?」

「えぇ、構いませんとも! 少し変わっていた個体なので、先ほどからずっと気になっていましたし!」

「……へ? 変わった個体?」

「それではすぐにお持ちしますので!」

「あ、ちょ!?」


 どう変わった個体なのか、それを答えないままルストさんはすっ飛んでいった。うん、比喩でもなんでもなく、空中に生成している石を支えに、根でぶら下がって、勢いをつけてすっ飛んでいくっていう……相変わらずの無茶な挙動。


「おぉ! 確かに、変わったウミガメなのさー!?」

「……ウミガメなのかな? なんだか海藻の塊に見えるんだけど……」

「およ? もしかして、カメと海藻の融合種?」

「確かにそんな感じだけど……シュウさん、黒の暴走種に融合種っていたっけ?」

「いや、いないはずだよ。融合種は黒の瘴気強化種だけ……いや、場合によっては黒の異形種という事はあるかもしれないね。ルスト、識別済みだと言っていたはずだけど、その辺りはどうなんだい?」

「……そういえば、瘴気強化種だったような気もしますね? まぁ問題ないでしょう!」

「いやいや、問題大アリだから!? 『刻浄石』の使用対象、黒の暴走種なんだけど!?」

「なんと!? ……既に捕まえてしまいましたが、どうしましょうか?」


 ちょ!? 根で巻きつけて海から引っ張り出してるのが見えるけど……あー、しまったな。発見報酬が出てない時点でこの内容は気付くべきだった。うーん、『刻瘴石』の使用対象としては申し分ないんだけどなー。

 瘴気強化種がいる理由は……まぁ元から配置されてそうではあるよね。この辺に進出してる人は少ないだろうけど、こんな融合種の個体は元々用意されていた個体だと考えた方がいい気がする。てか、そうでないと検証の内容的に困る!

 

 ここから具体的にどうしよう? 先に『刻瘴石』での検証に切り替えるか? でも、俺とシュウさんとジェイさん……あ、ジェイさんは『瘴気結晶』の生成で正常化してるから問題はないのか。戦力外は俺とシュウさんだけなら、なんとかフィールドボス戦になってもいける? いや、でも格上にはなるし、戦力は万全の状態にして――


「ケイさん、お悩みのようなのでここは口を出させていただきますよ。スリムさん、しばらくの間、その海藻で出来たカメの隔離をお願いします。ルストさん、一緒に閉じ込められないようにご注意下さい」

「ホホウ、お任せなので! 『アースクリエイト』『土の操作』!」

「一緒に閉じ込められたら、暗いですからね!」


 おー、あっという間に球状の土の中にウミガメが閉じ込められていった。ウミガメといっても、極端に現実の大きさからかけ離れた巨大さではなかったから、Lv10に至った土の操作であれば閉じ込めるのは可能な範囲か。でも、これって……。


「それ、スリムさんまで戦線離脱にならないか?」

「多少は大丈夫ですよ、ケイさん」

「ホホウ! 今のは同時操作の1つに過ぎないので、問題はないので!」

「あ、追加生成でどうにかなるのか!」

「ホホウ! そうなので!」


 なるほど、俺はまだ今日Lv10の水の操作を得たばかりだけど、スリムさんは俺よりも使っている時間は確実に長いから、その分だけ扱い方には慣れているか。

 それにジェイさんが捕獲し切れると判断したなら、それを信じてみますか! この状況で無茶な事を提案してくる事はないだろうし、あくまでも捕獲してるのはLv17とはいえ雑魚敵の範疇。ミヤ・マサの森林での再戦の時の岩のドームの耐久性を考えたら、抑え切れるだろ。


「ケイさん、とりあえずそのウミガメは後で『刻瘴石』の検証に使うという事でよろしいですか?」

「その辺は問題なし!」


 出来れば事前に言ってほしかったとこではあるけど、まぁ俺にも発見報酬が出てないのに捕獲指示を出したミスもあるしなー。

 なんだかんだで『刻瘴石』の検証用の個体は確保出来たし、黒の異形種にするのを試すには黒の瘴気強化種は必要だったんだから、結果オーライだろ!


「融合種のウミガメはしばらくスリムさんに捕獲を任せるとして、他のみんなは黒の暴走種の個体を探してくれ! それで今度こそ『刻浄石』の検証を――」



<ケイが成熟体・暴走種を発見しました>

<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>


<ケイ2ndが成熟体・暴走種を発見しました>

<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>


 って、話してる途中だったのに、発見報酬が出た!?


「今の誰が見つけた!?」

「はい! タツノオトシゴが泳いでました!」

「見つけたのはハーレさんか! 捕獲はいけるか?」

「自信はありません!」

「自信満々で言う事か!?」

「私が捕獲するよ! ハーレ、タツノオトシゴはどこにいるの?」

「あそこなのさー! 『投擲』!」

「……見えた! 『アイスクリエイト』『氷の操作』!」

「おぉ! ヨッシ、ナイスなのです!」


 ふぅ、ヨッシさんが尾の部分を氷漬けにして、空中に持ち上げてくれたね。極端に大きい訳でもなく、特に擬態に特化したような見た目でもないタツノオトシゴか。尾の部分に白い模様があるから、特性としては『打撃』持ち?


「すぐに識別するかな! 『識別』!」

「頼んだ、サヤ!」


 識別情報が気になるけど、タツノオトシゴから竜とかの他の種族には進化せず、そのままの姿で進化してきてる個体だろうね。小ささは弱さの保証にはならないから、警戒していかないと!

 丸まってる長い尻尾を氷漬けにしてる状態で、上半身を起こして暴れ回って……タツノオトシゴに対して、上半身って表現でいいのか? うーん、まぁともかく今は識別情報が重要だな。


「あまり強そうには見えないタツノオトシゴだが……こりゃどうなんだ?」

「……斬雨、見た目では油断しないように。大きく姿は変わらずとも、中身が凶悪になっている事はよくありますからね」


 なんか意味深な言い方をしてるジェイさんだけど、見た目が変わらずに凶悪になってるのってジェイさんのコケとかもそうだよな!?


「あ、Lvは18だから条件はいけるかな! 名前は『ムチノモウシゴ』で、属性はなし! 特性は『打撃』『強靭』『伸縮』『拘束』かな!」

「微妙に面影が残りつつも、別物の名前だな!? でも、特徴はよくわ分かった! ヨッシさん、氷で固めるのは維持し続けてくれ!」

「了解!」


 今の特性や、サヤの竜がタツノオトシゴだった時の事から考えたら、どう考えても尻尾を鞭のように使って戦うのに特化した個体! そこまで意識して氷漬けにした訳じゃないだろうけど、ナイス判断ではあるね。


「弥生さん、『刻浄石』の使用を頼む!」

「うん、任せて! よっと!」


 空中に小石の足場を生成し、弥生さんは『刻浄石』を咥えてその上に跳び乗ってタツノオトシゴへと近付いていく。そういや『刻浄石』って、そのまま持っても平気なんだね? まぁ別にデメリットが欲しい訳じゃないから、それでいいけども……俺が持ってたら瘴気汚染・重度の回復が早まったりしない? って、今更遅いか。


「さーて、これでどうなるんだろうね? わっ!? 光り出したね!?」

「おぉ! 黒の暴走種の中から、瘴気が滲み出て消えていっていますよ!? これは撮り逃せない瞬間ですね!」


 おっしゃ、明確に今まで見た事がない反応が出てき始めた! 予想としては半覚醒になった上で何かがあるってとこだけど、実際にはどうなる?


『グッ……コ……コレハ……!? ……ワタシハ……ナニヲ……?』


 よし、半覚醒の特徴の片言な喋り方が始まったし、喋ってる内容的にも意識を取り戻したっぽい感じ!


「おー! 喋り始めたのさー!」

「半覚醒になったか、調べるかな! 『識別』! あ、やっぱりなってる!」

「問題は……ここからどうなるかだよね?」

「だなー。全員、警戒で! どこの半覚醒なのかが分からないからな!」

「確かにそれはそうですね。サヤさん、識別情報の中に所属の表記はありましたか?」

「ううん、それはなかったかな!」

「……それは残念ですね」


 あー、識別情報で分かる可能性はあったけど、それは全然駄目だったか。まぁそこまで都合よくはいかないですよねー。


『……クッ!? ……アオノ……グンシュウ二……ハイノ……グンシュウ!? ……キサマラ! ……ワタシニ……ナニヲ……シタ!』


 あー、はいはい。その台詞でどこの群集の半覚醒なのかはよく分かった。このタツノオトシゴの中身は、赤の群集の精神生命体だな。

 さて、完全に敵意を剥き出しにしてきてるけど……これはどうするのが正解だ? さっさとぶっ倒せば、それで完了? それとも――


「おいおいおい! 味方の俺らを無視ってか!?」

『……ドウホウモ……イタノカ!? ……ナゼ……トモニ……イル!?』


 フラムが話しかけたけど……その対応を任せるのは不安過ぎるんだけど!? 赤の群集の誰かが話しかける必要があるなら、シュウさんか弥生さんがやってくれない!?


「フラム君、その対応は私がやるよ。いいね?」

「え、でも――」

「い、い、ね?」

「……はい」


 おぉ、弥生さんが強引に押し切る形でフラムを抑え込んだ! ……弥生さんから見ても、フラムに任せるのはよくないって判断だったのかもなー。


「その説明には時間がかかるから、セキの元に戻って説明を聞いてくれない? 異常事態が起きてるのは分かるよね?」

『……ソレハ……ソウダナ。……ダガ……ドウヤッテ……セキト……ハナセバ……イイ!?』

「そのやり方は分かってるから、私達が手伝ってあげる。まぁ私達だけじゃ対応し切れないから、他の群集の人達がいるんだけどねー?」

『……ナニカ……ジジョウガ……アルノダナ?』

「うん、そういう事。一旦、その肉体から離れる必要があるんだけど……大人しく倒されてはくれない?」

『……ナルホド。……ドウホウタチ……デハ……フカノウナ……コトカ。……イイダロウ。……ワタシハ……オトナシク……シテオコウ』

「ごめんね、乱暴な手段になって?」

『……カマワナイ』


 おっ、暴れ回っていたタツノオトシゴが完全に動かなくなった。なるほど、半覚醒にした個体と所属が同じ人が上手く説得すれば、無防備になるのか。

 これ、他の群集の半覚醒だとそのまま戦闘に突入しそうだけど……その場合の強さってどうなるんだろ? この様子だとフィールドボス相当って感じもしないけど……まぁいいや。楽に倒せるようになる時点で、普通とは違うのはよく分かったし!


「それじゃ、ケイさん号令をよろしく!」

「ほいよっと!」


 灰の群集と青の群集の全員で総攻撃と言いたいとこだけど、流石にそれだと過剰攻撃になり過ぎるよな。小さな相手だから下手な攻撃はお互いの邪魔になりかねないし……よし、決めた!


「ジャックさんとスミで魔法弾にした『ゲイルスラッシュ』で! そこまでの間に、サヤとレナさんが近接で削ってくれ!」

「……ふん、いいだろう! 『魔法弾』!」

「溜めが終わるまでに、倒し終わってなきゃいいがな。『ゲイルスラッシュ』!」

「サヤさん、行くよー! 『魔力集中』『強脚撃』! およ!?」

「えっ!? レナさんの攻撃が弾かれたかな!?」

「……はい?」


 ちょ、待った!? え、半覚醒のタツノオトシゴは無防備になってるのに、光の壁みたいなものに攻撃を弾かれるってどういう……!? いや、待て。これってもしかして――


「……なるほど、半覚醒に戻すだけではなく、そこに追加で『浄化の守り』が勝手に発動しているようですね」

「やっぱり、これってそうだよな!?」


 そこまでするなら半覚醒止まりじゃなくて、完全に元に戻してくれたらいいのに……ゲーム的にはそういう訳にもいかないんだろうね。

 あー、『浄化の守り』でのバリアが発生するようになるのが、フィールドボスになるLvなのかも? という事は……この耐久性、結構なものになってそうだな!? 同じ群集の人がいれば無防備にはなるけど、あっさりと倒されてはくれない訳か!

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